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経産省が主導する、産学融合の拠点創出プログラム「J-NEXUS」とは?――3か年を経た成果に迫る。

経産省が主導する、産学融合の拠点創出プログラム「J-NEXUS」とは?――3か年を経た成果に迫る。

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経済産業省が、産業界と大学の融合を通じた共通価値の創造を目的に取り組む「産学融合拠点創出事業」。その一環として実施されているのが、産学融合先導モデル拠点創出プログラム、通称「J-NEXUS(NEXt University-Society open innovation initiative)」だ。

「J-NEXUS」は、各地域において大学と企業がネットワークを創設し、シーズ発掘から共同研究の立ち上げ、社会実装までを目指す支援プログラム。2020年度にはじまり、まもなく3年が経過しようとしている。現在、北海道・関西・北陸の3地域で実施されているが、去る2月16日、その3地域の代表者たちが一堂に会し、現時点における成果報告を行うイベントが開催された。

経済産業者は、なぜ今このプログラムに取り組むのか。TOMORUBAでは、成果報告会の取材とともに、実施背景や今後の展望について、経済産業省 産業技術環境局 大学連携推進室 大石知広氏・開田千晴氏にインタビューを実施した。まずは、気になる成果報告の内容をレポートしていく。


各地域では何が行われ、何が生まれているのか?

2月16日、東京・八重洲で「J-NEXUS」の成果報告会が行われた。同会では、チャレンジフィールド北海道(CFH)、関西イノベーションイニシアティブ(KSII)、北陸RDXの各エリアコーディネーターや関係者が集結。総括エリアコーディネーターが登壇し、プレゼンテーションを行った。各地域ではどのような取り組みが実施され、成果が生まれているのだろうか? 報告会の様子をレポートする。



■チャレンジフィールド北海道(CFH)

まずは北海道の総括エリアコーディネーター・山田真治氏より「チャレンジフィールド北海道(CFH)の取り組み」について紹介された。主な取り組みは大きく3つ。1つ目は大学シーズを起点とした事業創出プロジェクトの立ち上げだ。プロジェクトの事務局が外部資金獲得の支援や、マッチングのための調査活動を行っている。現在課題となっているのがスタートアップの創出で、スタートアップや研究シーズの実装化を目指し、大学の研究シーズの発掘に注力していると語った。


2つ目の取り組みは、地域課題の解決。地域を回りながら解決が求められている課題を見つけ、プロジェクトやシンポジウムを立ち上げながら解決に向けて動いている。当初は開発資金が出せずに苦戦していたが、新たな補助金を捻出するなどして6つのプロジェクト等の立ち上げに成功したという。

そして3つ目の取り組みは、共創基盤の構築だ。現在は大学や自治体へのヒアリングを繰り返しながら、どのような取り組みにしていくのか構想を描いている段階だという。どのような団体を運営パートナーにし、どのような団体と連携していくか、慎重に検討を重ねていくと現状について説明した。

現在、CFHに参画する団体は34機関にまで増加。プロジェクト発足当時の25機関に比べれば、大きな成果となる。特に道内にある4つすべての高専や主要な自治体、私立大学が参画したことによる影響は大きいと言う。

一方で、公的組織だけでは様々な制約があることから、「民」の強化の必要性も感じているとのこと。現在はNPO法人や地域活動、有志活動にもアプローチし、地域を中心とするプロジェクトの立ち上げや道内外の人にプロジェクトのサポートに参画してもらっていると話した。



■関西イノベーションイニシアティブ(KSII)

続いて関西の総括エリアコーディネーター・村尾和俊氏と副総括エリアコーディネーター・北川雅俊氏から「関西イノベーションイニシアティブ(KSII)の取り組み」について紹介された。KSIIの主たる方針の1つが「ゼブラ企業」の創出。急成長を特徴とする「ユニコーン企業」に対し、持続可能な成長によって地域の社会課題を解決するスタートアップの総称だ。


KSIIでは、ゼブラ企業の創出のために、関西の大学や経済団体、金融機関、自治体等の力を集結させ、オール関西で事業を進めていると紹介した。特にこれまで関西では、京大・阪大が中心になっていたが、それ以外の大学にも積極的に声をかけてプログラムへの参加を促したという。

現在、研究機関や金融機関の新規参画が非常に増えており、参画機関数はプロジェクト発足当時の1.4倍にまで増加。特に技術系の私立大学や信用金庫など、これまでになかったカテゴリーからの参画が増えており、活動の幅が広がった。

また、従来は関西経済連合を中心に行われてきた企業マッチングから、業界団体や個別企業にフォーカスしたマッチングへと注力していると紹介した。大手企業から中小企業まで参加する展示に協賛、出展したり、大手企業と共同でマッチングイベントを主催するなどしており、どちらも多くの参加者を集めることに成功している。

加えて、従来は京大単独だった農業系シンポジウムに働きかけ、関西で農業系学部を有する6大学が参加できるイベントにして、アグリ分野における裾野の拡大に貢献した。

さらに、支援期間が過ぎても取り組みを続けるための会議体を立ち上げたのも大きな成果として報告した。具体的には大阪万博に向けて、スタートアップの技術を積極的に展示するよう働きかけているという。



■北陸RDX

最後は、北陸の総括エリアコーディネーター・井熊均氏から「北陸RDXの取り組み」について報告があった。北陸RDXが目指すのは、事業創出人材育成資金調達の仕組み化。個別の事業に補助金を出すのではなく、同地域で人が育ち、事業が立ち上げられ、そこに資金が集まるような恒久的なシステムを作ることを目的としている。

現在は19の参画機関に加え、13の協力機関が連携しながら取り組みを進めている。これら参画・協力機関には、事業開始後、特に金融機関、専門機関からの新規参加が増えており、着実に取り組みの幅が広がっている、と話した。


北陸RDXの特徴はハンズオン支援。各大学のコーディネーターと連携しながら、フェーズにあった支援を提供しているという。支援している事業をTier1~4に分類し、最もフェーズの進んでいるTier1の計画については資金調達や事業立ち上げ、商品化に向けた支援を行っていると紹介した。

また、支援している事業は大きく2つに分類され、1つは地域の中小企業が新しい技術を使い、第二創業を図るケース。もう1つは大学発の技術を事業化していくケースだ。デジタルを活用したコミュニケーションシステムを作った加賀友禅の会社や、自動調理システムを作った越前漆器の会社など、様々な事例が紹介された。

しかしながら、北陸での事業化にも課題を感じているという。というのも、事業化していくエネルギーを持った人材や資金調達のスキームがまだまだ未整備であり、支援する側にもハンズオン人材が不足している。支援するための資金が足りないなど課題はあるようだ。

一方で狭い地域に様々な事業のタネが眠っているのは、他の地域にも負けない強みでもある。独自の技術やノウハウを持った企業や教育機関が密度高く集まっているため、それらが連携できる仕組みさえ整いさえすれば、大きな可能性が眠っているという。支援する側にとっても、地理的に移動がしやすいため、ハンズオンでの支援がしやすいのも強みの1つ。今後はそれらの強みを活かしながら、より事業創出が促進されるような仕組みづくりに注力していくと語った。


各地域の成果報告後は交流の場が設けられ、活発な意見交換が行われた


――各総括エリアコーディネーターによるプレゼンテーションに加え、交流の場としても活用された成果報告会。地域ごとに培ってきた知見を共有する貴重な場となった。では、産学融合を積極的に創出するという「J-NEXUS」という事業は、どのような背景・目的の中で起案されたのだろうか。そして、目指す未来とは。本事業を担当する経済産業省の大石氏・開田氏に話を聞いた。 

経済産業省 大石室長に聞く、大学と企業が「産学融合」に取り組むべき理由

――2020年夏頃、大学連携推進室長に就任されたそうですが、当初「産学融合」というテーマを扱うことに対して、どのような印象をお持ちでしたか。

経産省・大石氏: 産学連携や産学融合は、過去にさまざまな人が取り組んできたテーマですし、課題が大きく歴史も長い。大上段に構えて進めていこうとすると、簡単には動かない話だと思いました。ですから、「少しずつでも変えられるところから変えていくしかない」というのが、室長就任時に抱いた率直な感想です。


▲経済産業省 産業技術環境局 大学連携推進室長 大石知広 氏

経済産業省へ入省後、広島県庁へ出向し、産学連携や国家戦略特区の指定などに取り組む。その後、資源エネルギー庁にてエネルギー基本計画の取りまとめなどに従事。バイオ産業の振興などを経て、2020年夏頃より現職。

――現在、進めておられる「J-NEXUS」の実施背景についてお伺いします。どのような考えから開始されたのでしょうか。今の日本において「産学融合」が求められている理由も含めてお聞きしたいです。

経産省・大石氏: 一般の産学連携の現状からご説明すると、日本における産学連携の8割以上が、1件あたり300万円未満の共同研究費で進められています。300万円未満だと、研究者1人の人件費も賄えないでしょう。これは裏を返すと、企業も本気で取り組んでいない。おつきあい程度の産学連携が多い状況だと捉えています。

他方、世の中の変化のスピードは速く、社会の要請も厳しくなっています。たとえば、Web3などの領域では科学技術の進化が目まぐるしいですし、気候変動や脱炭素、コロナ禍といった社会からの要請も増しています。従来のように、自社のなかで既存ビジネスを少しずつブラッシュアップするだけでは、追いつかなくなってきています。

こうした状況だからこそ、オープンイノベーションの必要性が高まっていると考えています。とくに、最先端の知にアクセスしている大学研究者と、問建てから一体となって取り組む産学融合は、これまで以上に意味のあるタイミングになってきているのではないでしょうか。

――産学融合の必要性が高まるなかで、「J-NEXUS」という事業を開始された理由は?

経産省・大石氏: 企業と大学の1対1での連携ではなく、面的な産学融合をより推進していく必要があると考えたからです。昨今の複雑化する地域課題を解決しようとしたとき、1つの企業と1人の大学研究者による点での連携では、解決が難しい状況になってきています。ですから、面での連携体制を整備していくことが本プログラムの狙いです。

具体的には「総括エリアコーディネーター」をアサインし、その方を経済産業省がサポートする形を取っています。これまで、各地で産学連携会議などの会議体は設けられてきましたが、そこで挙がった取り組みを事業化し、社会実装にまで持っていくことはなかなかできていませんでした。社会実装につなげるには、強い意志を持って行動されるキーパーソンが必要だろうと考え、このスキームにしています。

また、大学などの研究機関に「上級エリアコーディネーター」を配置し、大学内のシーズの探索を担っていただいております。エリア全体を束ねる「総括エリアコーディネーター」と、各大学の「上級エリアコーディネーター」とが相互に連携し、大学発のシーズの事業化を図るという形です。こうした活動を、北海道・関西・北陸の3つのエリアで進めています。

――キーパーソンとなる「総括エリアコーディネーター」は、どのような役割なのでしょうか。また、どのような方が担われているのですか。

経産省・大石氏: お任せしている業務としては、大学発のシーズが最終的に社会実装にまで辿りつけるよう、エコシステムを整えていただくこと。その歯車がうまく回るような仕組みの整備をご担当いただいております。どの方も産業界において豊富な経験・人脈をお持ちで、強い意志をもって方向性を示し、具体的な段取りをつけて推進してくださる方です。


――企業・大学それぞれから見て、産学融合に取り組むメリットはどのような点にあるとお考えですか。

経産省・大石氏: まず、企業側から見たメリットについてですが、先ほどお話したように変化の激しい時代において、大学との連携抜きでグローバルでの競争に勝ち抜くことは困難だと思います。従来の日本では自前で研究所を構え、できるだけ早い段階で学生を採用し、自社への理解を深めてもらって研究開発を行うことが主流でした。こうした方法は、自社のビジネスを少しずつ改善して、よりよい製品・サービスを生み出すというプロセスにおいては効果的でした。

一方、足早に変化する今の社会においては、内製に最適化された研究体制だと、変化に対応しきれないのではないでしょうか。新しい技術と掛けあわせて市場を取りに行くことを、もっと機動的に行っていかなければ、新たな売上・利益の獲得は難しいと考えています。逆にいうと、最先端の知にアクセスしている大学と連携することで、ビジネスの成長を実現できる。こうした点において、企業にとって産学融合に取り組むメリットは大きいと考えています。

――大学側から見た、産学融合に取り組むメリットについてはいかがでしょうか。

経産省・大石氏: 大学も民間企業や地方自治体などから資金を獲得していける存在になっていくべきだと思っています。当然、基礎研究などは重要なので、国が大学に対して研究環境を整え続けるべきですが、大学も地域全体をステークホルダーと見なして、自らが重要と思う研究に対し、安定的に資金を投入できる経営体になっていかねばならないと思います。それは、稼げるところにだけ取り組めばいいということではなく、将来を見据えて必要な基礎研究や人文社会分野などにも継続的に先行投資を行う。こういったお金のやり取りをきちんと行う経営体になるべきです。その自由に投資ができる資金の獲得手段として、産学融合を活用していただきたいと考えています。

また、自らの研究成果を産業界の力を借りながら社会実装するチャンスでもあるでしょう。大学や研究機関では、論文の掲載先やそこでの評価に関心がいく傾向にあります。ですが、世界の大学ランキングなどを出している格付け機関では、社会や人材育成への貢献度、あるいはサステナブルな社会への貢献度なども評価の対象にしています。やはり研究成果の社会実装も含めて、大学の重要なミッションなのではないでしょうか。社会実装を実現するうえで、産学融合は大きなメリットがあるものだと、ぜひ捉えていただきたいです。

――本プログラムでベンチマークされている、産学融合の好事例はありますか。

経産省・大石氏: ある企業では、10年で三桁億円もの資金を投下し、複数の大学とともに共同研究を実施されているような例が出てきています。1つの製品を開発するための共同研究というレベルではなく、問いの設定から一緒に考えておられるのです。それも、よくある工学系や化学系だけではなく人文社会系や経済系も含めて取り組まれています。まさに目指すべきは、自社の経営戦略を大学の英知を用いて一緒に考えていくような、こうした産学融合の在り方だと思っています。

――本プログラムを開始してから3年が経過し、成果報告会も開催されました。現時点で、どのような手応えをお感じですか。

経産省・大石氏: コーディネーターの皆さんが強い想いで動かしてくださったこともあり、面的な受け皿が整備できてきたとの手応えを感じています。たとえば関西だと、力のある大学も多いので独立独歩でやれてしまう状況だったのですが、ひとつのテーブルに着いていただき、求心力のある形でまとめていただきました。ファンドや人材育成プログラムの立ち上げも矢継ぎ早に進んでいます。様々な施策を積み上げていく基盤が構築できてきたという手応えがありますね。

――最後に、今後の方針についてお聞かせください。

経産省・開田氏: 来年には4年目を迎える拠点もあるので、本事業終了後の自立を見据えるフェーズだと思っています。自立に向けて、各地域のなかで「どういう位置づけで取り組んでいけばよいのか」を考えているところです。これまでの活動や成果報告会等で得られたノウハウが蓄積され、地域のなかでの拠点の立ち位置が明確化しつつあります。また、3地域で複数の産学融合プロジェクトが動いています。そのなかから成果も出てきていますので、成果の共有を行う機会も増やしていきたいと思っています。


▲経済産業省 産業技術環境局 大学連携推進室 開田千晴 氏

経産省・大石氏: 本事業を開始してから3年が経つので、どこかで総括をしたいと思っています。先ほどお話したように手応えは感じていますが、明文化はまだできていません。ですから、構成要素を分解して、他エリアでも適用できる横展開の要素を洗い出したいですね。それをもとに、次のステップへと進んでいく考えです。


取材後記

大学や研究機関の持つ「最先端の知」を起点に、産業界をはじめとした地域のステークホルダーを巻き込みながらイノベーションを興そうとする本取り組み。北海道、関西、北陸の3地域の活動報告から、多様な分野の研究シーズが社会実装に向けて、着々と前進している様子が伝わってきた。また、成果報告後の交流会でも意見交換が積極的に行われ、3地域それぞれで獲得された知見の横展開が期待される。

なお、TOMORUBAでは今後、3地域それぞれのインタビュー記事を公開していく予定だ。それらもぜひチェックしていただきたい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、鈴木光平、撮影:齊木恵太)


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