物流領域の課題に挑む共創型クラスター「TLCC」が始動!物流事業者8社が語った「共創で実現したい未来」とは?――『TLCC MATCHING DAY #01』レポート
物流は今、構造転換の入口に立っている。人口減少、人手不足、脱炭素、複雑化するサプライチェーン——単独企業では解決しきれない課題が顕在化し、大手企業が「実装前提」でスタートアップとの共創に踏み出している。その起点となる「Tokyo Logistics Co-Creation Cluster(以下、TLCC)」のイベント「MATCHING DAY #01(リバースピッチ+交流会)」が2月24日、Incubation CANVAS TOKYOで開催された。
“物流大手企業が本気で語る「今、共創で実現したい未来」”と題した同イベントは、物流領域における新たな価値創造と課題解決の実現に向けて、物流事業者、投資機関、スタートアップによるネットワーク形成を図り、具体的な連携や共創のきっかけを創出することを目的としている。
イベントでは、物流事業者やCVCなど8社(ロジスティード、MOL PLUS、飯野海運、KDDI、芙蓉総合リース、マーキュリアインベストメント、BIPROGY/キャナルベンチャーズ、日本郵政キャピタル ※登壇順)がリバースピッチを繰り広げ、参加したスタートアップや新規事業担当者たち約60人が熱心に耳を傾けた。――本記事では、イベントの模様をレポートする。
東京都「TIB CATAPULT」から組成された「TLCC」とは――物流の課題解決に挑む企業が集結
TLCCは、東京都の令和7年度「TIB CATAPULT(グローバルイノベーションに挑戦するクラスター創成事業)」に基づき組成された。代表事業者/事務局はeiiconが担い、物流事業者(セイノーホールディングス、佐川急便、三菱倉庫)と投資機関(Spiral Innovation Partners)が構成企業として参画している。
TLCCが掲げているのは物流領域が抱える産業の課題解決、新たな価値創出を望むことのできる「社会実装」であり、単なるマッチングにとどまらない点が大きな特徴だ。実証実験の支援や伴走体制を制度設計に組み込み、PoC止まりを回避する仕組みを持つ。主要物流企業や投資機関と連携して業界の未来を切り拓き、人々の暮らしを支える物流のデファクトスタンダード創出を目指している。
▲TLCCでは、『スタートアップ募集プログラム』、『社会実装プログラム』、『特定テーマ募集プログラム「サーキュラーエコノミー」』の3つのプログラムを常時募集している。
イベントの冒頭、東京都 スタートアップ戦略推進本部の阿部圭悟氏が挨拶。物流業界が市民の暮らしに密接に寄り添う重要なインフラであることに触れながら、「物流分野はイノベーションが切実に求められている。スタートアップなどとの協働で新たな価値を生み出し、問題の解決と業界の発展を後押ししたい」と述べ、連携によるイノベーション創出の重要性を訴えた。
▲東京都 スタートアップ戦略推進本部 阿部圭悟氏
また、当日の進行を務めた株式会社eiiconの松橋寛伸氏は「社会実装まで一緒に進め上げるプロジェクトを推進したい」と力を込めた。以下に、物流大手企業や投資機関などが「今、共創で実現したい未来」を熱く語った、8社のリバースピッチの模様を登壇順にお届けする。
【ロジスティード株式会社】 物流DXの最適化へ。エンジニアリング×スタートアップで描く次世代物流
同社は1950年に創業し、先進的なロジスティクスエンジニアリング力で自動化やDXを推進している。調達から販売までサプライチェーン全体を包括的にカバーし、全体戦略のコンサルティングから現場のオペレーション構築までワンストップで提供する。
共創のテーマに掲げているのは「ロジスティクス領域のエンジニアリングを起点とした次世代イノベーション」の創出だ。労働力不足などの課題に対し、脱炭素・ESGやAI・自動走行にフォーカス。特に、将来的な需要拡大が見込まれる太陽光パネルやリチウムイオンバッテリーの物流DXの最適化に注力する。
これまでも壁面に貼れる薄型太陽光パネルの開発や、倉庫レイアウトのAI化など、スタートアップとの協業実績を重ねてきた。自社の運用ノウハウだけでは、プロダクト開発や高度なシステム構築のスピードと専門性を十分に確保できない側面があるという。
同社は「私たちの持つ物流ノウハウや企画開発力と、スタートアップのオリジナルな技術・アイデアを融合させたい。既存プロダクトの付加価値向上から次世代ソリューションの開発まで、新たな物流の課題解決に貢献していきたい」と熱意を見せた。
【株式会社MOL PLUS】 世界第2位の運航規模を有する商船三井が、スタートアップと共に描く次世代の海運業
同社は世界第2位の規模を持つ商船三井のCVCである。約900隻の船舶という巨大アセットを背景に、投資と事業創出の両輪でスタートアップと向き合う。
提示したのは海運業界が抱える2つの巨大な課題だ。1つ目は「高齢化と人手不足」。海運業界も船員不足に直面している。日本における新たな内航船需要も相まって、内航船では今後10年間で1万人以上が不足する予測もあるという。安定した物流が崩壊する可能性も示唆した。2つ目は「新燃料・新技術への対応」だ。アンモニアや水素などの新燃料は取り扱いが難しく、安全管理にテクノロジーの力が不可欠となっている。また、業界では自律航行技術の開発が進む一方で、入出港作業やエンジン管理など、完全に無人化できない細かな業務も多く残されている。
同社は「船の世界には、属人的な業務がまだ多く残されている。商船三井の持つ約900隻の船舶というアセットを活用し、ロボットや新しいテクノロジーと人が共存する新たな海運の在り方を共に作り上げたい。現場を巻き込み、社会実装とグローバル展開までを見据えて伴走していく」と強調した。
【飯野海運株式会社】 アナログ情報が眠る現場をDX。独自の海運市場を変革する共創へ
1899年に創業した同社は、ケミカル船や大型ガス船などを中心に93隻の船舶を運航する海運事業と、都心部での不動産事業を展開している。安全運航を最優先課題とし、資源やエネルギーの安定的な輸送を担っている。
現在、海運業界全体でGHG(温室効果ガス)削減などの環境対応、船員不足を受けた省人化、DXの推進が急務となっている。同社はこれらの課題解決に向け、ニューヨーク、シンガポール、イスラエルの海運特化型ベンチャーキャピタルに出資。世界最先端の技術動向を把握し、戦略的なリターンの獲得や自社事業への実装を進めている。
一方、国内の海運市場は独自のルールが適用される場面も多く、日本のスタートアップが強みを発揮しやすい環境にある。同社内には紙の図面や航海文書など、データ化されずに眠っているアナログ情報が依然として多い。まずはこうした現場のデータを取得し、活用するための基盤作りが求められている。
同社は「長年蓄積された現場の知見やアナログデータをデジタル化し、新たな価値へとつなげていきたい。独自のルールを持つ国内海運市場の変革に向け、日本のスタートアップが持つ技術力と共に歩んでいく」と語った。
【KDDI株式会社】 menuを起点に描く、ラストワンマイル領域の共創構想。通信キャリアのアセットが物流にもたらす可能性
同社はオープンイノベーションを成長戦略の中心に据え、「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」やCVCファンドを通じたスタートアップ支援から事業化までを一気通貫で推進している。近年はAIやドローンなどの先端技術に加え、ローソンを中心としたリテール領域や衛星通信などの宇宙領域にも注力している。
物流領域では、グループ会社が展開するデリバリープラットフォーム「menu」を中核とした「ラストワンマイル」での共創を目指す。現在は飲食店や日用品の即時配達を担っているが、今後はその枠を超え、ギグワーカーを活用した再配達の削減や基幹物流との連携、全国約1万4000店舗のローソン網を活かした物流効率化や買い物代行など、多岐にわたる可能性を模索する。都市部での実証実験を皮切りに、通信キャリアならではのアセット、全国の通信インフラ、店舗、衛星通信などを巻き込んだ新たな価値提供を見据えている。
同社は「私たちが持つアセットを活用して社会にどのような新しい価値を生み出せるのか。スタートアップと共にイメージを膨らませていきたい」と熱意を込めた。
【芙蓉総合リース株式会社】 総合リースの強みとアセットを活かした、次世代物流プラットフォームの共創
設立から半世紀以上の歴史を持つ同社は、不動産や航空機など幅広い事業領域を持つ中で、ロジスティクス分野に経営資源を集中的に投下している。2024年以降、フォークリフトや物流資材(パレット、カゴ車など)を扱う企業を連結子会社化するなど、物流領域での事業基盤を急速に強化している。
共創テーマとして掲げるのは「物流資材×IoT・AI・ロボティクス」と「シェアリング・as a Service」だ。長年進化していない物流資材をIoTデバイス化し、サプライチェーン全体の可視化や完全なトレーサビリティの確立を目指す。また、各社が個別最適で保有する活用余地のある物流アセットについて、同社がアセットオーナーとなり、初期投資ゼロのサブスクリプションやシェアリングモデルで社会実装を後押ししたい考えだ。
同社は「物流事業者ではないからこそ、中立的な立場で業界横断のプラットフォームを設計できる。全国の物流センターという実証フィールド、資材開発力、金融ビジネスのノウハウという3つのアセットを提供し、PoCから社会実装まで伴走したい」と熱心に語った。
【株式会社マーキュリアインベストメント】 投資と社会実装をつなぐ、強固なネットワークを活かした共創
2005年に設立された同社は、投資ファンド運用業を主軸としている。2019年に不動産や物流関連を対象とした「BizTechファンド」、2024年には対象を物流並びにサプライチェーンとした「マーキュリア・サプライチェーンファンド(MSCF)」を設立し、物流業界の課題解決に向けた投資を加速させている。
自前の物流アセットを持たないものの、日本政策投資銀行(DBJ)や伊藤忠商事、三井住友信託銀行など、主要株主やLP投資家との強固なネットワークを持つ点が大きな強みだ。このネットワークを最大限に活かし、スタートアップと事業会社をつなぐことで、単なる資金提供にとどまらない「投資×実装を接続するハブ機能」を提供している。
テーマに「投資×実装」を掲げ、労働力不足や自然災害による物流ネットワークの脆弱性など、深刻化する社会課題の解決を目指す。サプライチェーン全体を視野に入れ、物流周辺領域も含めた幅広い技術を持つスタートアップとの協働を模索している。
同社は「事業成長するスタートアップは、テクノロジーの活用方法の根底に人へのリスペクトがある。そうした企業から学び、投資と社会実装を通じて共に物流・サプライチェーンの変革に挑戦していきたい」と力強く語った。
【BIPROGY株式会社/キャナルベンチャーズ株式会社】 システム連携の「潤滑油」となり、サステナブルな物流へ
BIPROGYは5,000社以上の幅広い顧客基盤を持つシステムインテグレーターで、上流のコンサルティングからシステムの構築、運用保守までをワンストップで提供している。物流領域では、業界大手の基幹システム構築実績を持つほか、スタートアップとの協業や、異業種間をつないだクリーニングの宅配ビジネスの創出などにも注力してきた。CVCであるキャナルベンチャーズを通じてシード・アーリー期を中心としたスタートアップへの投資も行っており、自動搬送ロボットや倉庫シェアリングなどを手がける物流関連企業を含め、これまで51社への出資実績を持つ。
物流業界の課題解決には、複数の事業会社とスタートアップが連携するチーム戦が不可欠だ。同社は、企業間の既存システム連携における技術的な障壁を取り除き、AIやデータ活用を促進する「潤滑油」としての役割を担うという。
同社は「幅広いソリューション導入実績や新規ビジネス創出のノウハウ、出資の仕組みなど、当社のアセットを存分に活用してほしい。事業会社やスタートアップと多面的に連携していければと思う」と意気込みを語った。
【日本郵政キャピタル株式会社】 グループの巨大なアセットを「使い倒す」、伴走型のスタートアップ支援
同社は日本郵政の100%子会社として設立されたCVCで、日本郵政グループの事業アセットを活用したスタートアップの成長支援と、既存事業の付加価値向上を目的に活動している。同社は「自社のアセットを使い倒してほしい」と呼びかける。全国に張り巡らされた郵便・物流網に加え、大量の二輪・四輪車両、マテハン設備の保守、3PL事業、売上900億円規模の物販事業など、多様なアセットを保有している。
解決したい課題として、グループ全体で年間2兆円以上にのぼる人件費を削減するための「DX化・業務効率化」、物流・倉庫利用などを促進する「売上向上」、同社の課題領域である「コールドチェーン」の補完を挙げる。
これまでにも、自動運転やロボティクス、循環物流など幅広い領域のスタートアップと協業実績を持つ。単なる資金提供にとどまらず、事業部のニーズを徹底的に掘り起こし、必要であれば自らコンサルティングに入って課題を明確化した上で、スタートアップの技術をつなぐ伴走型の支援を行う。
同社は「ラフでも良いので、仮説を持ってきてほしい。そこから壁打ちをして共創のアイデアを広げていきたい」とメッセージを送った。
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ピッチの後に行われた交流会では、登壇企業とスタートアップなど参加者が直接言葉を交わし、会場の熱気は一層高まった。各社のブースでは多くの参加者との対話が生まれ、物流領域の課題解決や新たな価値創出に向けた具体的なアイデアが熱心に議論された。企業間の垣根を越えた連携の可能性が随所で探られ、物流の未来を切り拓くイノベーションの芽が、具体的な議論として動き始めた一夜となった。
取材後記
物流業界は複数の深刻な課題に直面している。多くの企業が「自社だけでは解決が難しい」と明言していたことが印象的だ。強い危機感を共有し、本気で変革に取り組もうとする熱量が会場全体からも伝わってきた。属人的な業務、眠るアナログデータ、活用しきれていない巨大アセットなど、こうした課題に対し、TLCCという枠組みが単なるイベントに終わらず「実装の場」として機能するのか。暮らしを支える次世代の物流インフラ、新たなデファクトスタンダードが創出されることを期待するとともに、今後の動向を追っていきたい。
(編集:眞田幸剛、文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)