【東京都環境局「断熱改修」アクセラ】三協立山との共創に取り組むスタートアップ・フツパーに聞く――プログラムへの参画を通じて得られた成果・メリットとは
東京都環境局は、断熱窓改修を軸に住宅の省エネ化を推進するため、『断熱改修の新サービス創出に向けたアクセラレータープログラム』(TOKYO HOME 2025)を開催。本プログラムでは、2025年11月から12月にかけて、大手サッシメーカーであるホスト企業3社(三協立山/LIXIL/YKK AP ※企業名50音順)の設定した新規事業テーマに基づいてスタートアップ(パートナー企業)を募集し、以下、3つの共創プロジェクトが組成された。そして、3月12日に行われた成果報告会にて、これまでの成果と今後の方針について発表した(※レポート記事)。
●三協立山株式会社(ホスト企業) × 株式会社フツパー(パートナー企業)
●株式会社LIXIL(ホスト企業) × 株式会社ジオクリエイツ(パートナー企業)
●YKK AP株式会社(ホスト企業) × 株式会社サイキンソー(パートナー企業)
三協立山株式会社との共創プロジェクトを進めている株式会社フツパーは、製造業向けにエッジAIを活用した外観検査自動化やデータ分析、オーダーメイドのAI受託開発サービスを提供しているスタートアップ企業。AIによるモノづくり現場のDX、省人化・効率化支援を中心事業としている。
今回の成果報告会で両社は、「革新的取付技術の開発 ~現場固有情報を最適化する自律型AIエージェント~」という共創テーマでの成果を発表した。
住宅の窓などの断熱改修工事では、現場状況が多種多様であり、属人的な現場判断や技術が求められてきた。しかし、施工技術者の高齢化、技術者不足により、現状を維持することが困難になってきている。その状況に対して、AIを活用して設計工程の省力化を推進するシステムの開発を目指している。現在は、取付技術のパターン化による設計工程の省力化を目指し、設計データの見直しや整備などを進めているという。
そこで今回、本取り組みを推進したフツパーの大竹明良氏に、プログラムに参加した意図や、現時点での共創成果、またプロジェクトを進める中で見えてきた課題や今後の展望などを伺った。
製造業の困りごとをAIで解決した経験を、「断熱改修」領域で活かす
――本プログラムは、住宅の断熱窓改修という、かなり絞り込まれたテーマが設定されています。御社はこれまでにも、窓改修やその他住宅建築分野での業務経験があったのでしょうか。
フツパー・大竹氏 : ゼネコンさんと組んだビル建築分野での経験はあるのですが、一般住宅分野、サッシ関連などはこれまで大きな接点はありませんでした。本プログラムを運営するeiiconさんの「AUBA」をチェックしていて、偶然にも今回のプログラムを見つけて応募しました。
――募集段階で、三協立山社は「『高精度』と『省施工』、相反する要素を両立する取付技術の開発」という募集テーマを設定されていました。このテーマに対してはどう思われたでしょうか。
フツパー・大竹氏 : 私たちはこれまでも、製造業のお客様の現場での困りごとを起点にして、それをAIで解決することに挑んできた会社です。今回も募集テーマに対して、具体的にどこまで対応できるのかは未知数でしたが、いくつか仮説を立てて、お手伝いできることがあるはずだと感じたのでエントリーさせてもらいました。
――共創の取り組みが始まってからは、どのような動きとなりましたか。
フツパー・大竹氏 : キックオフの段階では、自律型AIによる現場作業の自動化や新しい取付技術の開発を目指したいという目標がありました。しかし、実際に施工現場を見学させてもらったり、設計データ、その他のデータを分析させてもらったりする中で、早期に実現するのは困難であることがわかりました。
そこで、それらは長期目標として位置付け、比較的早期に実現できそうな設計工程の効率化・自動化を短期的な目標として設定しました。そのため、まず取付技術をパターン化するところから着手しています。
▲株式会社フツパー ビジネス開発本部 東日本営業部 大竹 明良 氏
新商品開発や現場省人化が実現すれば、社会的に大きなインパクトを残せる
――取り組みを進める中での課題はありましたか。
フツパー・大竹氏 : 既存の設計図面を分析したところ、AIでパターンを抽出できるデータが不足していることがわかりました。また、私たちの専門知識が不足していたので、取付技術をパターン化するためには、どのデータをどのように整理してAIに読み込ませればいいのかが見えていない面もあったのです。
そこで、三協立山さんの設計部門、施工部門など、各部門の人たちとのミーティングを重ねて色々な説明をしていただきながら、AIの可読性を高め、パターンが抽出できるデータの整備を進めました。
――スタートアップが大企業と共創するときの“あるある”として、必要な情報を大企業がなかなか提供してくれないといった話を聞くこともあります。そういった面で三協立山社とのコミュニケーションは、スムーズでしたか。
フツパー・大竹氏 : まったく問題を感じていません。私たちが必要と考えるデータはすぐに用意されて、提供していただけました。ただ、それとは別の“大企業あるある”なのかもしれませんが、三協立山さん社内での、部門間の認識共有が不足していると感じることはありました。そういう部分は私たちがそれぞれの認識を整理しながら相互に提示したり、すり合わせて調整したりしながらプロジェクトを進めていきました。
――今回のプロジェクトは、どのような社会的なインパクトをもたらすものになりそうでしょうか。
フツパー・大竹氏 : 短期的な目標としての取付技術のパターン化ができれば、設計工程の省力化にかなり寄与するので、三協立山さん社内での生産性向上には大きく寄与するはずです。中長期目標の新商品開発や現場省人化が実現すれば、大きな社会的なインパクトをもたらすと感じています。
▲3月12日に行われた成果報告会で、三協立山・小林氏とともにピッチを行った大竹氏。
プログラムを通し、未経験の業界で知見・ノウハウが蓄積できた
――御社にとっては、今回のプログラム参加で何が得られましたか。
フツパー・大竹氏 : 住宅改修やサッシはまったく初めてのドメイン、業界でした。しかし、取り組みを進めたことで、業務に関する知見やノウハウが蓄積できたことは大きな成果です。まったく未知の業界にアプローチして貢献していく経験も得られました。また、三協立山さんがプロジェクトに対して非常に好意的で、引き続き連携を検討していただいていることも大きな成果です。
――今回のプログラムでは、500万円の協定金制度も用意されていました。これも役立っていますか?
フツパー・大竹氏 : もちろんです。スタートアップはどこも、大企業と違ってリソースに余裕がありません。提供いただける協定金があれば、「これができる」と決め打ちできる部分があるので非常に助かります。
――本プログラムは来年度も実施が予定されています。次期プログラムへの参画を検討するスタートアップの皆様に向けて、メッセージをお願いします。
フツパー・大竹氏 : 東京都が主催するプログラムですが、課題となる住宅窓の断熱改修は全国共通のものです。非常に広がりがあり、また、社会的な意義も高いテーマです。そういった点も踏まえて、ぜひ積極的に手を挙げていただければと思います。
取材後記
本プログラムは、住宅窓の断熱改修という明確にテーマが設定されているため、応募の検討に際して「業務知識がない」「うちが持つ技術で貢献できるのだろうか?」とハードルを感じる方もいるかもしれない。今回の大竹氏のインタビューからは、業界での経験や知識がない中でも、ホスト企業の課題を丁寧に汲み取りながら、自社技術で可能となることを段階的に模索していく様子がうかがえた。もとより、オープンイノベーションは最初から正解が決まっている取り組みではない。ある意味で課題の設定から取り組んでいくプロセスでもある。だからこそ、チャレンジングでやりがいのある取り組みとなる。そんな、オープンイノベーションの醍醐味を感じさせられる取材であった。
(編集:眞田幸剛、文:椎原よしき、撮影:齊木恵太)