地域課題の解決に向けて、スタートアップと地域パートナー47団体が連携する事業共創プログラム!『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM 2024』後期キックオフレポート
愛知県では、2018年に策定した「Aichi-Startup戦略」に基づき、2022年より『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』を開催している。このプログラムは、愛知県内の自治体・商工会議所・スタートアップ支援機関等で構成される地域パートナーが、スタートアップと連携して地域課題の解決を目指す事業共創プログラムだ。
スタートアップのサービスやプロダクトを、地域に実装することで、地域課題の解決を図ろうとしている。地域実装に協力する地域パートナーの数は、昨年度の25団体から45団体へと大幅に増え、活動がさらに活発化しているという。
▲愛知県内の47団体が地域パートナーとして参加。地域ネットワークの提供、インタビュー協力、実証実験の協力などのサポートを行う。
本年度の『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM 2024』は、前期と後期の2期制で実施され、前期5社(コネヒト/地元カンパニー/スカイディスク/TENTIAL/ファースト・オートメーション)に続く後期5社(mBiRS/KANNON/SAGOJO/匠技研工業/RainTech)の採択が決定した。10月23日には、後期プログラムのキックオフイベントがオフラインで開かれ、採択5社によるピッチが披露された。
――本記事では、後期キックオフイベントで発表された各社のピッチ内容を中心に、その様子をレポートする。スタートアップ各社の持つ独自のプロダクトやサービスが、どのような地域課題をどう解決していくのだろうか。
スタートアップ5社が地域パートナーと共に実現を目指すプロジェクトとは?
キックオフイベントでは、事前審査を通過したスタートアップ5社が地域パートナーの前でピッチ。各社は独自のビジョンやサービスを熱くプレゼンし、地域課題に対する解決策を提案した。ここでは、登壇順に各社のピッチの内容を紹介する。
●株式会社mBiRS
「スマホアプリでもっと簡単に!「地中をのぞく」プロジェクト」
mBiRSは、愛知県岡崎市の元自治体職員が起業して立ち上げたスタートアップだ。同社がターゲットとするのは、水道などの都市インフラを道路下に埋設して管理する施設管理者など。現状、道路に埋設したインフラは台帳に記載して管理している。それをもとに現地で地中の“宝探し”をするが、アナログな運用となっており時間と手間がかかっているという。
地下埋設物の確認における課題は多い。例えば、デジタル台帳が整備されていても現場に持参するのは紙図面であったり、立会い手続きやデータ入手に時間を要したり、台帳の内容が専門的だったり…といったものが挙げられる。そこで開発したのが、インフラ調査用のAR台帳アプリだ。現地でスマホをかざせば、地下埋設物を2Dと3Dを切り替えながら表示できる。強みは、既存データを活用できる点、スマホ1つで誰でも使用できる点、シンプルな情報表示である点などだという。
このAR台帳アプリは、施設管理者の確認や複数事業者間での情報共有、道路舗装時や冠水時の確認など、幅広いユースケースを想定している。“DX事始め”に活用してもらいたいとの考えからアプリ使用料は無償とし、データ登録などで収益化を目指すという。
本プログラムでは、サービスの実現可能性やユーザーリサーチを進めるとともに、開発者だけでは気づけない課題や新たなアイデアを見つけたいと語った。
●合同会社KANNON
「地域全体のアクセシビリティの向上」
KANNONは、「情報格差のない世界」をビジョンに掲げるスタートアップだ。認知障がいや視覚障がいなど様々な障がいを持つ人々が、最も見やすいウェブレイアウトに瞬時に切り替えられるサービス『フェアナビ』を提供している。
こうした活動に取り組む背景には、デジタル機器に慣れ親しんだ世代の高齢化がある。日本では60歳以上の約72%が視覚に何らかのハンデを抱えている。現在の日本において、高齢者と障がい者を合計すると3人に1人に達し、今後も増加傾向だ。こうした現状を踏まえ、ウェブアクセシビリティを向上させる必要性はますます高まると話す。しかし、ウェブのバリアフリー化には費用や手間がかかり、専門的な知識も必要なため、多くの企業にとって対応が難しいのが現状だと指摘する。
その点、『フェアナビ』は、既存のサイトにコードを1行追加するだけでバリアフリー化が可能で、ページ数の上限もない。料金は年間10万円からと低価格で、SaaSとして提供されるため随時アップデートも行われる。障がい者施設や東大病院の眼科医、ウェブアクセシビリティの専門家らと開発された信頼性の高いサービスで、すでに『STATION Ai』のサイトへの導入実績もあるそうだ。
このプログラムでは、地域パートナーとの連携によりこのサービスを地域住民に提供することで、アクセシビリティ向上がもたらす効果を模索したいと話す。そして、導入率1%以下というウェブアクセシビリティの現状を改善し、「ウェブを誰もが使える社会」に変えていきたいと結んだ。
●株式会社SAGOJO
「「旅 × 仕事」による地域の人手不足解消および新規観光商品の造成」
SAGOJOは、東京に本社を置く10期目のスタートアップで、旅と仕事のマッチングサイト『SAGOJO』を運営している。旅行者が単なる観光客や消費者で終わるのではなく、自分のスキルや特技を発揮しながら各地を巡り、地域活性化に貢献できる仕組みづくりを目指している。
現在、『SAGOJO』に登録する旅人人材は2.8万人に達している。それらの旅人人材が地域に訪れて活躍することで、地域の人手不足などを補っているという。また、旅人自身もより深い体験が得られる効果があると話す。具体的には、地域のホテル運営や農作物の収穫のお手伝い、地域の動画撮影やSNSを使ったPRなどで旅人人材が活躍しているそうだ。
このプログラムでは、地域の人手不足解消だけではなく、地域事業者と旅人人材が協力して、観光客向け地域コンテンツを開発するような活動を実現させたいと話す。例えば、新しい体験ツアーやお土産商品、グルメなどを開発するような活動を想定している。新たに生まれた商品を販売すれば、地域に経済効果をもたらすこともできる。
こうした取り組みを通じて、旅人人材に対して地域と深い関わりが生まれる「ディープな旅」を提供し、地域のファンやリピーターになってもらう。最終的には関係人口にとどまらない、移住者や2拠点居住者を各地で多数生み出すような取り組みに発展させていきたいとした。
●匠技研工業株式会社
「県内サプライヤー企業 見積DX浸透に向けた地域連携モデル設計」
匠技研工業は、製造業向けの見積DXクラウド『匠フォース』を開発する東大発のスタートアップだ。同社は、国内22万社にも及ぶ中小部品サプライヤーが抱える課題として「値決め」を挙げる。適正価格で取引することが会社経営には重要だが、部品サプライヤーにおける正しい「値決め」は非常に複雑だ。
正しい「値決め」を行うためには、発注者から届いた図面情報を読み取り、類似案件の参照を行って、材料費や加工費を緻密に原価積算していく必要がある。しかし、現状ではベテランの経験と勘に依存し、非効率でどんぶり勘定な業務が常態化している。こうした課題に対処するために開発されたのが『匠フォース』である。
このプロダクトは、発注者からの図面をアップロードするだけで、OCRが図番や品名を自動入力し、AIが図面解析を行って、類似案件や差分を表示する。各社固有の原価計算も標準化する。案件管理や見積書発行、データ分析が簡単に行えることが特徴だ。実際、導入企業では見積時間の50%削減や、技術継承の実現といった成果が出ている。中小部品サプライヤーから大手メーカーまで、幅広く導入が進んでいるそうだ。
このプログラムでは、正しい「値決め」の重要性が十分に認識されていない現状を踏まえ、課題の認知度を高めるとともに、その解決が可能であるというイメージを共有して、将来的な業務変革につなげていきたいと語った。
●RainTech株式会社
「モノづくり企業の巡回業務DXサービスの実装プロジェクト」
「災害による突然の悲しみを無くす」ことをビジョンに掲げるRainTechが、解決を目指す課題は「労働災害」だ。代表の藤井氏自身、大手自動車部品メーカーでの勤務経験から、労働災害を減らすことの重要性を認識しているという。
日本では毎年13.5万人が労働災害で死傷し、その経済損失は年間4820億円以上にのぼる。厚労省が様々なルールを制定しているが、現場ではアナログ作業が多く、実効性に課題があるという。愛知県でも労災件数が多く、全職種で全国4位、製造業に限れば全国1位と特に多い。
この課題に対応するため開発したのが、安全巡回DXツール『デジパト』だ。通常、安全を維持するための巡回は、担当者が現地を回りながら、危険個所などを紙帳票に記入する。それをExcelに転記して、安全衛生委員会の会議資料を作成するという。この中のアナログな部分をデジタル化するのが同社の『デジパト』である。
プロダクトの特徴は、タブレットを使って工場のレイアウト図面上に危険個所などを入力、管理できること。入力データに基づきKPIボードを自動生成でき、会議資料の作成時間も短縮できる。導入効果は、労災リスクの低減や巡回業務のコスト削減、ノウハウ伝承などだ。さらに、巡回データを活用したサポートAIの開発や、企業の枠を超えたナレッジを共有するエコシステムの構築も視野に入れている。
このプログラムでは、『デジパト』を愛知県内の製造現場に導入し、サービスの価値や対価の検討、ナレッジ共有のニーズの確認などを進めていきたいとした。
スタートアップと地域パートナーによる対面ディスカッションで、今後の動きを具体化
スタートアップ5社によるピッチ終了後、登壇したスタートアップと、愛知県内の自治体や商工会議所、金融機関などの地域パートナーとが、個別に意見交換を行う「ディスカッションタイム」が設けられた。1回15分間のディスカッションが計6回行われ、今後の動きを具体化するための貴重な場となった。
このキックオフイベントの後、スタートアップ5社は愛知県や事務局の支援を受けながら、地域パートナーと共に地域に根差したビジネス実装に向けて、本格的に活動を進めていく。まずは、「仮説構築・プロジェクト計画フェーズ」に入り、その後「検証フェーズ」に移行。策定したプロジェクト計画に沿って、MVPの完成と実装を進め、その先の事業化へと前進するという。
2025年3月には、前期5社(※)と後期5社の合計10社のスタートアップが一堂に会し、『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM』の成果を発表するデモデイが開催される予定だ。
※関連記事:前期5社が登壇したキックオフイベントのレポート
取材後記
今回取材した『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM 2024』の後期キックオフイベントでは、地域課題に対するスタートアップの挑戦意欲と、地域パートナーの強い支援体制が感じられた。また、「地中埋設物の可視化」や「ウェブアクセシビリティ」といった多様な分野に取り組むスタートアップが選ばれていることから、愛知県が幅広い分野で共創を積極的に進めようとしている様子がうかがえた。こうした地域密着型の取り組みは、スタートアップの成長のみならず、地域社会にも新たな価値をもたらすだろう。
(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)