製造・建設業の”現場の課題”を共創で解決したい――IIJがIoT領域でオープンイノベーションに挑む理由
日本における商用インターネットサービスの先駆けである、株式会社インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)。1992年の設立から、これまで様々な業界の企業活動を支援し、現在は約1万3000社へ総合的なネットワークソリューションを提供している。2019年には、顧客の成長につながるIoTビジネスの創出を目指す専門部署を設立。産業用コンピュータを提供するAdvantech(アドバンテック)社の産業IoT向けプラットフォームとの連携など、共創によって事業が拡大している。
今回、IIJはオープンイノベーションにより製造、建設業界の課題を解決すべく、新たなプログラム【IIJ IoT OPEN INNOVATION】を始動。『①デジタルシフトによる製造現場の生産性向上を実現』、『②建設業界の社会課題解決をデジタルシフトを通じて実現』という2つのテーマを掲げ、共創パートナー企業の募集をスタートさせた。
――そこでTOMORUBAでは、IoTビジネス事業部長の岡田晋介氏と、プログラムの担当者である杉浦彰氏と笹島啓史氏に、共創パートナー企業と成し遂げたいことや、提供できるリソースなどについて詳しく話を伺った。(※撮影時のみマスクを外しています)
国内初のネットワークソリューションを多数手がけてきたIIJが、IoTに取り組む必然性
――IoTビジネス事業部長の岡田さんには、今回のオープンイノベーションプログラム発足の背景について伺います。まず、長年にわたり総合的なネットワークソリューションを提供してきた貴社が、IoTビジネス創出を目指す専門部署を立ち上げた理由をお聞かせください。
岡田氏 : IIJは、1992年に国内初の商用ISPとしてスタートしました。そこからユビキタス、M2M、そしてIoTと時代は変わっていきましたが、IIJはその変遷にずっと寄り添っています。IIJ創業者であり、現・代表取締役会長である鈴木幸一が、ずっと「すべてのモノはインターネットにつながる」と言い続けていることからも、インターネットを生業とする当社にとって、IoTに取り組むのは必然だといえるでしょう。
また、当社の事業は企業のLAN・WANなどネットワークサービス提供にはじまり、それらを運用するためのルータ監視・管理の仕組みを開発しました。さらに、ファイアウォールやWebセキュリティをサービスで提供する、クラウドがまだなかった時代にサーバリソースのマネージドサービスを提供する、フルMVNOとしてモバイルサービスを提供する、など国内発の取り組みを数多く手掛けてきました。こうしてこれまでインターネットを普及させていくために作ってきたものが、現在IoTに必要なコンポーネントとして既に揃っているのです。このように、IIJが持つ技術やサービス・ソリューションがフィットしていることも、IoTに取り組む理由のひとつです。
さらに、私は「インターネットをもう一度」という言い方をしているのですが、たくさんのモノがインターネットにつながることで、新しいサービスやプレーヤーが台頭する面白い時代になってきていると思います。だからこそ、IoTビジネスに取り組むべきだと考えています。
▲IoTビジネス事業部長 兼 技術部長 岡田晋介 氏
――貴社は2016年にIoTサービスを開始していますが、現在のIoT事業の状況をお聞かせください。
岡田氏 :現状は2つの方針を掲げています。まず、私たちがコアとして持っている5つのテクノロジーとサービスを、IoTのマーケットにどう届けるのか、考えていくことです。今、多くの企業では情報システム部門が設置されており、顧客のご担当者様もITのプロフェッショナルであることが多いですが、ことIoTにおいてはそうではありません。そのギャップをいかに埋めていくかをミッションとしています。
もう1つは、事業会社が事業を展開するのは、そこに業界があってマーケットがあるということなので、その業界に特化したIIJの新しいサービスを開発することです。
これら2つを軸として、2016年にIoTのプラットフォームを立ち上げ、2019年には産業用コンピュータで世界トップシェアを持つ台湾のアドバンテック社とアライアンスを組み、製造業向けのIoTで協業を進めています。
約1万3000社の顧客基盤と、スピーディーなITサービスの提供が可能
――様々な取り組みを進めていらっしゃいますが、今回オープンイノベーションプログラムを実施するに至ったのはなぜでしょうか?
岡田氏 :やはり、自前では限界があります。テクノロジー領域では、業務に密接するソフトウエアや、デバイスやモジュールといった実際のものづくりについては、私たちだけで行うことはできません。さらにいうと、それがなぜ必要なのか、どうすればいいのかを考えるには、現場の知識が必要となります。私たちは、それを細部にわたって把握しきれていないのです。
もちろん、私たちも積極的にお客様の現場に足を運んでいますが、そこでビジネスをしている人でなければ分からないことがあります。どうにか、これまでにない方法で、そうした仲間を増やすことができないかと考えた時に、オープンイノベーションにたどり着きました。
――パートナー企業と、どのような共創関係を築いていきたいとお考えですか?提供できるリソースも含めてぜひ教えてください。
岡田氏 :テクノロジーやノウハウをお持ちの様々なパートナー企業さんと、お互いに足りないところを補い合いながら、共創をしていきたいと考えています。IoTビジネスは、現場に行って、現場を知る必要があります。だからこそ、企業規模の大小を問わず地場に密着して、現場のラストワンマイルをおさえている企業さんと、ぜひお会いしたいですね。そこで期待するのは、商圏というよりは、現場でどのようなサポートが求められているのか、どういうトラブルが予見できるのかといったノウハウや知見です。
それ以外の、ネットワークやクラウド、データ化、それを活用するためのリソースについては、IIJが提供できます。また、ITサービサーとしてこれまで約1万3000社の顧客基盤を築いていますので、ご一緒できるアイデアがあれば、アプローチする先はたくさんあります。さらには、当社はReady to go でお出しできるサービスをたくさん持っています。何をするのか決まれば、お客様への提案やPoCの実施など、動き出すのは早いと言えます。
ぜひ、インターネットを使った業界の新しい仕組みづくりや課題解決を、インターネットの会社である私たちと一緒に取り組んでいきましょう。
▲IIJが有する、クラウド・ネットワーク・セキュリティなど様々なサービスを活用することが可能だ。
製造、建設現場の課題を熟知しているパートナーと共創したい
――それでは次に、本プログラムの募集テーマなどについて、共創の窓口となる杉浦さん・笹島さんにお話を伺います。まずは、お二人それぞれの業務についてお聞かせください。
杉浦氏 : 私は営業推進として、IIJ各拠点の営業が担当するIoT案件の支援をしています。営業がお客様から伺った課題をもとに、提案のサポートを行うことと並行して、新たな製品・サービスの企画も行っています。実際にお客様先に伺うことも多いですね。
▲IoTビジネス事業部 営業部 営業推進課 杉浦彰 氏
笹島氏 : 私はソリューションインテグレーション課にて、2つのミッションを持っています。1つはお客様の現場の声を伺った上で、ソリューションを作ることです。そしてもうひとつは、そのソリューションとIIJのサービスを組み合わせてお客様に提案し、プロジェクトを推進するPMとしての役割も担っています。
▲IoTビジネス事業部 技術部 ソリューションインテグレーション課 テクニカルマネジャー 笹島啓史 氏
――今回のプログラムでは、『①デジタルシフトによる製造現場の生産性向上を実現』、『②建設業界の社会課題解決をデジタルシフトを通じて実現』という2つのテーマを掲げています。製造業、建設業それぞれにテーマを設定されていますが、その背景をお聞かせください。
杉浦氏 : まず、製造業については、従前から私たちが取り組んでいる領域であり、その中で生産性の向上や人手不足といった課題をお客様から伺ってきました。当社がソリューションとして提供できる既存サービスもありますが、そこからさらに一歩踏み込んだ課題解決や現場の悩みを解決していきたいということで、テーマとして設定しました。
建設業は、まだIoT事業部では本格的に取り組んでいない領域ですが、IIJの既存事業の顧客基盤として、建設業界のお客様とのリレーションがあります。そこで、人手不足、業務効率向上、安全衛生など、業界が抱える課題に対して、IoT事業として新しい価値をお客様に提供できないかと考えています。
――プログラムとして目指すゴールについてお話しいただけますでしょうか。
笹島氏 : まずは建設現場の一部分、製造ラインの1ラインといった、小規模なところからPoCをスタートさせることを1つのゴールとして設定しています。もちろん、ゴールといってもそこですべて終わりというわけではなく、まずそこから取り掛かることで、将来的には工場全体や建設現場全体に広げていくことをイメージしています。
――実際にそれぞれの業界でどのような課題があり、それらをどう解決していこうとお考えでしょうか。
杉浦氏 : 私たちはIoTに必要なツールをサービスとして展開していますが、そのツールを活用しお客様の業務に役立つシステムにするためには、現場の理解が重要だと考えています。しかし、私たちで現場のリアルな課題をつかみきれておらず、エンドユーザーにツールを届けられないという課題を持っています。そこに対して、「現場の課題は把握しているし、アイデアはあるのだけど、実装に至るネットワークやアプリケーションが足りない」という企業とぜひ一緒に手を組んで、お客様にサービスやソリューションを提供していきたいと考えています。
笹島氏 : 当然ながら、一般的に世の中で言われている生産性向上や労働環境の改善といった課題は認識しています。しかし、実際にそれをお客様の現場で具体的に落とし込むときに、現場の知識やノウハウが少なく、なかなかイメージできないということが課題となっています。たとえば導線管理といっても、お客様の現場それぞれで意味合いも変わってきますので、さらに解像度を高めた課題を知った上で、解決に向けて共創をしていきたいと考えています。
ベンダーではなくパートナーとして、中長期的に顧客の課題解決に取り組む
――今回のプログラムで、共創したいパートナー像についてお聞かせください。
杉浦氏 : 製造業の場合は、実際に現場に出入りして生産ラインをつくるような企業が例として挙げられます。建設業においても、現場に出向いて商談をしたり、現場の作業員から生の声を聞いているような企業とパートナーシップを組んでいきたいです。
笹島氏 : 別の視点でお話しすると、今までオンプレミスでアプリケーションを作ってお客様に納品している実績のある企業は、現場に関して詳しい知見をお持ちだと考えています。アプリケーションはあるのだけど、クラウドとの連携に悩んでいる。そういった課題をお持ちのパートナーさんともぜひ共創したいですね。
――パートナー企業がIIJと共創することによって、どのようなメリットがあるとお考えですか?
杉浦氏 : ひとつはIIJの顧客基盤に生の声を聞きに行けることです。もうひとつは、すぐに使えるサービス基盤を持っており、お客様への提案やPoCの実施がスピーディーにできるということです。
笹島氏 : 当社はネットワークの会社ですから、そこに関するお困りごとを、日本国内のみならずグローバルに対して解決することができます。それができるのは、日本の中でも大手通信キャリアやIIJなど数少ない企業に限られていますから、どんどん活用していただきたいです。
――最後に、応募企業へメッセージをお願いします。
笹島氏 : 目先の課題を解決することはもちろんですが、そこに留まらず、5年先10年先を見据えて、1ベンダーとしてではなく中長期的なパートナーとして共創したいです。「現場には詳しいが、その先に広げられない」「自分たちの事業だけでは限界を感じる」という方、ぜひお声がけください。
杉浦氏 : このプログラムでは、小さな一歩からスタートすると思いますが、将来的には潜在的な課題にもアプローチしていきたいと考えています。共に知恵を絞り、現場に出向いて議論ができるようなパートナーさんと一緒にやっていきたいですね。サービスの基盤やIoTに必要なものはIIJで取り揃えており、すぐに提供できます。ぜひ一緒に新しいことに取り組んでいきましょう。
取材後記
IoTという言葉は世の中に浸透しているが、実際に製造や建築の現場でモノとインターネットがつながり、課題を解決している事例はそれほど多くない。そこに、オープンイノベーションの力で切り込もうとするのが、インターネットとともに歴史を築いてきたIIJだ。これまでの実績があるからこそ今回のプログラムにおいて、IIJに確固たる強みがあることや、すぐにPoCがスタートできる環境は、非常に魅力的だろう。製造業や建設業の現場における課題解決方法を編み出していきたいという方は、ぜひ応募を検討していただきたい。
■IIJ IoT OPEN INNOVATIONの詳細・応募方法については以下よりご覧ください。
(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:山﨑悠次)