「日本の縮図」静岡市で、共創の力で社会課題に挑む――知・地域共創コンテスト『UNITE2025』二次審査会レポート!実証フェーズに進むのは?
行政がスタートアップなどとタッグを組み、複雑化する社会課題の解決を目指す、静岡市の共創コンテスト「知・地域共創コンテスト」が昨年度に引き続き開催された。今年度の第2期では、昨年度の2部門(UNITE/BRIDGE)を『UNITE』に統合し、静岡市が直面する18のリアルな課題テーマと自由テーマを設定。この行政の「本気」の呼びかけに、全国から200を超える事業アイデアが寄せられた。
厳正な一次審査を通過したのは10チーム。共創企業は各課題を所管する静岡市の行政職員と「共創チーム」を結成し、9月からの約2ヶ月間にわたって現場の解像度を上げながら、実装に向けたプロジェクトを磨き上げてきた。
11月7日には静岡音楽館AOIの講堂で二次審査会(ピッチコンテスト)が実施され、会場を熱気に包みこんだ。――本記事はコンテストの模様を紹介する。
環境、農業、都市基盤、防災などをテーマに、行政と磨いた共創プランを披露
各チームのピッチは、共創性や社会インパクトなど5つの基準で審査された。選定されたチームは、今後最大1年間、最大500万円の実証支援金を活用して実証実験フェーズに進む。選定に至らなかったチームにも、改善次第で実証の道が残される。また、静岡市では社会実装段階での出資制度も用意。社会課題解決への有効性が示され社会実装に至る事業に対し、更なる後押しを行う。
本コンテストの審査は、新規事業や官民共創、社会課題解決型事業に係る知見を有する以下の5名が務めた。
▲山田栄子氏(静岡市 DX政策監)
▲篠原豊氏(一般社団法人静岡ベンチャースタートアップ協会 理事長、エバーコネクト株式会社 代表取締役)
▲川崎浩充氏(一般社団法人官民共創未来コンソーシアム 理事)
▲守屋智紀氏(一般財団法人社会変革推進財団 インパクト・オフィサー)
▲石間涼氏(静岡キャピタル株式会社 シニアディレクター)
ピッチは10チームが各7分の持ち時間で行われた。ここからは、実証フェーズに進む6チームのピッチを中心に紹介する。
●【環境領域】 『共生菌による持続可能且つ高収益な次世代型再造林モデルの形成』
(株式会社エンドファイト × 森林経営管理課)
※最優秀賞受賞
全国の森林は伐採後4割程度しか再造林されておらず、静岡県でも6割程度に留まっている。高い栽培コストや維持管理の困難さ、収益化までの時間などの課題が、林業従事者や苗木生産者の大幅な減少を招き、未来の森林資源の喪失や防災機能の低下が懸念されている。これを受け、エンドファイトが持つ微生物技術と、日本製紙が生産する「エリートツリー」を掛け合わせた、高収益な再造林モデルの形成を目指す。
具体的には、エンドファイトが保有する世界最大級の共生菌(DSE)ライブラリから、植物の生育促進やストレス耐性を向上させる菌を選抜。これを、成長が速く花粉が少ないなどの特徴を持つ日本製紙のエリートツリー苗木に共生させる。DSE共生のエリートツリーの再造林で、植栽後の生存率向上や生育サイクル短縮、下刈りなど栽培コストの大幅な改善(年間約600万円)を見込む。
今後、まずは静岡市で実証を行い、5年以内に県内の再造林率を20%改善させる「静岡モデル」の確立を急ぐ。本チームは「収益性が高く、環境再生にも準拠した世界に通じる森林都市モデルを作りたい」と意欲を見せた。なお、審査の結果、「最優秀賞」を獲得した。
●【都市基盤領域】 『静岡発・未利用資源の再定義──下水汚泥が育てる“おいしい未来”』
(株式会社Quantaris Lab × 下水道計画課・農業政策課)
※オーディエンス賞受賞
輸入に依存する化学肥料の高騰が農家経営を圧迫している。都市の栄養が集積した下水汚泥(静岡市では1日150トン)を資源として活用しようと考えるものの、安全性の担保やネガティブなイメージがぬぐい切れないのが現状だ。これを受け、静岡県立大学発ベンチャーのQuantaris Labが持つ技術を活用し、下水汚泥から高品質な濃縮バイオ液体肥料「Bio-CLF」の製造に取り組む。このBio-CLFの基本技術は矢部九州大学名誉教授が開発したものであり、その協力を得て研究・開発を進め、研究成果を社会実装へとつなげていく予定だ。
この肥料は従来型と異なり透明で、点滴チューブが詰まらないなどの特徴があり、施設園芸での利用に適している。今後、まず静岡市の伝統農法「石垣栽培」を行ういちご農園『ストロベリーフィールド』と連携し、Bio-CLFを用いて「静岡石垣いちご」を栽培。下水汚泥のマイナスイメージを払拭しながら、地域資源循環における未利用資源の再定義を進める。
さらに、農家へは肥料を安価に提供し、汚泥処理プロセスで発生するCO2排出権をGX-ETS(排出量取引制度)に参加する大企業や自治体に販売。その利益で持続可能な農業システムの構築を試みる。「大学発ベンチャーの利点を最大限に活かしながら、地域や農業の活性化の一助となりたい」と、新たな循環モデル構築への意欲を語った。なお、本チームは会場からの投票の結果、「オーディエンス賞」を獲得した。
●【環境領域】 『持続可能なごみ収集体制の構築~「いつまでも美しいまち静岡」の実現~』
(小田急電鉄株式会社 × 収集業務課)
現在、ごみ収集の現場は、集積所の増加、作業員の高齢化や人手不足、ノウハウの属人化の問題に直面している。他方、自治体側も収集コストの増加や、今後の資源循環への対応、収集体制のブラックボックス化に頭を抱えている状況だ。これを受け、「ごみ収集作業の情報を可視化・共有化する技術」と「ごみ収集体制を自動で最適化する技術」を掛け合わせたソリューションの構築を目指す。
具体的には、小田急電鉄の既存システム「WOOMS App & Portal」で作業の可視化とデータ蓄積を行う。その上で、蓄積データを基に最適なルートや台数を自動提案する「Route Optimization」を新たに開発。これは全国初となる自動最適化システムだ。
この新システムで、業務の効率化やコスト削減を図り、市民生活や地球環境に好影響を与えることができる。まずは静岡モデルを確立し、2028年からは他市展開を計画している。本チームは「いつまでも美しいまちが叶う仕組みを全国へ届けたい」と意気込んだ。
●【農業領域】 『グローバル展開支援によって、静岡市を“世界に選ばれるお茶産地”へ』
(ShipMate株式会社 × 農業政策課)
静岡市の茶業は、茶農家数が25年で85%減少し、1軒あたりの所得が約200万円に留まるなど、その存続は危機的状況にある。日本茶の輸出は順調に拡大しているものの、市内の茶業者は小規模事業者が中心で、海外発送の煩雑さや業務負担の大きさから、輸出に十分対応できていない。また、海外バイヤーが茶を輸入する際、小ロットでは送料の割合が高くなるため、複数の茶業者の商品を少量ずつまとめて仕入れ、送料負担を軽減できる仕組みが求められている。
こうした課題を解決するため、専門知識がなくても誰でも簡単に海外へ小口発送できる越境ECプラットフォームの構築を試みる。ShipMateは既に日本郵便との連携を果たしており、インボイスや関税告知書など複雑な発送書類の自動作成も可能だ。現在はJAしみずが倉庫機能を担い、複数の事業者の商品を一つにまとめて発送する試験実装をフランス向けに実施。事務作業の簡略化に成功している。
まずは市が取り組んでいるフランスとオーストラリアにおける輸出拡大の取組みにて実証実験を行い、参画する茶業者の拡大と茶業者の所得倍増を目指す。本チームは、高品質な「静岡のお茶」を海外へ届け、「世界に選ばれるお茶のまち」を実現したいと熱弁を振るった。
●【農業領域】 『「生産×流通×消費」でつくる持続可能なしずおか有機農業モデル』
(株式会社坂ノ途中 × 農業政策課)
静岡市は2025年3月に「オーガニックビレッジ宣言」を行ったが、市が把握する有機生産者21人のうち、野菜農家は1割弱。生産者は「販路がない」、小売店は「接点がない」という「生産」「流通」「消費」の各段階で課題を抱えていた。これらの課題を同時に解決し、持続可能な有機農業モデルの構築を目指す。
具体的には、まずイオンリテールなど協力店での実証販売や商談会を通じ、売り先を確保。消費の充実を図る。続いて、坂ノ途中が開発した受発注システム「farmO」を試験導入し、流通を改善。生産の担い手が不足している点については、坂ノ途中が培ってきた新規就農者支援のノウハウを活かし、研修プログラムを実施する。
出口(販路)を作りながら、生産者を育てるモデルを構築する考えだ。チームは「環境への負荷を低減し、地域が潤う農業の仕組みづくりに貢献したい」と決意を新たにした。
●【防災領域】 『実行性の高い要支援者避難支援の仕組みづくりにより、誰もが安心安全の静岡市へ』
(株式会社建設システム × 福祉総務課)
災害時に自力で避難できない高齢者や障害者などを地域(共助)で支える「避難行動要支援者避難支援制度」には、運用上の大きな課題がある。市が年1回、約1000の自治会に配布する要支援者名簿が紙で管理されているためだ。紙のままでは避難指示などの防災情報と連携できず、発災時に「誰が避難できたか」「どの支援者が動けるか」など安否情報をリアルタイムで共有することも困難。自治会からも「紙では支援が難しい」との声が上がり、支援者の担い手確保も進まない状況にあった。
この課題を解決するため、建設システムが有する総合防災アプリ「クロスゼロ」を活用し、「地域ぐるみで支援する仕組み」の構築を試みる。具体的には、平時から支援者と要支援者の情報(必要な支援内容や避難経路など)をアプリに登録。発災時には、支援者自身の安否や、要支援者の安否確認・避難誘導の状況をアプリ上でリアルタイムに共有できるようにする。紙で散在していた情報をデジタルで統合し、支援の実行性を高める。来年度、一部自治会での試行を目指す。本チームは「他地域にも普及したい」と熱意を見せた。
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また、惜しくも二次審査は通過しなかったものの、以下の4チームも高い評価を獲得している。コンセプトやビジネスプランを再度練り上げ、再チャレンジに期待したい。
●【スポーツ・健康】『LOOVICと歩む!静岡市民の運動習慣定着』
(LOOVIC株式会社 × スポーツ振興課)
●【まちづくり】『静岡から始まる!涼しい鈴なりの回廊と 持続可能な社会と 思いやりの心!』
(鈴田峠農園有限会社 × 景観まちづくり課、都市計画課)
●【まちづくり】『蒲原・由比のまちのまちらしさを未来へ ― 空き家を地域資源にできる関係と仕組みのデザインモデル』
(合同会社つばめ制作社 × 住宅政策課、清水区役所蒲原支所、清水まちづくり推進課、歴史文化課)
●【福祉・医療】『静岡市中山間地域のオンライン診療による、誰もが医療を受けられ安心して暮らせる社会の実現』
(株式会社アイティ・イニシアティブ、株式会社SBS情報システム × 保健衛生医療課)
昨年度の採択チームが進捗を報告――複数の事業で社会実装が実現
ピッチコンテストの後、昨年度に採択された事業の進捗が報告された。まず、昨年度の選定事業について、静岡市 産業政策課の遠藤氏が説明を行った。
行政課題発信型の『UNITE』では、採択された5事業のうち「世界とつながる静岡のお茶ツーリズム」事業が社会実装を実現。現在はインバウンド対応として茶畑ガイドの育成や、茶農家の負担を軽減するためのツーリズム窓口の設置に取り組んでいる。今後はお茶ツーリズムの仕組みの本格運用に向けた環境整備を進める予定。このほか、2事業も実証を継続中だ。
スタートアップ提案型の『BRIDGE』では優秀賞5事業のうち、株式会社Livelyと株式会社天神屋の事業が社会実装を実現。チャットボットを起点に健康相談でウェルビーイングを推進する取り組みが紹介された。ほか4事業が実証を継続している。
続いて、昨年度UNITE最優秀賞を受賞した「はこエネチーム」が登壇。同チームは、地域の太陽光発電の余剰電力をバッテリーに貯め、バッテリー交換式EVや他用途、災害時に避難所の電源へ活用することで、再生可能エネルギーの地産地消、地域防災力の強化、運輸部門のカーボンニュートラル化を目指す。
今回の実証実験には、当初の実証メンバー4社から、実際のユーザーとなる6団体が加わり、合計10社で取組を実施していく。2025年12月から2026年2月にかけ、静岡市内の脱炭素先行地域に「バッテリー充電交換ステーション」を設置し、実証実験を行う。
具体的には、佐川急便、ヤマミ、静岡銀行、静岡大学などが業務でバッテリー交換式EVを使用するほか、ヤマト運輸がEVの冷凍冷蔵庫の専用電源に、TOKAIケーブルネットワークがシェアサイクルの充電用電源にバッテリーを活用する検証も行う。また、今後はコンソーシアムの立ち上げも予定している。
静岡市を「社会実装の実験の場」に。難波市長が共創への期待語る
進捗報告の後、審査発表があり、上述の通り6チームが選ばれ、審査員各人からの講評があった。その後、静岡市長の難波喬司氏が登壇。
ファイナリスト10チームのレベルは非常に高かったと評価し、選定チームとして実証フェーズに進む6チーム以外についても「これで終わりではなく、むしろこれからが始まる」と激励した。その上で、静岡市の最大の強みは「日本の縮図」である点だと強調。森林、駿河湾、都市などの多様な地域環境とそれに伴う地域課題を抱えていることや政令指定都市として県と市の両方の権限を持つことなどについて説明した。
さらに、同市はテストマーケットの地として活用された歴史を持つことから、「社会実装の実験の場」としてふさわしく、積極的に活用してほしいと呼びかけた。難波市長は「市の職員も本事業を通じて成長している」と述べ、共創へのさらなる期待を熱く語り、イベントを締めくくった。
取材後記
二次審査会で印象的だったのは、登壇した10チームが挑む課題の「深さ」だ。農業の衰退、森林の荒廃、災害時の要支援者対策、ごみ収集の持続可能性――。難波市長が静岡市を「日本の縮図」と評した通り、これらは日本全国が直面する課題そのものと言えるだろう。行政とスタートアップが「共創チーム」として本気で議論を重ねたプランは、どれも現場の解像度が高く、実現への熱量が違った。昨年度に採択されたプランの中には実証から実装のフェーズへ進んでいるものもあり、「社会をより良く変えよう」とする本気度の高さもうかがえた。コンテストから生まれる「静岡モデル」が日本の未来を変えていく、その確かな第一歩を目撃した思いだ。
(編集:眞田幸剛、文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)