キユーピーが始動する共創プロジェクト ― 担当者が語る、食の新たな可能性とめざす世界観とは?
1919年の創業以来、日本で初めてマヨネーズやドレッシングの製造をしてきたキユーピー株式会社。時代によって変化する世の中のニーズをとらえ、キユーピーグループとして、内食、中食、外食など、さまざまな食シーンに提案できる商品や販路を擁する。
そのキユーピーグループが、食を取り巻く課題解決や新しい食文化の創造に向けた共創プロジェクト「kewpie Open Innovation 2021」の募集を開始した。募集テーマは2つ。「食品ロス問題を解決する食品未利用部の活用」、「ドレッシングを通じた新たな食生活の創造」だ。
今回、プロジェクトの開始にあたり、キユーピーのイノベーション推進の中枢となっている仙川キユーポートにて、事務局と各テーマの担当者にインタビューを実施。「kewpie Open Innovation 2021」を始動させることになった背景や目的、各募集テーマの詳細と提供可能な技術・アセットなど、詳しく話を聞いた。
多様化するニーズに応え、新たな食生活・食文化の創造を
まずは、本プロジェクトの事務局である、研究開発本部 グループR&D推進部の萩原氏に、取り組みの背景や、提供できるリソースなどについて話を伺った。
▲研究開発本部 グループR&D推進部 萩原 雄真 氏
――オープンイノベーションプロジェクトの開始にあたり、まずはその背景をお聞かせください。
萩原氏 : 一番の理由は、食関連の社会潮流が急激に変化していることです。食の嗜好やライフスタイルの変化により、食ニーズは多様化しています。そして、食品ロスの低減やCO2排出量削減といった社会課題に対しても、食品会社としては取り組まなければなりません。
研究開発本部ではこれまで、さまざまなオープンイノベーションの取り組みを実行してきましたが、従来は社内でアイデアを出して何をするのか固めた上で、共創パートナーを探すという流れをメインで進めていました。
しかし、今お話ししたような社会潮流の中では、自社で考えるだけではテーマの広がりやスピードに限界があります。そこで、より上流のアイデア段階から他社と組んで発想をすることで、幅広いアイデアが生まれ、社会実装も早まるのではないかと考えました。
――これまでも、スタートアップとの共創は多かったのでしょうか。
萩原氏 : 最近増えてきましたが、経験値としてはそれほど高くありません。オープンイノベーションをより効果的に進めていくための体制構築も、これを機に積極的に行っていきたいと考えています。
――次に、プロジェクトに参加するメリットについてお話しいただけますか。
萩原氏 : キユーピーは、食品に関して幅広いアセットを持っています。これから各テーマについてお話しするキユーピー株式会社の研究開発部門は、マヨネーズやドレッシングなどの調味料に関する技術が一番の強みです。そしてグループ会社も、卵素材や卵加工品を扱うキユーピータマゴ株式会社、酢や発酵を専門とするキユーピー醸造株式会社、サラダ・惣菜を製造販売するデリア食品株式会社など、食に関する幅広い事業を展開しています。
こうしたグループ会社の研究開発機能が、この仙川キユーポートのワンフロアに集まっていることも大きな特徴です。グループの多様なアセットを適切に活用することは、プロジェクトをスピーディーに前に進める上で有効だと思います。
――この仙川キユーポートは、キユーピーグループのイノベーションの中枢という位置づけだと伺いました。
萩原氏 : その通りです。建物自体が、従業員間やグループ間のシナジーを意識した造りになっていて、イノベーションを生み出すための仕掛けの一部として機能しています。また、社外の人との打ち合わせができるスペースとして「オープンラボ」もあります。
――そうしたオフィス空間も活用しながら、グループ全体のリソースを活用していくことができるのですね。
萩原氏 : 今回のオープンイノベーションプロジェクトは多様な業種から応募していただくことを想定しており、意図的に幅広くテーマを設定しました。私が所属するグループR&D推進部を軸として、グループが保有する技術アセットを適材適所で紹介したいと考えています。
――最後に、応募を検討している企業にメッセージをお願いいたします。
萩原氏 : 今回は、食品領域に留まらない幅広い業種の方々とお話をしたいと考えています。食品ロスの低減や、新たな食生活の創造といった大きなテーマに対して、お互いのアセットを出し合って未来視点で議論をし、共に新しい世界観を描いていきたいですね。
テーマ1:食品ロス問題を解決する食品未利用部の活用
続いて、各テーマの担当者に話を聞いた。「テーマ1:食品ロス問題を解決する食品未利用部の活用」は、食品加工の工場で発生する野菜や卵の未利用部を、よりよく有効活用することで、新しい価値の創出と、食品ロス低減に取り組むものだ。未利用部の有効活用に関する研究を担当するチームの、千代田氏と倉田氏に、テーマ設定の背景にある課題や、共創パートナー像についてお話しいただいた。
▲研究開発本部 技術ソリューション研究所 機能素材研究部 チームリーダー 千代田 路子 氏
サラダや惣菜の商品開発からスタートし、野菜を中心とした技術開発のキャリアを築く。現在は、「素材の恵み全てを届けること」をテーマに、野菜の未利用部や卵殻の有効活用を研究するチームのチームリーダー。
▲研究開発本部 技術ソリューション研究所 機能素材研究部 倉田 幸治 氏
分析業務に携わった後、未利用資源の有効活用の研究に携わる。現在も一貫して、未利用資源の高付加価値な活用をするための技術開発を行っている。
――「食品ロス問題を解決する食品未利用部の活用」というテーマを設定した背景について教えてください。
千代田氏 : 卵については、現状未利用部の100%活用ができています。しかし、肥料や飼料というのが用途のメインになっており、付加価値の高い利用がまだ少なく、経済性が伴いません。野菜については、2030年までに90%の有効活用を目指していますが、まだそこには至らず、肥料や飼料から始めている段階です。
「キユーピーグループ2030ビジョン」で、“サラダとタマゴのリーディングカンパニー”を目指すキユーピーとしては、より付加価値の高い研究をして、社会実装を追求することが必要です。そこで、単に資源を再利用するというのではなく、未利用部の価値を最大化するような活用の方法を生み出したいのですが、社内だけでは限界があります。そこで、外部の企業と共創したいと考えています。
――卵は現状100%ですが、野菜はまだ90%に至らないのはなぜでしょうか。
倉田氏 : 卵はマヨネーズの原料になるため、キユーピーとして扱っている歴史が長いです。そのため、少しずつ資源循環の取り組みを進めることができました。一方で野菜については、卵と比べると歴史が浅く、例えば袋詰めされたカット野菜の需要が伸びたのは、ここ最近であるため、未利用部の活用が進んでいませんでした。
――共創相手としては、どのような企業をイメージしていらっしゃるのか、お聞かせください。
千代田氏 : 技術やアイデアといった要素もさることながら、私たちキユーピーの企業理念に共感頂けることも大切にしたいと考えています。その企業理念の「めざす姿」として、“私たちは「おいしさ・やさしさ・ユニークさ」をもって世界の食と健康に貢献するグループをめざします”と掲げています。その中でも、やはりオープンイノベーションを進めるには、ユニークさが重要だと思います。
倉田氏 : ユニークさは大事ですね。大企業同士の場合、動きが堅くなり、フットワークが重たくなる印象があります。そこで、千代田が申し上げたキユーピーの理念に共感していただくことはもちろん、フットワークの軽い企業との出会いを期待しています。未利用資源の課題は、それだけ早急に解決したいテーマであり、私たちもスピード感をもって取り組んでいきたいと考えています。
――テーマとして、「食以外の新しいプロダクトや素材開発の技術・アイデア」を挙げていらっしゃいますが、具体的に素材開発の技術についてはどのような技術をイメージしていらっしゃいますか。
千代田氏 : バイオマス由来繊維の開発については、当社はまだ弱いです。そこで、他社と差別化できるような技術が開発できればいいですね。
――今回の共創において提供できる技術やアセットについて教えてください。
千代田氏 : 実際に工場で発生する生の卵殻や野菜未利用部(キャベツの芯や外葉、レタスの外葉、じゃがいもの皮等)を大量にお渡しできるのは強みですね。ご希望があれば乾燥させた卵殻も提供できます。
倉田氏 : 工場は全国にあり、例えば、じゃがいもの皮を飼料化するためにリキッドフィードを作る機械を入れている工場もあります。しかしランニングコストはかかりますし、工場の規模によっては導入できないところもあります。そのため、肥料化・飼料化以外の活用方法を模索するとともに、従来の飼料化のブラッシュアップについても一緒にカスタマイズしながら考えられると面白いと思います。
テーマ2:ドレッシングを通じた新たな食生活の創造
続いて、「テーマ2:ドレッシングを通じた新たな食生活の創造」の担当である、石川氏と熊谷氏に話を聞いた。このテーマでは、ライフスタイルや食に対するニーズが多様化する現代社会において、キユーピーの強みであるドレッシングの新たな可能性を追求し、新たな食の楽しみ方を普及させることを目指す。そのために不可欠な共創パートナー像や、実現したい世界観を伺った。
▲研究開発本部 食創造研究所 調理・調味料開発部 次長 石川 敦祥 氏
業務用の調理食品などの開発を経て、現在はドレッシングを中心として、マヨネーズ、パスタソース、育児・高齢者食など市販用商品の開発を担当。新商品の開発や育成を通じて、家庭内食シーンでの困りごとを解決したいと考えている。
▲研究開発本部 食創造研究所 調理・調味料開発部 チームリーダー 熊谷 信介 氏
ベビーフードやドレッシングの開発、海外グループの開発支援、業務用マヨネーズの開発などに携わった後、現在は家庭用ドレッシングの商品開発チームのチームリーダーとして、ドレッシングの可能性を追求する。
――「ドレッシングを通じた新たな食生活の創造」というテーマを設定した背景についてお聞かせください。
石川氏 : キユーピーは、食を通じた健康増進や食生活の提案を、100年の歴史を通じて行ってきました。今、私たちの部門では市販の調味料を扱っていますが、お客様は家事の時間がない、献立を考えるのが大変など、生活者としてさまざまな困りごとを抱えていらっしゃいます。
その時に、実はドレッシングには、生の野菜にかけるという用途だけではなく、そうした困りごとを解決できるような可能性を秘めているのではないかと考えました。こうしたドレッシングの魅力をもっとお客様に伝えることができれば、より日々の調理が楽になり、食べることも楽しく、そして健康に繋がるのではないでしょうか。そういった価値を提供したいという想いがあり、この共創プロジェクトに取り組むことにしました。
熊谷氏 : 個人的な体験ですが、我が家の冷蔵庫にはキユーピーのドレッシングがたくさんあります。しかしなかなか使いきれないという時、試しにブリをドレッシングに漬けて、照り焼きにしてみました。そしたら、妻や子供に大好評だったんです。実際に、魚や肉にドレッシングを漬け込むと、魚のにおいを低減したり、肉を柔らかくしたりする効果を確認しています。
しかしこれは、あまり世の中に知られていません。正直なところ、ドレッシングを生野菜のサラダ以外に使うことって、冒険ですよね。それを、共創パートナーと一緒にもっと広げていき、食卓を笑顔にしていきたいと考えています。
――パートナーとの共創例として、「ドレッシング2.0を目指す、ドレッシングの新スタイルを開発する技術やアイデア」もありますが、共創パートナーにどのような技術やアイデアを求めていますか。
石川氏 : ここはあえて絞らず、幅広い視点を歓迎します。キユーピーは、ドレッシングを60年間製造してきた会社です。そこで培ったリソースは大きいのですが、どうしても「ドレッシングとはこういうものだ」という固定観念にとらわれてしまいます。外部の視点から見て、今あるドレッシングのカタチにとらわれない、ドレッシングの常識を覆す斬新なご意見をいただけると嬉しいですね。
――その中でも、大切にしてほしい軸はありますか。
熊谷氏 : テーマ1で千代田が話したように、企業理念に共感していただきたいと思います。その上で、色々な人が集まると、話しているうちにいいアイデアが生まれるのではないかと期待しています。
石川氏 : やはり食品を扱うため、土台となる安全・安心は不可欠です。さらに、今の時代背景として、極力シンプルでナチュラルなものを作るという想いも軸として大切に考えています。
――共創において、キユーピーからどのような技術やアセットを提供できますか。
熊谷氏 : ドレッシングの製造技術です。この60年間培ってきたレシピ、おいしさへの知識、日持ちの技術、原料の使い方は、私たち独自の強みがあります。また、工場においては、大量の製品を安定して製造する技術を提供できます。
石川氏 : 販路について、市販品・業務用それぞれにお客様との多様なタッチポイントがあることも、キユーピーのユニークさだと思います。こうしたフィールドでの実証も、自社だけではなく外部の企業と組んで行うことで、よりスピーディーにできるのではないかと考えています。
取材後記
100年の歴史の中で、新たな食文化の創造や、ライフスタイルの変化に合わせた商品開発に取り組んできたキユーピーの思想が随所に見えるインタビューだった。卵未利用部は、用途にこだわらなければ十分有効活用ができている。ドレッシングについても、既に確固たる地位を確立している。
しかし、その現状に満足せず「より良く、正しい方法」を探っていこうというキユーピーとなら、新しい価値創造の可能性も広がるのではないだろうか。テーマに合致した技術やアイデアを持つ企業は、ぜひ応募をお勧めしたい。
※「kewpie Open Innovation 2021」の詳細は、コチラからご覧ください。
(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:古林洋平)