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3月に成果報告会を控える、愛知県刈谷市のイノベーションプログラム『ELEVATE』――“ものづくりのまち”が仕掛ける新事業創出事業に迫る

3月に成果報告会を控える、愛知県刈谷市のイノベーションプログラム『ELEVATE』――“ものづくりのまち”が仕掛ける新事業創出事業に迫る

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愛知県の西三河地方西端に位置し、全国屈指の自動車関連産業の一大集積地である刈谷市。“ものづくりのまち”として栄えてきたが、自動車産業の大転換期やデジタル技術の加速度的な進展により産業構造の大きな変化への対応を迫られ、既存産業の強化や新たな産業の創出が必要不可欠な状況だ。

そんな刈谷市では、2023年度からイノベーションプログラムを開始。2024年度は「刈谷イノベーションプログラム『ELEVATE』(エレベート)」と名称を改め、2024年8月から翌年3月まで一連のプログラムに取り組んでいる。2024年10月に開催された「ビジョン策定・新規事業アイデア創出ワークショップ」で採択された市内の中小企業6社に、伴走支援を提供。新規事業創出を後押しする。

TOMORUBAでは本プログラムを主催する刈谷市役所 産業環境部 商工業振興課 課長補佐の北洞氏、主任主査の山田氏にインタビューを実施。刈谷市がイノベーション創出に取り組む狙いや本プログラムへの期待、2025年3月に開催される成果報告会を目前に控えた現在までの状況を聞いた。

イノベーションプログラム『ELEVATE』開催の狙い

――まずは、刈谷市の産業の特徴や強み、現在の課題を教えてください。

北洞氏 : 自動車関連産業の本社が集積している性質上、刈谷市は製造業を中心とした「ものづくりのまち」として知られています。愛知県は「ものづくり王国」と称されますが、県内でも製造業に勤務する市民の比率が高い傾向にあり、ものづくりに関する技術や知恵といった“現場力”は刈谷市における産業の強みです。市内の企業には、一歩、二歩と先をいく技術を追求していく姿勢があると思います。

一方で、人手不足や後継者不在の課題は近年よく聞かれます。人口減が叫ばれるなか、特に中小企業ではこうした悩みが増加しているようです。中長期的な側面では、自動車のEV化が進み、「CASE」「MaaS」といったキーワードが重要視され、自動車産業が「100年に一度の変革期」を迎えていると言われるなか、新たな事業への対応も切実に求められています。

▲刈谷市役所 産業環境部 商工業振興課 課長補佐 北洞貴康氏

――そうした状況において、イノベーションプログラム「ELEVATE」の実施を決定した狙いをお聞かせください。

山田氏 : 既存産業が変革期を迎えるなか、当市では新たな産業の柱を打ち立てていく重要性が高まっています。そこで、新規事業の創出、及び既存事業のアップデートをゴールにしたイノベーションプログラムの実施が決定しました。

本プログラムは2023年度から開始しており、2024年度は2年目となります。今回は名称やコンセプト、構成を変更し、プログラムを実施しています。

eiiconさんの運営支援により、オープンイノベーションや新規事業創出の手段を学べるセミナーやワークショップの実施に加え、選考を通過した中小企業に事業創出伴走支援も提供します。専門家のアドバイスを受けながら自社のアセットや目標を明確にして、事業成長や課題解決につなげてほしいと考えています。

▲2024年8月から2025年3月までの期間で実施されている「ELEVATE」。3月には成果報告会が開催される予定だ。

本プログラムは中小企業向けとして設定していますが、今年度は間口を広げ、2024年8月、9月に実施したインプットセミナーは従業員単位で参加可能としました。まずは広く関心のある人を集め、その後、企業単位でワークショップに応募する流れとしています。

また、今年度は新規事業創出の取り組みを推進するコミュニティ形成にも注力しています。刈谷市が事業主体となっている市内のコワーキングスペース「IKOMAI DESK(イコマイデスク)」では、本プログラム関連の交流会のほか、2023年4月から毎月「イノベーションBAR(場)」と名付けた交流会も実施しており、今年度はeiiconさんと実施している本プログラムのコミュニティ形成の取り組みともタイアップしながら、より活発な交流を促しています。

▲刈谷市役所 産業環境部 商工業振興課 主任主査 山田崇人氏

北洞氏 : そのように各社の成長を後押しした結果として、最終的に中小企業が持続的な発展を続けられるまちを目指し、地域全体を活性化させたい思いが根底にあります。自社の強みを今一度思い返しながら、不確実性のある時代に対応できるチカラを身につけていただくことを望んでいます。

ワークショップを経て6社を採択。現在の状況は?

――ワークショップを経て採択された6社は製造系の企業が中心ですが、比較的、業種の幅を広げている印象があります。この狙いについて、お聞かせください。

北洞氏 : 6社は、鉄・アルミ素材の精密切削加工(日進精機)や自動車用窓枠製造(タイガーサッシュ製作所)、配電盤(平山鉄工所)など製造系が3社、その他は物流(愛東運輸)、SNS集客支援(B-time)、内装工事(サンポテック)といった企業になります。

どの企業も新規事業創出への熱量が高く、ぜひ参加してほしいと考え、6社を受け入れる選択をしました。ものづくりに強みのある刈谷市ですから、製造系の企業に多く参加してほしい思いはあります。ただ、セミナーやワークショップの様子を見ていて、多様な業種の方が参加することによって参加者の視点が広がっている印象を受けました。

例えば、SNS集客支援を提供するB-time社のソリューションを他の参加企業が導入することで、採用の課題解決につなげていくアイデアが生まれています。本プログラムの意図は伴走支援による新規事業創出ですが、参加企業同士の横のつながりを活かして得られる知見もまた価値になっていると感じますね。

――セミナーやワークショップでは、業界で知名度の高い常盤木龍治氏(eiicon 地方創生アンバサダー)や篠原豊氏(エバーコネクト CEO)などが登壇しています。それらを通じて、参加者の意識の高まりや機運の醸成は実感されていますか?

北洞氏 : 業種や属性を超えて、意欲のある一人ひとりに新たな刺激を与えていただいたように感じます。セミナーやワークショップの終了後は、顔つきが変わり、危機感が期待感に変わっているような雰囲気が感じられました。ピンチをチャンスに変えていくための新たなチャレンジが見られるのではないかと、運営側としても期待が高まっています。

2日間にわたって行ったワークショップでは、市場の課題発掘からソリューションの検討、ビジネスモデルや体制の構築、収益化、事業拡大までフレームワークを使って可視化しながら集中的に取り組んでいただきました。

本プログラムは学びにとどまらず、企業としての意思決定に繋げることを前提に参加の意思を確認しています。日頃のイメージを現実的な事業として落とし込むのは非常に頭を使う作業であり、各企業の価値につながっているのではないかと思います。

――各社の新規事業案の仕上がり状況はいかがですか?

山田氏 : どの企業も熱量高く取り組んでいます。なかでもSNS集客支援を提供しているB-time社は熱心で、メンターのアドバイスを事業成長に活かそうとする真摯さが見られます。中小企業向けのSNS運用を、地域を絡めて活用できないかと考え、地元の企業に足を運んで課題のヒアリングを行っているそうです。我々からも、行政の関連セクションを紹介するといった支援を行いました。

――今年度はコミュニティ形成にも注力されているそうですが、交流会の実施目的やコミュニティの状況についてもお聞かせください。

山田氏 : 「IKOMAI DESK」を活用して、セミナー後の交流会や「イノベーションBAR(場)」を実施しています。交流会の狙いはオープンイノベーションの創出ですが、まずはお互いに顔が見える場で関係性をつくりながら、この場を活かして新たなチャレンジを起こせたらと考えています。

『ELEVATE』については3月の成果報告会で一旦終了しますが、本プログラムに参加した企業の新規事業創出の取り組みは、今後も継続していきます。

ですので、プログラム終了後も意欲的な中小企業が帰って来られるような場所をつくろうと考え、コミュニティの形成に取り組んでいます。さらに、熱量の高い方々を広く巻き込んでいき、情報共有やアイデア考案ができる場に発展させていけたら理想的です。

▲刈谷駅から徒歩3分と、アクセスが良好な立地の「IKOMAI DESK」。セミナーやトークセッションといったイベントも随時開催されている。

北洞氏 : 交流会は毎回定員に近い20〜25人が参加していて、中小企業、大手企業、支援機構、個人事業主など幅広く集まっています。イノベーションBAR(場)は事業としての実施ではないため市外の方も参加可能で、実際に多くお越しいただいています。

一方、顔の見えるコミュニティは形成できているものの、新たにご参加する方の数が伸び悩んでいることは課題かもしれません。多少の新陳代謝は起こせていますが、今後より広い業種や属性の方も取り込んでいけると、化学反応が起こりやすいだろうと思います。

残すは、3月の「成果報告会」――どんな期待があるのか

――『ELEVATE』は3月10日の成果報告会を残すのみとなりましたが、どんな期待がありますか?

山田氏 : 成果報告会は、本プログラムとその他の事業を連携した合同開催となり、比較的大規模なイベントとして開催します。市内の中小企業も観覧できるイベントですので、多くの企業に観覧いただき、成果の波及を広げていきたいと考えています。

参加企業にとっては、成果報告会は成果を可視化する一つのタイミングに過ぎず、決してゴールではありません。先を見据えながら、本プログラムを使い倒していただけるのがベストです。

北洞氏 : 繰り返しになりますが、3月で全てが終了するわけではないはずです。参加企業には、成果報告会を通してそれまでのプロセスを振り返り、次のステップアップにつなげてほしいと願っています。

また、本プログラムに一部でも関与した方、成果報告会を観覧した方にも、そこで得た気づきを事業成長に活かしていただけたら嬉しいですね。行政としては来年度も同様の展開を予定しておりますので、『ELEVATE』を選択肢として持ちつつ、刈谷市全体でオープンイノベーションの機運を高めていきたいと考えています。

――来年度は、具体的にどんな構想を練っているのですか?

北洞氏 : 本施策は、一過性ではなく一つひとつの取り組みを積み重ねていくことで、大きなうねりを起こしたいと考えています。まだ詳細は詰めきれていませんが、そうした意義を踏まえ、成果報告会での学びを活かして参加者のみなさんと一緒に来年度の企画を検討していきたいですね。

――成果報告会に興味を持つ方に、メッセージをお願いします。

北洞氏 : 今回の成果報告会は、自動関連産業の集積地である西三河地方のオープンイノベーションの機運醸成を目的に開催します。市内の中小企業が持つ課題感や強み、アイデアをじっくりと聞ける機会は貴重だと思いますので、多くの方にそうした事例に触れていただきたいと思います。

自社の強みを活かしてイノベーションを創出し、事業成長につなげたいと考えている熱意のある中小企業のみなさまはもちろん、どなたでもお気軽にご参加ください。

山田氏 : 現在、事業が安定している企業も多いと思いますが、そうした方々にこそ、次の一歩を模索するきっかけとして成果報告を聞いていただきたいですね。

余裕のあるうちに新規事業創出に取り組むことによって、さらなる余裕を生み、その余白をキレイに埋めることが価値につながるだろうと思います。本プログラムに少しでも興味を持たれた方は、ぜひ動き出す機会として参加いただけたら嬉しいです。

取材後記

「ものづくりのまち」として築いてきた産業の土台を活かしながら、全く新しい産業の創出にも挑む刈谷市。人手不足の課題を持つ企業にとって、新規事業創出のリソースを捻出するのは容易ではないが、『ELEVATE』のような取り組みが10年後、20年後の企業の未来、ひいては地域全体の未来を前向きに変える一歩になるはずだ。今年度のプログラムで得た学びを活かし、3年目以降もアップデートしていくに違いない。

(編集:眞田幸剛、文:小林香織、撮影:齊木恵太)

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  • 眞田 幸剛

    眞田 幸剛

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