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TBSイノベーション・パートナーズ 片岡氏に聞く「CVCの可能性」 <後編>

TBSイノベーション・パートナーズ 片岡氏に聞く「CVCの可能性」 <後編>

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近年、オープンイノベーションの手法として、アクセラレータプログラムなどと並び「コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)」を検討する企業が増えている。すでに米国やアジアでは大手企業が積極的にCVCを立ち上げており、今年7月にニッセイ基礎研究所から発表された「大企業のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)~大企業によるオープンイノベーション~」というレポートでは、2017年の投資金額は、米国が約2兆円、中国が6,600億円(※1ドル=110円で計算)に上るとされているほどだ。

しかし、ファンド設立には障壁も多く、なかなか踏み出せない企業も珍しくない。こうした中、2013年に運用総額18億円の1号ファンドを立ち上げ、20社以上に出資を実施。その中から家計簿アプリのマネーフォワードや、ビッグデータ分析のデータセクションなど4社もの上場企業が誕生しているのが、TBSイノベーション・パートナーズだ。今年4月には30億円規模の2号ファンドをスタートさせるなど、順調に投資成果をあげている。

同社はなぜCVC立ち上げに至ったのか?成功の要因は何だったのか?eiicon founderの中村が、同社代表の片岡正光氏にお話しを伺った。――主にCVC立ち上げに至る経緯に言及した<前編>に続き、後編ではCVCの具体的な運用方法や、その可能性について聞いた。

▲東京放送ホールディングス 総合戦略局 投資戦略部 部長 兼 TBSイノベーション・パートナーズ 代表 片岡正光氏

1992年東京放送(現・東京放送ホールディングス)に入社。主に法人営業、事業開発、経営戦略などに従事し、放送事業におけるビジネス領域全般にてキャリアを重ねる。2013年よりTBSイノベーション・パートナーズ合同会社の設立に参画し、同年10月には総額18億円の1号ファンドを立ちあげCVC活動をスタート。2018年4月より30億円規模の2号ファンドを立上げ、総額48億円のCVCファンドを運用。これまでに20件以上の投資案件を実行。現在はTBSイノベーション・パートナーズ代表に就任し、戦略的な投資活動を進めている。

社内意識の醸成に役立った「ピッチイベント」の実施。

eiicon・中村 : CVC立ち上げに際して、TBSさんの「人が驚くようなこと、未体験の領域への挑戦に興味が高い人が多い」という組織風土が追い風になったというお話しがありましたが、経営陣の関心を高めるために取り組んだ施策などはありますか?

TBS・片岡氏 : 設立当初に行って正解だったと思っているのが、「社内イベント」ですね。VCの方やスタートアップの起業家の方を数名招いたピッチイベントや勉強会を月1回程度開催しまして、一般の社員も経営者もみんなで参加してほしいとお声がけしていったんですね。そうすると平日夜の実施にも関わらず、社長や経営幹部をはじめたくさんの方が参加してくれて、イベント後の懇親会まで残ってくれることもしばしばでした。こうしたイベントが経営陣との目線合わせにつながり、応援してもらえる雰囲気の醸成に一役買ったと思います。

eiicon・中村 : もうひとつ、経営陣にファンド設立を提案する際に「現場の熱量」が重要というのもキーワードだなと思ったのですが、その熱量を伝えるために、社内イベント以外に行ったことなどはあるのでしょうか?

TBS・片岡氏 : 熱量は、間違いなく大事です。ただ、ひたすら熱いだけだと、見方を変えれば「考えが凝り固まっているのではないか」という印象を与えかねません。ですから、独善的にならないためにも「自社には、このビジネステーマが必要だ」という考えを仮説・検証するときには、当たり前ではありますが、外部の専門家や有識者、有名な投資家の方や他社で同様の取り組みを行っている方などに徹底的にヒアリングを行いました。さらにそうした外部の方から、社内会議で必要性などを伝えてもらう。そうやって客観的な目線を取り入れるというのはすごく大事だと思います。

CVCをやるならば、まずはVCに投資すべき?!

eiicon・中村 : 主観的な熱量を、客観的で冷静な視点で補うことが重要だとお考えなのですね。

TBS・片岡氏 : そうです。これは成功する投資家のポイントとも通じる部分があるなと思っていまして。ベンチャー投資における「目利き力」とか「どんな人間が向いているか」という文脈の中で、私は「陰」と「陽」とか、「定量」と「定性」とか、その両面のバランスをいかにとれるかだと考えています。

たとえば、銀行による融資・借入といったデッドファイナンスの場合、当然それまでの企業の財務諸表を重要な判断基準にします。しかし、ベンチャー投資になると、過去の財務諸表だけを見ていては、実績も少なく、赤字のケースも多いから参考にならず全然投資の意思決定に繫がらない。そこで、ファイナンスの判断軸として将来の事業計画をどう見るかになってくるのですが、そこだけに偏ってしまうと、今度は絵に描いた餅だけで投資するのか、となってしまう。

eiicon・中村 : いずれか一方の情報だけでは、投資は実行できないと。

TBS・片岡氏 : ですから、局面ごとにバランスをとりながらも、最後は不確かなリスクに勝つためには創造力に加え、勇気だとか熱量が求められます。なので、さじ加減としてはあくまでもバランスが重要ですが、定性的な部分が1%でも強い方がいいのではないかと。

eiicon・中村 : TBSイノベーション・パートナーズの1号ファンドでは、投資先から4社の上場企業が誕生するなど成功している印象が強いのですが、何かポイントはあるのでしょうか?

TBS・片岡氏 : 本当はあまり言いたくないのですが……。CVCをやる場合に必ず勝てる法則が、いくつかあるんですね。その一つは良質なVCに、適正なファンド投資を行うこと。これはCVCを立ち上げるならばまず最初に取り組むべきことだと思います。

eiicon・中村 : ベンチャー企業への直接投資よりも、まずはVCに対して投資すべきと?

TBS・片岡氏 : そもそもしっかした実績のあるVCに投資ができれば、一定以上のリターンの可能性も高いです。また、VCを経由することで、投資資金が細かく初期ベンチャーに投資されることになり、ポートフォリオ上も分散投資がきちんとなされていることになる。

eiicon・中村 : なるほど。プロのVCと繋がることで、リターンとリスク分散の両面でメリットを得られるわけですね。

TBS・片岡氏 : それにVCに投資を行うことで、プロのキャピタリストと真剣な付き合いができるようになるのも大きいです。その道の専門家たちとの信頼関係が深まれば、プロの視点や知見、さまざまなトレンド情報、人脈を得るケースも多い。実際、最近、私自身が担当している投資案件は、大半が業界内の仲間からの紹介です。ですから、優良なVCへの投資はCVCを運営する上で外せない原則と言ってもいいと思います。

短期の指標としてファイナンシャル・リターンを置き、最終ゴールのシナジーを目指す。

eiicon・中村 : 最近はアクセラレータプログラムを行う企業が増えていますが、その一方で「CVCにはなかなか踏み出しきれない」という声もよく聞きます。

TBS・片岡氏 : 私も、アクセラレータプログラムやハッカソンは、外部との協業を始めるきっかけとしては非常に意味があると思います。ただ、そこで価値や可能性を感じられたのなら、次はCVCをぜひお考えになったほうがいい。直接投資したからこそ得られる情報、人脈、レピュテーションなど、そして様々な経験値は質量ともに比べられないほどメリットが大きいと感じます。

ちょっと話はずれますが、私は入社当初にライブハウス「赤坂BLITZ」を企画するなど、コンサートなどのイベントプロデュースの事業に携わっていたんですね。で、当時カリスマ的な存在だった「Hi-STANDARD」というバンドが、「カラオケ行く暇があったら、バンドやろうぜ」と語っていたと聞いたことがありまして。私も同じように、ちょっと言葉は強くなりますが、「事業会社はアクセラレータプログラムやる暇があったら、ファンドやろうぜ」って言いたいですね。

eiicon・中村 : そこまで強いこだわりをお持ちの片岡さんが考える、CVCの具体的メリットとは?

TBS・片岡氏 : ファンドを設立することで承認フローが簡略化できる、その結果スピーディーな意思決定ができるなど複数ありますが、投資のメリットというと、「ストラテジック・リターン(経営上のシナジー)」と「ファイナンシャル・リターン(投資収益)」、どちらが重要なのかという議論によくなるんですよね。その中で、事業会社が投資を行う醍醐味は、自社のリソースを有望なベンチャーと掛け合わせることで、新しいマーケットや新しい産業を作れる可能性が大きいということだと思っています。

eiicon・中村 : では、やはり最大の目標はシナジーになると?

TBS・片岡氏 : いえ、これもやはり両方のバランスが重要で。もちろん事業会社である以上最終的に求められているのはストラテジック・リターンです。しかし本当にPL(損益計算書)にヒットさせるような新規事業を創ろうなどとなれば、相当時間がかかります。当然、シナジーだけを重視していると次から次へと減損していくわけですね。こうなると、経営陣も「どうなっているんだ」という話になりますよね。

その進捗状態のバロメータとして、ファイナンシャル・リターンを使うんです。適正なベンチャーなどに投資できていれば、1年~1年半程度でラウンドが上がる、またはIPOしていきます。そうなれば、投資額自体は増えていき、投資先の企業価値も上がり納得いく進捗になる。そして、その先にシナジーのものがあるんだと説明できれば、経営陣にも納得感があります。

eiicon・中村 : 短期の指標としてリターンを置き、最終ゴールのシナジーを目指すという形ですね。

TBS・片岡氏 : もちろん、投資ですから10戦10勝はあり得ない世界です。私自身、減損している案件はあります。それでも、ファンドであればポートフォリオで考えられますので、「減損を含めても全体ではこれだけの運用益が出ています」と会社に報告しながら、シナジーを目指せますよね。

しかし、これが直接本体投資になると、数百万の投資であっても減損が出れば会社の評価としては「×」がつく。そして、その「×」が並ぶと、「事業協業で新しい価値を生み出す」という大目標にたどり着くことなく、プロジェクトが終了してしまうケースが多い。ですから、目的を実現するためには、そうしたリスクを踏まえたスキームをいかに設計していくのかを、考えるべきでしょうね。アクセラレータプログラムの内容に、参加ベンチャーへの安易な本体からの投資などを加えることが本当に必要かなどは、よく検討する必要があると思います。

取材後記

最近では、再生エネルギー事業を手掛ける「みんな電力」への投資も話題になったTBSイノベーション・パートナーズ。ビジネス領域的には、一見”飛び地”に見えるが、片岡氏は「エネルギーの自由化は16兆円とも言われる巨大マーケットで、時代性も高い。また、SDGsへの貢献に加えて、地方の系列局を含めて一緒になってビジネスを作っていける可能性も高く、ハンズオンで取り組むだけの価値があると思っています」と熱く語った。オープンイノベーションの目的も、協業する企業同士はもちろん、社会に対する「シナジー」を生むことにあるはず。そのための手段として、CVCには大きな可能性があると言えるだろう。

(構成:眞田幸剛、取材・文:太田将吾、撮影:古林洋平)

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