「陶都」として知られる瀬戸市が『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』に参画――企画部署がハブとなって推進するスタートアップ連携の流儀とは
愛知県は2018年に策定した「Aichi-Startup戦略」のもと、日本最大級のスタートアップ支援拠点「STATION Ai」を中核に、県内全域に広がるスタートアップ・エコシステムの形成を推進している。
また、このような取り組みを進めている愛知県では、県内の地域パートナー(自治体・商工会議所・商工会・金融機関・その他支援機関等)とスタートアップが手を取り合うことにより、地域に根ざしたビジネスの創出を目指す事業共創プログラム『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』を実施している。同プログラムは2022年にスタートし、すでに地域パートナーとスタートアップによる様々な共創事例が生まれている。
TOMORUBAでは、地域パートナーとして『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』に参画した瀬戸市への取材を実施。企画部政策推進課・遠藤氏と経済文化部商工観光課・稲吉氏に登場いただき、瀬戸市における官民連携・スタートアップ連携の考え方や同プログラムに参画した背景、庁内での連携や役割分担、スタートアップとの共創事例などについてお聞きした。
2040年を見据えたまちづくりに向けてスタートアップ連携に注力
――まずは、お二人の庁内での役割や業務内容について教えてください。
遠藤氏 : 瀬戸市役所の企画部政策推進課に所属し、企画調整係の係長を務めています。自治体の最上位計画である総合計画の進行管理や、令和9年度からの新しいまちづくりの方針となる次期将来計画の策定をメインに担当しています。
また、企業版ふるさと納税の推進・調整、企業や大学との包括連携協定に関連する窓口業務や庁内関係課との調整などにも携わっています。瀬戸市役所に入庁して5年目であり、以前は民間の建設コンサルティング会社にて地球温暖化対策などの環境政策に取り組んでいました。
▲瀬戸市 企画部政策推進課 企画調整係 係長 遠藤裕志氏
稲吉氏 : 瀬戸市役所の経済文化部商工観光課に所属し、市内企業の支援全般を担当する商工金融係で仕事をしています。具体的には企業誘致や市内企業への補助金交付、市内企業からの相談対応といった幅広い業務を担当しています。
また、2025年度からはスタートアップ連携をメインで担当しているため、STATION Aiに入居してスタートアップとの関係性を構築しつつ、市内企業とスタートアップをつないでいくことで、市内企業の生産性向上や高付加価値化を後押しするような業務にも取り組んでいます。
▲瀬戸市 経済文化部商工観光課 商工金融係 主任 稲吉健氏
――改めて瀬戸市について教えてください。瀬戸市の主要産業や地域の特徴、市として力を入れていることについてご紹介いただけますか?
遠藤氏 : 瀬戸市は1000年以上の歴史を有するやきもののまち「陶都・瀬戸」として知られていますが、時代の変化をチャンスに変える形で、陶器からはじまり、磁器、ノベルティ、セラミックスといった様々な工業製品分野にも産業を広げていくなど、「挑戦・革新」によって伝統を紡いできたまちでもあります。また、常に新しいモノ・コトにチャレンジし続ける風土がまち全体に根付いた結果、さまざまな分野で活躍する多くの起業家が育っているなど、アントレプレナーシップが宿るまちでもあると感じています。
現在、瀬戸市が注力しているのは、人口減少社会を前提とした持続可能なまちづくりです。とくに策定中の令和9年度を始期とする次期将来計画には、2040年を見据え、関係人口の創出や、市民や関係人口による共創を通じた新たな価値の創出に取り組んでいく方針を盛り込んでいます。
人口減少自体は全国的な課題となっており、瀬戸市も長年にわたって出生率改善などに向けた様々な対策を講じてきましたが、今後は人口減少社会を前提としたまちづくりを行っていく必要があると考えています。また、令和6年度からは現行の総合計画の総括および次期将来計画の策定に向けて、瀬戸市役所全庁をあげて事業評価と対話による「事業見直し」を進めています。
――産業面・経済面における課題も人口減少に関わるものが多いのでしょうか?
稲吉氏 : 産業面でも人手不足が大きな課題となりつつあります。喫緊では問題が発生していなくとも、企業が持続的に成長する上で、将来的なリスクを抱えている企業が数多くあるものと考えています。
ただし、遠藤が話したように人口そのものを増やすことは困難です。現状の社員数で仕事を回していけるように生産性を高めたり、現在の事業の価値自体を高めたりするなど、それこそスタートアップの皆さんの力を様々な形でお借りすることで、人手不足に悩む企業に「事業を持続する力」をつけてもらえるような支援を行っていく必要があると考えています。
――瀬戸市は2025年度から『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』に地域パートナーとして参画していますが、参画に至ったきっかけや背景について教えてください。
遠藤氏 : 市の職員数も財源も限られる中、2040年を見据えたまちづくりに向けて多様化・複雑化する地域課題に対応していくためには、官民連携・スタートアップ連携が必要不可欠であるとの結論に至りました。
また、事業見直しを推進していく中で、多くの職員が「地域課題への対応は自分たちだけで進めなければならない」という意識を持っていると感じたこともあり、まずは庁内での意識を変えていく必要があると考えました。スタートアップをはじめとする民間企業の有する柔軟で革新的なアイデア・技術を取り入れることで、地域課題に対応するとともに、瀬戸市のイメージそのものも変えていきたいと考え、『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』への参画を決定しました。
今後は企画部署がハブとなり、庁内各課とスタートアップをつないでいく
――瀬戸市では、遠藤さんが所属する企画部署が中心となり、産業・環境などの庁内部署と連携しながらスタートアップ連携を進めている印象があります。あらためて企画部署がスタートアップ連携において担う役割や、具体的な取り組みについて教えてください。
遠藤氏 : 官民連携による地域課題の解決や働き方改革については、企画部署がハブとなり担当課と連携して進めていく方針です。事業見直しなどを通じて庁内各課の課題が集まるポジションであることを活かし、スタートアップとの接点が多い商工観光課とも連携しながら、課題解決の手段の一つとして民間企業と担当課をつなぐ役割を担っていきたいと考えています。
また、連携実施に関して予算確保が必要なケースもありますが、財政課への説明・要求、予算化、執行までに時間がかかることも多いため、令和8年度からは企画部署自身が一定の予算を確保した上で推進していきたいと考えています。
――官民連携・スタートアップ連携を進めていく際に、庁内で様々な調整業務が発生することもあると思います。そのような場合でもポジティブに議論を進めていく工夫などがあれば教えてください。
遠藤氏 : まずは、官民連携に対して積極的な姿勢を示す職員に話を持ちかけるようにしています。特に、中堅・若手職員の中には「2040年を見据えて新しいことにチャレンジしよう」と考えている職員が多くいますので、まずは同じ思いを持っている人たちとつながっていくことを意識しています。
稲吉氏 : 商工観光課は新しい技術や産業関連についての情報に対する感度が高い職員が多いこともあり、スタートアップ連携にそこまで高いハードルがあるとは感じていません。それでも最初から「スタートアップ連携」という言葉を出すとイメージがつかない人も少なくないので、まずはチャレンジしたいことや課題を起点に話を拾い上げていき、それに対して「スタートアップと連携する方法もありますよ」と提案する流れが良いのかなと感じています。話の入り口を変えるだけでも相手の反応が変わりますからね。
その意味でも、庁内の課題が集まる企画部署がスタートアップ連携に関わる意義は非常に大きいと感じています。
――瀬戸市はSTATION Aiに入居していますが、関係部署の方やキーパーソンとなる方をSTATION Aiにお連れするような機会もあるのでしょうか?
遠藤氏 : 今年1月の話ですが、商工観光課が企画し、瀬戸市としてSTATION Aiを訪問する機会がありました。そのときには市長がトップセールスを行ったほか、関係課によるガバメントピッチも実施しました。STATION Ai入居企業との交流も生まれたので、今後もこのような機会をできるだけ多く作っていきたいと考えています。
――これまでに瀬戸市がスタートアップと連携して取り組んできた共創事例について教えてください。
遠藤氏 : 瀬戸市では、ごみの減量を切実な地域課題の一つと捉えており、『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』では、ゼロカーボンシティの実現とごみ処理コストの適正化を目指し、廃棄物の「炭化技術」を持つスタートアップ・株式会社Gabとタッグを組みました。
その後、瀬戸市環境課がハブとなって地場の窯業会社である有限会社サンコーとGabをつなぎました。両社は廃棄物をやきものに転用する共創を進めていますが、焼成温度の関係から現在は商品化に向けた技術的な検証を重ねている段階です。それでもサンコーの社長はGabの可能性に魅力を感じてくれており、やきものに留まらない協働先を検討してくれているなど、新たな展開が生まれる可能性も感じています。
▲2026年1月にSTATION Aiで開催された『あいちスタートアップ・エコシステム 共創カイギ』。“地域パートナー×スタートアップ”共創ピッチで、瀬戸市とGabが登壇。取り組みの認知も徐々に拡大している。
スタートアップと接することで、役所では得られない刺激や情報が得られる
――稲吉さんにお聞きします。企画部署が関与することで、官民連携・スタートアップ連携にどのような広がりが生まれそうだと感じていますか?
稲吉氏 : 現時点では私たち産業部署が企業同士をつなぐケースが多いのですが、これまで以上に企業を支援しやすい体制・環境づくりを行う上では、企画部署の力が不可欠になると思っています。企画部署に入ってもらうことで予算や部署間の調整もスムーズになることは間違いないと思いますし、そのような仕組みを作っていくことが、より良い企業支援につながっていくと考えています。
――遠藤さんにお聞きします。庁内の部署を横断して仕事を進めていく中で感じているハードルの高さや、そのようなハードルを乗り越えるために行っていることを教えてください。
遠藤氏 : 近年、地域ニーズ・課題の多様化に伴い、行政の仕事量は増加を続けていますが、対応する職員数は限られています。誰もが多忙を極める中、官民連携やスタートアップ連携のような新しいことにチャレンジする余力がないのが現状です。私たちは「事業見直し」を行う中で、庁内各課が持っている課題感なども認識していますが、それらの様々な課題は共通のサービスやアイデアで解決できる可能性があると感じることもあります。
そのような各課の課題解決に対してもスタートアップを紹介できることが、企画部署である私たちがハブになることの最大のメリットであると感じる一方、実際に話を持ちかけると「今回は忙しいのでやめておきます」という反応を返されることが少なくありません。このような現状を変えるためには、庁内の意識改革が必要だと考えています。
そのため「仕事を楽しく!」という発想・姿勢につながる官民連携を進めたいという思いで「ワクワクファースト!」というスローガンや、課題解決だけでなく、やきものなど地域資源の魅力・付加価値を高める官民連携を進めたいという思いを込めた「Re瀬戸オープンイノベーション!」というスローガンを掲げています。
私自身、スタートアップと接することで、役所という閉鎖的な空間では得られない刺激や情報が得られると感じていますし、庁内の職員にも同じような思いを持って取り組んでもらえる進め方をしていく必要があると考えています。
――『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』への参加を通じて、スタートアップの方々との出会い・連携の機会が増えていると思いますが、ご自身の中で生まれた変化や気づきなどがあれば教えてください。
遠藤氏 : 自分たちが「この課題はどのように解決していけばいいのだろう…」と悩んでいたことに対して、スタートアップの皆さんから「こんなやり方もありますよ」とご提案いただけることが、個人的には非常に良い刺激になっています。
先ほどお話ししたように、できればそのような刺激・気づきを庁内の同世代や若い世代の職員たちにも体験してもらいたいと思っていますし、スタートアップの方々の考え方やスタンスに触れることは、庁内職員の発想の転換にもつながっていくと考えています。
稲吉氏 : STATION Aiに入居していることで様々なスタートアップの皆さんとのつながりができましたが、とにかく前向きで熱量の高い方々が多いと感じており、お会いして話を聞いているだけでも良い刺激になります。
スタートアップの方々と触れ合うようになって以降は、「何らかの解決の糸口があるはずだ」「こんなチャレンジができるのではないか」といったように、目標・目的を手繰り寄せるような思考ができるようになるなど、自分自身も間違いなく変わったと感じています。
――最後になりますが、瀬戸市の官民連携・スタートアップ連携に関する今後のビジョンや、新たにチャレンジしたいことなどをお聞かせください。
遠藤氏 : 現在、私たちは2040年を見据えたまちづくりを進めるための次期将来計画を策定中です。まだまだ固まり切っているとは言えないものの、市民はもちろん市外の方々や関係人口も含め、あらゆる人々の価値観が混ざり合った中で新しいものを生み出し、社会課題を乗り越えていくことが、まちづくりの大きな方向性になると考えています。そして、官民連携やスタートアップ連携は、それらが混じり合う重要な要素の一つです。
官民連携やスタートアップ連携は、これまでにない発想・アイデア・技術によって新たな価値を創出するチャンスであり、瀬戸市の新たなイメージをつくるためにも力を入れて進めていくべきだと考えています。
稲吉氏 : 愛知県は様々な産業が盛んな地域ですが、今後は人口減少・人手不足などの影響が徐々に大きくなっていくはずです。そのような中でも、スタートアップの方々と共創し、新しい事業・製品・技術にチャレンジする企業が少しずつ生まれることで、あらゆる企業がチャレンジできるような風土が形成され、幅広い産業が活気づいていくはずです。
そのためにも、一つひとつの企業同士を丁寧につなぐお手伝いをしていきたいと考えていますし、そのような取り組みを将来の愛知県や瀬戸市の賑わいにつなげていきたいと考えています。
取材後記
昨今では、多くの自治体が地域課題解決を目的とした官民連携・スタートアップ連携の推進に取り組んでいる。しかし、自治体によっては試行錯誤が続いているケースも見られる。役所特有の前例主義やセクショナリズムにより、庁内での足並みがそろわずに「取り組みが思うように進んでいない」という話を耳にすることも珍しくない。
そのような中、瀬戸市は『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』への参画を契機に、企画部署を中心とした官民連携・スタートアップ連携の推進体制を整えつつあることが窺えた。また、遠藤氏が語ったように、今後は庁内の文化醸成も同時並行で進んでいくはずだ。様々な地域的な魅力と産業の強みを持つ瀬戸市を舞台に、瀬戸市役所の企画部署がハブとなることで生まれる新たな共創やイノベーションに注目していきたい。
(編集:眞田幸剛、文:佐藤直己)