【東京都環境局「断熱改修」アクセラ】YKK APとの共創に取り組むスタートアップ・サイキンソーに聞く――プログラムへの参画を通じて得られた成果・メリットとは
東京都環境局は、断熱窓改修を軸に住宅の省エネ化を推進するため、『断熱改修の新サービス創出に向けたアクセラレータープログラム』(TOKYO HOME 2025)を開催。本プログラムでは、2025年11月から12月にかけて、大手サッシメーカーであるホスト企業3社(三協立山/LIXIL/YKK AP ※企業名50音順)の設定した新規事業テーマに基づいてスタートアップ(パートナー企業)を募集し、以下、3つの共創プロジェクトが組成された。そして、3月12日に行われた成果報告会にて、これまでの成果と今後の方針について発表した(※レポート記事)。
●三協立山株式会社(ホスト企業) × 株式会社フツパー(パートナー企業)
●株式会社LIXIL(ホスト企業) × 株式会社ジオクリエイツ(パートナー企業)
●YKK AP株式会社(ホスト企業) × 株式会社サイキンソー(パートナー企業)
本記事では、国内大手アルミ建材メーカーのYKK AP株式会社と連携したスタートアップ、株式会社サイキンソーを取り上げる。両社の共創プロジェクトのテーマは「断熱改修で家族の健康力UP ~腸内細菌叢でわかる健康力~」。サイキンソーが有する腸内環境可視化サービスやデータ分析技術を用いて、YKK APの断熱窓のQOL向上効果を検証する取り組みだ。その結果、住まいの断熱性能が睡眠の質の向上をもたらし、腸内環境の改善にもつながるという関連性を検証できた。この成果は、両者による新サービス開発や、ヘルスケアと住まいを組み合わせた新市場創造への発展が期待されている。
さらなる飛躍に向けて強力なパートナーを得たサイキンソー。同社はなぜ、本プログラムに挑み、どのような壁を乗り越えたのだろうか。共創プロジェクトを手がけた3名に参画の経緯や動機、手応えなど、舞台裏を聞いた。
サイエンス企業が「住」への進出を模索していた理由
――御社は、腸内細菌叢(腸内フローラ)の検査キットや医療機関向けの検査サービスなどを提供しています。「断熱改修」という一見、縁遠いテーマのアクセラレーションプログラムに参画した理由は何だったのでしょうか。
サイキンソー・水町氏 : 当社はスタートアップ向けのプログラムに積極的に参画しているため、日頃からさまざまなイベント情報を収集しているのですが、そのなかで目に留まったのが本プログラムでした。参画の決め手になったのは、ホスト企業であったYKK APさんが共創テーマを「QOLの常識を窓で変える」と設定していたことです。
当社は、腸内環境の見える化を通じた「0次予防社会の実現」に取り組んでいます。腸内環境が心身の健康と密接に関わっていることは、最近では広く知られるようになりました。当社のミッションは、腸内細菌叢の状態を見える化する独自サービスで、人々の健康増進や疾病予防に貢献することです。そんな当社にとって、YKK APさんが掲げていた「QOL」というテーマは非常に親和性が高いものでした。
▲株式会社サイキンソー アライアンスビジネスディビジョン ディビジョンリーダー 水町 政哉 氏
サイキンソー・根岸氏 : 一見、縁遠いように見えるかもしれませんが、実は以前から「住」の領域との接点は模索していました。当社は腸内細菌叢の検査サービス以外にも、研究支援などの法人向け事業を展開しています。ただし、支援する企業は食品メーカーなどが中心であり、当社の目標である「0次予防社会の実現」を確立するには、より広い範囲で当社のソリューションを展開していく必要があります。その点で、衣食住の「住」において確固たる地位を確立しているYKK APさんは、理想的な共創パートナーでした。
▲株式会社サイキンソー 事業創出ユニット 根岸 裕一朗 氏
サイキンソー・水町氏 : スタートアップは人員も予算も限られているので、今まで接点のなかった領域との連携にはハードルが高い場面もあります。多大なリソースを費やした結果、成果が得られなかった場合には、経営にも大きな影響が生じる可能性もあります
その点でも、アクセラレーションプログラムは好都合でした。採択されるとすぐに共創プロジェクトを開始できますし、本プログラムではスタートアップに対して上限500万円までの協定金が支給されます。事業連携のリスクを低減しながら、新たなチャレンジにも挑める、まさに絶好の機会でした。
――とはいえ、「住」の領域との連携は未知の経験だったと思います。戸惑いや敷居の高さは感じられましたか。
サイキンソー・伊藤氏 : たしかに共創の具体的な形については、かなり検討を重ねました。先ほど根岸が述べましたが、当社は食品メーカーとの連携は一定の経験があるので、「食」におけるソリューションはイメージが浮かびやすいです。
一方で、「住」と「腸内細菌叢」の組み合わせは初めてのチャレンジだったため、共創アイデアの構想には試行錯誤しました。検討を重ねた結果、両者の共通点である「睡眠」にフォーカスして取り組みを進めました。
▲株式会社サイキンソー アライアンスユニット 研究員 伊藤 史博 氏
ホスト企業の高い熱量と圧倒的スピード感が共創を後押し
――共創プロジェクトは、YKK AP社の断熱窓がもたらす睡眠の質改善の効果を、御社の腸内細菌叢検査データで検証する取り組みでした。その結果、断熱窓の健康増進効果が実証され、新サービス開発に向けた示唆が得られました。共創を通じて、印象に残っているエピソードはありますか。
サイキンソー・根岸氏 : YKK APさんの体感ショールームに足を運べたことです。私たちは「住」領域について専門外であるため、「断熱窓」といってもどの程度の効果があるのか十分に理解できていませんでした。しかし、体感ショールームを訪れて、断熱窓と一般的な窓の性能の違いを感じると、断熱改修がQOLを向上させる理由が身をもって実感できました。
この経験は今回の共創プロジェクトを構想するうえでも役立ちました。YKK APさんは、できるだけ多くのお客様にショールームに足を運んで断熱窓の効果を体感してほしいわけですが、そこまでの動線づくりに課題を抱えていたようです。「睡眠の質改善」や「健康増進」といったキーワードは、消費者が断熱窓に関心を持つよいきっかけになると思っています。
サイキンソー・伊藤氏 : 私が印象的だったのは、YKK APさんの熱量です。今回の共創プロジェクトでは、YKK APさんの社員125名から腸内細菌叢のデータとアンケートを収集しましたが、その企画から実施までの期間は3〜4日ほど。極めて短い期間で取り組みを推進する熱量に強い印象を受けました。
また、同時におこなった当社ユーザーへのアンケート調査においても、アンケート協力者が少しでも増えるようにとYKK APさんがギフトカードのセッティングをスピーディーに進めてくれたことで、多くの方にご回答いただくことができました。YKK APさんの迅速な対応には感謝しております。
▲3月12日に行われた成果報告会で、YKK AP・小沼氏とともにピッチを行った水町氏と伊藤氏。
今後はパートナーの輪を広げ、新たな市場創造を目指す
――今回の共創プロジェクトを通じて、どのような社会的インパクトが期待できますか。
サイキンソー・水町氏 : 今回の共創プロジェクトでは、断熱窓とQOL向上の関係性の兆しが見えたため、本取り組みによって得られた成果をより精緻に分析し、新たなサービスに落とし込んでいきたいです。そのなかで、多くの住宅関連企業やヘルスケア企業なども巻き込むことで、人々のQOL向上に資する新たな市場を創造していきたいと考えています。そのため、今後は啓発活動などを通じて、パートナーの輪をさらに広げていきたいと思っています。
サイキンソー・根岸氏 : 以前から私は「腸内細菌叢は社会のバロメーターになり得る」と考えています。人間の健康や精神的安定、幸福感などは、腸内細菌叢と少なからず関連しているからです。今回の共創プロジェクトでは、腸内細菌叢のデータを「住」のサービス開発に活用できることが証明できました。
――それでは最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
サイキンソー・水町氏 : もし本プログラムに関心を持っている企業がいれば、ぜひ参画をお勧めしたいです。先ほども述べましたが、スタートアップには制約が多いので、共創のパートナー探しにも少なくない手間を要します。そうしたリソースを節約しながら共創を推進でき、かつ協定金の支援も受けられるプログラムは、スタートアップにとってチャンスに他なりません。仮に採択されなかったとしても、自社の新たな可能性を構想するよい機会になると思うので、ぜひ挑戦をお勧めします。
取材後記
「断熱窓×腸活」という、一見意外性のある組み合わせにも思える共創が本プログラムでは確かな成果を挙げた。今後、両者は取り組みを継続し、QOL向上を主眼とする新サービス開発を目指すという。スタートアップにとって、大手企業との連携は成長のエンジンになり得る。だが、その前には立ちはだかる壁も少なくない。適切なパートナー選びや人脈づくりには時間も手間も要する。時には、スタートアップと大手企業との「スピード感の違い」が隔たりを生むこともあるだろう。
そうしたコストを低減する意味でもアクセラレーションプログラムへの参画は有意義だ。本プログラムは令和8年度の開催も予定されている。「住」の領域での事業展開を目指すスタートアップには、今年度のプログラムにもぜひ注目してほしい。
(編集:眞田幸剛、文:島袋龍太、撮影:齊木恵太)