【イベントレポート】NEDO ピッチに潜入!~地方発ベンチャー特集~
民間事業者の「オープンイノベーション」の取組を推進し、国内産業のイノベーションの創出と競争力強化への寄与を目指し設立されたJOIC(オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会)。9月25日(火)、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)とJOICの共催で、イノベーション及び具体的な事業提携事例の創出を目指すイベント「第26回NEDOピッチ」を実施。今回は「地方発ベンチャー特集」 というテーマで、企業5社の代表者が登壇。
今回の「NEDOピッチ」では、有望技術を有する地方ベンチャー企業5社が、自社の研究開発の成果と事業提携ニーズについて、大企業やベンチャーキャピタル等の事業担当者に対し、創造性の高いプレゼンテーションを行った。
株式会社Atomis
▲代表取締役CEO浅利 大介氏
株式会社Atomisは、気体を自在に操り、人に驚きと感動を提供する事をビジョンに掲げる、多孔性配位高分子(PCP/MOF※)に特化した日本で唯一の京都大学発ベンチャー企業である。多孔性配位高分子(PCP)とは、有機金属構造体(MOF)とも呼ばれ、ナノサイズの細孔を持ったスポンジのような構造を持っており、非常に大きな表面積を持っている。金属イオンと有機配位子より、その3次元構造を自由に設計可能。その細孔をデザインする事でガスや低分子化合物を特異的に吸着保持させる事ができ、世界的にも注目されている材料である。
市場規模としては、年34%伸びており、今後大きなシェアを獲りに行くという。その一方で特殊な製造方法ともあり、実用化に向けた課題として挙げられるのが、価格と製造スケール。この課題に対して、同社では、コスト競争力が高いPCPの製造方法を独自開発。現在では、他社への材料供給によるソリューション提供ビジネスを行いつつ、ライフサイエンス領域では次世代免疫制御剤ImmunoMOFの開発を行い、エネルギー領域では次世代型のスマートガスボンベCubiTanの開発をそれぞれ展開している。
浅利氏は「気体を自在に制御し、既存の概念変え、未知なる価値の創出に貢献していきたい。」と語った。
※PCP…多孔性配位高分子(PCP: Porous Coordination Polymer)
※MOF…有機金属構造体(MOF: Metal-Organic Framework)
AssistMotion株式会社
▲代表取締役 橋本 稔氏
AssistMotion株式会社は人に優しいウェアラブルロボット技術で社会に貢献することをビジョンに掲げる2017年に創立した信州大学発ベンチャーである。信州大学繊維学部からスタートした同社は、衣服感覚で着衣ができるウェアラブルロボットを開発、事業化している。高齢者をはじめとした身体動作の不自由な人、作業などで身体に障害を有する人、またはそれを予防したい人に対して、動作支援技術(Assistive Technology in Motion)を用いた、生活動作支援ロボット『curara®』の研究・開発を展開。独自の構造により全体で5キロと軽量で、自然な動作を可能にするロボットである。さらに、各関節間のリンクがないため歩行時に違和感なく歩くことができ、生活になじむスタイリッシュなデザインである。
現在、新たなバージョンを開発中であり、来年にはモニター販売、2020年には量産化を目指す。超高齢社会を迎え、高齢者が自立して生活できる社会を築くことが求められている日本において、患者や高齢者のQOLの向上など、医療・介護の現場、生活動作支援、農作業など様々なシーンで衣服のように着用し手軽に活用できることが期待される。
▲生活動作支援ロボット『curara®』の着衣の様子
合同会社Space Cubics
▲CMO 後藤 雅享氏
合同会社Space Cubicsは、「宇宙開発をもっと手軽に」をビジョンに掲げる、北海道札幌市に設立された初の「共同設立型JAXAベンチャー」企業である。国際宇宙ステーションにおいて多くの採用実績のある民生コンピュータの開発者とJAXA職員とが協力し、2018 年6月に設立。JAXAと民間の両面の立場で宇宙開発を進めている。後藤氏は、宇宙用の機器は地上用に比べて部品コストが高く、性能に加えて安全性や信頼性検証などの要求事項が多いことが、宇宙ビジネスの参入障壁を高くさせていると指摘する。
同社は、その課題を解決するため、多くの打上げ・運用実績から培ったノウハウを生かして信頼性が高く安価な宇宙用民生コンピュータを開発。突然の不具合にも自動復旧できる等、宇宙環境において必要とされる問題をクリアした製品を開発している。
さらに宇宙に興味のある企業・団体が手軽に宇宙開発に参入できるように宇宙開発のトータルサポートを提供する。現在では宇宙機器の調達プラットフォームを構築し、高価な宇宙部品の余剰在庫をシェアする物流事業を展開。後藤氏は「宇宙開発への参入を手軽にし、民間の宇宙産業発展に貢献していきたい」とピッチを締めくくった。
ブレインイノベーション株式会社
(ホームページ準備中)
▲代表取締役 東郷 浩秦氏
ブレインイノベーション株式会社は、「世界の皆様に脳の健康を届ける」ことをミッションとして先月設立された東北大学発バイオベンチャー企業である。2015年時点において認知症を発症している日本人はおよそ525万人。近年、認知症患者は右肩上がりに増加し2025年には人口の5人に1人が発症すると予想されている。そのうち約6割を占めるアルツハイマー型認知症患者と言われているが、発症原因も解明されておらず、また根本的な治療薬もない。
同社では、既存治療薬や現行開発品とは全く異なる新規メカニズムによるアルツハイマー病治療薬の開発を目指している。既存薬として知られているメマンチンの新規作用機序を発見。認知症機能改善と精神機能改善の両方に効果があると実証された。今後、この成果をもとに開発を進めていく。現在、本格的な前臨床実験を行うため資金調達を行っている。グローバル展開を視野に入れた「東北大学発創薬ベンチャー」として牽引し、世界に脳の健康を届けていきたいと東郷氏は強く語った。
株式会社セツロテック
▲代表取締役社長 竹澤 慎一郎氏
株式会社セツロテックは、2017 年2月に設立したバイオテクノロジー系徳島大学発ベンチャー企業である。2016年にNEDOのTCP(Technology Commercialization Program)において最優秀賞を受賞し、SUIという補助金事業に採択後、創業。ゲノム編集技術を応用して事業を展開する、新しい変異動物作成サービスを提供している。
同社技術によって、遺伝子改変(ゲノム編集)マウスを簡便にかつ高効率に作製できる手法を開発。これは、受精卵エレクトロポレーション法(GEEP 法)呼ばれる技術である。この技術により遺伝子改変マウス受精卵、マウスの作製・販売を開始。現在では創薬支援事業として製薬会社や大学向けに受託サービスを展開している。
今後、ブタやウシなどの畜産動物などへの横展開を進めており、あらゆる遺伝子改変動物を提供する基盤的なグローバル企業になることを目指す。最後に、竹澤氏は、「創薬研究企業はもちろん、各種動物で共同研究できるパートナー企業を求めており、さまざま動物種ごとにビジネス展開をパートナー企業と共に創っていきたい」とアピールした。
取材後記
地方創生の一手ともいえる地方発ベンチャー企業。人材確保に課題がある一方で、大学研究発のベンチャー創出や地域資源を活かした特色あるビジネスを展開しやすいと言える。今回のNEDOピッチでも感じたように、旧来の手法や概念を覆し、新たな分野での活用や、さらなる市場規模の拡大も期待できる。
研究開発型のベンチャーは芽が出るまでに時間がかかると言われているが、今回登壇した5社はオープンイノベ―ションを積極的に行い、新たな出会い・つながりから生まれる相互作用をビジネス加速に繋げていた。今後の展開に期待を膨らませるピッチであった。
(取材・文:保美和子)