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愛知県内12の自治体・団体が全面協力!スタートアップと地域ビジネスの共創を育む「AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM 2022」デモデイレポート

愛知県内12の自治体・団体が全面協力!スタートアップと地域ビジネスの共創を育む「AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM 2022」デモデイレポート

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10月20日、「AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM 2022」のデモデイが開催された。本プログラム最大の特徴は、地域に根差したビジネスアイデアを持つスタートアップが、自治体などの持つネットワークを活用しながら、仮説検証を行えること。次の12の自治体・支援機関が、地域の事業者へのユーザーヒアリングの場を設けるといった形でサポートした。

<協力自治体・スタートアップ支援機関>

名古屋市、豊橋市、豊川市、刈谷市、豊田市、西尾市、大府市、東浦町、設楽町、一宮商工会議所、ウェルネスバレー推進協議会、東三河スタートアップ推進協議会


約1カ月間の検証期間を経て迎えた本デモデイは、熱戦が繰り広げられるリアルな会場の様子を、オンラインで全国に配信するというハイブリッド型で開催。100名近い視聴者が見守るなか、どのようなピッチが披露されたのか。本記事では、当日のピッチの中身を中心に、デモデイの様子をダイジェストでレポートする。


【オープニング】 「愛知県の広大なフィールドを実証実験の場に」

デモデイの冒頭、壇上でオープニングトークを飾ったのは、愛知県 スタートアップ推進課の榊原 和貴 氏だ。榊原氏は、スタートアップが実証実験を行っている地域が限られていることから、愛知県全体に広げていくため今回のプログラムを企画したと説明。


県内自治体等にとっては、様々な地域課題をスタートアップの力を借りて解決すると同時に、スタートアップに対しては、実証実験の場所に使ってもらい、自治体等と組むことで事業を加速してもらう。将来は、愛知県全体を広大なフィールドとして、自治体等とスタートアップがWin-Winの関係を築いていく意図があることを語った。

その後、司会を務める増尾 仁美 氏(エコシステム形成支援 統括マネージャー)より愛知県の地域特性や、本プログラムの概要が紹介された。


今回が初めての開催となる「AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM」は、次の4つの募集テーマで、ビジネスアイデアを持つスタートアップ・起業家を募集。


(1)ヘルスケア・ウェルビーイング領域のビジネスアイデア

(2)農業と食に関するビジネスアイデア

(3)製造業の課題解決を目指したビジネスアイデア

(4)地域のまちづくりや観光推進につながるビジネスアイデア


募集に対して70以上の応募があり、それらの中から書類選考により10社が採択された。そして、「スタートアップ」「自治体・支援機関」「メンター」で1つのチームを構成。約1カ月のブラッシュアップ期間で、地域事業者へのヒアリングなどを行い、ビジネスアイデアをブラッシュアップした。


メンターとして、次の5名が協力。週1回の頻度でメンタリングを行い、ビジネスアイデアを磨き込んだという。


【メンター】

■ 大沼 慶祐 氏(株式会社Cerevo 代表取締役)

■ 篠原 豊 氏(PRE-STATION Ai 統括マネージャー)

■ 高田 健太 氏(500 Global Partnership Manager)

■ 古里 圭史 氏(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任准教授)

■ 上松 真也 氏(Scrum Ventures)


本デモデイでは、審査員評価により優秀賞とインキュベーションプログラム参加権の授与を決定する。審査基準は「地域のターゲットや課題が明確か(ターゲット/課題)」「地域課題に対しての提供価値があるか(ソリューション)」「愛知県内の資源・特性、課題にフォーカスした新産業の創出につながるビジネスモデルか(地域貢献)」「プロジェクトへのコミットメントが期待できそうか(チーム・人物評価)」の4点だ。審査員は次の3名が務めた。


【審査員】

■ 麻生 要一 氏(株式会社アルファドライブ 代表取締役CEO)<写真右>

■ 粟生 万琴 氏(株式会社LEO 代表取締役CEO)<写真中>

■ 川出 仁史 氏 (愛知県 経済産業局 革新事業創造部 スタートアップ推進課長)<写真左>


ここからは、表彰された上位3チームから順に、全10チームの発表内容を紹介する。

優秀賞獲得は、独自の「高機能バイオ炭」で農業の脱炭素・有機農地転換に挑む“TOWING”

■株式会社TOWING × 豊橋市・設楽町・大府市・豊川市・西尾市(メンター:古里 圭史 氏)


本デモデイ、最上位の優秀賞を獲得したのはTOWING。「高機能バイオ炭」を開発する名古屋大学発のスタートアップだ。農林水産省は「みどりの食料システム法」施行を契機に、農業分野での脱炭素・有機農地拡大を推進しているが、各自治体は具体策に苦慮している。一方、農家にとっては生産性向上や収益安定化が目下の課題だ。この行政と農家の異なる課題を、同社の高機能バイオ炭で一括解決を図るという。

TOWING の高機能バイオ炭は、もみ殻燻炭・木炭といった多孔体に、土壌由来の微生物と有機肥料を組み合わせたもの。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が開発した技術とともに、TOWINGの独自技術であるバイオ炭の前処理、微生物培養技術等を融合し、実用化した。独自技術については、特許も取得している。


農家にとって、この高機能バイオ炭を導入するメリットは3点ある。1点目は「有機農地転換の速度向上」。従来だと土づくりに約5年も要していたところを、1カ月に短縮することができる。2点目が「営農収支の向上」で、化学肥料を50%削減できるほか、連作障害の抑制効果も見込める。3点目が「脱炭素農業の実現」。CO2削減分をJクレジットに変換し、新たな収益源を創出することも可能だ。

自治体にも取り組むメリットがあるという。国の進める脱炭素・有機農地拡大施策に対応できる。また地域で発生するもみ殻や果樹剪定枝などの廃棄物を、バイオ炭の材料に使うことで、地域特化型サーキュラーエコノミーも実現できる。

本プログラムにおいては、果樹栽培が盛んな豊橋市とは廃棄される「果樹剪定枝」を用いてバイオ炭を生成、稲作の盛んな豊川市とは「もみ殻」を用いて高機能バイオ炭を生成する実証を行う。そして各地域由来のバイオ炭を、地域の農家・生産者に流通させる。TOWING・木村氏は「農家さんにバイオ炭を使ってもらうことが重要。この実績を生み出したい」と語り、協力農家を紹介してほしいと呼びかけた。

<審査員コメント>

審査員・川出氏は「農業県でもある愛知で、名大発のスタートアップの方が、排出事業者・農家・行政の三方よしのビジネスモデルを構築した点が、高い評価を獲得した」と評価のポイントを共有した。


<受賞者コメント>

受賞に際しTOWING・木村氏は「自治体の皆さまと活動をさせていただいた中で、自治体との連携が非常に大事だと感じた。まずは市町村としっかり実例をつくりながら、愛知県も巻き込んで、愛知発のエコシステムとしてつくり込んでいきたい」と語った。

医療・ヘルスケア領域で挑戦する“ALY”と“メンタルコンパス”が、5カ月インキュベーションプログラム参加権を獲得

■株式会社ALY × 名古屋市・豊橋市(メンター:篠原 豊氏)


AIと新規事業開発に長けたメンバーで構成されたヘルステック・ベンチャー ALY。「データの力で、最適な医療を患者に届ける」ことをビジョンに掲げて活動をしている。同社は、地域医療連携にまつわる病院の課題を次のように説明する。

医療機関は「ホームケア等」「急性期病院」「慢性期病院」の3つに分類ができる。これらの各機能に応じて、患者の紹介と紹介の受け入れが日々行われているが、この調整業務はいまだにFAXや電話で行われ、多大な人的リソースが使われている状況だと指摘する。

そこで、ALY・中澤氏は地域病院の空床、受入状況がリアルタイムで確認できるシステムを開発したいと話す。分かりやすいUIにこだわり、更新作業も手軽にできるようにする。また、チャット機能も搭載し、コミュニケーションもサポートする。本プログラムでは、自治体の協力を得ながら複数の医療機関にヒアリングを実施。現在、MVPの開発に着手中で、2023年1月には実証実験フェーズへと進みたいと語った。

<審査員コメント>

審査員・粟生氏は「医療に横串を通すという意味で、愛知県と市町村、それに医師会もつながって、医療業界にイノベーションを起こしてほしい。ぜひ、愛知県で実績をつくってください」とエールを送った。


■メンタルコンパス株式会社 × 大府市・東浦町・ウェルネスバレー推進協議会(メンター:高田 健太 氏)


精神科の医師としての経歴を持つメンタルコンパス代表の伊井氏は、「6~7割が職場の人間関係でうつになる」という現状に問題意識を持ち、起業に至ったと話す。

今回のプログラムを通じて、愛知県ウェルネスバレー内にある複数の介護施設にヒアリングを実施。職員同士のコミュニケーションの難しさや管理職によるサポートの不足、メンタル不調に対してノウハウがないため対策が打てていない現状が見えてきた。ウェルネスバレー全体でも「人の問題」で悩みが多いとの課題意識があるという。

そこで、同社の3つのプロダクト(ウェルネスコンパス/心理的安全性クラウド/管理職トレーニング)を活用。具体的には、LINEの登録をしてもらい、動画を見てもらった後、LINEに思ったことを入力してもらう。それをテキストマイニングで可視化。課題が明確になれば、心理学に基づいた対策を練るという流れだ。

またウェルネスバレー内に、悩みを共有できるコミュニティもつくりたいと話す。コミュニティの中心人物であるファシリテーターを育成し、育成した人物を他エリアの医療機関にサポーターとして派遣する事業にも言及。新産業の創出にも寄与できる可能性も語った。

<審査員コメント>

審査員・麻生氏は「メンタルに課題を抱える人が日本では増えている。これからも増えることが見込まれ大きな社会課題だ。かつ、それが企業・組織・マネジメントの課題にもなっている。この領域へのスタートアップ・大企業の参入は多いが、その中でも(同社の)アプローチはユニークだった」と伝えた。


製造業のアップデート・観光推進・フードロス削減など、地域課題を捉えた7つのビジネスアイデア

次に、惜しくも表彰には至らなかったが、独自性のあるビジネスアイデアをピッチした7チームを紹介していく。

■イクスアール株式会社 × 豊田市・刈谷市・西尾市(メンター:大沼 慶祐 氏)


産業向けAR・VRを開発するイクスアールは、本プログラムを通じて、西尾市・刈谷市・豊田市内にある7社のものづくり関連企業にヒアリングを実施。それをもとに課題を抽出した結果、「技能承継・人材教育」と「外国人労働者向けの研修」の2点に課題感が強いことが判明。

そこで、前者の課題についてはAR空間に手順書を表示できるサービスを提案。後者の課題については、VRでの体験型学習システムの構築を提案する。これらの先端技術を取り入れることでイメージアップを図り、競争力の向上や外国人人材の確保を狙うという。

■株式会社トイポ × 一宮商工会議所・設楽町・豊川市・豊橋市(メンター:古里 圭史 氏)


店舗のファンを増やすためのミニアプリプラットフォーム「toypo」を開発・提供するトイポ。同社の「toypo」は、低価格・短時間でアプリを公開できるうえに、顧客に対する販売施策の実行・評価・改善も行えることが強みだ。

このプロダクトを用いて、地域活性化を提案。具体的には、地域単位でアプリを製作・運用し、データを蓄積・可視化。顧客データに基づいた施策(地域共通の会員カードやクーポンなど)を実行し、ファンの創出・定着を狙う。本プログラムを通じて出会った一宮商工会議所とともに「一宮モーニング」の集客支援に着手。2022年11月初旬からは名古屋市の円頓寺商店街への導入も開始する予定だという。

■ともしびマルシェ株式会社 × 豊川市・豊橋市(メンター:高田 健太 氏)


廃棄食材の利活用を通じてフードロス削減を目指す、ともしびマルシェ。同社は、廃棄食材を加工し、新しい食材に作り替えて価値を高める「アップサイクルフード」の企画・製造・販売を行っている。

プロダクトの第一弾として、廃棄する麦芽粕を利用したヘルシーグラノーラを開発中だ。地域へは麦芽粕の廃棄コスト削減と健康づくりという形で貢献をしたいと話す。すでに豊橋市の紹介により、醸造所と加工工場を訪問。麦芽粕の提供が可能か、加工が可能かなどをヒアリング。今後も引き続き、醸造所・加工工場・販路の開拓に向け、活動を続けていきたいとした。

■A-hope株式会社 × 大府市・東浦町・ウェルネスバレー推進協議会・豊橋市(メンター:上松 真也 氏)


定期通院の待ち時間をゼロにするサービスを開発中のA-hope。代表・久野氏は祖母の通院に付き添った経験から、長すぎる病院の待ち時間を課題視。「全ての人に、最適な診察を」をビジョンに掲げ、事業創出に挑んでいる。

医療関係者へのヒアリングや現地調査などを踏まえ、まずは顧客を定期診察を受ける小康状態の慢性疾患患者に設定。定期通院時の血液検査で1時間以上待つ現状の解決を図る。具体的には、診察前に看護師が患者の自宅で採血を行い、結果に基づきオンライン診療ができるスキームを検討している。今後の展開として、ウェルネスバレーや豊橋市に立地する病院で実証を行い、効果を検証していきたい考えだ。

■株式会社HACARUS × 豊田市・刈谷市・西尾市(メンター:大沼 慶祐 氏)


HACARUSは、製造現場の労働生産性向上に取り組む企業だ。AI外観検査システム(HACARUS Check)を開発・展開中で、ビッグデータを必要とせず10個程度の学習(良品学習)でAIモデルを構築できる点が強みだという。このプロダクトを、愛知県内にある製造現場の目視検査に適用できないかを検討。

本プログラムでは、行政の協力のもと9社以上の製造会社・メーカーにヒアリングを実施。その結果、同社のプロダクトの強みを活かせそうな製品の特徴が掴めてきたという。引き続き、プロダクトの強みを活かせる導入先を開拓していきたいとした。

■株式会社picks design × 豊川市・豊橋市・設楽町・大府市(メンター:高田 健太 氏)


デザイナーとして活躍する松浦氏が立ち上げたpicks designは「そのとちぎふと」を提供している企業だ。同サービスは、地域の食を定期便として届けることで、その地域を訪れるきっかけとなる体験づくりを創出するサービス。選定委員が地域の歴史や文化、季節感を考慮のうえ、もっとも美味しい食を毎月厳選して届ける。ユーザーには食のストーリーや地域の魅力も伝え、最終的には地域に訪れるキッカケを創出する。

本プログラムを活用しながら、食を提供したい事業者との連携を模索。加えて大府市には「げんきの郷」という直売所があるため、この場をハブに本サービスを広めていきたいと語った。

■Tenatch × 一宮商工会議所・豊橋市(メンター:篠原 豊 氏)


カナダ・トロント大学発のTenatchは、テクノロジーを使った地域課題の解決に注力しているスタートアップ。同社は地域の商店街がシャッター街化しつつあることを問題視。地域のリテールビジネスが直面する課題は、家賃の折り合いがつかないこと、EC普及による顧客不足、宣伝不足の3点だと指摘する。

そこで、Co-Retailingというコンセプトで、複数のリテールビジネスを組み合わせ、リテールスペースに入れることができる同社のサービスを提案。たとえば、書店とカフェとパン屋が家賃の支払いを分割。スペースと顧客をシェアし、売上の相乗効果を狙える。本プログラムを通じて、一宮市にある商店街でヒアリングを行い、日本市場への進出を検討する考えだ。

――ピッチ終了後、プログラムに協力した自治体・支援機関の担当者らが登壇。スタートアップのヒアリングに同席をした自治体担当者の1人は、「スタートアップにとってはビジネスの深堀ができ、地域の事業者にとっても新しいビジネスチャンスになる。非常によい機会なので、こうした場を増やしていきたい」と語った。



最後に愛知県庁の川出氏が登壇。「デモデイはプログラムの中間段階。今後、10の取り組みすべてを課題解決にまで持っていってほしい」と伝えた。さらに本プログラムには70以上の応募があり、10社の有望なスタートアップに集結してもらえたとし、「地域の将来に光が見えた」と総評を締めくくった。



こうして、初開催となる「AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM 2022」は、大きな拍手のなか幕を閉じた。

取材後記

「製造」「農業・食」「医療・ヘルスケア」「観光」の4領域で、地域課題の解決に資する10件のビジネスアイデアが披露された本デモデイ。自治体・支援機関を介した地域事業者へのヒアリングから、顧客や現場の解像度が高まり、ビジネスがブラッシュアップされた様子が伝わってきた。開始からまだ1カ月、共創の序章段階だが、今後、現場への実装が進めば、スタートアップ・地域事業者に、より大きな相乗効果が生まれるのではないだろうか。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:加藤武俊)

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  • 眞田 幸剛

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