沖縄の産業活性化を4つの領域で加速――『Boost Up Okinawa 2025』デモデイ、スタートアップの挑戦と次の一手とは?
沖縄の産業活性化と地域課題解決を目指し、沖縄県内外のスタートアップを対象に実施されてきたアクセラレーションプログラム『Boost Up Okinawa 2025』。沖縄県が主催し、eiiconが運営する同プログラムでは、メンタリングや専門家セミナー、県内行政・企業とのネットワーキングを通じて、スタートアップの事業成長を約半年間にわたり支援してきた。
本年度は「サーキュラーエコノミー・観光・エネルギー・ヘルスケア」の4領域を重点テーマに掲げ、2025年7月のキックオフ以降、沖縄というフィールドでの実証や対話を重ねてきた。その集大成となるデモデイが、12月18日、Startup Lab Lagoon NAHA(沖縄・那覇)にて開催された。
当日は採択スタートアップが登壇し、この半年間で磨き上げてきた事業構想や沖縄での取り組み、今後の展望を発表した。さらに、「スタートアップが沖縄に根付くために必要なこと」をテーマにしたトークセッションも行われた。――今回TOMORUBAでは、現地取材を通じて各社のピッチおよびトークセッションの模様をレポートする。
【オープニング】 「スタートアップの挑戦の成果は、沖縄の未来に直結する」
はじめに、沖縄県 商工労働部 産業政策課 課長の座喜味肇氏が開会の挨拶を行った。座喜味氏は、半年間にわたり本プログラムに挑戦したスタートアップ、ならびに運営を支えたeiiconやメンター、関係者への謝意を述べた。そのうえで、採択企業が事業を磨き上げ、沖縄が注力する産業分野に取り組んできたことに触れ、「その成果は沖縄の未来に直結する」と評価した。
また、本日のデモデイはゴールではなく「ここからが本当のスタートである」と述べ、これまでに築いたネットワークと経験を生かし、県内外、さらには海外へと挑戦を広げていくことへの期待を示した。
――続いて、『Boost Up Okinawa』でメンタリングを行った外部メンターや協力者がコメンテーターとして紹介された。
<コメンテーター>
・伊藤仁成氏/MTG Ventures 代表パートナー、地域と人と未来株式会社代表取締役
・岡洋氏/Spiral Innovation Partners株式会社General Partner
・兼村光氏/中小企業基盤整備機構 アドバイザー(スタートアップ)
・常盤木龍治氏/沖縄のIT番長
・小澤尚志氏/株式会社eiicon Executive Incubator
・下薗徹氏/株式会社eiicon Quality of Open Innovation Officer
【成果発表】 プログラム開始から約半年、スタートアップ8社の取り組みの成果は?
ここからは、『Boost Up Okinawa 2025』の採択スタートアップの成果発表を、登壇順に紹介していく。
●株式会社AmaterZ
日本初の実測型クレジットで、沖縄の畜産・酪農DXに挑む
トップバッターとして登壇したのは、株式会社AmaterZの矢島氏だ。同社は、畜産・酪農の現場にセンサーを設置し、環境データを実測・可視化することで、生産性向上と低炭素化、アニマルウェルフェアの両立を目指すスタートアップだ。文献値や推定値に頼らず、実測データに基づいて温室効果ガス(GHG)削減量を算定し、環境価値を経済価値に転換する形で、信頼性の高いカーボンクレジット発行を可能にしている点が特徴である。
今回のプログラム期間中、同社は何度も沖縄に足を運び、沖縄担当メンバーも新たにアサインされた。沖縄県内の高校や牧場と連携し、本年度中の実証開始に向け準備を進めている。沖縄では、家畜が最後までストレスなく過ごせる飼養環境づくりと、その取り組みを正当に評価する仕組みの構築を目指している。和牛の繁殖分野において実測型カーボンクレジットを創出する試みは、日本初となる見込みだ。
また、生産者が低炭素化や飼養環境の改善に取り組むことでクレジットが創出され、その収益が生産者に還元される循環モデルについても説明された。これにより、GXのために導入したシステムが生産性向上にも活用できるという。「クレジットを通じて、生産者の努力や負担を社会全体で分かち合える仕組みをつくりたい」と、矢島氏は語った。同社は沖縄を起点に、国内外への展開も見据えている。沖縄発の新たな畜産モデルを世界に広げていく構想のもと、実証を通じた事業実装を進めていく考えだ。
●株式会社Spacewasp
植物廃材を空間価値へ。沖縄発の循環型内装モデルを構築
続いて登壇したのは、株式会社Spacewaspの伊勢崎氏である。同社は、農業や林業などから発生する植物廃棄物を回収し、樹脂化・3Dプリンター加工を通じて内装材や家具、建材として再生するスタートアップだ。素材開発から製造設備、設計・デザインの自動化までを内製化し、「空間を更新可能な循環型インフラ」として提供している。
沖縄で同社が解決を目指すのは、「空間の更新が進まない」という内装側の課題と、「植物資源が活かしきれていない」という廃棄物側の課題を同時に解決することだ。台風や高温多湿といった沖縄特有の環境条件により、内装工事の工期遅延や資材調達の不安定さが生じる一方、サトウキビのバガスや剪定くず、泡盛蒸留粕など、多様な植物廃棄物が十分に活用されていない現状がある。
同社はこれらをつなぐ仕組みとして、素材循環と内装製造を統合した「Dual Cycle System」を展開する。内装を一度きりで終わらせず、リメイクによって何度も形を変えられる「更新できる空間」を実現する。空間そのものを地域や企業の価値を伝えるメディアと捉える考え方を、「Space as Media」と表現した。
プログラム期間中には、脱炭素マッチングイベントやリゾテックなどを通じて50社以上へのヒアリングを実施。イオン琉球をはじめ、県内の商業施設やホテルとの連携が具体化していっている。今後は沖縄でのPoCを起点に、リゾート地や海外展開も見据え、小型製造拠点の設置を検討していく。
●株式会社FDS
オフグリッド技術で、沖縄の防災・食料課題に備える持続可能なまちづくり
3社目として登壇したのは、オフグリッド型野菜栽培システムを手がける株式会社FDSの五十嵐氏である。同社は、水・電気・野菜を公共インフラに依存せず自給自足できる仕組みを通じ、災害や国際情勢の変化にも耐えうる持続可能なまちづくりの実現を目指している。
沖縄では、台風や断水といった自然災害に加え、本土からの物流に依存する構造ゆえ、国際情勢の変化や市場供給不足による野菜価格の高騰などが課題となっている。FDSはこうした沖縄特有のリスクを踏まえ、自社のオフグリッド技術がどの領域で社会実装できるのかを検証してきた。遊休施設を活用した屋内栽培により、気候や災害に左右されず、高品質な野菜を安定供給できる点が大きな特徴である。
プログラム期間中には、自治体や防災組織、商業施設など幅広い主体へのヒアリングを実施した。その結果、有事への危機感は自治体よりも、病院や介護施設、学校といった生活現場の方が高いことが明らかになった。こうした声を受け、同社は沖縄での実績づくりを重視し、まずはホテルや医療・福祉施設など導入しやすい分野から展開を進めていく方針を示した。
五十嵐氏は、日常的に活用しながら災害時にも機能する『フェーズフリー』の考え方を強調。沖縄で確立したモデルを起点に、将来的には全国の自治体や海外展開も視野に入れ、防災・食料・まちづくりを横断する新たな価値創出に挑戦していくという。
●一般社団法人BlueArch
自律型海中ドローンで、沖縄発の海洋インフラ点検モデルを構築
4社目として登壇したのは、自律型海中ドローン(AUV)を開発する一般社団法人BlueArchの武藤氏である。同法人は、東京大学生産技術研究所・巻研究室と連携し、自律航行型の小型・軽量水中ドローン(AUV)の社会実装に取り組んできた。
従来の水中ドローンはケーブルで操作する方式が主流で、点検範囲や作業効率に制約があった。これに対しBlueArchのAUVは、AIが周囲環境を認識しながら自律的に航行するため、ケーブルなしで長距離の調査が可能となる。これまで同法人は、海藻をAIで識別・計測し、CO₂吸収量を算定するブルーカーボン調査に取り組んできたが、より広い用途展開を見据え、株式会社化し、本格的な事業展開に踏み出す。
プログラム期間中、沖縄では多様なプレーヤーとの接点が生まれた。ダイバーの安全監視や洋上風力発電、公共施設の水中モニタリングなど、複数の活用可能性を検証する中で、特に手応えを得たのが沖縄電力との海底送電ケーブル点検に関する議論だ。沖縄県は国内最長の海底送電ケーブルを有しており、点検・維持管理の高度化が求められている。
既存手法では、ダイバーによる作業は人員や安全面での負担が大きく、市販ドローンもケーブル絡まりなどの課題があった。AUVを活用すれば、AIによるケーブル認識と連続点検が可能となり、効率化と高度化が期待できる。武藤氏は、「沖縄で培われてきた点検ノウハウをAUVに移植し、沖縄発の海底ケーブル自動点検手法として県外、さらには世界へ展開していきたい」と展望を示した。2026年の実証実験に向け、沖縄を起点とした新たな海洋インフラモデルの構築が進められている。
●株式会社PRENO
生成AI自販機で、沖縄観光の免税体験を次のステージへ
5社目として登壇したのは、IoT自動販売機の企画・製造を手がける株式会社PRENOの肥沼氏だ。同社は、日本の自動販売機を「世界に誇る高度技術インフラ」と捉え、高付加価値商材と体験価値を掛け合わせた新たな購買モデルを展開してきた。PRENOの自販機は生成AIを搭載し、多言語対応や顧客行動データが取得可能。京都での実証では最大64カ国語によるアバター接客を実装し、訪日客が母国語で説明を受けられる体験は、想像以上に価値が高いという手ごたえを得た。
今回の発表で中心となったのが、沖縄観光との親和性が高い「免税自販機(Tax-Free自販機)」と「Duty-Free自販機」である。免税自販機は、パスポートリーダーを搭載し、ICチップ情報をクラウドで照合することで、本人確認から消費税免税手続きまでを自販機内で完結させる仕組みだ。観光庁・国税庁の認可を取得し、量産化に成功しているのは同社のみだという。
さらにDuty-Free自販機は、消費税に加え酒税・たばこ税まで免税対象とし、空港・DFS向けに展開が予定されている。まずは首都圏空港での設置の方向で検討しており、「この実績を弾みに、那覇空港での導入を現実的に進めていきたい」と肥沼氏は沖縄展開のロードマップを示した。
プログラム期間中は、空港関係者や県内企業、観光事業者との対話を重ね、商業施設・リゾート地・イベント空間での活用可能性を検証した。肥沼氏は「まずは沖縄の飲食チェーンやファッションブランドと連携し、1台を象徴的に設置するところから始めたい」と述べ、将来的には沖縄発モデルとして海外展開も視野に入れていると話した。
●株式会社furasuco
混雑緩和と自由な回遊。サステナブルな観光を実現「RedCaps」
6社目として登壇したのは、「手ぶら観光」を軸に観光地の回遊性向上と混雑緩和を目指す株式会社furasucoの江﨑氏だ。同社は、石垣島を起点に手荷物当日配送サービス「RedCaps」を展開し、観光客と地域双方の課題解決に取り組んできた。
「観光地ではスーツケースが移動の自由を奪い、同時に地域の混雑や交通課題を生んでいる」と江﨑氏は語り、空港や港で荷物を預ければ宿泊先へ直送され、旅行者は到着後すぐに手ぶらで観光に出発できる「RedCaps」の仕組みを紹介した。荷物は1個1,800円で配送され、ホテル間移動にも対応。観光時間の最大化と新たな体験価値の創出につながっている。
石垣島では2025年3月にサービスを開始し、すでに数千件の配送実績を積み重ね、配送ミス・クレームはともにゼロ。300以上の宿泊施設と連携し、ホテルに加え民泊やAirbnbにも対応している点が特徴だ。さらに、沖縄県およびJTBが主管する「手ぶら観光推進事業」に石垣エリアの担い手として参画し、県全体への展開を見据えた接続も進めている。
プログラム期間中は、交通事業者や自治体、観光協会など官民7社と連携し、「石垣島手ぶら観光プロジェクト」を始動。路線バス全車両へのサイネージ掲出による混雑緩和の取り組みや、電動モビリティとの連携による新たな回遊モデルの構築にも着手した。江﨑氏は「私たちは荷物を運ぶ会社ではない。旅と地域の課題を“時間”という価値に変え、その時間を“市場”という未来へつなげていく」と展望を示し、沖縄発のサステナブルな観光モデル創出への意欲を語った。
●株式会社Helical Fusion
フュージョンエネルギーの実現~日本と沖縄のエネルギーの未来に向けて
続いて登壇したのは、核融合(フュージョン)エネルギーの社会実装を目指す株式会社Helical Fusionの田口氏である。同社は日本発の最先端技術をもとに、沖縄という島しょ環境を起点としたエネルギー課題解決の可能性を探ってきた。
核融合エネルギーは、太陽内部で起きている反応を地上で再現し、CO₂を排出せず、燃料を海水等から得られる次世代エネルギーだ。原理上、暴走のリスクがなく、高レベル放射性廃棄物も生まない点が特徴で、気候や時間帯に左右されず、高効率な安定供給が可能とされる。なかでも日本は、約70年にわたり国立研究機関と大学を中心に核融合研究を牽引してきた世界有数の技術蓄積を持つ。Helical Fusionは、こうした日本のアカデミアが培ってきた研究成果を継承し、商用化という未踏領域に挑むスタートアップだ。
今回の『Boost Up Okinawa』では、沖縄が抱える火力発電依存や高い電力コスト、島外依存といった課題に着目した。「これらは日本全体のエネルギー課題の縮図であり、沖縄で解決できれば日本のモデルケースになり得る」との仮説のもと、半年間にわたり地域との対話とヒアリングを重ねてきた。11月には「おきなわ・エネルギーフォーラム」に登壇し、地元関係者から生の声を得ている。さらに、プログラムの支援を受けつつ次に繋がる取り組みの一つとして、デモデイの翌日には、沖縄・コザでエネルギーをテーマにスタートアップエコシステムの進化を語り合うイベントも主催した。今後は、電力会社やエネルギー関連企業との連携を深め、GW2050(※)などの取り組みとも接続しながら、社会実装に向けた検討を加速させていく構えだ。
※GW2050 PROJECTSは、那覇空港、那覇港湾施設、牧港補給地区、普天間飛行場周辺エリアを「価値創造重要拠点」と位置づけ、次代の沖縄の進化を象徴する「世界に開かれたゲートウェイ」として、将来像の具現化を図るプロジェクトのこと
●MUSCLE FOOD PROJECT合同会社
バガスを活用した腸活ファイバープロテインで、沖縄の価値を世界へ
発表の最後を飾ったのは、沖縄県産素材を活用したフィットネスサプリメントの企画・販売を行うMUSCLE FOOD PROJECT合同会社の山城氏である。同社は「人も地球もマッチョにする」を理念に、沖縄の農産物が持つ機能性を再定義し、健康・環境・農業の課題を同時に解決する事業に取り組んできた。
山城氏は、農家出身という自身の原体験を振り返り、「栄養価の高い沖縄の農作物が十分に価値として評価されず、農家の所得も低い状況に強い違和感を覚えた」と語った。今回の『Boost Up Okinawa』で注力したのが、サトウキビの搾りかすであるバガスを活用した腸活ファイバープロテインの開発である。従来は廃棄・燃焼されてきたバガスには、ごぼうの15倍の食物繊維など豊富な栄養素が含まれており、これをフードグレード化することで、腸内環境を整える女性向けプロテインとして商品化を進めた。
プログラム期間中は、県内外の専門家による商品開発、知的財産、薬機法に関する支援を受けながら、沖縄での実装テストを重ねてきた。その成果として、10月の産業まつりでテスト販売を実施し、1か月で400袋を完売。特に40代以上の女性から、ダイエット用途として高い評価を得るなど、明確な市場ニーズを確認できたという。
今後は沖縄で得たフィードバックをもとに商品改良を行い、米国市場でのテスト販売や、県内外のフィットネスイベントでの展開を予定している。山城氏は「沖縄の未利用資源を、世界の健康に貢献する価値へ変えていきたい」と展望を語り、沖縄発ブランドとしての成長に意欲を示した。
【トークセッションレポート】 スタートアップが沖縄に根付くために必要なこと
スタートアップによる成果発表後に行われたトークセッションでは、愛知を拠点に地域課題の解決に挑むシードスタートアップへの投資と支援を行う伊藤仁成氏、スタートアップ・大企業・中小企業・自治体など幅広くイノベーション創出支援を行う下薗徹氏、そして沖縄・全国・世界を駆け巡り数多くのスタートアップを支援する常盤木龍治氏が登壇し、「スタートアップが沖縄に根付くために必要なこと」をテーマに議論を深めた。
冒頭、常盤木氏は「地域にスタートアップという文化をどう根付かせるか」と問いを投げかけた。伊藤氏は、長年スタートアップ不毛の地と言われてきた愛知の事例を紹介し、転換点となったのは“危機感”だったと語る。産業構造の変化に対する切迫感を背景に、自治体が動き、スタートアップと集まれる場をつくったことがエコシステム形成につながったという。
また、強いスタートアップが生まれる背景には、大学や研究機関、地域産業といった土壌の存在があると指摘し、「人が起点であり、地域の強みと結びつくかどうかが重要だ」と述べた。一方で、理念を掲げながらも埋没してしまうスタートアップについては、「やりたいことに終始せず、変化に適応して、ピボットしながら進化し続けられるかが分かれ目になる」と語り、議論は次のテーマへと移っていった。
▲常盤木龍治氏
続いてのテーマは、「3年の壁」を突破し沖縄に根を張るための具体策という問いである。下薗氏は、自身が3年前から本プログラムに関わってきた経験を踏まえ、「起業家側の空気感はこの3年で大きく変わった」と語る。
かつてはアクセラレーションプログラムの一時の盛り上がりで終わるケースも多かったが、今は「この土地で何を得て、何を残すのか」を真剣に考える起業家が増えているという。同時に、地域側の受け入れ体制の重要性も指摘された。顧客や連携先となる“キャッチャー”が地域に存在するかどうかが鍵であり、支援する側も覚悟を問われているとした。
▲下薗徹氏
資本との向き合い方については、伊藤氏が具体的な数字を挙げて説明した。中部エリアのファンドでは、投資先の多くが現地に拠点を構え、地域企業との取引を実現しているという。起業家が求めているのは資金だけではなく、実証を通じた実績づくりとスピード感であり、それを支えられる環境が人を呼び込むと語った。
▲伊藤仁成氏
常盤木氏も「補助金目的で拠点だけを置くケースで成功した例はほとんどない」と強調する。沖縄で生活し、顧客と向き合い、地域の一員になることが、結果として事業の深度を高めることにつながるという視点が共有された。
さらに議論は、沖縄固有の課題と可能性にも及んだ。物流や地政学的特性といった課題を、スタートアップと地域がともに言語化し、未来に向けて提言できているか。沖縄を実証の場、そしてアジアへ越境する拠点として捉える視点が重要であることが語られた。
セッションの終盤では、登壇者それぞれがスタートアップや支援者へのメッセージを送った。伊藤氏は「リターンを得るにはリスクを取る必要がある」と述べ、チャレンジを尊重して失敗を許容する、エクイティの思想の重要性を語った。常盤木氏は、短期的な成果ではなく、時間差で効いてくる「信頼の複利式」に言及し、沖縄では人との関係性が価値として積み上がっていくと強調した。下薗氏は、「スタートアップを“支援する・される”という関係を越え、関わる人を勝たせる視点を持つことが、エコシステムを持続させる鍵だ」と語った。
【クロージング】 「沖縄のスタートアップエコシステムは、新たなステージに入った」
スタートアップのピッチとトークセッションを終え、クロージングでは中小企業基盤整備機構 アドバイザー(スタートアップ)の兼村光氏が登壇した。
兼村氏は、半年間にわたるプログラムを振り返り、各社が仮説検証を繰り返しながら沖縄というフィールドで挑戦を続けてきた点に言及。市場にすぐには刺さらない場面も含め、「行動したからこそ見えた現実であり、それを次にどう生かすかがスタートアップの力だ」と語った。
また、沖縄のスタートアップエコシステムは成熟を重ねつつも、新たなフェーズに入りつつあるとし、観光・エネルギー・サーキュラー・ヘルスケアといった重点分野において、ここに集う起業家一人ひとりが次の担い手になるとの期待を示した。そして、支援側として伴走を続けていく意志を述べ、閉会の挨拶とした。その後、ネットワーキングが行われ、参加者同士の交流と意見交換を通じて、デモデイは幕を閉じた。
取材後記
沖縄のスタートアップエコシステムは短期的な成果ではなく、時間をかけた関係性の積み重ねによって形成されてきた。トークセッションで常盤木氏は、沖縄には資金だけを目的に人を利用するプレーヤーが少なく、「この街を好きで、人を裏切らない」文化が根付いていると語った。その関係性は、すぐに数字として回収されるものではないが、信頼が少しずつ積み上がり、やがて大きな価値へと転じていく――いわば「信頼の複利式」とも言える循環を生んでいる。
会場の空気からも、スタートアップを一過性の存在として扱うのではなく、失敗や試行錯誤を含めて長期的に伴走しようとする姿勢が感じられた。伊藤氏が指摘したように、エコシステムは意図して完成させるものではなく、挑戦者と支援者が関わり続けた結果として成熟していくものだろう。
万国津梁として外とつながってきた沖縄は、いま再び越境を前提とした挑戦の拠点となりつつある。今回登壇したスタートアップが、この土地で育まれた信頼を起点に、どのような成長を描いていくのか。その可能性を強く感じさせる1日だった。
(編集:眞田幸剛、文:佐藤瑞恵)