地域社会×デジタルで、新たな未来をデザインする――NTT東日本デジタルデザイン部の共創プロジェクトが始動
関東・甲信越から、東北、北海道まで、日本列島の東半分のエリアで事業を展開しているNTT東日本(東日本電信電話株式会社)。各県に合計29の支店を持つほか、4社の地域子会社とその支店など、東日本各地にくまなく事業の網を張り巡らせ、地域に根付いた事業活動をおこなっている。
そのNTT東日本で、2019年7月から新しく組織されたのが、デジタル革新本部内に設置された「デジタルデザイン部」だ。デジタルトランスフォーメーションによってNTT東日本内部での革新を進め、新たな事業の柱を打ち立て、それをもって地域社会の活性化や地方創生に資することをビジョンとしている。
同部では、これまで同社が築きあげてきた通信ネットワークビジネスのエコシステムとはまったく異なる、革新的な「DXビジネスエコシステム」を構築し、地域社会の未来を創るべく「NTT EAST DIGITAL DESIGN PROJECT」と題した取り組みを開始した。――その詳しい背景・目的や、共創したいパートナー企業像などについて、デジタルデザイン部の3名に話をうかがった。
■東日本電信電話株式会社 デジタル革新本部 デジタルデザイン部 ファシリテーション部門 DX戦略担当 担当課長 下條裕之氏
2006年新卒入社。法人営業部でシステムエンジニア、開発部門でのIoTサービス開発や研究開発部門を経て、デジタルデザイン部立ち上げに携わる。2019年7月より現職。
■東日本電信電話株式会社 デジタル革新本部 デジタルデザイン部 ファシリテーション部門 DX戦略担当 浦壁沙綾氏
2017年新卒入社。埼玉支社での保守業務を経て、2019年7月より現職。
■東日本電信電話株式会社 デジタル革新本部 デジタルデザイン部 プラットフォーム開発部門 アーキテクチャ担当 山内沙耶氏
2017年新卒入社。法人営業部門でのシステムエンジニア業務を経て、2019年7月より現職。
「地域社会の活性化」や「地方創生」が、大きなテーマ
――まずはじめに、「NTT EAST DIGITAL DESIGN PROJECT」という取り組みをスタートさせた背景について教えてください。
下條氏 : 当社は、1999年に旧NTTの再編成により誕生した会社で、今年(2019年)でちょうど創業20年です。その20年の歴史の中でも、事業の変遷がありました。設立当初は、今では「家電(いえでん)」と呼ばれるようになった固定電話が事業の柱でした。
次に、光インターネット回線「フレッツ光」が事業の柱となり、ここ10年ほどはそれを中心としてやってきました。そしていま、第3の柱にしようとしているのが「デジタル」の分野です。デジタル分野は当社では主に、AI、IoT、センシング、クラウドなどを指しています。
このデジタル事業に本気で取り組んでいくため、2019年7月に新しくデジタル革新本部を新設するとともにお客様へのデジタル事業推進のため、デジタルデザイン部も新設されました。新体制によりデジタルトランスフォーメーションを推進し、パートナー企業にご協力いただきたいというのが、今回のプロジェクトを開始した背景です。
浦壁氏 : 現在、デジタルデザイン部は、当社のプロパー社員が20数名、グループ会社からいらしている常駐担当員が50数名で総勢70名ほどの体制です。70名というと、けっこう大きい組織だと感じられるかもしれませんが、当社においては比較的小さな部になります。グループ会社社員の常駐もあるように、当社にはこれまでグループ内でリソースをまかなう“自前主義”とも呼ぶべき文化が根強くありました。
もちろん、グループ会社以外にも、外部のさまざまなパートナー企業様との密接な協力関係を築いていますが、それらは主に通信ネットワーク系のシステムや製品に強い企業です。つまりこれまでは、NTT東日本グループを中心としつつ、協力企業を含めて、通信ネットワークビジネスのエコシステムで事業展開をしてきたのです。
しかし私たちデジタルデザイン部では、それとは異なる、AI、IoT、クラウドなどの分野で、外部のパートナー企業の皆さまと協業しながら、いわばDXビジネスエコシステムという新たなパートナーシップを築いていきたいと考えています。
――DXビジネスエコシステムを通じて、どんな課題を達成していきたいのでしょうか。
下條氏 : 大きなテーマとして設定しているのが、「地域社会の活性化」や「地方創生」です。もともと私たちは、東日本の各地方に根付いて、地域密着型のビジネスをしています。
地方といっても、たとえば中心都市だけではなく、その他の農家や魚家、個人商店などのお客様から長い間ご利用いただき、信頼もいただいております。東日本全域で、地域の隅々まで根付いた顧客基盤を持っていることが私たちのビジネスの特徴であり強みでもあります。
いま、ご存じのように日本の多くの地方で、後継者不足や人材流出による地場産業の衰退が進んでいます。そこで、AIやIoTなどを地方の1次産業、2次産業と結びつけることで、地域社会活性化、地方創生という課題を実現することが、私たちの目標です。
――具体的には、どのような企業とのパートナーシップを求めているのでしょうか。
山内氏 : 一番つながりたいのは、AIやIoTを活用して、「地方で何かをやりたい」「地方を元気にしたい」という思いを持つ企業様です。
私たちが、デジタル、つまりAIやIoTを第3の柱にするというと、「いまさら、遅いでしょう」といわれることがあります。しかし、地方の産業、とくに1次産業にAIやIoTを導入してデジタルトランスフォーメーションを起こそうという動きは、まだまだ少ないのが現実です。だからこそ、地方を基盤としている私たちが取り組む価値があると考えています。
浦壁氏 : あわせて、1次産業側からの応募もお待ちしています。農業や漁業、林業などの各ドメインにおいて、業界知識に精通しているような企業様です。そのような企業が抱えている問題や課題を私たちと共有していただき、テック系スタートアップなどと結びつけることで、産業活性化の実現ができればと思います。
下條氏 : 2人の話とは少し別の観点からいうと、シーズベースでいろいろなアイデアを持っていて、そのシーズによって、地域の問題解決をサポートしたい企業様も求めています。
繰り返しになりますが、私たちはNTT東日本において事業の第3の柱を作り、地域社会の未来を創ることを目指しています。つまり、単なる効率化やコスト削減のためだけのデジタル化推進ではありません。
「ModeⅠ、ModeⅡ」という概念が提唱されていますが、当社の中でコスト削減・効率化の「ModeⅠ」ではなく、ビジネス革新の「ModeⅡ」を実現する組織が、私たちデジタルデザイン部です。そのためには、お客様のニーズに応えることだけではなく、どこにニーズがあるのかまだはっきりとはわからないようなシーズを集めて、育てていくことが重要だと考えています。
先端的なアイデアや技術シーズを持ち、それを地域社会活性化、地方創生のビジョンに活かしたい企業様から、たくさんお声を掛けていただけると嬉しいですね。
東日本全域に張り巡られたネットワークなど、提供できるアセットは豊富
――2019年7月に新事業部が立ち上がって以降、実際に取り組まれた共創事例があれば教えてください。
下條氏 : ひとつは、NTTアグリテクノロジーという農業の会社を立ち上げ、農業の6次産業化を目指し、そのシステム作りの技術的な支援をしていることが挙げられます。そしてもうひとつ、10月24日にリリースを出したばかりですが、レーダー衛星のデータを活用した地域支援への取り組みをはじめました(※)。
宇宙とAIを掛け合わせた取り組みで、簡単にいうと、衛星から送信されるレーダーのデータをAIで解析して、日本各地の状況を把握するというものです。私も先日知ったのですが、日本全国を平均すると6割は曇っているらしいのです。曇りだと、衛星写真では地表の様子はわかりません。
ところが、レーダーなら曇っていてもその下の地表の様子がある程度わかります。そこで、農作物の生育状況を確認したり、台風による河川災害などに際して被害の様子を把握したり、復興支援に役立てたりといった活用が考えられます。あるいは、全国で増加している空き地の利活用などにも使えるかもしれません。
今後は、各地の企業をはじめ、地方自治体、大学などとも連携を取りながら宇宙ビジネスのエコシステムも作っていければと思っています。
※ニュースリリース:衛星データを活用した安心安全な地域社会、地域産業活性化への取り組みについて
――次に、パートナー企業に対して、御社の方から提供できるアセットやリソースにはどんなものがあるのかを教えてください。
浦壁氏 : 先ほども申し上げた地方に張り巡らされ地場に根付いた営業ネットワークと、そこから生み出される強固な顧客基盤があります。地方ではとくに、「NTTブランド」への信頼感は強く、「NTTさんからなら安心して買える」といってくださるお客様が、まだまだたくさんいます。まだ立ち上げ期で、ブランド力や信用力が弱いという企業様であれば、それを補完できるでしょう。
下條氏 : 弊社には地方自治体とも広くつながりがあります。新たにパートナーになっていただく企業様にも、私たちが持つ既存のパートナー基盤を使っていただき、つなぎ合わせることで、さまざまな価値創造が可能になります。ごく簡単な例でいえば、AIベンチャーにIoT企業を結びつけることで、希少性が高いデータをAIに解析させ、何かを生み出すといったことです。
山内氏 : さらに付け加えると、東日本各地にある支店や収容局、通信回線、また567万本ある電柱といったインフラも、他の企業ではあまりないレベルのアセットとして活用いただけます。
新たなNTT文化を生み出す、「デジタルデザイン部」
――今回の「NTT EAST DIGITAL DESIGN PROJECT」を通して、どれくらいのペースで共創事例を作っていきたいかといったKPIや数値目標は、設定なさっているでしょうか。
下條氏 : 部の設立当初、KPIや数値目標はあえて定めませんでした。それらがあると、どうしてもその数字に引っぱられて、内実がおろそかになる可能性があるためです。ただ、考え方として「NTT初」のビジネスをどんどん生んでいきたいと思っています。
――御社ほどの規模の企業と共創した場合、新しいことをはじめる意志決定プロセスや実行プロセスに時間がかかるのではという懸念を持つパートナー企業がいるかもしれません。その点はいかがでしょうか。
下條氏 : これまでのNTT東日本という会社全体でいえば、正直、そういう面はありました。それは、企業の大きさのためでもありますし、通信ネットワークという社会インフラを支える会社であるがゆえに、さまざまなことを慎重に確認する文化が根付いているためでもあります。
しかし、私たちのデジタルデザイン部は、そういった文化を取り入れつつも、効率よくスピーディーに動けるような新しい運用体制を模索しながら業務を進めています。たとえば、先にお話しした衛星データ活用のリリースも、これまでの当社であれば、おそらく数ヶ月はかかっていたかもしれません。しかし、今回は他部署と密に連携しながら短期間でリリースまでこぎつけることができました。
今後は、私たちデジタルデザイン部が率先してそうした動きを作り、他の部署にも拡げていくことで、NTT東日本全体を変えていきたいと思っています。
――最後に、応募を考えているスタートアップへのメッセージをお願いします。
浦壁氏 : 当社は大企業ではありますが、規模の大小には拘らずに対等な立場で手を組んで、一緒に新しい価値を創りたいという、ある意味前のめりなマインドを持った方を歓迎します。
山内氏 : 私たちは会社の中で、「NTT東日本っぽくないね」とよくいわれています。技術に精通して新しいことが好きな、安定よりもブレイクスルーを求めるメンバーが集まっているためです。
だから、パートナー企業の方には、「NTT東日本と組みたい」ということでもいいのですが、できれば「デジタルデザイン部のあなたたちと組みたい」といっていただけると嬉しいですね。そして、日本の地域社会を元気にするため、一緒に知恵を絞って汗をかいていきましょう。
取材後記
「デジタルトランスフォーメーション」、「AI」、「IoT」という言葉自体、どこか最先端のイメージが想起される言葉である。しかし、今回の取材の中では、地方の現場やそこで働く人たちについて、何度も触れられた。下條氏は「各地の現場で10年、20年と根付いて営業や保守をしている社員こそが、本当にNTT東日本を支えている人たち」と語ったが、そこに、通信ネットワークという社会に不可欠なインフラを支えている企業である自負と、だからこそ地域を活性化していかなければならないという使命感が見て取れた。
その基盤があるからこそ、同社が掲げる地域産業のイノベーションも、単なるお題目ではない、地に足のついたビジョンだと感じられる。多くの共創パートナーを得て、どのようにビジョン実現を推進していくのか。今後も注目していきたい。
▼「NTT EAST DIGITAL DESIGN PROJECT」の詳細はこちらから
(編集:眞田幸剛、取材・文:椎原よしき、撮影:古林洋平)