
小糸製作所×三菱ふそう、LiDARで製造現場を“見える化”──人手不足とコスト課題に挑む実証実験を開始
株式会社小糸製作所は、三菱ふそうトラック・バス株式会社と共同で、LiDAR技術を活用した製造現場のDXに取り組む実証実験を開始した。目的は、製造現場における作業者や車両の動線を可視化・最適化し、業務効率の向上や人手不足対策、コスト削減を実現することだ。
この取り組みの中核を担うのが、小糸製作所が独自に開発した3Dセンシングシステム「イルミエル®」である。イルミエルは赤外線レーザー光を用いたLiDAR(Light Detection and Ranging)により、対象物との距離や位置情報を正確に測定。そのデータを点群として処理し、移動体(作業者や車両など)を分類・可視化することで、現場の動きをリアルタイムで把握できる。
AIカメラを凌駕する「空間認識力」
製造現場では従来、AIカメラによる映像分析が主流だったが、複雑な環境や物体の遮蔽、照明条件の変化により精度が低下する課題があった。これに対し、イルミエルは空間を立体的に把握できるため、作業者と車両の動きをより高精度に追跡・分析できる。実際、MFTBCの中津工場(神奈川県愛川町)では、トランスミッションギアの加工工程においてイルミエル3台を設置。作業者の動線解析を開始しており、作業負荷の偏りや車両の不要な移動を可視化し、改善施策の検討が進んでいるという。
さらに、川崎製作所(神奈川県川崎市)での導入も検討中であり、今後の成果に業界の関心が集まる。
製造業からインフラ、商業施設まで──拡がるイルミエルの可能性
小糸製作所は今回の実証を単なる製造現場の効率化にとどまらず、より広範な社会課題の解決につなげる意向だ。交通インフラ分野では、イルミエルによる人や車両の動態把握を活かし、交通事故の撲滅や自動運転の安全性向上に貢献。さらに、商業施設やイベント会場では、人流解析によって運営効率化や混雑緩和にも役立てられる。
イルミエルが捉える3D点群データは、従来の映像とは異なり、人物の動きや位置を抽象化された情報としてマップ上に表示可能で、個人を特定せずに行動パターンを分析できる。この点も、プライバシーに配慮しながらデータドリブンな現場改革を進める上で、重要なアドバンテージとなっている。

製造現場の未来を切り拓く、日独連携の一歩
グローバル競争の激化や人材不足、資源価格の高騰など、製造業が直面する課題は多岐にわたる。そうした中で、日本を代表する部品メーカーである小糸製作所と、ドイツ・ダイムラーグループの一員であるMFTBCが手を組み、現場のデジタル化に挑む今回の実証実験は、製造業の未来を占う重要な一歩といえるかもしれない。
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(TOMORUBA編集部)