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業界大手3社(YKK AP・三協立山・LIXIL)×スタートアップが「断熱改修」の課題に挑む!3つの共創プロジェクトの成果とは――『TOKYO HOME 2025』成果報告レポート

業界大手3社(YKK AP・三協立山・LIXIL)×スタートアップが「断熱改修」の課題に挑む!3つの共創プロジェクトの成果とは――『TOKYO HOME 2025』成果報告レポート

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東京都環境局は、CO2排出実質ゼロの実現に向け、住宅の断熱改修の普及を図っている。その一環として展開されている『断熱改修の新サービス創出に向けたアクセラレータープログラム』(TOKYO HOME 2025)(※1)は、スタートアップの技術や発想を取り入れ、断熱改修の新サービス創出や業界課題の解決を図る取り組みだ。省エネにとどまらず、暮らしの快適性や価値向上を見据えた挑戦が進められている。

本プログラムの成果報告が、2026年3月12日、東京都内で開催された。大手サッシメーカー3社(YKK AP/三協立山/LIXIL ※登壇順)がホスト企業となり、スタートアップとの共創プロジェクトを披露。実証結果や開発中のソリューションも交えて具体的な成果を発表した。

本記事では、当日の発表内容を中心に、各プロジェクトの取り組みと得られた知見を詳報する。断熱改修の価値をいかに可視化し、社会実装へとつなげていくのか。共創が開く未来の可能性を追っていく。

※1)TOKYO HOME =TOKYO Housing Open-innovation for Metropolitan Environment programの略称

【主催者挨拶】 「断熱改修により気候変動対策と、暮らしの快適性・豊かさ向上を図る」

冒頭、主催者である東京都環境局より、岡本氏(気候変動対策部 家庭エネルギー対策課 総括課長代理(断熱改修支援担当))が登壇。東京都が着目する課題や、本事業の狙いについて説明した。東京都は2030年までにCO2排出量を50%削減するカーボンハーフの実現に向け、住宅の「断熱改修」を強力に推進している。都内全世帯の約半数にあたる355万世帯での断熱改修を目標としており、本取り組みは目標達成に向けた「起爆剤」と位置づけているという。

岡本氏は、断熱改修の普及に向けた課題が二つあると話す。一つ目は消費者側の課題だ。「断熱改修により、省エネ効果だけでなく、快適性や保温効果向上など数々のメリットがあるにも関わらず、その価値が十分に消費者に伝わっていない」と指摘。二つ目は、断熱窓などを取り付ける工務店や施工会社側の課題で、担い手の人手不足や高齢化が進んでいることを挙げた。

本事業は、こうした業界全体の課題をスタートアップが持つ革新的な技術や知見で打破することを目的に立ち上がったものだとし、本プログラムを通じて断熱改修がさらに進み、気候変動対策に加えて、「人々の生活の快適性や豊かさが高まることを期待している」と締めくくった。

この東京都の呼びかけに応じる形で、本プログラムでは3つの共創プロジェクトが実施された(※関連記事)。大手サッシメーカー3社が設定した具体的な課題に対し、スタートアップがオリジナリティのある解決策を提示。現場での検証を重ねながら、実用化を見据えた取り組みが進められてきた。次に、各プロジェクトの具体的な内容を詳報する。

なお、本プログラムでは下記3名がコメンテーターとして参加し、それぞれのプロジェクトに対し、専門的な視点からフィードバックを寄せた。

<コメンテーター(3名)>

▲一般社団法人 日本サッシ協会 事務局長 山本英司 氏

▲一般社団法人 住宅開口部グリーン化推進協議会 事務局長 山岸史成 氏

▲株式会社eiicon インキュベーションクオリティ室 Quality of Open Innovation officer (QOO)下薗徹 氏

【YKK AP株式会社(ホスト企業) × 株式会社サイキンソー(パートナー企業)】

『断熱改修で家族の健康力UP ~腸内細菌叢でわかる健康力~』

YKK APは、1985年から内窓の販売を手掛けるなど断熱改修に注力してきたが、「健康への貢献が目に見えず、その価値が十分に伝わっていない」という課題を抱えていた。一方のサイキンソーは、「腸内フローラ検査」やアンケートを通じて、腸内環境を可視化するサービスを展開。これまで、累計22万人もの検査実績を持つ。

両社は今回、住環境と睡眠、そして腸内細菌叢の関係性を調査した。「窓を断熱改修し、住宅の断熱性能を向上させることで睡眠の質が上がれば、腸内環境が良くなり、健康力が高まるのではないか」と仮説立て、検証を開始。YKK APの社員やサイキンソーのユーザー計332名を対象に、腸内環境データとアンケート回答を分析した結果、次のような知見が得られたという。

第一に、住宅の断熱性能と睡眠の質の関係だ。「自宅の断熱性能が高いと感じている人ほど、睡眠の質が良い傾向にある」ことが判明。また、寝室の窓ガラスの種類と睡眠の質を調べた調査でも、「断熱性能の高い窓ガラスを使っている人の方が、睡眠の質が高い」ことも分かったという。

第二に、健康不良と腸内環境の関係についても調査を行った。睡眠と腸内環境の関係性は先行研究で「睡眠の質が高い人は腸内細菌の多様性も高い」ことが明らかになっていることが示され、今回の取り組みでは「腸内細菌の多様性が高い人は体調不良が少ない=健康」という検証結果を得た。これらの知見と調査結果を合わせることで、「自宅の断熱性能を高めて睡眠の質を向上させることが、腸内環境を整え、体調を崩しにくくすることにつながる」と示唆できる調査結果になったと話す。

今回の実証結果を受け、今後は得られた知見を啓発活動に活用するとともに、ヘルスケア企業や食品メーカーなど他社との連携を通じ、新たな市場形成を目指す。最後に「断熱改修により住環境の向上を促進し、誰もが日々の暮らしの中で自然と健康になれる社会」を構築していきたいと展望を語った。

発表後の質疑応答では、日本サッシ協会の山本氏が、窓の断熱改修と健康・QOLを腸内環境で結びつける視点に対し「圧倒的な新規性がある」と述べ、業界へのインパクトを高く評価した。

【三協立山株式会社(ホスト企業) × 株式会社フツパー(パートナー企業)】

『革新的取付技術の開発 ~現場固有情報を最適化する自律型AIエージェント~』

三協立山は、既存住宅の開口部の断熱改修を多く手がけている。改修工事においては、現地調査を行い、”納まり図”と呼ばれる図面を作成・手配し、その後に取付施工に入る流れで進めるが、この各工程には課題も多いという。その一例が、担い手となる技術者不足や属人化、高齢化などだ。そこで今回のプログラムでは、「現場労働力不足に悩まされない業界構造の転換」を目指して、共創を開始した。

共創パートナーとして選ばれたのは、製造業向けAIサービスを提供するフツパー。画像認識やデータ分析、カスタム型AIの開発に強みを持つスタートアップだ。同社とともに、三協立山の既存データを用いて、専門性を持たない人でも、精度を落とさず省力化した施工ができる方法の開発に挑んだ。

その第一歩として取り組んでいるのが、設計工程における「現場図面のパターン化モデル」の構築。具体的には、新設する窓枠の最適な取付パターンをAIが自動判別する仕組みの開発を進めている。

ただ、準備を進める中で、AIの判別精度を向上させるためには、学習用データの整備が不可欠であることも浮き彫りになった。また、施工現場で働く職人の多種多様な判断をすべてデータ化しAIに委ねることは、現段階では容易ではない。そこで今後は、可能な領域からAIによる自動化を段階的に進めていく考えを示した。

発表後の質疑応答では、住宅開口部グリーン化推進協議会の山岸氏が、経験のない人でも現場写真を撮るだけでAIが判断し、指示書を出せるような状態は実現可能かと質問した。これに対し、フツパーの担当者は「目指すところはまさにそこにある。そのためには、現場理解をさらに深める必要がある」と応じた。

【株式会社LIXIL(ホスト企業) × 株式会社ジオクリエイツ(パートナー企業)】

『視線感情推定AI~住まい手と住まいをつなぐ空間アナリティクス~』

LIXILは、国内の既存住宅約5,400万世帯のうち約8割が「低断熱」という現状を社会課題として捉え、断熱改修の普及を推進している。しかし、断熱改修は水まわりの改修と異なり、施工後の変化が目に見えにくいなどの理由から、顧客の関心を喚起できていない。そこで今回、リフォーム後の快適指数を可視化する取り組みに着手した。

共創パートナーのジオクリエイツは、「建築VR」に取り組むスタートアップだ。現在は、VR用データベースツール『ToPolog』を、不動産・防災・小売の3分野で展開している。VRによる空間把握に加え、視線分析や脳波分析、さらにAIを組み合わせた「空間アナリティクス」を強みとしている。

今回のプログラムでは、LIXILの体感型ショールーム「住まいStudio」にて、高精度な脳波計を用いて4名の被験者でリラックス度(α波)と集中度(β波)等を計測。その結果、低断熱の部屋(寒い部屋)に比べ、断熱性能の高い部屋(暖かい部屋)では、リラックス・集中ともに向上することがデータで実証された。さらに、時系列分析により、いずれも時間経過とともに上昇する傾向も確認。「断熱改修は、長時間滞在する部屋において特に高い効果を発揮する」との示唆も得られたそうだ。

両社はこれらの実験データをアルゴリズムに落とし込み、画像生成AIを活用したリフォーム提案アプリの開発を進めている。スマートフォンの写真から生成されたビフォーアフターの画像に対し、視線感情推定AIがリラックス度や集中度をレーダーチャートで即座に判定する仕組みだ。これにより、これまで感覚的に語られてきた断熱の価値を、可視化された指標として顧客へ提示していく。

発表後の質疑応答では、eiicon・下薗氏から今後の展開について質問が挙がった。これに対し、断熱分野にとどまらず、防災や防犯への応用も視野に入れていることが示された。

※ ※ ※ ※

――すべてのピッチ終了後には、3名のコメンテーターが壇上に立ち、講評を行った。

山本氏は、「健康・施工・感情の3つの異なる価値観を、窓の付加価値としていかに転換するか」という試みが興味深かったとし、今後の発展に期待を寄せた。山岸氏は、「目から鱗の話が多くあった」と評価するとともに、今回のような連携を通じて「断熱が当たり前の世界」を目指していきたいとの考えを示した。下薗氏は「この業界がより盛り上がり、業界変革につながるよう支援していきたい」と熱意を込めた。

【主催者インタビュー】 来期は「実証・事業化」までを支援、「断熱改修で人々が幸せになるサービスを創りたい」

成果報告終了後、本プログラムの主催者である東京都環境局の小山氏に、プロジェクトの総括と今後の展望について話を伺った。

――まずは、本日の成果報告を受けての振り返りをお聞かせください。

東京都・小山氏 : 参加された皆様には、短い期間の中、異業種との交流を通じて、自社の強みや価値を改めて認識し、それをどのように活かすのか、非常に前向きな姿勢で取り組んでいただき、具体的な成果報告につなげていただきました。「断熱改修」に関する各社の課題は大きく、一筋縄ではいかないものだと思いますが、今回のプログラムをきっかけに、新たなサービス創出に向けた具体的な検討が行われたことは、大きな一歩だと思います。

▲東京都 環境局 気候変動対策部 家庭エネルギー対策課長 小山利典氏

――初年度となった本プログラム全体の所感はいかがですか。

東京都・小山氏 : ワークショップでは、各企業の皆様が異なる組織であっても活発に話し合い、互いの知見を用いながら積極的に課題解決に取り組まれている姿が大変印象的でした。また、その中で各社からこれまでにない気づきや発見が得られたとの意見等をいただいており、大変ありがたく感じていますし、頼もしく思っています。

「断熱改修」という分野において、オープンイノベーションの場を提供し、異業種間の共創活動を促すような取り組みは、我々としてもチャレンジではありましたが、各社の協力により課題の掘り下げや具体的な検討の深化につながったと思います。

――本プログラムで生まれた3つのプロジェクトについて、どのようにご覧になりましたか。

東京都・小山氏 : YKK APさんの取り組みは、オープンイノベーションならではの斬新さがあり、健康状態を可視化する技術に自信を持つサイキンソーさんの提案があってこその内容でした。両社は提案だけでなく、測定・分析結果を基に、断熱改修によるQOL向上を一般の方にも訴求できるレベルまで高めることを目指されており、今後の展開にも期待しています。

三協立山さんのテーマは、現場技術者や施工業者不足の解決につながる内容です。サッシ業界は専門性が高い業界ですから、施工技術に関わる異業種との共創はハードルが高い印象でした。しかし、他業界での技術支援実績のあるフツパーさんと協働し、サッシの施工現場などで専門的なコミュニケーションを密に取りながら、AIへの適用可否を柔軟に判断・システム化を視野に取り組まれました。

LIXILさんの取り組みは、まさに消費者の視点に立った内容でした。断熱改修による効果を人間の感情面の変化として捉える創意工夫は、ジオクリエイツさんの経験があってこその提案です。将来的には「断熱改修」以外のサービス展開にも広がる可能性があり、両社だからこそ具体的に検討できた内容だと思います。

3者ともに、さらなる具体化に向けて取り組みを進めていただき、業界全体の課題解決の一助になっていただければ幸いです。

――本事業の来期に向けた展望については、どのようにお考えですか。

東京都・小山氏 : 令和8年度(2026年度)は、本事業と同様に断熱改修目標の達成に資する新サービス創出に向け、事業を継続し、内容も拡充していく予定です。公募による選定にはなりますが、令和7年度(2025年度)の「断熱改修の新サービスの組成・試行」だけでなく、さらに次のステップとなる「実証・事業化」につながる取り組みを支援したいと思います。

――最後に、本事業に興味を持つ企業に向けて、メッセージをお願いします。

東京都・小山氏 : 住宅の省エネ化については、新築建物では規制や基準が整えられて対策が進んでいる一方で、圧倒的に多いのは既存の建物です。ぜひ、新規参画を希望する企業にもご応募いただき、気候変動対策として取り組むことはもちろん、断熱改修を通じて人々の幸せにつながるサービスを一緒に創っていければと思います。

取材後記

「窓の断熱改修」に特化したテーマに対し、ここまで多彩な未来図が提示されるとは想像を超える内容であった。本プログラムで示された三者三様の切り口は、公募型オープンイノベーションならではの化学反応と言えるだろう。断熱は単なる省エネ施策にとどまらない。光熱費や健康・睡眠、さらには仕事や学習の集中力にも直結する、すべての人にとっての「自分ごと」である。窓ひとつで生活の質が変わることが示された今、本取り組みは、多くの人にとって住環境を見直す契機になりそうだ。

※本プログラムの参画したスタートアップ3社のインタビューを実施しました。以下よりご確認ください。

サイキンソー インタビュー

フツパー インタビュー

ジオクリエイツ インタビュー

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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