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ジェフ・ベゾスやサム・アルトマンが巨額投資する「長寿・若返り」スタートアップの最前線 人間もペットも長生きに

ジェフ・ベゾスやサム・アルトマンが巨額投資する「長寿・若返り」スタートアップの最前線 人間もペットも長生きに

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老化細胞や代謝機能へのアプローチにより「長寿・若返り」を目指す研究開発が過熱している。アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏やOpenAIのサム・アルトマンCEOも同市場のスタートアップに巨額投資をしており、将来の実用化が現実味を帯びてきている。

世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第71弾は、世界の著名起業家も熱視線を送る「長寿・若返り」のテクノロジーに着目。最先端の研究開発に取り組む世界の注目スタートアップの動向を紹介したい。

サムネイル写真提供:Loyal

「長寿・若返り」テクノロジー 3つの主要アプローチ

カナダとインドに拠点を置く市場調査会社・Precedence Researchによると、世界の老化抑制薬およびアンチエイジング医薬品市場規模は、2025年には45億ドル(約7,100億円)に達し、2034年には約87億2,000万ドル(約1兆3,700億円)に達すると予測され、7.63%の年平均成長率(CAGR)で成長する見込みだ。

▲世界の老化抑制薬・アンチエイジング医薬品市場規模は、2034年に約1兆3,700億円に達する見込みだ(Precedence Researchのレポートより)

広い視野で見れば、長寿・抗老化を実現するための方法はさまざまあるが、本記事では「老化細胞や代謝機能へのアプローチ」に焦点を当てる。同市場でトレンドとされている技術は、次の3つだ。

①細胞リプログラミング

皮膚や血液など、すでに特定の役割が決まっている細胞を人工的な操作によって別の種類の細胞に作り変える技術。大きく分けて、「iPS細胞」と「ダイレクト・リプログラミング」の2つの方法がある。iPS細胞は、体細胞を「何にでもなれる状態(未分化)」まで初期化することで、老化による機能低下を解消できるとする。iPS細胞は、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授が発見した。一方、ダイレクト・リプログラミングは初期化(未分化な状態に戻す工程)を経ずに、ある細胞を別の種類の細胞へ直接変化させる。

②代謝・ミトコンドリア機能改善

遺伝子を書き換えるのではなく、「細胞内のエネルギー工場(ミトコンドリア)を修理・活性化させて、細胞の活力を取り戻すアプローチ。

③ セノリティクス

日本語で「老化細胞除去薬」と訳され、体内に蓄積して炎症や機能低下を引き起こす老化細胞だけを標的として、薬によって除去するアプローチ。

「長寿・若返り」市場で注目のスタートアップ5社

続いて、「長寿・若返り」テクノロジーの分野で注目されている世界のスタートアップを、5社ピックアップして紹介する。

①ジェフ・ベゾス氏らが巨額出資「Altos Labs(アルトス・ラボ)」

2022年に米国カリフォルニア州で創業。細胞若返りプログラミングを通じた医療変革を掲げる。アマゾンのジェフ・ベゾス氏らが出資し、スタートアップとしては異例の30億ドル(約4,700億円)の巨額資金により設立された。また、山中伸弥教授が上級科学顧問として無報酬で就任しており、日本における研究活動を監督するとしている。

同社では、山中教授が発見した「山中因子」等を応用し、細胞を初期化して若返らせる医薬品の発見と開発を目指し、研究開発を進めている。公式ホームページを見た限り、具体的なマイルストーンは示されていないが、ネイチャー誌などに「細胞の若返りにおける安全性」に関する論文をたびたび発表し、学術界をリードしている。

②サム・アルトマン氏が出資「Retro Biosciences(レトロ・バイオサイエンス)」

2021年に米国カリフォルニア州で創業。「人間の健康寿命を10年延ばす」をミッションに掲げる。老化の細胞的要因に焦点を当て、最終的には加齢関連疾患の予防と改善につながる治療薬の開発を目指している。

OpenAI サム・アルトマンCEOが1億8000万ドル(約280億円)を出資しており、これは初期ステージのバイオ企業としては、破格の金額だ。同社では、以下3つの研究開発を同時に進行する。サンフランシスコの廃倉庫を改装したラボで、コンテナ型飼育室を用いたマウス実験を高速回転させているそうだ。

1.細胞リプログラミング

基本的なアプローチは上述した通り。OpenAIとの連携により、同社の最新モデルを使用してリプログラミング効率を高める因子の探索を行っていると報じられている。

2.オートファジー

細胞内の老廃物や損傷したタンパク質を除去・リサイクルする自浄作用を活性化させ、細胞の健康を保つアプローチ。低分子誘導剤を用いて、オートファジーの促進を目指す。

3.血漿(けっしょう)交換療法

血漿成分(血液から血球成分を取り除いた液性成分)の病因物質を除去して、置換液と置き換えるアプローチ。血漿交換療法の若返り効果は学術文献に記載されており、従来の方法よりも拡張性の高い治療法の開発に取り組む。

③米 Googleの長寿テック企業「Calico(カリコ)」

2013年に米Googleが創業。老化と寿命を制御する生物学的メカニズムをより深く理解すること、そして得られた知識を活用し、人々がより長く健康的な生活を送るための介入策を発見・開発することを使命とする。

Natureレビュー誌のインタビュー記事によれば、Calicoは2014年から米国の大手製薬企業アッヴィと共同で、5つの候補薬を臨床段階に進め、約20の前臨床候補薬のパイプラインを構築し、数百件の研究論文を発表したという。

カリコでは、難病として知られるALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療薬の開発を進めているが、2025年1月に主力候補薬の「Fosigotifator」がALSを対象とした第II相試験で不合格になった。また、11年間続いたアッヴィとの提携も解消している。現在は、同薬における希少遺伝性神経変性疾患「白質消失症」の臨床試験を実施しているそうだ。

④独自成分でミトコンドリアにアプローチ「Timeline(タイムライン)」

▲ミトコンドリアにアプローチする独自成分配合のサプリメントなどを発売(タイムラインの公式ホームページより)

2007年にスイスで創業。15年以上の研究と臨床科学を活用して高度な治療栄養製品の実現に尽力しているライフサイエンス企業で、現在はミトコンドリア機能の調節に関する研究に焦点を当てている。

その結果、ザクロに含まれる天然化合物「ウロリチンA」がマイトファジー(上述したオートファジーの中でも、ミトコンドリアを標的とするもの)の再活性化に強力に作用することを特定した。臨床試験では、筋力の向上、持久力の改善、および肌のバリア機能やエイジングケアへの効果が確認されている。

同社では、自社ブランド「Timeline(タイムライン)」を立ち上げ、独自の高純度ウロリチンA「Mitopure®」を配合したサプリメントやスキンケア製品を一般消費者向けに販売する。Mitopure®は50以上の特許を取得しており、同社製品の摂取は、ザクロジュースと比較して約6倍の曝露量(ばくろりょう)になるという。

協力なパートナーシップも同社の強みで、世界最大の食品会社 Nestle(ネスレ) や、化粧品大手 L'Oreal(ロレアル) から戦略的投資や技術協力を受けている。

⑤犬の長寿に挑む「Loyal(ロイアル)」

▲犬の長寿薬開発で注目されている(写真提供:ロイアル)

2020年に米国テキサス州で創業。犬の長寿薬の研究開発を進めており、現在「シニア犬」と「大型・超大型犬」の2つのカテゴリーをターゲットにしている。加齢に伴う疾患の発症率や重症度を薬で軽減することで、寿命と生活の質を延ばすとしている。

資金調達も順調に進んでおり、シニア犬向けの薬剤は、2026年に米食品医薬品局(FDA)からの条件付き承認を見込む。米国の70以上の動物病院で1,300匹の犬を対象とした二重盲検プラセボ対照試験も進んでおり、2028年頃まで同試験の継続を予定している。

実用化が見えてきており、多方面から注目される企業だ。当面の市場は犬向けだが、いずれ同市場で得た成果を人間向けに生かすことも期待しているという。

巨額賞金をかけた「10年の若返りを競うコンペ」も開催中

「長寿・若返り」テックの分野では、スタートアップ市場の過熱とともに、総額1億100万ドル(約158億円)の賞金をかけたコンペティション「XPRIZE Healthspan」も注目されている。加齢に伴う筋肉、認知、免疫の機能を10年以上若返らせる治療法を競い、2030年まで7年間にわたり開催される。2026年に最終選考を実施予定だ。

まず、2025・2026年にそれぞれ1,000万ドル(約16億円)のマイルストーン賞が設けられ、最終的に、50〜80歳までの人々の3つの機能領域すべてを回復させる治療法を実証したチームに8,100万ドル(約126億円)の大賞が授与されるという。

そして、同コンペを主催するのは、大規模なインセンティブコンテストを多数主催する「XPRIZE」とサウジアラビアの非営利財団「Hevolution Foundation」だ。

Hevolution Foundationは、健康寿命科学の研究・起業を促進するための投資提供を目的に2021年に設立された。年間予算は最大10億ドルと、アメリカ国立老化研究所(NIA)に次いで、老化科学分野で世界第2位の資金提供者となる。

「長寿・若返り」治療薬 一般普及への課題は

▲数年規模の臨床試験に加え、「規制」は最大の壁になるという(写真提供:ロイアル)

「長寿・若返り」テックに取り組む企業は、多くが開発研究段階で、臨床試験も数年規模にわたる。そのため、最初のブレイクスルーは2030年以降になるのが現実的のようだ。

本記事で紹介した企業のなかでは、唯一タイムラインがすでに製品を販売しており、2025年の臨床試験では、免疫回復力や持久力、パフォーマンスをサポートするという質の良い結果が得られたという。また、犬の長寿薬を開発するロイアルもFDA認証間近で、続報に注目が集まる。

同市場における課題は少なくないが、一つの大きな壁は「規制」となるようだ。現在、米国のFDAや日本のPMDAは、「老化」そのものを治療対象(適応症)として認めていない。 製薬会社は「アルツハイマー病」や「糖尿病」の薬は開発できても、「老化を治す薬」として臨床試験を行い、販売することが現行ルールでは不可能だ。このままでは保険適用もされず、製薬会社も巨額の投資を回収できないため、開発が進まない。

この壁を壊そうとしているのが、米国で実施されている臨床試験「TAME Trial」だ。14の主要な研究機関で、65〜79歳までの3,000人が参加する6年間にわたる臨床試験で、糖尿病治療薬「メトホルミン」が、人間のさまざまな老化因子に影響を及ぼす可能性に焦点を当てている。

同薬が動物の老化を遅らせることは、すでに研究で示されており、人間においても主要な疾患の発症を遅らせることが期待されるためだ。TAME Trialでは、「老化そのもの」を治療できると証明し、FDAが老化を適応症として承認することを目指している。

編集後記

人類が長らく追い求めている「不老不死」。本記事の取材を通じて、避けられないものとして捉えられていた生老病死の概念が、確実に変化してきていることを実感した。本格的な普及までの道のりは平坦ではないが、市場の注目度がさらに高まっていくことは間違いないだろう。引き続き、「長寿・若返り」市場の動向を見守りたい。

(取材・文:小林香織)  

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  • 花井良紀

    花井良紀

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  • 眞田幸剛

    眞田幸剛

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