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相模原市を舞台にしたオープンイノベーションプログラム、3期目が始動!――市内ホスト企業(大和製罐・アマノ・カヤバ・東急建設)に実現したい未来像を聞く【後編】

相模原市を舞台にしたオープンイノベーションプログラム、3期目が始動!――市内ホスト企業(大和製罐・アマノ・カヤバ・東急建設)に実現したい未来像を聞く【後編】

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神奈川県相模原市は、新たなビジネス展開に向けた実証事業に挑戦する市内企業と、必要な技術・ノウハウを持つパートナー企業をマッチングし、オープンイノベーションによる新規事業開発の伴走支援を行う『Sagamihara Innovation Gate(SIG)』を、令和5年度(2023年度)より実施している。

今年度で3期目を迎える本プログラムは、市内企業がホスト企業となり、自社の課題や取り組みたいテーマを提示して全国から共創パートナーを募集。マッチングした企業と共に、新規事業開発や課題解決に挑む取り組みである。

これまで計7社が参画してきたが、今年度は次の4社が参画することとなった。

<共創テーマを提示する相模原市内企業(4社)>

●大和製罐株式会社(金属製品製造業)

●アマノ株式会社(機械製造業)

●東急建設株式会社(総合建設業)

●カヤバ株式会社(輸送用機器製造業)

そこでTOMORUBAでは、プログラム主催者である相模原市と、共創テーマを掲げてパートナーを募る市内企業4社に取材を実施。プログラムを通じて目指す未来像について話を聞き、その内容を前編・後編の2回に分けてお届けする。

――前編に続き、後編となる本記事では、ホスト企業であるカヤバ、東急建設の2社へのインタビューの模様を紹介していく。

【カヤバ】 「移動と感動が一体となった、新しいモビリティ体験を切り拓く」

――まず、御社の事業内容についてお聞かせいただけますか。

カヤバ・永井氏: カヤバの主な事業は、大きく3つあります。1つ目は、サスペンションやパワーステアリングなどを扱う自動車向けの「AC(オートモーティブコンポーネンツ)事業」。2つ目は、建設機械向けの油圧機器を製造する「HC(ハイドロリックコンポーネンツ)事業」。そして3つ目が、コンクリートミキサー車などの完成車を製造する「特装事業」です。今回のプログラムへは、特装事業部が取り扱うプロダクトをテーマに、基盤技術研究所と共同で参画しています。

▲カヤバ株式会社 技術本部 基盤技術研究所 情報技術研究室 主任研究員 永井勇冴 氏

――『Sagamihara Innovation Gate』に参加を決めた理由もお伺いしたいです。

カヤバ・永井氏: 弊社は今回で3期連続の参加となります。もともとの参加の背景ですが、弊社は1919年の創業から100年以上にわたり、「モノづくり」を軸にさまざまな製品を世の中に送り出してきました。しかし近年では、モノづくりだけでは十分な価値提供が難しくなってきており、「コト売り」へと事業領域を広げる必要性を感じています。

ただ、当社は長年製造業一筋で事業を継続してきたため、新しい領域へ一歩を踏み出すには、自社のリソースだけでは限界があるのも事実です。そのような中で出会ったのがこのプログラムでした。オープンイノベーションという手法を用いることで、「コト売り」という新たな領域に挑戦できるのではないかと考え、参加を決めました。

――過去2回のプログラムでは、どのような成果がありましたか。

カヤバ・永井氏: オープンイノベーションに取り組んだことで、これまでクローズドイノベーションに偏っていた社内風土が、確実に変わりつつあるという手応えを得られています。私自身も、スタートアップや異業種の方々と接する中で、異文化交流のような体験ができ、新しいプロダクトを生み出す際の視野が広がったと感じます。

カヤバ・原氏: 世の中の変化のスピードが速いため、戦略を考える際にはイノベーションを前提とするという考えが、社内で徐々に強まってきました。プログラムに関わるメンバーの熱量も高まり、新しいことにチャレンジしようという姿勢が少しずつ見えてきているのは、大きな変化だと思いますね。

▲カヤバ株式会社 技術本部 基盤技術研究所 情報技術研究室 室長 原靖彦 氏

――今回、御社が取り組みたいテーマについてお伺いします。自社開発のキャンピングカー『VILLATOR』(ヴィラトール)を軸にテーマを設定されましたが、なぜこのテーマを選ばれたのですか。

カヤバ・峯田氏: 自動車部品や特装車両を手がけてきた弊社にとって、『VILLATOR』はこれまでにない新たな領域への挑戦です。モノづくりは社内で進めてきましたが、より高い付加価値を加えて広く展開していくには、外部の方々の力が欠かせないと考えました。そうした背景から、このキャンピングカーを軸に今回のテーマを設定しています。

▲カヤバ株式会社 特装車両事業部 熊谷工場 管理部 峯田大輔 氏

――『VILLATOR』はどのような特徴を持つキャンピングカーなのですか。

カヤバ・峯田氏: 主な特徴は3つで、1つ目は「旅先に別荘を持ち運ぶ」というコンセプトのもと、和風でラグジュアリーな内装を施している点です。2つ目は、車両後方にデッキを展開できる構造になっており、停車後に外へとつながるベランダのような空間を楽しめます。3つ目は、弊社が長年培ってきたサスペンションなど足回り部品の技術を活かし、専用サスペンションを搭載している点。これにより、山道などの悪路でも快適に移動できる走行性能を実現しています。

すでに展示会にも出展しており、これらの特徴に対して高い評価をいただいています。なお、この『VILLATOR』は、コンクリートミキサー車などを手がける熊谷工場で開発しており、特装事業部の技術とノウハウを活かして開発を進めている点もポイントです。

▲『VILLATOR』は富裕層を対象とした高級キャンピングカーとして販売中で、今回のプログラムの実証においては、レンタルでの提供も検討している。(画像出典:カヤバHP

――実現したい共創のイメージを3つ挙げていただきましたが、それぞれについて詳しく教えていただけますか。

カヤバ・永井氏: 1つ目の「“やりたい”が出発点の体験設計の実現」についてですが、『VILLATOR』ではラグジュアリーな空間を贅沢に活用し、従来のキャンピングカーでは味わえない体験の提供を目指しています。例えば「満天の星空を車内から眺めたい」「美しい海辺で景色を楽しみたい」といった“やりたいこと”を起点に、旅のプランを提案できるサービスの構築を検討しています。『VILLATOR』をツールとして活用し、お客様へ優雅で楽しい旅を提供していきたいです。

2つ目の「道中の楽しみを広げるプランの構築」についてですが、大きな車ならではの課題として、観光地で道が狭かったり、駐車場が見つからなかったりすることがあります。そこで、必ず駐車場が確保されているなど、移動中の困りごとを解決できるサービスを模索しています。あわせて、その季節や場所でしか出会えない絶景を楽しめるルート提案なども行い、課題解決だけでなく移動をより魅力的な体験に変えることを目指して設定したのが、この2つ目です。

3つ目の「移動するだけでない“新しい空間”の価値創出」ですが、この車は広々としたリビング空間を備えています。目的地ではその空間を十分に活用できますが、移動中は道路交通法の関係で、活用しきれないのが現状です。そこで、移動中の空間活用という視点から、新たな使い方を模索したいと考えています。また、今回はリビングルーム仕様ですが、将来的にはまったく異なる内装にして、新しいモビリティ体験を提案することも視野に入れています。そうしたアイデアもぜひお寄せいただけると嬉しいです。

カヤバ・東口氏: 1つ目と2つ目は、旅をテーマにキャンピングカーの一般的な使い方にさらなる付加価値を加えたいという考えから生まれたものです。一方で3つ目は、旅から離れて車内空間そのものの価値を高める試みです。『VILLATOR』には上質な空間があるので、それを活かして新しい体験を生み出したいと考えています。いずれのテーマも、固定概念を超えるような価値観を持つ人たちとご一緒できればと思っています。

▲カヤバ株式会社 営業本部 営業戦略部 専任課長 東口 真布 氏

――御社と協業するメリットについてもお伺いしたいです。

カヤバ・永井氏: 『VILLATOR』の実験用車両を1台、試験的にご利用いただける形で提供可能です。また、当社は自動車部品の開発を通じて培ってきた計測技術を有しています。本プログラム1期目のテーマでもあった『スマ道(R)』(※)も実用化に向けて完成しつつあり、車体の位置情報や振動のセンシング・記録といった計測環境もご提供できます。さらに、製造業である弊社のモノづくりノウハウやテスト環境といったアセットも、共創においてご活用いただけるでしょう。

※『スマ道(R)』(スマート道路モニタリング)……車両挙動の計測/分析技術にAI/IoT技術を融合させ、路面性状を自動診断する道路維持管理業務支援サービス

――最後に、応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。

カヤバ・永井氏: カヤバにとって、キャンピングカー事業は新しい事業領域への挑戦です。パートナー企業の皆さまに助けていただきながら、一緒に手を携えて事業成長に向けて歩みを進めたいと思うので、よろしくお願いいたします。

カヤバ・峯田氏: 『VILLATOR』を使って新しい文化を創出するようなイノベーションを興せればと考えています。ぜひ一緒に取り組みましょう。

カヤバ・原氏: このプロジェクトには従業員もワクワクしながら取り組んでいます。お客様の想像を超え、私たち以上にワクワクしていただける体験を提供できれば、素敵な世界が拓けると考えています。そこを一緒に目指していければと思います。

カヤバ・東口氏: 今回で3回目の参加ですが、1年目は相模原の研究所内、2年目は研究所と工場、3年目の今年は熊谷工場も加わりました。今年は総決算の年として、完成品のモビリティと研究所の情報通信技術を掛け合わせ、総決算に相応しい成果を狙っていきますので、ぜひご応募ください。

【東急建設】 「環境価値と技術革新で拓く、次世代建材の挑戦」

――まず、御社の事業内容と香月さんの役割についてお聞かせください。

東急建設・香月氏: 弊社は総合建設業として、土木・建築事業を中心に多様な事業を展開しています。特に知られているところだと、渋谷の再開発を行っているほか、東急沿線の駅や周辺地域の街づくりなどに積極的に取り組んできました。私が所属する建築材料グループでは、コンクリートなどの建築資材や地盤改良材の開発を行っており、その中で地盤を固めたり、浄化したりする改良材の研究開発が私の主な担当業務となっています。

▲東急建設株式会社 技術研究所 建築基盤技術研究部 建築材料グループ 香月智佳 氏

――『Sagamihara Innovation Gate』に参加を決めた理由をお伺いできますか。

東急建設・香月氏: 私が担当する地盤改良材の開発では、従来はセメント系の材料が多く使われてきました。しかし、これらの材料は二酸化炭素の排出量が多く、カーボンニュートラルの実現において課題となっています。そこで、排出量が少なく環境に配慮した材料の開発を模索してきました。

その中で注目しているのが廃棄物です。廃棄される資源を活用し、土を固められる新しい材料の開発に取り組んでいます。今回は研究所のある相模原市で、廃棄物を出す企業や、それを扱う企業と連携し、環境配慮型の材料開発を進めながら、地域の活性化にもつなげていきたいと考えて応募しました。

▲香月氏が手にしているのは、地盤改良材で軟弱土を固形化したもの。

――東急建設グループが2021年3月に策定した企業ビジョン『VISION2030』では、地球環境への配慮が大きな柱の一つとされています。今回の取り組みも、その方向性と関係しているのでしょうか。

東急建設・香月氏: はい、もちろんです。弊社は長期経営計画で、「脱炭素」「廃棄物ゼロ」「防災・減災」の3つを掲げていますが、今回の取り組みでは、特に「脱炭素」と「廃棄物ゼロ」への貢献を目指した研究開発に取り組みたいと考えています。

――古川さんにお聞きしたいのですが、このプログラムに期待することは?

東急建設・古川氏: 私たちは民間企業ですから、ある程度早い段階でゴールを見つける必要があり、研究開発でも自社の持つデータや知識の範囲内で、可能性が見えている領域に手を出しがちです。しかし、今回の『Sagamihara Innovation Gate』ではパートナー企業の皆さんと一緒に取り組むことで、自社にはない視点や新しい知見に触れられるのではないかと期待しています。

▲東急建設株式会社 技術研究所 建築基盤技術研究部 建築材料グループ グループリーダー古川雄太 氏

――続いて、共創で実現したい内容についてお聞かせください。また、挙げていただいた3つの共創イメージについても、それぞれご紹介いただけますか。

東急建設・香月氏: まず私たちが一番に目指しているのは、土を固める性質を持つ廃棄物を扱うメーカーや企業の方々とつながることです。また、自社の知見とは異なるアイデアや技術を持つ方々と協力しながら、新しい可能性にも挑戦していきたいと考えています。

1つ目の共創イメージ「環境貢献建材×制度活用による共同提案モデルの構築」についてですが、開発した環境に優しい地盤改良材を社会に広く活用してもらうには、ディベロッパーに対してどのように提案・販売していくかが重要です。そこで、例えば、Jクレジット制度や補助金などの活用をサポートしてくれる企業と連携し、ディベロッパー向けの共同提案モデルを作りたいと考えています。

――現状、どのような形で販売をしておられるのですか。

東急建設・古川氏: 弊社では、弱い地盤を健全な状態に改良し、改良済みの土地をお客様に引き渡す形をとっています。つまり、提供しているのは材料ではなく、改良後の地盤そのものです。今回はこの形に加え、ディベロッパー向けに新たな提案モデルを構築したいと思っています。

――2つ目、3つ目についてはいかがですか。

東急建設・香月氏: 2つ目の共創イメージ「副産物・廃棄物由来の素材による高付加価値な地盤改良材の開発」については、カルシウムやシリカなど土を固める成分を多く含む廃棄物をパートナー企業からご提供いただき、それを活用して環境に優しい地盤改良材を共同で開発できればと考えています。現在、焼却灰やガラス端材、貝殻などで良好な実験結果が出ており、こうした廃棄物をお持ちの企業と連携できると嬉しいです。

3つ目の「地盤改良材に革新をもたらす“新素材”の技術やアイデア」ですが、これまでの私たちの知見や研究で可能性を見込める材料・成分が、先ほどの2つ目で挙げた例にあたります。一方で、この3つ目では、私たちが想像もしなかった全く異なる業界から出てくる端材や廃棄物も検討したいと思っています。「こんな材料も使えるのでは」といった知見を提供していただき、未知の分野にも挑戦していきたいです。

東急建設・古川氏: 会社が掲げる「脱炭素」や「廃棄物ゼロ」を研究開発で達成するのは、すでに当たり前のことです。そのうえで、さらに付加価値をどうつけるかが、現在の研究所の役割だと思っています。今回掲げた3つの共創イメージは、そのヒントや種を少しでも得たいという思いから設定しています。

――御社と協業するメリットについてもお伺いできますか。

東急建設・古川氏: 弊社はゼネコンとして研究所を構えており、研究開発に必要な設備は一通り揃っています。これらの設備を共創で活用していただけます。また、渋谷や東急沿線を中心に仕事をしているため、何かモノが完成した際の実証フィールドを提供できる点も大きなメリットだと考えています。

東急建設・香月氏: 地盤改良材の開発に使える設備には、例えば、材料を練るミキサーや、固まった後の強度を測る試験機、さらに化学分析に用いる電子顕微鏡などがあります。また、他部署に協力してもらうことも可能です。私たち建築材料グループのほかに、地盤・基礎グループや土木分野の地盤専門チームもあります。建築と土木の両分野で連携しながら、プロジェクトを進めていきたいと考えています。

▲共創を進める上で活用できる研究所の電子顕微鏡。

――最後に、応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。

東急建設・香月氏: 地盤改良材という狭い分野での募集になりますが、もしこれまで活用されていない廃材や処理に困っている材料があれば、それらを有効活用してぜひ一緒にカーボンニュートラルの実現を目指していきませんか。

東急建設・古川氏: 私たちは総合建設業で、主なお客様はディベロッパーです。他社との差別化によって、そうしたお客様から選ばれる存在になりたいと思っています。脱炭素や廃棄物ゼロの取り組みは今やほぼ当たり前となっており、これからはそこにさらに付加価値を加えることが重要です。

そこで、パートナー企業の皆さまからアイデアをいただき、一緒に実用化し、私たちの実証フィールドで検証を進めるストーリーを描きたいと考えています。このプログラムでは、どんなに小さなアイデアでも歓迎していますので、お客様に選ばれるきっかけを共に創り上げていければと思います。

取材後記

「清掃ロボット」や「地盤改良材」といった社会課題に関連するテーマから、「キャンピングカー」や「全世代向け食品」などの身近な生活に密着したテーマまで、多彩な4つの募集テーマが並んだ今回の『Sagamihara Innovation Gate』。各テーマ担当者の熱意は今まで以上に高く、「相模原からイノベーションを生み出そう」という強い思いが伝わる取材となった。また、神奈川県との連携による相模原市・橋本駅周辺を中心とした広域スタートアップ支援ネットワーク形成事業もスタートしている。リニア中央新幹線の新駅開業に向け、ますます活気づく相模原市にぜひ注目してほしい。

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:加藤武俊)

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