1. Tomorubaトップ
  2. ニュース
  3. 文京区役所で取り組む「働き方DX推進」――実証実験が社会的インパクト×海外展開の足がかりに!iPresenceがキングサーモンプロジェクトで得た成果
文京区役所で取り組む「働き方DX推進」――実証実験が社会的インパクト×海外展開の足がかりに!iPresenceがキングサーモンプロジェクトで得た成果

文京区役所で取り組む「働き方DX推進」――実証実験が社会的インパクト×海外展開の足がかりに!iPresenceがキングサーモンプロジェクトで得た成果

  • 14191
  • 14190
  • 14181
5人がチェック!

東京都が主催し、都政課題とスタートアップとのマッチングを通じて、都内行政現場の課題解決とスタートアップの実証実験や販路拡大のための戦略立案をあわせて支援する「キングサーモンプロジェクト」。これまで5期にわたってスタートアップが採択され、都内行政現場をフィールドに実証実験に取り組んでいる。

東京を出発点に、世界に名を轟かせるユニコーン企業へと成長し、ゆくゆくは東京で後進のスタートアップを育成する存在となる「キングサーモン」企業の輩出を目指す本プロジェクト。どのような企業が、どのようなパートナーと協業して、事業開発に取り組んでいるのだろうか。

そこでTOMORUBAでは、取り組みの事例を紹介していく。第1弾として取り上げるのは、キングサーモンプロジェクトの第5期で採択されたスタートアップ・iPresenceと文京区による取り組みだ。iPresenceが提供するテレプレゼンスアバターロボットを活用した新しい働き方のモデルを確立すべく、2025年1月~2月の約1ヶ月にわたり、実証実験に取り組んだという。そこで得た手応えや成果、今後の展望とは?

iPresenceのChief Brand Officer/営業統括である藤永晴人氏と、協業先である文京区区民部経済課の課長である内宮純一氏のお二人にお話を伺った。

管理職のリモートワーク推進を目指し「擬似テレポート」の実証実験に挑む

――最初に、iPresenceの事業概要をお聞かせください。

iPresence・藤永氏 : iPresenceは、ロボットアバターを通じて離れた場所と人々とリアルタイムコミュニケーションを取る「テレプレゼンスアバターロボット(以下、テレロボット)」を提供しています。テレロボットは、テレビ会議ツールにロボットと遠隔操作が組み合わさったツールと考えていただけると、イメージしやすいかと思います。

iPresenceのコンセプトはTeleportation as a Service。略して、TaaSです。TaaSとは、テレロボットをiPresenceが提供する独自のアプリケーションで操作・管理し、さらにデジタルツインと連携することで、イマーシブルな遠隔地体験を提供します。

つまり、「擬似テレポート」を可能にし、ユーザーがあたかもその場にいるような感覚を与えることで、遠隔地とのコミュニケーションの活性化など、多様な価値を提供するのが私たちのミッションです。現在、製造業、サービス業や観光業のほか、大学・研究機関、教育など、幅広い業種で活用されています。

ただ、一方で「テレロボットの操作や管理に一定のITスキルが求められ、活用に多少のハードルがある」というのが直近の課題でした。そのため、専属の管理者がいない現場での運用方法やカスタマーサクセスなども含めて、サービス提供のスキームを強化するのが、キングサーモンプロジェクトに参画した目的でした。

▲iPresence株式会社 Chief Brand Officer/営業統括 藤永晴人氏

――次に、文京区がiPresenceとの協業に至る経緯やその背景にあった課題を教えてください。

文京区・内宮氏 : iPresenceとの協業を希望したのは「テレロボットによる働き方DX推進」が目的です。コロナ禍以降、文京区でも他の自治体や民間企業と同様にテレワークを推進してきました。

具体的には、庁内のPCへのリモートアクセスツールやチャットツールの活用により在宅勤務を可能にするなど、さまざまなツールや制度を導入しています。しかし、それだけでは解決できない課題があったのも事実です。

▲文京区 区民部経済課 課長 内宮純一氏

――それは、どのような課題なのでしょうか?

文京区・内宮氏 : 「管理職のリモートワーク」です。管理職はチームや部下のマネジメントに加え、業務に関する相談を受けるのも重要な仕事です。行政という立場上、業務には正確さや確実さが求められますので、管理職は「職場の状況をタイムリーに把握したい」、チームメンバーも「上長に確認をしながら業務を進めたい」という場面が少なくありません。

しかし、管理職がリモートワークをしている場合、互いに気軽に相談を持ちかけにくいという問題がありました。もちろん、論点が明確であったり、緊急性が高かったりすれば、チャットツールや電話で確認を取るのですが、職場の状況は常に変化しますし、部下からの相談事とは往々にして漠然としているものです。

そのため、管理職もチームメンバーもリモートワーク中にどのように相談を持ちかけていいか迷ってしまい、管理職もリモートワークの中で、職場の状況が確認できないと席を外しづらく、結果としてリモートワークから遠ざかってしまいます。

昨今、人手不足がさまざまな業界で叫ばれていますが、私たち行政も同様です。限られた人員のなかで、効率的かつ少ない負担で勤務するためには、リモートワークは欠かせません。こうしたなかで、働きやすい環境づくりのボトルネックとなっていた、管理職のリモートワークを推進するため、iPresenceと実証実験に取り組むことになりました。

▲左側(藤永氏側)のテレロボットが、自律走行型の「temi」。右側(内宮氏)のテレロボットが、タブレットスタンド型の「kubi」。

創業初の大規模導入により、擬似テレポートによるリモートワークを実証

――今回、2025年1月下旬〜2月下旬までの約1ヶ月間、テレロボット活用の実証実験を実施しました。実証実験の規模や概要について教えてください。

iPresence・藤永氏 : 今回、文京区役所に約20台のテレロボットを導入しました。具体的には、内宮さんが所属されている経済課に、自律走行型テレロボット「temi(テミ)」を1台、タブレットスタンド型で左右300°上下90°可動する「kubi(クビ)」を2台、卓上用の超小型テレロボット「Teleppii(テレピー)」を1台導入しています。

その他、情報政策課、子ども家庭部、企画課、児童相談所など、さまざまな部署にテレロボットを取り入れていますね。iPresenceとしても、オフィス領域に約20台のテレロボットを同時に導入するプロジェクトは過去に類例がなく、非常にチャレンジングな取り組みになりました。

▲実証実験中、情報政策課で導入された「kubi」。

――内宮さんから、実証実験の手応えやテレロボットを利用してみての感触をお聞かせください。

文京区・内宮氏 : 私自身でテレロボットを活用して在宅勤務をしてみたのですが、従来のリモートワークとは全く環境が異なりました。自宅からでも職場の状況がリアルタイムかつ高感度で把握でき、まるで出勤しているような感覚で業務に従事できました。感覚的には、出勤時を10とすれば7〜8の臨場感は間違いなくあったと思います。

特に印象的なのが「音」です。テレロボット周辺の職場の会話や物音が聞き取れるため、その場の雰囲気やチームメンバーの動きまでが詳細に伝わってきました。そのため、例えば、チームメンバー同士が打ち合わせをしているときに「その件なんだけど…」とこちらから能動的に介入することができます。こうしたコミュニケーションは従来のチャットツールを中心にしたリモートワークでは実現できませんでした。

――「音」の他に印象に残ったことはありましたか?

文京区・内宮氏 : テレロボットは、一般的なテレビ会議ツールとも異なる印象です。自律走行や首を振るような動きができることもあり、職場とコミュニケーションする際の心理的な障壁が明らかに低いと感じました。

おそらく、職場にいる面々も、テレビ会議ツールの無機質な画面から急に自分を呼ぶ声が聞こえると、どこか不気味なものを感じてしまうのではないでしょうか。それを思うと、話しかける側も緊張してしまいコミュニケーションのタイミングを失ってしまうような気がします。しかし、テレロボットは、話しかける側がロボットを操作して相手に近づいていったり、画面を向けたりすることができるため、違和感なく会話を切り出すことができました。

▲「temi」は自律走行が可能。声を掛けたい職員に近づきながら、コミュニケーションを図ることができる。

――職場のメンバーからはどのようなフィードバックがあったのでしょうか。

文京区・内宮氏 : テレロボットはチームメンバーにも好評だったようです。先日、実証実験に関するインタビュー調査を実施したのですが、その際に「まるで課長(内宮氏)が職場にいるようで安心感があった」と回答してくれた職員がいました。「リモートワーク中の上長への相談のしにくさ」が、今回の取り組みに至るきっかけであったため、こうした回答は何よりの成果だと思います。

――iPresenceとしては、今回の実証実験に何か手応えを感じていますか。

iPresence・藤永氏 : はい、手応えは十分感じています。というのも、iPresenceが今後提供すべきサービスのモデルを具体化できたからです。以前から、iPresenceではTaaSのコンセプトを提唱していましたが、それを具体的にどのような形のサービスで提供するのかという点については、追求の余地がありました。

しかし、今回、文京区役所に約20台という規模で導入を行い、操作方法のレクチャーや活用方法の提案、現場への定着支援などを含めたサービスのあり方を、実際の現場での活用を通じて検討することができました。

これにより、TaaSのコンセプトに明確な輪郭を与えられましたし、今後iPresenceが開拓すべき市場やドメインが見えたと思っています。スタートアップにとって、この経験は貴重です。その意味でも、今回の実証実験は非常に有意義な取り組みができたと手応えを感じています。

東京都との協業実績を掲げ、グローバル市場への道のりを歩み出す

――キングサーモンプロジェクトは、スタートアップによる社会的インパクトの創出や海外進出の支援を目的の一つにしています。iPresenceは今回のプロジェクトを通じて、こうした成果を得ることができたでしょうか。

iPresence・藤永氏 : はい。間違いなく得ていると思います。もともとiPresenceは「より良きコミュニケーション文化の普及による顧客・社員の社会的進歩と自己実現」を企業理念として掲げており、社会的インパクトを志向した企業です。そのため、以前からそうしたビジョンをいかに世の中に届けるかに注力していました。

そして、今回、東京都と文京区という公共機関と共にプロジェクトに取り組むことで、社会のなかにおける自社の価値やサービスの位置付けを明らかにできました。この経験は社会的インパクトを創出するうえでの原動力になるはずです。

また、海外進出についても手応えを得ています。東京都はグローバルなネットワークを有していますし、「東京都に認められた」という実績は海外に事業を進出させるうえでも大きな強みになるでしょう。こうした成果は他の自治体が主催する共創プロジェクトではなかなか得にくいような気がします。特に、当社のように東京以外のエリア(※)に本社を有している企業にとっては、海外進出の足がかりを得る絶好の機会だと思います。

※iPresenceの本社は兵庫県神戸市

――文京区は、今回の実証実験を踏まえ、今後どのような展望を描いていますか。

文京区・内宮氏 : 今回、「管理職のリモートワーク推進」を一つのテーマに実証実験を行いましたが、一定以上の成果が得られていることから、今後の実装も可能性があると感じています。

そして、その際にはリモートワークへの推進に留まらない、より幅広いシーンへの活用を目指したいと思っています。例えば、遠隔拠点とのコミュニケーションです。文京区には児童館や保育園、児童相談所など、文京区役所から離れた場所に数多くの施設を有しています。これらの施設とリアルタイムかつ円滑なコミュニケーションが取れれば、拠点間の連携強化や職員の負担軽減など、さまざまなメリットが得られるはずです。

私自身も現在、子育て中なのですが、ワークライフバランスを実現するうえで出勤や拠点間の移動は大きな負担になります。職員が働きやすく、いきいきといられる職場をつくるためにも、遠隔地コミュニケーションは欠かせません。そのため、今後iPresenceが提供しようと考えているプロダクト、サービスはとても魅力に感じています。

――それでは最後に、お二人からキングサーモンプロジェクトへの参画を検討している企業に向けてメッセージをお聞かせください。

文京区・内宮氏 : 自治体がスタートアップとの協業に慣れているかといえば、決してそうではないのが実情だと思います。しかし、自治体が抱える課題を解決するうえで、スタートアップのアイデアや技術力が大きな力になるのもまた事実です。

そのため、これからは自治体の協業への姿勢には変化が求められると思いますし、実際に多くの自治体で変化が見えはじめています。スタートアップの皆さんには、ぜひキングサーモンプロジェクトに参画して、この変化をさらに進めてほしいと期待しています。

iPresence・藤永氏 : 私からは、「社会に貢献する自信がある企業にはぜひ参画してほしい」というメッセージを届けたいです。社会に貢献するうえで、自治体との関わりは必要不可欠だと思います。なかでも、東京都という人口も行政組織の規模も桁違いの自治体と関わりを持てる機会は希少です。社会的インパクトを志向する企業にぜひ参画をおすすめしたいと思います。

取材後記

取材の最中、iPresenceの藤永氏は「事業の勝ち筋は見えてきました。あとは着実にサービスの導入数を増やしていけばよいというフェーズです」と述べた。キングサーモンプロジェクトを通じて得られた成果の大きさが伺える。今後、iPresenceはこの経験を起点にさらなる事業の拡大に取り組んでいく。グローバルな市場を席巻し、「キングサーモン」として日本に帰還する未来もそう遠くないのではないだろうか。今後のiPresenceの動向からも目が離せない。

(編集:眞田幸剛、文:島袋龍太、撮影:加藤武俊)

新規事業創出・オープンイノベーションを実践するならAUBA(アウバ)

AUBA

eiicon companyの保有する日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA(アウバ)」では、オープンイノベーション支援のプロフェッショナルが最適なプランをご提案します。

チェックする場合はログインしてください

コメント5件


シリーズ

キングサーモンプロジェクト

東京都が推進する「キングサーモンプロジェクト」は、スタートアップの革新的なアイデア・ソリューションを活かしつつ都内行政現場の抱える社会課題の解決を行い、またスタートアップのプロダクト・サービスの普及拡大を図り、都内行政現場との協働・導入をきっかけに、スタートアップが世界を席巻する企業へと大きく成長し、後続するスタートアップのロールモデルとなるような「キングサーモン企業」の輩出につなげることを目指すプロジェクトです。eiiconは東京都の協定事業者に採択され、2024年度より2年間協働促進サポーターとして支援を行っています。