静岡発・スポーツ共創は次のフェーズへ――『FIELD²』で見えた、地域課題解決と事業化の広がり
静岡県が推進する、スポーツチームと他産業の共創による事業創出プログラム『FIELD² - SHIZUOKA SPORTS OPEN-INNOVATION - 2025』 。静岡県に拠点を有するスポーツチームと、他産業による共創でイベント中心の取り組みから日常におけるスポーツ振興への転換を目的として、新たな価値創造に取り組んだ『FIELD』は『FIELD2』として2期目を迎えた。
今回の成果発表会では東レアローズ静岡×株式会社SmileJapan、藤枝MYFC×UKIWAの今年度採択プロジェクトに加え、昨年度の採択プロジェクトである静岡ブルーレヴズ×SyncLocal、ベルテックス静岡×トワールの二年目の進捗も共有された。
本稿では、当日の発表を軸に、各プロジェクトの成果と今後の可能性を整理しながら、静岡県で進むスポーツ×オープンイノベーションの現在をレポートする。
【開会の挨拶】「この場で生まれた取り組みを次のフェーズへ」
イベント冒頭には、静岡県 スポーツ・文化観光部 スポーツ政策課課長 小林 竜太氏が登壇した。小林氏は、自身がこの3年間、静岡県における「スポーツの産業化」に携わってきたことに触れつつ、本事業が模索のなかから立ち上がった取り組みであると振り返った。
スポーツ産業の可能性をどのように地域に根づかせていくかを考えるなかで、eiiconによるアクセラレーション型のオープンイノベーションプログラムに挑戦したことが、本事業の出発点だったという。
▲静岡県 スポーツ・文化観光部 スポーツ政策課課長 小林 竜太 氏
そのうえで、「昨年度生まれたチームがさらに発展していることが非常にうれしい。今年取り組んだ2チームも、ぜひこの先に発展させてほしい」と語り、継続的な事業育成の場として本プログラムへの期待を寄せた。
続いて運営事務局からは、今年度の事業概要が説明された。主催は静岡県、運営は昨年度に続きeiiconが担当。さらに、静岡銀行、静岡新聞社、静清信用金庫がサポーター企業として参画し、共創プロジェクトの成長を多面的に支える体制が整えられた。
2025年夏より事業テーマ設計・ブラッシュアップからスタートし、共創パートナーとのマッチングを実施。同年11月には静岡市内でのワークショップを行い、その後は週1回程度の定例ミーティングを通じてインキュベーション・実証を推進し、今回の発表に至っている。
【CO-CREATION PITCH①】東レアローズ静岡×株式会社SmileJapan――健康経営を切り口に、スポーツクラブが企業と地域をつなぐ
最初に登壇したのは、プロバレーボールクラブ・東レアローズ静岡と、健康経営支援を手がけるSmileJapanである。東レアローズ静岡は、1947年に東レの滋賀事業場に「東レ九鱗会」として創部。2024年に実業団チームから新会社体制での運営へと移行した。現在は静岡県三島市を拠点に活動している。
クラブのミッションは「つなげ」。バレーボールの“つなぐ”という競技特性を起点に、地域、企業、ファン、そして未来をつないでいく存在を目指している。クラブ側は、静岡県東部では一定の認知がある一方、中西部での認知拡大や試合日以外の接点創出、スポンサーシップ以外の企業との関わり方の開拓といった課題を抱えていた。
加えて、地域社会側にも、少子高齢化や労働人口の高齢化、中小企業における従業員の健康管理に対する施策の健康経営の継続難といった課題が存在していた。そこで両社が着目したのが、「健康経営」を起点にした新たな接点づくりだ。
SmileJapanは、理学療法士の知見を背景に、企業の健康課題をデータで可視化し、ワークショップを通じて従業員自身が解決策を考える支援を行っている。今回はこのノウハウと、東レアローズ静岡が持つブランド力、選手アセット、ファンとの接点を掛け合わせることで、企業向け健康支援プログラムの事業化を目指した。
プロジェクトではまず、東レアローズ静岡の社内でプログラムを体験・検証。その後、地元企業へと展開していく流れを設計した。実際のワークショップでは、アンケート結果をもとに健康課題を整理し、従業員同士が日常業務の中で感じている不調や悩みを共有。業務中には可視化されにくい課題が、対話を通じて浮かび上がったという。
東レアローズ静岡の担当者は、「普段の業務以外の文脈でコミュニケーションが生まれ、女性従業員を含めた多様な悩みを共有する時間になった。その後の業務でもコミュニケーションが取りやすくなった」と振り返った。
さらに地元企業を対象にした実証では、首・肩まわりの症状が強いという結果を踏まえ、バレーボールの動きと運動療法を組み合わせたプログラムを開発。選手協力のもと動画コンテンツも制作し、参加者に配布した。10日間の実証期間において、運動プログラムの満足度は83%、継続意向は100%という高い結果が得られた。
▲首・肩まわりの不調改善を目的に、バレーボールの動きと運動療法を組み合わせた内容となっている
本プロジェクトのポイントは、健康経営そのものを正面から訴求するのではなく、スポーツチームを入り口にすることで、企業側が自然に参加しやすくなった点にある。SmileJapan側からは、「スポーツが企業の中に自然に入っていき、従業員との接点が生まれる感覚があった。外から健康行動を促すのではなく、クラブが中に入って支える存在として機能した」との手応えが語られた。
メンターからも、スポーツチームと組むこと自体が企業側にとって参加ハードルを下げる効果を持つことや、今後はみんなが参加したくなる名称やブランド化が重要になるといったコメントが寄せられた。
両社は今後、参加選手の拡大や動画コンテンツの充実、より多くの企業へ展開できる汎用プログラムの開発を進める方針だ。健康支援サービスを企業からの対価で提供する収益モデルも視野に入れており、クラブ・企業・地域社会の三方良しの循環づくりが期待される。
【CO-CREATION PITCH②】藤枝MYFC×UKIWA――リユースカップを起点に、ファンと地域を巻き込む環境アクションへ
続いて登壇したのは、Jリーグクラブ・藤枝MYFCと、牧之原市発の環境系スタートアップのUKIWAだ。藤枝MYFCは、藤枝市、焼津市、島田市、牧之原市、吉田町、川根本町をホームタウンとする2009年創立のサッカークラブだ。
藤枝MYFCは、地域と共に歩み続けるためのホームタウン活動の軸として、「気候アクション」「インクルーシブな社会へ」「地域コミュニティの醸成」の3テーマを掲げている。
一方で、社会課題とクラブ主導企画を掛け合わせた取り組みはまだ多くなく、特に環境分野においてクラブとして何を打ち出すかが課題だった。そこで立ち上げたのが、「MYFC Eco Smile Challenge」だ。この取り組みは「誰もが楽しくEco活動に参加でき、人も地球も笑顔になれるアクションに挑戦をしていく」という思いが込められており、明治安田Jリーグ百年構想リーグからスタート。
共創パートナーには3つのポイントを求めたという。子どもたちが楽しくカーボンニュートラルを学べるプログラム、ファンとクラブが一体となって取り組めるサステナブルな施策、そしてクラブが環境問題に向き合いながら地域を牽引する存在を目指した共創だ。
これに応えたのが、アップサイクル素材を用いたエコプロダクトの開発や、環境計測アプリ「renew」を展開するUKIWAだった。
両社はまず地域企業の製造残渣を原料としたリユースカップの導入と、その環境価値の可視化に着手。将来的に子ども向けワークショップや、スポンサー企業の残渣を活かしたグッズ開発などの構想も視野に初年度はホームゲーム会場におけるリユースカップ運用の実証を行った。
実証は2月8日のホームゲームで実施。3店舗で計450個のカップを用意し、使用後に回収ボックスへ返却してもらうオペレーションを検証した。アンケート回答者にはノベルティも用意し、参加を促した。
▲藤枝MYFC×UKIWAによるリユースカップの実証の様子
結果として、450個中293個が利用され、回収数は182個、回収率は62.1%だった。参加者満足度は高く、「継続してほしい」「また企画してほしい」といった声が多く寄せられた一方、回収率の向上や実施店舗の分かりやすさ、返却導線の改善といった課題も明らかになった。
店舗側からは継続参加の意向が100%という前向きな反応が得られ、リユースカップが話題化や購買促進にもつながったことが共有された。
【ALUMNI PITCH①】静岡ブルーレヴズ×株式会社SyncLocal――試合日を“まちのにぎわい”へ変える二年目の挑戦
後半では、昨年度『FIELD』から生まれたプロジェクトの二年目の進捗が共有された。まず登壇したのは、静岡ブルーレヴズと株式会社SyncLocalだ。
静岡ブルーレヴズは昨年度、環境配慮型の観戦行動を促すアプリ施策を展開し、交通混雑緩和や来場者の環境意識向上に取り組んだ。今年度はその延長線上で、単なるスタジアム体験改善にとどまらず、「まちづくり」へとテーマを拡張。スポーツ庁事業にも採択され、観戦後に人々が磐田のまちへ流れ、地域店舗で消費し、にぎわいを生み出す仕組みづくりに挑んでいる。
SyncLocalが提供するソリューション(アプリ・LINEアカウント)を活用した新たなアプリでは、試合情報や環境配慮型ニュース配信に加え、移動手段の推定によるポイント付与、地域店舗のデジタルマップ、店舗からのリアルタイム情報発信などを実装。試合後に街なかへ立ち寄ることでポイントが貯まり、抽選会などにも活用できる設計となっている。
さらに、店舗側とのコミュニケーションにはLINEを活用。試合結果や天候に応じて、店舗がその場で訴求内容を変えられる柔軟な仕組みも用意された。実際、磐田駅前ではアフターマッチパーティーも行われ、これまで素通りされがちだったエリアににぎわいが生まれたという。
発表では、徒歩割合の増加など移動行動の変化も共有され、「スポーツチームの観客動線を変えることが、まちの経済にも影響を与える」という可能性が具体的に示された。スタジアムの外まで含めて体験を設計する取り組みとして、今後の展開も期待される。
【ALUMNI PITCH②】ベルテックス静岡×株式会社トワール――マスコットIPを“未顧客”へ届ける、二年目の進化
もう一組のプロジェクトは、ベルテックス静岡とトワールによるものだ。昨年度の『FIELD』では、クラブマスコット「ベルティ」を起点に、個人の内面特性のデータをもとにした12種類のキャラクター「ベルフレ」を開発。ユースチアダンスチーム向けワークショップを通じて、多様性を学ぶ教育コンテンツとしての可能性を検証した。
今年度はそれをさらに発展させ、スポーツ庁事業「SOIP」に採択。個人の内面特性を測る性格診断のシステム化、SNS発信、グッズ販売、選手との紐づけコンテンツ、研修実施など、IPを“実装”するフェーズへと進んだ。
成果としては、グッズ販売による売上創出や、スタジアムでの展開を通じたファン接点拡大が進んだことに加え、2月に開催された「SOIP」の成果報告ではオーディエンス賞も受賞。発表からは、事業の成長そのものだけでなく、関わる両社の熱量がプロジェクトを前に進めていることが強く伝わってきた。
さらに今後は、絵本出版も予定しているという。スポーツファンや来場者だけでなく、まだ競技やクラブに接点を持っていない“未顧客”へ、IPを通じてリーチしていく構想だ。スポーツビジネスを競技の枠内に閉じず、教育や子ども向け市場へ広げていく視点は非常に示唆に富んでいる。
【講評/閉会の挨拶】「一年で終わらず、二年目に進んでいること自体がすごい」
イベント終盤には、メンターから総括コメントが寄せられた。
共通していたのは、「単年度で終わらず、二年目に進んでいること自体が大きな成果だ」という見方だ。新規事業は一社単独でも継続が難しい。まして異業種同士が組み、限られた期間で仮説検証を行い、その先の実装にまで進むことは容易ではない。そのなかで『FIELD』発のプロジェクトが、国の事業採択や新たな実証、売上創出、他領域展開へと発展していることは、静岡におけるスポーツ共創の質の高さを物語っている。
閉会では、静岡県 スポーツ・文化観光部 スポーツ政策課 企画班 山口 晃汰氏が登壇。自身は今年度、沼津市役所からの交流職員としてスポーツ分野に関わったと明かしつつ、「本当に楽しかった」と率直な感想を語った。スポーツは、関わる人にワクワクや前向きな気持ちを生み出す力を持っている。その実感こそ、この一年の大きな収穫だったという。
また、静岡県が掲げる「しずおかスポーツ産業ビジョン」にも触れ、現在2863億円規模とされる県内スポーツ産業を、将来的には4700億円規模へと拡大していく構想を紹介。その核として、プロスポーツチームの存在に今後も大きな期待を寄せた。閉会後には参加者同士のネットワーキングの時間も設けられ、会場には次の共創につながる期待感が広がっていた。
取材後記
今回印象的だったのは、スポーツチームが“競技を見せる存在”にとどまらず、地域や企業をつなぐ実装主体になりつつあることだ。健康経営、環境行動、まちづくり、教育コンテンツ――。テーマは異なっても、いずれのプロジェクトにも共通していたのは、「スポーツだから人を巻き込める」という強みである。
さらに昨年度誕生したプロジェクトは、二年目に入り、外部資金の獲得や事業化に向けた磨き込みが進んでいた。静岡は、スポーツチームが多い地域であるだけではない。チーム、企業、行政、金融機関、メディアが交わりながら、その資産を地域全体の価値へ変えていこうとする土壌が着実に育ちつつある。静岡発のスポーツ×オープンイノベーションは、いま確かに次のフェーズへ進んでいる。
(編集・文:入福愛子、撮影:佐々木智雅)