新たなモビリティ体験、次世代清掃ロボット、環境配慮型建材、共食型ギフト――”相模原”を舞台に動き出した4つの共創プロジェクト!3期目『SIG』でカヤバ、アマノ、東急建設、大和製罐が示す新しい価値
相模原市が主催する『Sagamihara Innovation Gate(SIG)』は、市内企業と全国のパートナー企業をつなぎ、オープンイノベーションによる新規事業創出を目指す伴走支援型プログラムだ。3年目を迎えた今年度は、自社の課題解決や新領域への挑戦に意欲的な市内ホスト企業4社が、独自の開発テーマを掲げて参画した。
4カ月に及ぶインキュベーション期間を経て開催された今回の「DEMO DAY(成果発表会)」は、共創プロジェクトの成果と進捗を披露する集大成の場である。会場には副市長をはじめ、市内外の企業やベンチャー・スタートアップ企業、金融機関、支援機関や自治体関係者らが集結。リニア中央新幹線の開業を控え、進化が加速する相模原市のイノベーションエコシステムを体感できる熱気あふれる一日となった。
本記事では、2026年3月16日に相模原市内で開催された「DEMO DAY」の様子をレポートする。相模原を牽引するホスト企業4社(カヤバ、アマノ、東急建設、大和製罐)とパートナー企業による共創ピッチの模様、過年度も含めた『SIG』参加者が登壇したセッションの様子などを、ダイジェストでお届けしたい。
【CO-CREATION PITCH】 カヤバ、アマノ、東急建設、大和製罐―相模原を牽引する4社が共創の成果を発信
登壇したのは、次の4つの共創チーム。マッチング後、2025年11月に対面でのワークショップを行い、事業案を磨き上げた。その後、約4カ月のインキュベーション期間を経て、DEMO DAY当日の発表に至っている。
●カヤバ株式会社(ホスト企業)×株式会社ホーン(パートナー企業)
●アマノ株式会社(ホスト企業)×スピーシーズ株式会社(パートナー企業)
●東急建設株式会社(ホスト企業)×株式会社テックシンカー(パートナー企業)
●大和製罐株式会社(ホスト企業)×株式会社はせがわ(パートナー企業)
【共創ピッチ01】 『移動と感動が一体となった、新しいモビリティ体験を切り拓く』(カヤバ × ホーン)
カヤバと、「一人旅」を軸に事業展開するホーンは、カヤバが新たに開発した高級キャンピングカー『VILLATOR』(ヴィラトール)を、旅人と地方をつなぐハブとして活用する共創を開始した。
自治体の花火大会などのイベントによって一時的に観光客が訪れ、繁忙期を迎えるものの、イベント以外の時期では観光客が滞留しにくく、閑散期を迎えてしまう観光課題の解決を目指す。
プログラム期間中は、その手始めとして羽田空港隣接の「羽田イノベーションシティ」に『VILLATOR』を設置。花火大会を運営する自治体担当者など19名に参加してもらい、VIP席の模擬体験を提供した。車内には相模原市の特産品なども並べ、地域の魅力も感じることができるプライベートVIP席としての価値提供を目指した。
▲『VILLATOR』は富裕層を対象とした高級キャンピングカー。(画像出典:カヤバHP)
アンケートでは、従来のVIP席とキャンピングカーによるVIP席を比較したところ、ほぼすべての回答者が「キャンピングカーのほうが魅力的」と評価。また、スポンサー企業から協賛金を集める際の訴求ポイントとして活用できるかについては、約8割が「活用できそう」と回答した。
今後は、実際に花火大会の会場に『VILLATOR』を持ち込み、価値の磨き込みを進める予定。あわせて、イベントなどの繁忙期だけでなく、閑散期にも活用できる方法を検討していく方針だという。
【共創ピッチ02】 『“ロボットフレンドリーな社会”を実現する次世代清掃ロボットの共同開発』(アマノ × スピーシーズ)
清掃ロボットを展開するアマノと、ロボットの企画・開発を行うスピーシーズは、「人間のようにフレンドリーな業務ロボットの実現」を掲げて取り組んだ。具体的には、アマノの清掃ロボットにスピーシーズのコミュニケーションロボットを搭載し、清掃と案内・接客を両立できるロボットの試作を行っている。
プログラム期間中は、この実証機を相模原市役所および相模大野ステーションスクエア(商業施設)で稼働させた。その結果、従来の清掃ロボットでは見られなかった「人が足を止め、近づく」様子が確認された。子どもが手を振る場面もあり、ロボットが「受け入れられている」様子がうかがえたという。
▲実証機では、アマノの清掃ロボットの上に、スピーシーズのコミュニケーションロボット(レッサーパンダ型)を搭載。清掃をしながら、周囲の人とも会話ができコミュニケーションを図れる仕様とした。
こうした結果を踏まえ、これまではビルメンテナンス会社向けに提供してきた清掃ロボットだったが今後、接客機能を備えた新たな形として、商業施設の運営者向けにも展開していきたいと意欲を示した。
【共創ピッチ03】 『環境価値と技術革新で拓く、次世代建材の挑戦』(東急建設 × テックシンカー)
東急建設の技術研究所が着目する課題は、CO2排出量の約4割を占める建設業界の脱炭素化だ。この課題解決に向け、両社はカーボンクレジットを付与した環境配慮型建材のビジネスモデル構築に挑んでいる。
2026年度から大企業のGX-ETS(排出量取引制度)参加が義務化されることに伴い、J-クレジット需要の増加が見込まれ、追い風になるとする。一方で、カーボンクレジットの創出は複雑なプロセスを伴うため、この領域に専門性を持つテックシンカーと共に取り組むこととした。
テックシンカーは、AIを活用した脱炭素の実務と、J-クレジット創出を効率化するソリューションを提供している。プログラム期間中は、J-クレジット関連の市場調査や、調査を踏まえた東急建設社内での土台作り、そして建設業界向けカーボンクレジット創出のデジタル基盤づくりに取り組んだ。
▲東急建設は、廃棄される資源を活用した環境配慮型建材の開発に取り組んでいる。これは、地盤改良材で軟弱土を固形化したものだ。
こうした活動の結果、東急建設社内の事業部から「一緒に取り組もう」という声が上がり、社会実装に向けて動き出したという。今後は本格的なクレジット創出手続きと認証機関との調整を進め、5年後の環境配慮型建材の市場普及を目指す。最後に「建てるほど、地球がよくなる未来を切り開いていきたい」と展望を語った。
【共創ピッチ04】 『“子どもも大人も、高齢者も”すべての人にやさしい食卓の実現へ』(大和製罐 × はせがわ)
総合容器メーカーである大和製罐は、本業に加え、新規事業として介護食ブランド「エバースマイル」を展開している。嚥下に配慮した食品は介護食以外の市場でも受け入れられる可能性がある一方で、同社はBtoCの販売ルートを持たないことから、個人向け事業を展開するはせがわと連携して取り組むことを決めた。
はせがわは仏壇・仏具の販売を手がけ、全国に135店舗以上、アプリ会員30万人以上を有するほか、ライフスタイルショップ「田ノ実」の運営などを通じて豊富な顧客接点を持つ。こうした強みを掛け合わせ、多世代で楽しめる「共食型ギフト」の開発に着手した。
プログラム期間中は、需要検証として柔らかい和菓子『和とろり』(下画像)を試食で提供。世界観を表現するキャラクターやキャッチコピー、パンフレットを制作し、はせがわ相模大野店の相続セミナーや相模大野ステーションスクエアで試食会・調査を実施した(後者は約300人が参加)。さらに、はせがわ関東エリアの店長会でも65名に試食を行った。
その結果、「多世代で同じ食べ物を楽しむ」という考え方には約93%が共感。特に孫世代から「おいしい」との評価が得られ、「手土産に良い」「家族で食べたい」といった声も多く寄せられた。今後は全国展開を視野に、将来的にはバレンタインデーのような文化としての定着を目指したいと語った。
【TALK SESSION】 「事業化に向けた共創のリアル~挑戦を続ける市内企業の声~」
続くトークセッションでは、今年度および過年度に『SIG』へ参加したホスト企業3社の担当者が登壇。オープンイノベーションに取り組む理由や、『SIG』への参加がもたらした変化について、活発な議論が交わされた。
<登壇者>
・カヤバ株式会社 髙松伸一 氏(2023年度/第1期『SIG』に参加)
・東プレ株式会社 川浪隆幸 氏(2024年度/第2期『SIG』に参加)
・大和製罐株式会社 大原菜桜子 氏(2025年度/第3期『SIG』に参加)
・株式会社eiicon 岩根隼人 氏 ※モデレーター
【トークテーマ①】 なぜオープンイノベーションに取り組んだのか?
オープンイノベーションに取り組んだ背景について、東プレ・川浪氏は次のように振り返る。「新製品を早く立ち上げる必要があり、開発を効率化して、良いものを素早く生み出そうとしていたタイミングで、『SIG』への参加の話をもらった」という。実際に共創パートナーであるエイゾス社とAIを活用した設計の効率化に取り組む中で、設計のスピードは大きく向上したと、その手応えを語った。
▲東プレ・川浪氏
【トークテーマ②】 『SIG』を通じて、社内にどのような変化があったのか?
『SIG』を通じた社内の変化について尋ねられたカヤバ・髙松氏は、今年1月に研究所から経営企画本部「新事業イノベーション企画準備室」に異動となった自身の立場の変化と重ねて語る。研究所に所属していた当時は自由度が高く、自ら設定した目標に対して柔軟に取り組める環境にあった一方で、その成果を事業として外に展開する難しさを感じていたという。
背景には、自動車関連事業を中心とする同社において、品質や開発プロセスに関する厳格な規定が存在していたことがある。こうした既存事業の厳しい規定を研究所にもそのまま当てはめると、新しい事業は生まれない。こうした認識が、『SIG』での取り組みなどを通じて徐々に社内で広がり、今年の1月に、髙松氏が所属する新しいチームが立ち上がったという。ここでは、新規事業創出の制度設計が進められていることも紹介された。
▲カヤバ・高松氏
【トークテーマ③】『SIG』は市内企業同士の関係性をどう変えたか?
『SIG』では、ホスト企業同士での工場見学の実施や懇親会の開催など、市内企業間の関係構築にも取り組んできた。これについて大和製罐・大原氏は、本事業が3年目を迎える中で、これまでの積み重ねにより企業同士の良好な関係が築かれていることを紹介。物理的に近い立地に加え、交流会などを通じて関係性が深まってきているという。
また、「利害関係がない」ことも大きいとし、通常の企業間では発注などの関係性を意識する場面も多いが、『SIG』ではそうした前提がないため、立場にとらわれず意見交換ができていると述べた。
▲大和製罐・大原氏
最後に登壇者より、デモデイまでに成果が出るか不安でも、とりあえず踏み出してみることが重要だというメッセージが示され、トークセッションは閉じられた。
【KEYNOTE SPEECH】 「未来を切り拓くためのオープンイノベーション~イノベーションが生まれるまち“さがみはら”~」
DEMO DAY最後のコンテンツは、パラレルキャリアエバンジェリスト・常盤木氏による基調講演。常盤木氏は、相模原市が持つ圧倒的なポテンシャルについて熱弁した。
常盤木氏は、相模原市が昨年11月に公表したリニア駅周辺まちづくりイノベーション戦略に言及。「県央・多摩地域等の広域な産学官のビジネスコミュニティやネットワークの形成、市内での新規事業開発、産学官連携の推進といった取り組みが、相関性をもって整理されている点」を評価した。さらに、強固な地盤、都心へのアクセス、産業基盤、都心と比べて手頃な地価など、さまざまな条件がそろっていると相模原の強みを提示。国も今、注目するエリアであると述べ、「このビッグウェーブに乗ることが重要だ」と強調した。
▲常盤木龍治 氏(パラレルキャリアエバンジェリスト/岡野バルブ製造株式会社
取締役 軍師 DX推進本部長/株式会社EBILAB 取締役ファウンダー CTO CSOほか)
加えて、自身の豊富な事業開発事例を紹介しながら、オープンイノベーションは企業の枠を越えた「越境チーム」によってこそ価値を生むと指摘。腹を割って議論できる関係性の重要性を強調する。自社単独では難しい挑戦も、産学官連携やコミュニティの力によって実現可能だとし、「お互いが相模原を使い倒す」を合言葉に取り組むべきだと語る。最後に常盤木氏は、「相模原の強みを活かし、日本と世界を輝かせよう。次代につながる変革と挑戦を起こそう」と呼びかけた。
【講評/副市長・閉会の挨拶】 「相模原は未完成、一人ひとりが挑戦者として関わってほしい」
『SIG』のメンター3名が講評を行った。曽田氏は「全員が当事者として関わり続けなければ、どこかで途切れてしまう。コミュニティができあがった今が、まさにターニングポイントで、ここからどれだけ伸ばしていけるかが重要だ。この場を皆でつくり続けることが、相模原のエコシステム形成につながる」と述べ、参加者一人ひとりが当事者として関わる重要性を呼びかけた。
▲曽田将弘 氏(株式会社eiicon 地域イノベーション推進部 1グループ マネージャー)
村田氏は、「オープンイノベーションを実施すること自体が目的になってはいけない。最終的には成果を出すことが重要だ」と指摘。2社間や複数社での取り組みに満足するのではなく、「どのような世界をつくりたいのか、何に取り組みたいのか」という原点に立ち返りながら、プロジェクトを前進させてほしいと伝えた。
▲村田宗一郎 氏(株式会社eiicon 常務執行役員CHRO)
常盤木氏も、オープンイノベーションは遠くにある目標に到達しやすくする手段だとし、世の中が大きく変化し続ける今、「連携の重要性がこれまで以上に高まっている」と述べ、連携しながら挑戦することの重要性を訴えた。
▲常盤木龍治 氏
最後に、主催者である相模原市より副市長の奈良浩之氏が閉会の挨拶を行った。奈良氏は、「相模原市は、まだまだ未完成。ぜひ、今日の熱量をそのまま維持してほしい」と述べた。
▲奈良浩之 氏(相模原市 副市長)
さらに、「一人ひとりが傍観者になるのではなく、ぜひ挑戦者として関わってほしい」と呼びかけ、会場の一体感が高まる中、イベントは幕を閉じた。
取材後記
3年目を迎えた『SIG』は、単年度開催の共創プログラムから、企業同士が継続的に関係を築くビジネスコミュニティへと深化を遂げている。ホスト企業はもちろん、参画するパートナー企業にとっても、新たな接点や実証機会を獲得できる場としての価値が広がっている。相模原は立地の優位性に加え、リニア中央新幹線の開業を見据えた都市開発の進展など、ビジネスチャンスに富んだ環境だ。この大きな変化を好機と捉え、「次へと歩き始めた相模原」で、新たな価値の社会実装に挑む当事者として関わってみてはどうだろうか。
(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)