1. Tomorubaトップ
  2. ニュース
  3. 技術の可能性をどう広げるか。次の一手をどう見つけるか――刈谷イノベーションプログラム「ELEVATE」参加企業4社に聞く(後編)
技術の可能性をどう広げるか。次の一手をどう見つけるか――刈谷イノベーションプログラム「ELEVATE」参加企業4社に聞く(後編)

技術の可能性をどう広げるか。次の一手をどう見つけるか――刈谷イノベーションプログラム「ELEVATE」参加企業4社に聞く(後編)

  • 16300
  • 16295
  • 16288
4人がチェック!

前編では、「KIP MEET2026」当日の模様とともに、ダイテック、平成建設の2社にフォーカスし、新規事業創出プログラム「ELEVATE」を通じた挑戦の背景や現在地を紹介した。

後編となる本記事では、同じく「ELEVATE」に参加した旭工業所、近藤精工、神星、町井製作所の4社に焦点を当てる。

量産現場で使ってきた検査具、長年磨き込んできた生産管理システム、成形技術、加工技術――いずれも本業の中で培われてきたものだが、視点を変えることで、新規事業の種として立ち上がり始めている。ここからは、各社へのインタビューを通じて見えてきた、それぞれの挑戦の輪郭を追っていく。

【03:旭工業所】検査具から品質管理へ――現場起点の知見を“サービス”へと拡張する挑戦

▲株式会社旭工業所 品質保証部 次長 谷本 大氏

① 参加のきっかけと背景

――まず、御社の事業について簡単に教えてください。

谷本氏 : 当社は自動車部品を100%手がけている会社です。その中で新規事業として、製造現場で使う検査器具・測定器具を販売するブランドを立ち上げ、2023年2月頃から本格的に取り組んでいます。

――なぜ、今回「ELEVATE」に参加しようと思われたのでしょうか。

谷本氏 : 検査器具を販売する事業をさらに広げようと考えたときに、測定器具だけを売っていてもどこかで限界が来るのではないか、という感覚がありました。とはいえ、自分たちだけで考えているとどうしても視野が狭くなってしまう。そこで「ELEVATE」に参加して、次の道筋を立てられないかと思ったのがきっかけです。

②プログラムで取り組んだ新規事業

――今回のプログラムでは、どのような新規事業に取り組まれたのでしょうか。

谷本氏 : 自動車部品の量産ラインでは、製品を定期的に評価するための検査具や検査治具が必要になります。もともとは自社用に作っていたそうした器具を、他社向けにも販売するという形で新規事業として展開しています。

――その事業はどのような強みや課題を起点に検討されたのでしょうか。

谷本氏 : 強みは、もともと自社で使ってきたものなので、現場で本当に必要な仕様がわかっていることですね。一方で課題は、販路の広げ方でした。最初は知っている企業さんから声をかけてもらうこともありましたが、それだけだと取引先が限られてしまう。次の購入タイミングが来ないと一年間動きがない、ということも起こります。

最初は紙のDMを何百通、何千通と送るところから始めましたが、それだけではやはり限界がありました。その後、展示会への出展やWebサイト、SNSの整備を進め、少しずつWebや展示会経由で問い合わせが入るようになりました。

――顧客層としては、どのような企業が多かったのでしょうか。

谷本氏 : 結果的には、当社と同じような切削系の企業さんが多かったです。同じようなラインや製造工程を持っているので、ニーズも近かったのだと思います。一方で、プレスや樹脂など他の業種にも課題はあるので、その可能性も感じています。

③プログラムの経験と今後の展望、メッセージ

――実際にプログラムに参加してみて、印象に残っていることや苦労した点はありますか。

谷本氏 : やはり最初はやり方が全くわからなかったことですね。ブランド名も最初からあったわけではなく、途中で「kensatools」という形で整理していきました。そうやって少しずつ見せ方を整えてきたことが、今の問い合わせにつながっていると思います。

また、「ELEVATE」の中で特に大きかったのは、既存のネットワークを活かしてアンケートを取れたことです。30社ほどから回答が返ってきて、「次に何を足すべきか」をある程度のサンプル数をもとに考えられたのは大きかったです。

――今回取り組んだ新規事業の今後の展開について教えてください。

谷本氏 : 今後は、モノを売るだけでなく、品質管理に関するコンサル的な支援もオプションで加えていけないかと考えています。さらに、今はアナログのメーターを目で見て検査している部分も多いので、そうした検査のDXにつながるようなツールづくりにも取り組もうとしています。

――最後に、刈谷市内や他の自治体で、今後新規事業に挑戦しようとされている地域の企業の方へメッセージをお願いします。

谷本氏 : 私たちの場合、最初から会社方針として始まったわけではなく、部署の中で「ちょっとやってみよう」と動き出したことが後から広がっていった形でした。あまり制限をかけすぎず、まずやってみることが大事だと思います。

それと、ゼロから何かを作るよりも、自分たちがすでに持っている技術や資産を少し形を変えて外に出す方が、結果につながりやすいとも感じています。すぐに成果が出るものではないので、短期で見すぎず、少し長い目で続けることも大切だと思います。

【04:近藤精工】内製システムを外へ――現場で磨いた生産管理の価値を事業化へ

▲近藤精工株式会社 営業部 部長 田下 佳男氏

① 参加のきっかけと背景

――まず、御社の事業について簡単に教えてください。

田下氏 : 当社は冷間鍛造メーカーで、自動車部品を中心に製造しています。

――なぜ、今回「ELEVATE」に参加しようと思われたのでしょうか。

田下氏 : 当社では、自社用の生産管理システムを内製して10年ほど運用してきました。その中で、外部のシステム会社に頼らず管理できることや、現場に合った使い方ができることに価値があるのではないかと感じるようになり、外販の可能性を考えるようになりました。

ただ、どう収益化すればいいのか、どう事業として整理すればいいのかが全くわからなかったので、「ELEVATE」の中で学べるのではないかと思い参加しました。

②プログラムで取り組んだ新規事業

――今回のプログラムでは、どのような新規事業に取り組まれたのでしょうか。

田下氏 : 自社で使っている生産管理システムを、外部の企業にも展開していく事業です。

――その事業はどのような強みや課題を起点に検討されたのでしょうか。

田下氏 : 強みは、現場から生まれたシステムであることです。10年ほど現場の中で使い続け、改善を重ねてきたので、机上の空論ではなく実務に即したものになっています。

一方で課題は、やはり事業化の難しさでした。どれだけ利益を見込むのか、誰が担うのか、どこまで対応するのかなど、考えなければいけないことが多く、簡単ではないと痛感しました。

③プログラムの経験と今後の展望、メッセージ

――実際にプログラムに参加してみて、印象に残っていることや苦労した点はありますか。

田下氏 : 一番苦労したのは、トライアル先を見つけることでした。社長同士では「やってみよう」と話が進んでも、現場に下りると「そんな余裕はない」となってしまうことも多くて。実際に試してもらうところまで持っていくのが難しかったです。

最終的には、もともと関係のあった企業さんとのつながりの中でトライアルの話が進みました。やはり既存の関係性を活かすことの大切さを感じました。

――今回取り組んだ新規事業の今後の展開について教えてください。

田下氏 : 今後はもう少しトライアルを重ねながら、現場の声を取り入れて改良し、より汎用性のある形にしていきたいと考えています。実際の事業として外に出せるレベルまで整えていきたいです。

――最後に、刈谷市内や他の自治体で、今後新規事業に挑戦しようとされている地域の企業の方へメッセージをお願いします。

田下氏 : 新規事業というとすごく大変なものに見えるかもしれませんが、社内にも案外ヒントになるものが眠っているのではないかと思います。まずは自社の中にあるものを見つめ直してみることが大事なのではないでしょうか。

【05:神星】既存技術の再定義でニーズを捉える――成形技術が切り拓く新たな役割

▲株式会社神星 営業部・製造部 部長 早川 淳一氏

① 参加のきっかけと背景

――まず、御社の事業について簡単に教えてください。

早川氏 : 当社はプラスチック製品の開発から設計、組付けまで一貫して手がけています。主には自動車部品で、コア保安部品からアクセサリー部品、機能部品まで幅広く対応しています。一部では重電住設や産業機器関係の製品も扱っています。

――なぜ、今回「ELEVATE」に参加しようと思われたのでしょうか。

早川氏 : きっかけは広告でした。既存事業の売上や利益が年々減少してきていて、有効な対応策を見つけたいと思っていたときに、その一文が目に留まりました。まずはインプットセミナーに参加してみたのですが、講師の方の話がわかりやすく、新規事業に対してそれまで特別な関心があったわけではないのに、やってみたい気持ちが湧いてきました。

②プログラムで取り組んだ新規事業

――今回のプログラムでは、どのような新規事業に取り組まれたのでしょうか。

早川氏 : ワークショップの中で、まずは自社のアセットを洗い出しました。その中で、メンターの方との対話や、自動車部品メーカーの方々へのヒアリングを通じて、新規事業のアイデアを具体化していきました。

特に、Tier1メーカーさんがリサイクル材の活用を進める中で、「試験やトライを受けてくれる先がない」と困っていることがわかりました。そこで、当社の成形機や技術を活用して、そのニーズに応える形で話が進んでいきました。

――その事業はどのような強みや課題を起点に検討されたのでしょうか。

早川氏 : 当社がすでに持っている成形設備や評価のノウハウを活かせたことが大きかったです。一方で、一連の工程を全部自社で完結できるわけではなく、今の時点では一部足りない設備があるという課題は残っています。そこは今後の検討テーマだと考えています。

③プログラムの経験と今後の展望、メッセージ

――実際にプログラムに参加してみて、印象に残っていることや苦労した点はありますか。

早川氏 : 意外とすんなり進んだ、というのが正直な実感です。もちろん今後の課題はありますが、新しいことをゼロから始めるというより、これまでやってきたことを別の形で提供する感覚に近かったので、比較的進めやすかったのだと思います。

――今回取り組んだ新規事業の今後の展開について教えてください。

早川氏 : まずは継続して取り組みながら経験を積んで、事業としてブラッシュアップしていきたいです。実績を重ねながら、必要な設備や体制も整えていければと考えています。

――最後に、刈谷市内や他の自治体で、今後新規事業に挑戦しようとされている地域の企業の方へメッセージをお願いします。

早川氏 : 私はもともと軽い気持ちでセミナーを聞きに行っただけだったのですが、実際に参加してみると多くの学びや発見がありました。成功したかどうかという結果だけでなく、今後の可能性につながる経験になると思うので、まずは一歩踏み出してみるのがいいのではないでしょうか。

【06:町井製作所】“社員が楽しい”から始まる新規事業――加工技術を生活価値へ転換する試み

▲株式会社町井製作所 金型部 次長代理 町井 昭紀氏

① 参加のきっかけと背景

――まず、御社の事業について簡単に教えてください。

町井氏 : 当社は自動車部品を扱っており、生産準備から量産までの一貫生産を得意としています。

――なぜ、今回「ELEVATE」に参加しようと思われたのでしょうか。

町井氏 : 以前から新規事業をやりたいという気持ちはあったのですが、何をどう進めればいいのかわからず、社内に相談しても明確な答えがない状況でした。そんな中で、社内のつながりを通じて「ELEVATE」のことを知り、何かヒントになるのではないかと思って参加しました。

②プログラムで取り組んだ新規事業

――今回のプログラムでは、どのような新規事業に取り組まれたのでしょうか。

町井氏 : 自社の既存設備を使いながら、インテリア雑貨の新規事業に取り組みました。背景には、社員が楽しみながら前向きに関われる事業にしたいという思いがありました。私自身もDIYが好きで、自分が先頭に立ってやるなら、自分も面白いと思えるテーマにしたかったんです。

また、自動車部品は普段の生活の中で目に触れにくいのですが、インテリアや雑貨であれば生活空間の中で見える。そういう意味でも、作る側の達成感につながるのではないかと考えました。

――その事業はどのような強みや課題を起点に検討されたのでしょうか。

町井氏 : 会社としては「既存設備を活かして取り組みたい」という前提がありました。その中で、ものづくりが好きな社員や、研磨などに強いこだわりを持つ社員たちと一緒に進められたのが大きかったです。

最初は周囲の反応に少し身構えていたのですが、実際には材料を持ってきてくれたり、木材を提供してくれたりと、社内で思った以上に共感がありました。そこはすごく印象的でしたね。

③プログラムの経験と今後の展望、メッセージ

――実際にプログラムに参加してみて、印象に残っていることや苦労した点はありますか。

町井氏 : 最初は考え方の整理が大変でした。その場で答えを出さなければいけないような感覚もあって、伴走支援が始まる前は少し苦しかったです。でも、進める中で新規事業の考え方を学べたことと、伴走支援がかなりラフで話しやすかったことはすごく良かったです。

また、新しいことを始めると周囲からいろいろ言われるのではないかと構えていたのですが、むしろ社内からの協力が得られたことは予想外でした。事業そのものだけでなく、会社の雰囲気という意味でもプラスがあったと感じています。

――今回取り組んだ新規事業の今後の展開について教えてください。

町井氏 : 今後はInstagramやネット販売を活用しながら、販売を進めていく予定です。その上で、3年後に撤退か、ECとして本格的に立ち上げるかを見極めていきたいと思っています。まずは直接お客様とつながることも含めて、しっかり育てていきたいです。

――最後に、刈谷市内や他の自治体で、今後新規事業に挑戦しようとされている地域の企業の方へメッセージをお願いします。

町井氏 : 結果がどうなるかはやってみないとわかりませんが、新しいことに挑戦するのは無駄ではないと思います。投資する価値はあると思うので、ぜひチャレンジしてみてほしいです。

取材後記

4社に共通していたのは、「最初から完成された事業案があったわけではない」という点だ。自社の強みを見つめ直し、それを誰のどんな課題に結びつけられるのかを考えながら、少しずつ輪郭を描いていく。そのプロセスこそが、新規事業創出の本質だ。

メーカーやものづくり企業の新規事業というと、大きな技術革新や大胆な方向転換を想像しがちだ。しかし実際には、いまあるものを別の文脈で届け直すことから始まるケースも多い。

「ELEVATE」は、そうした最初の一歩を後押しし、企業が自社の可能性を再発見する場として機能している。新規事業は、特別な企業だけのものではない。今ある技術や知見を、別の価値としてどう届けるか。その問いに向き合うこと自体が、地域企業にとって大きな一歩になるのだと感じた。KIP MEET2026、そして「ELEVATE」は、そうした挑戦の起点として、確かな役割を果たしていた。

(編集・文:入福愛子、撮影:加藤武俊)

新規事業創出・オープンイノベーションを実践するならAUBA(アウバ)

AUBA

eiicon companyの保有する日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA(アウバ)」では、オープンイノベーション支援のプロフェッショナルが最適なプランをご提案します。

チェックする場合はログインしてください

コメント4件