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秋葉原の歩車混在を最大37%削減!――千代田区×Singular Perturbationsがキングサーモンプロジェクトで挑んだAI警備の「配置最適化」の効果とは

秋葉原の歩車混在を最大37%削減!――千代田区×Singular Perturbationsがキングサーモンプロジェクトで挑んだAI警備の「配置最適化」の効果とは

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都政課題とスタートアップとのマッチングを通じて、都政現場の課題解決と、スタートアップによる実証実験や販路拡大に向けた戦略立案を支援する「キングサーモンプロジェクト」(東京都主催)。これまで5期にわたり計22件のプロジェクトが採択され、都政現場をフィールドに実証実験に取り組んでいる。

東京を出発点に、世界に名を轟かせるユニコーン企業へと成長し、ゆくゆくは東京で後進のスタートアップを育成する存在となる「キングサーモン」企業の輩出を目指す本プロジェクト。どのような企業が、どのようなパートナーと協業して、事業開発に取り組んでいるのだろうか。そこでTOMORUBAでは、第6期に採択された株式会社Singular Perturbationsと千代田区の取り組みを紹介していく。

――日本が世界に誇るサブカルチャーの発信基地・秋葉原。近年はインバウンドの人気エリアでもあり、平日休日、昼夜を問わず、絶え間ないにぎわいを見せている。国際色豊かで多様な人々が入り混じる、まさに「カオス」な光景は世界中の人々を惹きつけてやまない。

しかし、溢れんばかりの活気は負の側面も少なからず生み出す。混雑やゴミの放置、交通トラブル、公共設備の損壊など…。秩序の乱れは、まちの魅力そのものを損ないかねない。にぎわいを保ちながらも安心・安全な環境を築く方策が、今、秋葉原には求められている。

今回「キングサーモンプロジェクト」に採択されたSingular Perturbationsは、犯罪・事故予測AI「CRIME NABI」を提供するスタートアップ。同社が千代田区などと協働して実施したのは「AI警備」の実証実験だ。AIは「まちの安心・安全」にどのように貢献するのか。そして、本実験を通じて描かれた「秋葉原の未来」とは。プロジェクトの当事者である3名に話を聞いた。

<取材対象者>

【左】千代田区 地域振興部 部長 印出井 一美 氏

【中】株式会社Singular Perturbations 代表取締役CEO 梶田 真美 氏

【右】秋葉原タウンマネジメント株式会社 専務取締役 加茂 義哉 氏

まちの魅力を損なう「雑踏以上犯罪未満」を減らすには

――本日はSingular Perturbations(シンギュラーパータベーションズ。以下、シンギュラー)、千代田区、秋葉原タウンマネジメント(以下、TMO)の3者で協働実施した実証実験について伺います。はじめにシンギュラーの事業概要をお聞かせください。

シンギュラー・梶田氏 : 当社は犯罪・事故予測AI「CRIME NABI」を国内外の警察組織や政府機関に提供しています。CRIME NABIは、過去の犯罪データ、人流データ、地理情報などをAIで分析し、犯罪の発生予測や警備の最適化などを行うソリューションです。犯罪(CRIME)を預言者(NABI)のように予測し、犯罪や事故の抑止を目的に開発しました。

これまでCRIME NABIは世界14の政府機関に提供され、ブラジル第2の州であるミナスジェライス州の警察組織への導入では、犯罪発生数の68%減という実績を挙げています。CRIME NABIが提示する配置やルートに基づいて警察官が警備活動に従事することで、犯罪抑止効果が最大化されます。

――東京都がスタートアップと都政課題をマッチングして事業開発を支援する「キングサーモンプロジェクト」に参画した理由は何だったのでしょうか。

シンギュラー・梶田氏 : CRIME NABIのアルゴリズムは、AIカメラと連動すれば、公道における混在解消や交通事故リスクを軽減する「雑踏警備」にも活用可能です。スポーツ大会やお祭りなど、大規模イベントにおける雑踏警備のニーズは世界中に存在するため、さらなる事業拡大に向けて、実用性を検証したいと以前から考えていました。そうしたなかで、行政と連携できるキングサーモンプロジェクトに可能性を感じました。

▲実際の犯罪発生マップ(左)に対して、従来手法(中央)だと不鮮明な予測しかできないのに対して、Crime Nabi(右)を使うと、高精度・高解像度な予測が可能となる。(画像出典:Singular Perturbations HP

――今回、シンギュラーと連携した千代田区とTMOは、秋葉原のまちにどのような課題を抱えていたのでしょうか。

千代田区・印出井氏 : よく知られる通り、秋葉原は日本が世界に誇る文化の発信基地であり、世界的に著名な都市観光地です。コロナ禍で賑わいが大きく落ち込みましが、その後、インバウンドは急速に回復し、最近では昼夜を問わず活況を呈しています。

しかし、その背後では見過ごせない課題も噴出していました。その一つが「雑踏以上犯罪未満」のリスクの増加です。秋葉原のまちの魅力は、何と言ってもカオス的な空間に宿る活気です。電気のパーツ店や多様な趣味の店が集積し、まちの個性を築いています。毎週日曜日に中央通りで展開される歩行者天国は、そうした自由さの象徴とも言えます。

ただし、自由さは秩序の乱れや逸脱とも背中合わせです。昨今、秋葉原のまちではごみのポイ捨てや公共設備へのステッカー貼りなどの「ヴァンダリズム」がしばしば見られるようになりました。日本は諸外国に比べて屋外での飲酒に対する規制が厳しくないため、インバウンドによる「路上飲み」も増えつつあります。また、とりわけ、ラジオ会館前では歩車分離が曖昧になっており、事故のリスクも高まっています。

こうした「雑踏以上犯罪未満」のリスクが積み重なれば、急速な治安の悪化や秩序の崩壊を招くおそれがあります。そのティッピングポイント(臨界点)を超える前に、「カオス」と「安心・安全」が両立するまちの仕組みを築きたいというのが行政としての課題でした。

TMO・加茂氏 : 私たち秋葉原タウンマネジメント株式会社は、秋葉原のまちの活性化と持続的な発展を目指し、まちづくりやその推進のためのコミュニティ形成を手がけています。その一環として、昨年3月に策定したのが「秋葉原ウォーカブルビジョン」です。秋葉原を居心地のよい空間にするためには、回遊性に優れた、「歩いて楽しいまち」をつくらなければいけません。

先ほど、印出井様がお話されたように、昨今秋葉原ではインバウンド客の急増などを受け、歩道や公道上でのスムーズな回遊性が損なわれ、時に、雑踏での人身事故や車両との接触による交通事故のリスクが高まっており、ウォーカブルを支える「安心・安全」が揺らぎ始めています。 特に、初めて秋葉原を訪れるインバウンドの方が、見知らぬ土地で交通ルールを守る(車道・歩行者専用道など)のは現実的に困難です。

一方、公道上に警備員を配置して交通整理を実施すれば、歩行者と通行車両との錯綜による事故は避けられますが、コスト面での負担が重すぎます。そのため、最小のリソースで公道上の歩車分離を推進できる手段を求めていました。

AIカメラとの連携により、歩行者の車道通行を37%減

――そうした課題のもと、今回の3者のマッチングが成立したわけですね。では、具体的にどのような実証実験を実施したのか教えてください。

シンギュラー・梶田氏 : 実証実験では、JR秋葉原駅前のラジオ会館前通りにAIカメラを9台設置し、CRIME NABIと連携して1mメッシュごとの人流及び車両の流れを1秒単位で約1ヶ月間解析しました。

さらに、そのデータをもとに策定した警備計画で10日間の雑踏警備を実施。具体的には、CRIME NABIが指定するラジオ会館前のポイントに警備員を常時1名配置して、プラカードや声かけによる歩行者への交通整理を行いました。

TMO・加茂氏 : ラジオ会館前を実証のフィールドに選んだのは、秋葉原地区のメインストリートである中央通りに抜ける通りであると同時に、歩道・車道分離だけでなく車道には荷さばき用の駐車スペースが設けられていることから、「実証実験の場には最適」と考えたからです。

本来であれば、人は歩道を、車は車道を通行するべきですが、ここでは日常的に歩行者天国状態となり、かつ荷捌きのトラックなども頻繁に流入することからデータが取りやすく、かつ実験結果の評価(歩道・車道通行率)も得やすいことで推薦しました。

▲実証フィールドとなった秋葉原駅近くのラジオ会館前。昼夜問わず、多くの人が行き交う。(画像:Pixabay)

――実証実験の結果、どのような効果が得られたのでしょうか。

シンギュラー・梶田氏 : 実証実験の結果、CRIME NABIが策定した警備計画の実施により、同一人数の警備体制において、歩車の混在を最大37%削減できました。特に夕方時間帯において顕著な減少が確認されました。この結果は、警備員の配置を最適化することにより、従来の経験則に依存しない形で警備効果を高められる可能性を示唆するものと考えています。

――印出井さんと加茂さんは、この実証結果をどのように評価されていますか。

千代田区・印出井氏 : 手応えは十分です。CRIME NABIの活用により、歩車分離や混雑による事故のリスクはかなり減らせるのではないかと思っています。

また、それ以上に期待しているのが、CRIME NABIの横展開です。今回の実証実験では雑踏警備に焦点を絞っていますが、今後、この技術が街頭における異常行動の検知や行政によるパトロールルートの最適化にも活用できるかもしれません。千代田区が課題としていた「雑踏以上犯罪未満」を解消できるのではないかと期待しています。

TMO・加茂氏 : 私も印出井様と同様に、CRIME NABIには可能性を感じています。先ほどもお話しましたが、雑踏警備のボトルネックは、警備員を配置するためのコストです。しかし、CRIME NABIが適切に実装されれば、最小限のリソースで最大の警備効果を得ることも可能でしょう。

さらに、AIカメラの技術進化による「警備の自動化」にも期待しています。昨今、カメラやセンサーなどに搭載されたAIがデータ処理を行う「AIエッジ」に注目が集まっています。AIエッジとCRIME NABIが融合すれば、公道上における異常行動を即座に感知して、自動音声で歩行者に警告することも可能になるかもしれません。それが実現すれば、極めて低いコストで、秋葉原の安心・安全を維持できるはずです。

▲AIカメラとCRIME NABIを連携。ラジオ会館前の人流及び車両の流れを解析した。

今後は先端デバイスと連携を模索。プロダクトの進化を加速させる

――今回の実証実験を経て、梶田さんは、どのような手応えが得られましたか。

シンギュラー・梶田氏 : まず、CRIME NABIが雑踏警備においても効果を発揮することが検証できたのが大きな成果です。ラジオ会館前の人流や車両の流れを解析することで、雑踏が不安定化する条件やポイントを検出できました。これはCRIME NABIの機能を拡張していくうえで極めて有用です。今後は、今回の実証実験を糧に、大規模イベントの警備などにもCRIME NABIを導入したいと思っています。

――今回の実証実験を振り返って、キングサーモンプロジェクトへの参画にどのようなメリットを感じていますか。

シンギュラー・梶田氏 : もともと当社は海外で事業を展開していますが、今回の参画を通じて、グローバル事業をさらに加速できると考えています。AIカメラとCRIME NABIを連携した警備ソリューションは海外でもニーズが高いはずですし、ドローンなどのデバイスと組み合わせればユースケースはさらに広がるはずです。海外事業の拡大にきっかけを与えてくれた点でキングサーモンプロジェクトには十分なメリットがありました。

また同時に、実証実験にあたってコーディネート役を務めてくれたeiiconにも感謝しています。千代田区とのマッチングではきめ細やかなサポートをしてくださったのはもちろん、プロジェクトのスタートからゴールまでに責任を持って伴走してくれました。キングサーモンプロジェクトにおいて欠かすことのできない存在だと思います。

――一方で、シンギュラーと協働したお二人はキングサーモンプロジェクトのメリットは何だと思われますか。

千代田区・印出井氏 : スタートアップとの連携は、社会課題の解決に有効だと感じました。特に、公道における課題は、通りやエリアによって役所の所管部門が異なることが多いです。そのため、どの部門が課題解決を主導すればよいか難しい面があります。しかし、スタートアップが課題解決の起点となる場合、私たちも部門間で連携がしやすく、取り組みも前進しやすいです。一つの部門だけで解決しにくい課題に取り組む際には、スタートアップとの連携が有効だと思います。

TMO・加茂氏 : スタートアップ企業が持つ先端的な技術やビジネスモデルを活用できるのも利点です。まちにはさまざまなステークホルダーが存在します。まちで顕在化した課題解決にのぞむ際には、いろいろな立場の皆様と連携し、時には利害関係を調整しなければなりません。

その際、今回のAI警備のような最新のデジタル技術は、ステークホルダー同士を連携させるとともに、「先ずはやってみよう」ということで取り組みに関心を持ちやすく、協力を仰ぎやすいと思います。まちが一体となって課題解決にのぞむためにも、スタートアップとの連携は効果的です。

――それでは最後に、梶田さんからキングサーモンプロジェクトへの参画を検討している企業にメッセージをお願いします。

シンギュラー・梶田氏 : 私たちスタートアップがよく直面する問題の一つに「社会課題へのアクセスの壁」があります。社会課題が存在することは分かっていても、どのように課題の当事者にアクセスし、実証実験や技術実装を行えばよいか分からないという状況にスタートアップはしばしば陥ります。

その意味で、キングサーモンプロジェクトは極めて貴重な機会だと思います。行政組織と直接連携でき、まちや施設を実証フィールドとして活用できる機会は他に代え難いです。社会課題解決を掲げるスタートアップには、ぜひ参画をおすすめしたいと思っています。

取材後記

本取材はJR秋葉原駅からほど近い千代田区の万世橋出張所で実施した。その日も周辺は平日の昼間ながらたくさんの人が行き交い、秋葉原ならではの活気に満ちていた。カルチャーやコンテンツが巨大産業となった今、秋葉原は国の経済基盤を支える主要拠点と言っても過言ではない。そのまちの魅力をいかに維持するのかは、社会的な重要課題に他ならないだろう。

AI警備による「まちの魅力向上」に取り組んだ本事例は、「グローバル市場を席巻する課題解決型のスタートアップ企業の輩出」を目指すキングサーモンプロジェクトの理念を体現する取り組みだ。こうした事例に次ぐ、新たな挑戦にのぞむスタートアップの参画に期待したい。

(編集:眞田幸剛、文:島袋龍太、撮影:前手秀紀)

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  • 眞田幸剛

    眞田幸剛

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キングサーモンプロジェクト

東京都が推進する「キングサーモンプロジェクト」は、スタートアップの革新的なアイデア・ソリューションを活かしつつ都内行政現場の抱える社会課題の解決を行い、またスタートアップのプロダクト・サービスの普及拡大を図り、都内行政現場との協働・導入をきっかけに、スタートアップが世界を席巻する企業へと大きく成長し、後続するスタートアップのロールモデルとなるような「キングサーモン企業」の輩出につなげることを目指すプロジェクトです。eiiconは東京都の協定事業者に採択され、2024年度より2年間協働促進サポーターとして支援を行っています。