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アサヒビールのOIプロジェクト「AXS」が目指す新たな地平線――スピーディーな共創体制で誕生したビアカクテルとは?

アサヒビールのOIプロジェクト「AXS」が目指す新たな地平線――スピーディーな共創体制で誕生したビアカクテルとは?

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1889年の創業から130年を超えるビール業界の雄が、オープンイノベーションを加速させている。

業界大手のアサヒビール株式会社(以下、アサヒビール)は、2019年1月に経営全般、とりわけマーケティング分野における革新を企図し、社内横断型の組織である「事業推進室」を創設。経営企画、マーケティング、研究開発、生産、営業の各本部から中堅社員をメンバーとして迎え、「WeWork」にサテライトオフィスを設置するなど、既存の枠組みに捉われない試みで新価値の創造、新市場の創出に取り組んでいる。

そして、2019年8月にはオープンイノベーションプロジェクト「AXS」(アクロス:ASAHI CROSS PROJECTs)を始動。eiiconと協業する今回は「ミレニアル世代に向けた新たな顧客接点の創出」と「今までの飲み方に留まらないそれぞれの楽しみ方」という二つのテーマをもとに多様なパートナーとの共創を目指している(詳細はこちら)。

今回、アサヒビールのオープンイノベーションについて、事業推進室の三橋氏と濱田氏にインタビューを実施。業界で確固たる地位を築く同社が、外部企業との共創に取り組む理由や背景について伺った。

さらに記事の後半では、大日本印刷株式会社(以下、DNP)、FULLLIFE株式会社(以下、フルライフ)との3社により開発された新感覚のビアカクテル「BEER DROPS」について、プロジェクトに携わったメンバーに語り合ってもらい、実際の共創の過程に迫った。(取材はオンラインで実施)

■アサヒビール株式会社 マーケティング本部 事業推進室室長 三橋憲太氏

2000年、アサヒビール株式会社に入社し、業務用営業、広報などを経験。その後、内閣府出向を経て、経営企画部に配属。経営計画、年次計画等の策定に携わった後、2019年1月よりマーケティング本部事業推進室の所属となる。2020年1月、同室室長に就任。

■アサヒビール株式会社 マーケティング本部 事業推進室担当副部長 濱田美晴氏

2019年4月、マーケティング本部事業推進室を管轄する松山一雄専務取締役の要請により、同室にジョイン。新規事業開発、デジタル・マーケティングの知見を生かし、同室における外部企業とのコラボレーション企画の策定を主導している。

テーマは「ミレニアル世代」と「新しい顧客体験」 

――アサヒビールがオープンイノベーションに取り組む背景について教えてください。

アサヒ・三橋氏 : アサヒビールは現在、長期経営方針として「“Value経営”への変革、お客様にとっての価値や新市場の創造を目指す」を掲げています。

価値観が多様化し、消費のスタイルが所有に価値を見出す「モノ消費」から、顧客体験に価値を見出す「コト消費」に遷移するなかで、世の中のお酒に対する価値観も大きく変わりつつあります。従来のような画一的な飲用スタイル・飲用シーンだけでなく、お客様一人ひとりが個性的にお酒を楽しむ時代が到来しています。

そうした社会構造の変化や、新型コロナウイルスの感染拡大に代表される外部環境の変化に対応するためにも、アサヒビールは全社を挙げて、新たな発想で価値を創造するバリュー経営に取り組んでいます。

しかし、「新たな発想で」といっても、既存の枠を飛び越えて新境地を切り開くのはそう簡単なことではありません。そこで私たち事業推進室は、外部企業の発想や視点を取り入れることで、新たな価値の創造を実現したいと考えています。

――2019年8月から、事業推進室はオープンイノベーションプロジェクト「AXS」を手掛けていらっしゃいます。このプロジェクトでは、具体的にどのような共創を目指しているのでしょうか。

アサヒ・三橋氏 : 「AXS」では現在二つのテーマを設定しています。一つ目は「ミレニアル世代に向けた新たな顧客接点の創出」です。先ほども述べた通り、社会の価値観が多様化するなかで、お酒の種類や楽しみ方は幅が広がりました。

それ自体は好ましいことですが、その一方で、若い世代にとっては「お酒を飲む理由」が見出しにくい状況も生まれています。「AXS」では、そうした若い世代に対してお酒の楽しみ方を伝えられるような顧客接点の創出を目指しています。

アサヒ・濱田氏 : 二つ目のテーマが「今までの飲み方に留まらないそれぞれの楽しみ方」です。このテーマでは、誰もが好きなスタイルでお酒を楽しめる、新たな飲み方・場所・空間・商品ビジュアル等をお客様にご提案して、ワクワクするような顧客体験を創出したいと考えています。

したがって共創のフィールドは広範囲に渡ると見込んでいます。新商品の開発、テクノロジーの活用、イベント開催等、新しく楽しい顧客体験を生むものであれば、どんなアイデアでもご提案していただきたいです。

「生産工場」「実証フィールド」「マーケノウハウ」が提供可能

――パートナーとなる企業に提供できるアセットについて教えてください。

アサヒ・三橋氏 : 案件ごとに内容は異なりますが、アサヒグループのリソースを生かした、規模の大きなアセット提供が可能です。

協同開発等当社が保有する技術やノウハウの提供、グループ直営の飲食店や顧客基盤を生かした実証フィールド、新商品やサービス開発プロセスにおける各種調査の設計・実行・分析といったマーケティングノウハウなど、私たち事業推進室がリードして、各部門との連携を推進していきます。

アサヒ・濱田氏 : 昨年、パナソニックと共創したエコカップ「森のタンブラー」の開発の際には、カップ自体の設計やビールの泡のきめ細かさの測定、全国のイベント会場での実証等のアセットをご提供しました。

特にイベントでの実証は、外部の企業・行政・消費者団体の協力を仰いで、「GAMBA EXPO 2019」「B-1グランプリin明石」「つくばクラフトビアフェスト2019」といった全国のアウトドアイベントで累計1万個のカップを展開するなど、非常に規模の大きな取り組みを実現することができました。

▲有機資源から生まれた「森のタンブラー」

オリジナル印刷やレーザー加工で自分専用にカスタマイズでき、外でも家でも使えるマイカップ、という新たな提案。ビールやコーヒーなど様々な用途で使用でき、国内110億個の使い捨てカップ削減を目指している。環境配慮だけにとどまらず、「よりきめ細かい泡・原料の風合いや香りを楽しめる」、という新たな顧客体験を生み出した。

アサヒ・三橋氏 : アサヒビールは、日本初の辛口ビール「アサヒスーパードライ」の発売や日本初の缶ビール発売など、様々な「初」を実現してきました。そのため社内にもチャレンジングなDNAが脈々と受け継がれています。今回の「AXS」でも、外部企業のお知恵を借りながら、他に類を見ない共創に挑戦したいと考えています。

【座談会】アサヒ×DNP×フルライフが開発した新感覚ビアカクテル

事業推進室の三橋氏・濱田氏のインタビューに続き、アサヒビールがDNP、フルライフと共創した新感覚のビアカクテル「BEER DROPS」の開発メンバーも交えて、実際のプロジェクトの様子について伺った。「BEER DROPS」は、企画からリリースまでの期間が約6ヶ月間と、驚異的な速度で開発された新しい飲み方提案。目くるめくスピードで展開された共創の内幕が明らかになった。

※アサヒビールからは営業部の内崎亜希子氏・松生まゆ子氏の2名、DNPからは情報イノベーション事業部 ビジネスデザイン本部の松嶋亮平氏・小泉恭平氏が座談会に加わった。

――2019年12月、新感覚ビアカクテル「BEER DROPS」がリリースされました。「BEER DROPS」は溶けにくい果汁氷(以下、アイスボーール)をビールに入れて飲むことで、冷たさを保ったまま果物のフレーバーを楽しむことができるビアカクテルで、リリース直後から地上波テレビ番組や大手新聞で取り上げられるなど、高い注目を集めています。その開発の発端は一体どのようなものだったのでしょうか。

アサヒ・三橋氏 : 事業推進室が設立されて以来、私たちはWeWorkに入居するなど、様々な外部企業との接点を求めていました。その一環として、2019年5月末に、とあるピッチイベントに登壇することになりました。そのイベント後に、DNPの小泉さんからお声がけいただいたのが「BEER DROPS」の発端ですね。

▲「BEER DROPS」は溶けにくい「アイスボーール」入りで、徐々に味が変化するフルーティなビアカクテル。

DNP・小泉氏 : DNPはもともと、「BEER DROPS」で使用されている溶けにくい氷の技術を保有するフルライフと、共創プロジェクトを推進していました。そのプロジェクトのなかで「この氷をお酒に入れて提供してはどうか」というアイデアが持ち上がり、お酒のメーカーとのコラボレーションを模索していました。

そのタイミングで三橋さんたち事業推進室が登壇されるピッチイベントに参加しました。「新規事業に取り組まれているこの方たちに是非アイスボーールの話を聞いていただきたい!」と思い、名刺を持ってすぐに挨拶に伺いました。

▲大日本印刷株式会社 情報イノベーション事業部 ビジネスデザイン本部 第1部マーケティンググループ 小泉恭平氏

――事業推進室が、DNPとフルライフとの3社による共創に取り組もうと思った理由はなんでしょうか。

アサヒ・濱田氏 : もちろん最初に試飲させていただいた試作品がおいしかったというのもありますが、社内の人間だけでは「BEER DROPS」のアイデアには辿りつかないだろうなと思ったのが理由ですね。

アサヒビールは、そもそもビールを中心とした会社なので、社内には「ビール大好き!」という社員が多いです。しかし、これまで接点を持ちにくかったミレニアル世代等をターゲットにする場合、ビールになじみのない人の立場に立った発想が必要になります。その点で「BEER DROPS」には魅力を感じました。

アサヒ・三橋氏 : さらに、役員から好感触を得られたというのも大きかったです。5月末に小泉さんからの提案を受けてから、翌月の6月に数度の打ち合わせをして、7月初旬に役員を招いた試飲会を開催しました。そこで事業推進室を統括する松山(アサヒビール専務取締役)から「面白いね」というリアクションがあり、開発を本格化させることになりました。

――最初の提案から約1ヶ月で、役員を動かすことができたのは驚きです。

アサヒ・三橋氏 : はい、そのスピード感が事業推進室という組織の特性かもしれません。私たちは役員に意見を伺いながら、比較的アジャイルにプロジェクトを進めていくことが可能です。共創に取り組むうえで、このスピード感は大きな武器になっていると思います。


アサヒビールの脅威のスピードと推進力=共創力

――その後の開発はどういったスケジュールで進んでいったのでしょうか。

アサヒ・三橋氏 : 7月中は、内崎と松生がDNPさんとディスカッションしながら、具体的なレシピや提供方法の開発に取り組みました。

アサヒ・松生氏 : 私と内崎は営業本部でドリンク開発を担当しているのですが、たまたまの私が試飲会に参加させていただいたのがきっかけで、「BEER DROPS」のプロジェクトに参加することになりました。

▲アサヒビール株式会社 営業本部 営業部 松生まゆ子氏

アサヒ・内崎氏 : 私たちはちょうどそのころ、女性ならではの視点でビールの需要創造を目的とする「女子ビール部」という社内有志グループを創設したばかりでした。

「BEER DROPS」は、味はもちろんビジュアルもすごく可愛くて、女性から支持される要素を備えていたので、「これは私たちがやるべきだ!」と確信しました。ですので、夢中になって開発に取り組みました。何種類もあるフレーバーの中から、味を組み合わせて、現在のかたちに少しずつ近づけていきました。

▲アサヒビール株式会社 営業本部 営業部 内崎亜希子氏

アサヒ・松生氏 : あと「BEER DROPS」のターゲットペルソナも、私たちで設計しました。「青山の大手商社で働く、役員秘書のイシカワミホちゃん」というペルソナなんですが(笑)、とても詳細に設計することができて、個人的にも満足のいく出来になっています。

アサヒ・内崎氏 : そして8月からは、グループ企業であるアサヒフードクリエイトの直営飲食店2店舗と、取引先の飲食店2店舗でテストマーケティングを実施しました。ここではペルソナの検証だけでなく、売上データや販促企画の面からも、手応えを感じる結果を得ることができました。

DNP・松嶋氏 : アサヒビールさんからフィードバックいただいたデータは「BEER DROPS」を作り上げていくうえで非常に貴重だったと思います。また、そのデータに対する考察や分析もとても詳細で、共創に対する本気度がひしひしと伝わってきました。アサヒビールさんの推進力やスピード感にも驚きながら、こちらも可能な限りの協力体制を築いて、取り組みを推進していきましたね。

▲大日本印刷株式会社 情報イノベーション事業部 ビジネスデザイン本部 第1部マーケティンググループ リーダー 松嶋亮平氏

――そうした一連の過程を経て、2019年12月に「BEER DROPS」は完成、リリースされました。企画からリリースまで約6ヶ月間という短期間で市場への提案開始となりました。最後に、今回の共創がスピーディーに推進できた要因は、何だったと思われますか。

アサヒ・三橋氏 : やはり、3社とも「新しいことをやろう」という意識を共有しながら、役割を分担して共創に取り組んだ点だと思います。お互いの強みを発揮し合って、開発にかかる時間を大幅に短縮できるのが、オープンイノベーションのメリットの一つだと思います。ですから、これからパートナーとなる外部企業の方とも、ビジョンやプロダクトへの想いなどを共有しながら、共創に取り組んでいきたいと思っています。

取材後記

「実は、試飲会では厳しい評価も沢山ありました」と、アサヒビール三橋氏は振り返る。――アサヒビールといえば業界におけるガリバー的存在。自社のビールに対するこだわりや誇りも強い。そのビールの味を変化させる「BEER DROPS」に抵抗を感じる社員がいても不思議ではないだろう。

しかし、そうした逆風を受けても尚、共創が進められたのは、アサヒビールのオープンイノベーションが「新価値の創造、新市場の創出」をミッションにしていたからだ。既存の枠組みからは生まれない新しい”何か”を目指していたからこそ、「BEER DROPS」は完成した。

そして、そうした姿勢は今後も維持されるという。次に生まれる、新しい“何か”とは?ワクワク感に胸が膨らむ取材となった。

▼オープンイノベーションプロジェクト「AXS」の詳細はこちら

(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太)

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