【日本郵便 第2期オープンイノベーションプログラム】――各募集テーマ担当者が語る「危機感」。スタートアップとの共創を通じて実現したい世界観とは?
日本郵便とサムライインキュベートが、スタートアップ企業と共創を行うオープンイノベーションプログラム「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM 2018」の募集を、7月5日からスタートした。現在専用サイトが設置され、応募を受け付けている。
そこで先日eiicon labでは、同プログラムのメインテーマ【郵便・物流のバリューチェーン全体をテクノロジーで変革する】に込められた想いについてインタビューを実施した。それに続き、今回は同プログラムで提示された以下の個別テーマに関して、日本郵便の各責任者にインタビューを行った。テーマ設定をした課題や背景、そして提供できるアセットとは?――応募を検討しているスタートアップは、各責任者の生の声をぜひ参考にしていただきたい。
【POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM 2018/応募テーマ】
●物流拠点におけるオペレーションの「自動化」「見える化」……郵便・物流事業企画部 部長 畑勝則氏
●郵便配達エリアの「最適化」とポスト内「見える化」……郵便・物流業務統括部長 三苫倫理氏
●郵便局間における運送便ダイヤの「最適化」……輸送部長 仲谷重則氏
●国際郵便等のオペレーションの「効率化」……国際事業部長 久田雅嗣氏
テーマ① 物流拠点におけるオペレーションの「自動化」「見える化」
▲日本郵便株式会社 郵便・物流事業企画部 部長 畑勝則氏
未来を見据えた郵便・物流をカタチにする、“郵便・物流事業企画部”。同部が取り組むテーマは、【物流拠点におけるオペレーションの「自動化」「見える化」】だ。具体的には、物流拠点(地域区分局※)における、荷物の形状/質量の自動認識や荷物の自動積み下ろしを実現することを目的としている。――このテーマを設定した理由・背景などを、部長である畑氏に伺った。
※「地域区分局」:地域の郵便局(集配局)から集めた郵便物の区分を行う郵便局で、ここで区分したものを、配達先の地域区分局に送る。
――まず、郵便・物流事業企画部としてこのテーマを設定した背景をお聞かせください。
畑氏 : 全国にはおよそ2万4000の郵便局があります。各郵便局から集まった郵便や荷物の区分けを行い、物流のハブとなるのが「地域区分局」です。この地域区分局内の各種作業の省力化や機械化を実現することが、今回のテーマとなります。
当社が扱っているのは、手紙・はがきなどの「郵便」と、ゆうパックなどの「荷物」の2つがあります。郵便に関しては、自動読み取り区分機を導入することで仕分けがほぼ自動化されているのですが、課題は「荷物」にあります。
――なるほど。
畑氏 : 荷物の仕分け自体は郵便と同じく区分機によって自動化されているのですが、搬送や積み込みはまだまだ多くの人の手に頼っているのです。具体的に言えば、輸送容器からの取り下し、輸送容器への積み込みや、トラックまでの運搬などです。重い荷物ですと、1箱30kgほどあります。――これから労働人口が減少する一方で、荷物が増えていくことを考えると、いつまでも人の手だけに任せていくわけにはいきません。
――そうですね。現状のままですと、荷物が捌ききれなくなるおそれがあります。
畑氏 : 私は今年の3月まで江東区新砂にある新東京郵便局の局長をしていたのですが、同局は日本で一番荷物の取扱量があります。局全体では約2200人いますが、1日平均30万個の荷物に対して、約600人の局員で対応していました。特に荷物が集中する夜20時~翌朝6時まで非常に忙しくなります。
日本の物流を支え、サービスレベルを守るためにも、増加する荷物に対応できるように、人力をアシストできるような技術やアイデアを欲しています。共創を進めていくスタートアップのみなさんにはまず、地域区分局に来ていただき、私たちのオペレーションを見ていただくところから始めたいと思っています。私たちでは見ることができないような、様々な視点・角度で現場をご覧いただき、アイデアを出し合っていきたいですね。
テーマ② 郵便配達エリアの「最適化」とポスト内「見える化」
▲日本郵便株式会社 郵便・物流業務統括部長 三苫倫理氏
郵便・荷物の輸送全体のオペレーションを統括し、サービス品質の管理を手がけている、“郵便・物流業務統括部”。同部が取り組むテーマは、【郵便配達エリアの「最適化」とポスト内「見える化」】だ。郵便配達エリアにおける郵便物数や配達箇所数などを計測/分析し、郵便配達エリアを随時最適化したり、ポスト内の郵便物量を正確に把握し、効率的な取集業務へ反映することを目的としている。ーーこのテーマを設定した理由・背景などを、部長である三苫氏に伺った。
――先ほど、郵便・物流事業企画部の畑さんにもお話しを伺いましたが、労働人口が減少する一方で荷物が増えているという課題があるとのことでした。郵便・物流業務統括部としても、同様の課題がテーマ設定の背景にあるのでしょうか。
三苫氏 : そうですね。ICTの発達によって郵便の分野は減少傾向にあるのですが、荷物の分野は、主要EC事業者などの取り扱いが増加しており、右肩上がりです。これは一時的なトレンドではなく、中長期的な流れとなっていくでしょう。そうなると配達箇所が増える、すなわち当社の業務量が増えていきます。この増えた荷物・業務に対して、どのように取り組んでいくかが大きな課題であり、今回のプログラムのテーマなのです。
――強い危機感があるんですね。
三苫氏 : そうですね。その危機を打開し、当社の事業を持続可能にする、基盤となる技術を必要としています。現在、郵便配達のルートはおよそ5万通りあります。実はこの5万というルートも、各郵便局の経験・ノウハウに基づき設定しており、現在の環境にマッチしていないものがあると考えています。このルートが最適なものなのか、AIなどを活用した配達ルートの設定も実現していきたいと思っています。
――第1期のプログラムで最優秀賞を獲得したオプティマインドさんは、AIを用いた配達ルートの最適化の実証実験を進めていますよね。
三苫氏 : そうですね。第2期で採択させていただくスタートアップさんとオプティマインドさんのコラボレーションといった選択肢も考えられます。私たちからは各種データや、実証実験の場となる郵便局の提供など、スピード感を持ってアセットを準備します。花火をドーンと打ち上げるのではなく、使命感を持って目の前の課題を1つでも2つでも解決していきたいと思っています。熱意あるスタートアップのみなさんと一緒に共創に取り組んでいきたいですね。
テーマ③ 郵便局間における運送便ダイヤの「最適化」
▲日本郵便株式会社 輸送部長 仲谷重則氏
続いて登場していただくのは、郵便局間の輸送を担っている”輸送部”の部長・仲谷氏だ。同部が取り組むテーマは、【郵便局間における運送便ダイヤの「最適化」】。――具体的には、荷物/トラックの情報に加え、拠点への到着時間や受け取る局側のトラック発着スペース等を踏まえた運送便のダイヤの最適化を目指している。このテーマを設定した理由・背景などを、仲谷氏に伺った。
――日本全国に輸送ハブとなる地域区分局が63局あると伺いました。この63局間のトラック輸送を最適化する、ということが“輸送部”が掲げるテーマということでしょうか。
仲谷氏 : そうですね。当社には63の地域区分局があり、その間をつなぐルートが62通りあります。郵便・荷物の取扱量に鑑みてルートを設定していない区間もありますが、およそ1日あたり3000便のトラックが地域区分局間を走っている計算になります。
EC市場の拡大で取扱量が増えている中、基準の時間までに荷物を引き受けるというサービスレベルも守っていかなければなりません。さらに、トラックドライバーの確保が難しくなっているという時代背景もあるなかで、この3000便というトラック輸送量が適正なものなのか、評価が大変難しい状況です。
――現状、運送便のダイヤはどのように設定されているのでしょうか。
仲谷氏 : 運送便のダイヤは、社員の頭の中で考えています。そこで、共創パートナーとなり得る方々の新しいテクノロジーを導入することで、現在の拠点間での輸送が最適かどうかのシミュレーションを行ってみたいと考えているのです。
――拠点間での輸送データなどは、スタートアップ側に提供できるのでしょうか?
仲谷氏 : はい、可能です。日々輸送している荷物数のデータをきちんと記録しています。データを提供し、最適なダイヤをスタートアップと共創していくことで、経験のないドライバーでも即戦力で輸送の仕事ができるようにしていきたいと思っています。ドライバーの担い手が減っているのは、どこの物流業者も同じです。将来的には、最適なダイヤを生み出す仕組みを業界全体に普及させ、社会的な課題解決にも結び付けていきたいですね。
テーマ④ 国際郵便等のオペレーションの「効率化」
▲日本郵便株式会社 国際事業部長 久田雅嗣氏
最後に登場していただくのは、日本と海外の輸送を担う”国際事業部”の部長・久田氏だ。同部が取り組むテーマは、【国際郵便等のオペレーションの「効率化」】だ。具体的には、以下の4点の実現を目的としている。
●海外向け荷物における窓口・集荷時のサイズ/重量の情報取得
●日本から海外に送る荷物のラベル情報取得の合理化(画像解析技術、音声認識技術)
●多様な形状の国際郵便物数についての計測の自動化/効率化
●海外向け冷蔵冷凍品の輸送時における保冷容器の軽量化/保冷性能の向上
このテーマを設定した理由・背景などを、久田氏に伺った。
――現在、国際事業部が抱えている課題というは何でしょうか。
久田氏 : 国内外でEC事業者が急増したことによる「ニーズの変化」が、一番の課題だと思っています。一昔前までは、海外に郵便・荷物を送ることさえできれば品質を担保できました。しかし今は、越境Eコマースが増え、スピードや確実性、荷物の追跡など、ニーズやリクエストが高まってきています。私たちは、こうしたユーザーの声にこたえるために、国際郵便のオペレーションを効率化していきたいのです。
――逆に言えば、現在、国際郵便のオペレーションに時間が掛かってしまっているということなのでしょうか。
久田氏 : 効率化できるよう、税関への申告書が簡単に作成できるオンラインシッピングツールなどを提供していますが、現状そこまで普及はしておりません。海外に荷物を発送する際は、通関で内容品のチェックがあるために、品名を英語で正確に記載する必要もあります。さらに例えば花火や香水など、海外に送ってはいけない荷物もあり、その確認などで時間を要すこともあるのです。
――なるほど。
久田氏 : また、ラベルが手書きということも多かったり、荷物の形状もバラバラだったりするので、窓口や作業場での計測作業にも時間を要します。しかも、無記録扱いの郵便物になると、これらの作業は、社員の手作業ということがほとんどのため、データとして情報を残すこともできていません。――今回のプログラムを通して、これらの作業の自動化や効率化をすることで、迅速かつ正確な国際郵便のオペレーションの実現につなげていきたいと思っています。
本プログラムでは、海外物流の専門拠点である東京国際郵便局・大阪国際郵便局・川崎東郵便局・中部国際郵便局・新福岡郵便局・那覇中央郵便局といったアセットを用意することが可能です。実際のオペレーションの現場を見ていただきながら、効率化を目指して共創していきたいですね。
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※「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM 2018」の詳細はコチラから。