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女性向け公共施設の安全をAIで守る――はたらく女性スクエア×アジラが挑むセキュリティDX。キングサーモンプロジェクトから見えた新たな公共施設運営の可能性

女性向け公共施設の安全をAIで守る――はたらく女性スクエア×アジラが挑むセキュリティDX。キングサーモンプロジェクトから見えた新たな公共施設運営の可能性

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都政課題とスタートアップとのマッチングを通じて、都政現場の課題解決と、スタートアップによる実証実験や販路拡大に向けた戦略立案を支援する「キングサーモンプロジェクト」(東京都主催)。これまで5期にわたり計22件のプロジェクトが採択され、都政現場をフィールドに実証実験に取り組んでいる。

東京を出発点に、世界に名を轟かせるユニコーン企業へと成長し、ゆくゆくは東京で後進のスタートアップを育成する存在となる「キングサーモン」企業の輩出を目指す本プロジェクト。どのような企業が、どのようなパートナーと協業して、事業開発に取り組んでいるのだろうか。そこでTOMORUBAでは、第6期に採択された株式会社アジラと「はたらく女性スクエア」の取り組みを紹介していく。

今回の実証の舞台となったのは、東京都労働相談情報センター青山事務所が運営する「はたらく女性スクエア」。女性の就労やキャリアに関する相談・支援を行う施設であり、多くの利用者が訪れる公共施設である。そのため、利用者が安心して過ごせる環境を整えることが求められる。

そこで導入されたのが、株式会社アジラが開発するAI行動認識システム「AI Security asilla」だ。映像から人の骨格や動きを解析し、「転倒」「滞留」「異常行動」などをリアルタイムで検知するこの技術は、施設の見守りやセキュリティのあり方を大きく変える可能性を秘めている。

本記事では、「はたらく女性スクエア」の所長である篠田高志氏、そしてアジラの松田怜史氏に、キングサーモンプロジェクトを通じて進めた実証実験の背景や成果、行政とスタートアップの協業が生み出す価値について話を聞いた。

女性向け施設の安全をどう守るか――「はたらく女性スクエア」が抱えていた課題

――まず、「はたらく女性スクエア」が抱えていた課題について教えてください。

はたらく女性スクエア・篠田氏 : 「はたらく女性スクエア」は、女性の利用者が中心の施設ですので、「安全・安心」という点が非常に重要なキーワードになります。利用者の方が安心して相談を行える環境を整えることが、施設運営において最も重視している点です。

ただ、施設の構造上、運営にはいくつかの課題がありました。私たちのオフィスは1カ所にまとまっているわけではなく、地下1階に2カ所、さらに1階に1カ所と、フロアが複数に分散しています。廊下や階段を通じて移動する必要があり、どうしても死角が生まれてしまう構造になっているのです。

▲東京都労働相談情報センター青山事務所 はたらく女性スクエア所長 篠田高志氏

――そうした課題をふまえ、これまで「はたらく女性スクエア」では、どのような安全・安心対策を実施してきたのでしょうか。

はたらく女性スクエア・篠田氏 : 緊急時のための呼び出しベルのような仕組みは設置していました。ただ、それは音で知らせるだけの仕組みなので、実際に何が起きているのかは現場に行ってみないと分かりません。つまり、「何かが起きた」ということは分かっても、「どのような状況なのか」は把握できないという課題がありました。

また、仮に防犯カメラを設置したとしても、常にモニターを人が監視し続けることは現実的ではありません。本施設の職員は相談対応などの業務を行っていますので、施設全体の安全を見守るためには、より効率的な仕組みが必要だと考えていました。

そのような中で、AIによって異常行動を検知し、必要なときだけ通知してくれるアジラのシステムは、施設の安全管理の課題を解決できる可能性があると感じました。利用者と職員の双方にとって、より安心できる環境づくりにつながるのではないかと考え、今回の実証実験に参加しました。

▲キャリア相談や労働相談などを通じて、女性の活躍をサポートする施設として2024年にオープンした「はたらく女性スクエア」。(画像出典:はたらく女性スクエアHP) 

映像から“人の行動”を読み取る――アジラの行動認識AI「AI Security asilla」とは

――今回の実証実験で活用されているアジラの技術について教えてください。

アジラ・松田氏 : アジラは創業当初から画像解析AIの研究開発を続けてきた会社です。2022年1月より、AIの精度と運用コストのバランスが実用レベルに達したことを受け、警備分野向けのプロダクトとして「AI Security asilla」を提供し始めました。一般的な画像認識AIは、「これは犬」「これは車」といった物体を識別する技術が中心です。一方で、私たちアジラが研究開発してきたのは、映像から人の姿勢や動きを捉え、人の行動そのものを認識する独自の「行動認識AI」です。

具体的には、カメラ映像から人の肩や膝、鼻といった関節の位置を検出し、それらを線でつなぐことで人の骨格を表す「姿勢推定データ」を生成します。この骨格の動きを時系列で分析することで、「立つ」「座る」「倒れる」「暴れる」といった人の行動を認識することができます。異常行動を検知した場合には、管理者や警備担当者へ通知が送られる仕組みです。すべての映像を人が監視する必要はありません。必要な場面だけ確認すればよいという点が特徴です。

▲株式会社アジラ プロダクト事業本部 ソリューション営業部 アカウントエグゼクティブ 松田怜史氏

――「AI Security asilla」はどのような場所に導入されているのでしょうか。

アジラ・松田氏 : 現在、このシステムは国内約200カ所の施設で導入されています。商業施設や駅、空港など、不特定多数の人が出入りする場所で活用されているケースが多いですね。

また、日本の警備環境に合わせた設計になっている点も特徴です。海外では武器を持った侵入者などへの警戒が重視されるケースもありますが、日本では利用者の安全を見守ることが警備の中心になります。そのため、「転倒」「滞留」「立ち入り禁止エリアへの侵入」といった、施設運営の中で本当に対応が必要な事象のみを検知するよう設計しています。

▲既存の防犯カメラ映像をAIが24時間365日解析し、異常行動や注意行動を瞬時に検知するシステム「AI Security asilla」。

カメラ5台で実証開始――AIによる異常行動検知は施設運営をどう変えるのか

――それでは今回の「キングサーモンプロジェクト」における実証実験の内容について教えてください。

アジラ・松田氏 : 今回の実証実験では、施設内の共用スペースを中心に防犯カメラを5台設置しました。実証実験は2026年2月16日から開始しました。防犯カメラの映像をAIが解析し、異常行動を検知した際には、管理者用のパソコン画面にアラートが表示され、すぐに状況を確認できる仕組みになっています。

▲今回の実証実験にあたり、「はたらく女性スクエア」の共用部に設置された防犯カメラ。

はたらく女性スクエア・篠田氏 : 実際に運用してみると、1日に数回ほどアラートが届くことがあります。例えば、同じ場所に長時間滞在している「滞留」の検知や、歩き方が不安定な「ふらつき」の検知などです。通知が届いた場合は、映像を再生して状況を確認します。実際には問題がないケースが多いですが、そうした状況を確認できること自体が、施設の見守りとして大きな意味を持つと実感しています。

アジラ・松田氏 : AIの検知精度についても、非常に良い結果が出ています。実運用に十分な精度を示しており、検知すべき事象を見逃すケースもほとんどありませんでした。

また、施設運営の観点でも新しい気づきが得られています。例えば、どの場所で人の滞留が多いのか、どの時間帯に人の動きが集中するのかといったデータが可視化されるため、施設の運営改善にも活用できる可能性があります。

▲「AI Security asilla」の操作性は高く、篠田氏がマニュアルを読み込まなくても自由度高く扱うことができているという。

警備員がいない施設でも安全を守れるのか――キングサーモンプロジェクトで見えた新市場

――今回の実証実験から見えてきた可能性について教えてください。

アジラ・松田氏 : 今回の取り組みを通じて見えてきたのは、「警備員が常駐していない施設」でもAIによる見守りが機能するという可能性です。多くの施設では警備員が配置されていますが、すべての施設がそうではありません。例えばホームセンターや家具店、オフィスビルなどは、基本的には施設のスタッフが安全管理を担っています。そうした「自己防衛型の施設」にとって、AIによる異常検知は非常に有効な仕組みになると考えています。

また、キングサーモンプロジェクトを通じて行政施設で実証できたことは、私たちにとっても大きな価値がありました。これまでは民間施設での導入が中心でしたが、公共施設でも活用できることが確認できたからです。

さらに海外展開という観点でも重要な意味があります。日本では民間市場から導入が進むケースが多いのですが、海外では政府が先に導入し、その後民間へ広がるケースも少なくありません。行政での実証実績があることは、海外展開においても大きな強みになると考えています。

はたらく女性スクエア・篠田氏 : 今回の実証を通じて、スタートアップの技術が公共施設の運営にも活用できることを実感しました。行政とスタートアップが協力することで、新しいサービスや価値が生まれる可能性を感じています。今回のような取り組みが広がることで、公共施設の安全性や利便性がさらに高まっていくのではないかと期待しています。

――それでは最後に、キングサーモンプロジェクトへの参加を検討しているスタートアップに向けてメッセージをお願いします。

アジラ・松田氏 : 行政の現場で実証できる機会は、スタートアップにとって非常に貴重だと感じています。そういったチャレンジが成功するにしても失敗するにしても、その過程で得た経験が財産になるはずなので、キングサーモンプロジェクトは、とても意義のある取り組みだと思います。

編集後記

今回の取材で印象的だったのは、篠田氏が「安全・安心」という言葉を何度も口にしていた点だ。「はたらく女性スクエア」は、女性の就労やキャリアに関する相談を受ける施設であり、利用者にとっては安心して悩みや課題を共有できる場所でなければならない。そのため、施設の安全確保は単なる防犯対策ではなく、「安心して相談できる環境づくり」そのものに直結するテーマなのだと感じた。

スタートアップの技術が行政の現場に入り、実際の施設運営の中で検証される――キングサーモンプロジェクトの価値はまさにそこにある。今回の取り組みは、AIによるセキュリティの可能性を示すと同時に、公共施設の安全管理のあり方を考えるきっかけにもなる事例だったのではないだろうか。

(編集:眞田幸剛、文:久野太一、撮影:齊木恵太)

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  • 眞田幸剛

    眞田幸剛

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キングサーモンプロジェクト

東京都が推進する「キングサーモンプロジェクト」は、スタートアップの革新的なアイデア・ソリューションを活かしつつ都内行政現場の抱える社会課題の解決を行い、またスタートアップのプロダクト・サービスの普及拡大を図り、都内行政現場との協働・導入をきっかけに、スタートアップが世界を席巻する企業へと大きく成長し、後続するスタートアップのロールモデルとなるような「キングサーモン企業」の輩出につなげることを目指すプロジェクトです。eiiconは東京都の協定事業者に採択され、2024年度より2年間協働促進サポーターとして支援を行っています。