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広島から「空き家問題」や「スタジアムの資源循環」等をテーマにした5つの環境事業が誕生!――HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD 2024 デモデイレポート<後編>

広島から「空き家問題」や「スタジアムの資源循環」等をテーマにした5つの環境事業が誕生!――HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD 2024 デモデイレポート<後編>

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広島県は、「環境・エネルギー」分野を県の主要産業のひとつとすることを目指し、県内の企業がオープンイノベーションを活用して新規事業に取り組むプログラム「HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD 2024」(以下、ビジネスビルド)を実施。ホスト企業とパートナー企業による5つの共創チームが組成され、約4カ月間のインキュベーション・実証実験を行った。

そして2025年3月4日、広島コンベンションホールにて成果発表会『HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD 2024 DEMO DAY』(以下、デモデイ)が開催された。

TOMORUBAでは、デモデイの様子を前編・後編の2記事で紹介していく。<後編>である本記事では、共創の成果を発表する「CO-CREATION PITCH」、そして昨年度のプログラムで「審査員賞」を受賞した2つのチームが新規事業の進捗を発表する「INNOVATORS PITCH」についてお届けする。

【CO-CREATION PITCH】 広島県内企業×全国のパートナー企業による新規事業

「CO-CREATION PITCH」では、広島県内企業×全国のパートナー企業による5つのプロジェクトが、環境分野の新規事業創出に向けた約4カ月の共創成果についてプレゼンテーションを行った。

●常石商事株式会社(ホスト企業)× 株式会社ハイドロヴィーナス(パートナー企業)

●広島トヨペット株式会社(ホスト企業)× AC Biode株式会社(パートナー企業)

●カイハラ産業株式会社(ホスト企業)× IMP3GNO LLP(パートナー企業)

●株式会社サンフレッチェ広島(ホスト企業)× 株式会社JOYCLE(パートナー企業)

●株式会社マエダハウジング(ホスト企業)× カクノウ株式会社(パートナー企業)

これらの発表に対し、参加者全員の投票による「オーディエンス賞」、審査員による「審査員賞」が選出された。審査員は、ひろしま環境ビジネス推進協議会 会長の早田氏、Spiral Innovation Partners 鎌田氏、テルイアンドパートナーズ 照井氏、東京大学・技術経営戦略学専攻/未来ビジョン研究センター 岩田氏、広島経済レポート 梶原氏、eiicon 村田氏の6名。審査の基準は、「①課題とソリューションの整合性」、「②経済的インパクト・収益性」、「③環境・エネルギー分野に対する貢献度」、「④事業共創性」、「⑤実現可能性・発展性」の5つだ。

今回、オーディエンス賞を「サンフレッチェ広島×JOYCLE」(共創プロジェクト:ごみ処理をエコにより効果的に!ファン・市民も巻き込んだ循環型廃棄物処理モデルのビジネス)が、そして審査員賞を「マエダハウジング×カクノウ」(共創プロジェクト:おうちファームビジネスで繋ぐ家族のココロ)が獲得した。以下、5つの共創プロジェクトの内容を紹介する。

●【オーディエンス賞獲得】ごみ処理をエコにより効果的に!ファン・市民も巻き込んだ循環型廃棄物処理モデルのビジネス

・株式会社サンフレッチェ広島(ホスト企業)× 株式会社JOYCLE(パートナー企業)

・ホスト企業の課題:スタジアムのごみ処理

2024年2月に開業した新スタジアム「エディオンピースウイング広島」の指定管理を担う、サンフレッチェ広島。Jリーグの試合では1試合あたり2万5000人以上の来場者があるが、人が増えればそれだけごみも増え、1試合につき2トンほどのごみが出ているという。その課題解決のため、CO2削減効果を可視化できる小型のIoTアップサイクルプラントを開発するJOYCLEと、「ごみを運ばず燃やさず、スタジアム内で循環するモデル」を共につくろうとしている。

JOYCLEの小型プラント「JOYCLE BOX」では、ごみ処理によりセラミック灰やバイオ炭に資源化することができる。今回の共創では、そのセラミック灰から水質浄化剤をつくり、スタジアムの芝の育成に活かすための実証に取り組んでいる。また、セラミック灰を建材などの商品にアップサイクルし販売することも検討しているという。

「スタジアムに設置した装置を用いてお客様が出したごみをアップサイクル商品に変え、ファン・市民が誇れるチーム、スタジアムを目指したい。そして、地元の産廃処理企業などと協力して、産廃処理コストのカットや環境への貢献を可視化しながら、スタジアムをサーキュラーエコノミー実践ブランディングの場として盛り上げていきたい」と、両社は展望を語った。

●【審査員賞獲得】おうちファームビジネスで繋ぐ家族のココロ

・株式会社マエダハウジング(ホスト企業)× カクノウ株式会社(パートナー企業)

・ホスト企業の課題:空き家の解消や建築資材の有効活用

地域密着でリフォーム・リノベーションを中心とする不動産事業を展開するマエダハウジングは、一畳でできる小さな室内野菜栽培装置を開発するカクノウと共に、広島県で深刻化している空き家問題に対する事業を創出していく。

空き家は売れないし、貸せない。さらに管理にコストがかかるため、家主にとって非常に大きな悩みの種だ。解体するとなると固定資産税もかかる。一方で空き家をリフォームして利活用すれば、CO2排出量は76%削減でき、産業廃棄物の排出量は96%削減できるという。そこで、両社が生み出したのが、農業を起点に空き家にコミュニケーションをつくる農業サブスクサービス「おうちファーム」だ。

ビジネスモデルとしては、まずマエダハウジングがオーナーから空き家を借り受ける。そこにカクノウの室内野菜栽培装置を置き、農業をしたいという人に貸し出す。そして、空き家の中にコミュニケーションスペースをつくり、会員同士や地域に住む人々とのコミュニティを創造していく。また、リフォームの余剰資材を農業装置に利活用もしていく。

「おうちファーム」は2025年7月に商業化する予定だ。「空き家を空き家のままにしない簡単なシステムで、安全・簡単に導入できる。おうちファームを、農業で心をつなぐものとして誕生させたい」と、マエダハウジングはサービスリリースに向けた決意を述べた。

●共創プロジェクト「瀬戸内海の潮流を活かした、環境にやさしい再生可能エネルギーの創出」

・常石商事株式会社(ホスト企業)× 株式会社ハイドロヴィーナス(パートナー企業)

・ホスト企業の課題:潮流発電の活用

海洋エネルギーのポテンシャルが大きい瀬戸内海。潮の干満により発生する潮流による発電事業にチャレンジするのは、常石グループの商社機能を担う常石商事と、岡山大学発ベンチャーのハイドロヴィーナスだ。

世界有数の急流海域である瀬戸内海は、潮流発電のポテンシャルが大きい反面、調査が難しい。海の環境保全や水産業関係者との共生も不可欠だ。そこで両社は漁網メーカーと共に、潮流計測器スマートブイを構想。常石商事が全体の取りまとめを、ハイドロヴィーナスが潮流発電機の開発を、漁網メーカーが計測装置全体の設計を行う。「島や港湾の電力を潮流発電で賄うことで、持続可能なエネルギー供給の確立などを実現し、子どもたちに誇れる美しい瀬戸内海を残したい」と、両社は未来に向かう姿勢を見せた。

●共創プロジェクト「触媒を用いて、廃プラ、廃油等有機廃棄物を200℃でケミカルリサイクルするビジネス」

・広島トヨペット株式会社(ホスト企業)× AC Biode株式会社(パートナー企業)

・ホスト企業の課題:新車フィルムのリサイクル

新車を自動車メーカーから販売店に輸送する際、車体を守るために「新車保護フィルム」が張り付けられている。それは販売店に到着後に廃棄されるが、全国規模でみると年間620トンものフィルムゴミが発生している算出になるという。これを解決すべく、広島トヨペットは化学に強みを持つグリーンテック企業であるAC Biodeと共に、触媒を用いて新車保護フィルムを200℃の低温でケミカルリサイクルする実証実験を行った。

その結果、水素やメタンなどが得られる可能性が高いことがわかった。「これらの物質から、アウトドア燃料、水素発電、そして自動車燃料への活用など、新しいエネルギーの可能性が広がる。将来的には全国に発信できる次世代の環境エネルギービジネスを目指したい」と、両社は熱く語った。

●共創プロジェクト「常識はずれのデニムイノベーション」

・カイハラ産業株式会社(ホスト企業)× IMP3GNO LLP(パートナー企業)

・ホスト企業の課題:水資源の使用量削減

デニムの世界的な生産者であるカイハラ産業は、生産において年間30万トンもの水を使用している。環境に負荷の少ない製造を目指し、処理水に対して新たな価値を見出すべく、シンガポールを拠点に環境や食などの分野でコンサルティングを行うIMP3GNO(インペグノ)と共に、地域環境と共存した常識に縛られないデニムづくりに取り組んでいる。

現在の規定では河川に放流できるものの、無機塩類濃度が高い処理水を工場内で再利用できるまでに浄化するというのは、現場での実証実験として大きな挑戦だったが、少しずつ効果を確認し始めている。「既存の施設で使用している身近な素材が、処理水の浄化において一定の効果があることがわかったことは驚きだった。この実験での結果をもとに、世界展開を目標に、素材メーカーなどより多くの企業ともタッグを組みたい」と、両社は今後の展望について話した。今後は、浄化フィルターの商品化や国内はもとより海外展開も見据え、事業化を進めていくという。

【INNOVATORS PITCH】 昨年度のプログラム参加企業による、新規事業の進捗発表

続いて、昨年度のデモデイで審査員賞を受賞した2つの共創プロジェクトの、この1年の進捗プレゼンテーションを紹介する。

●廃ガラスを使用したフレグランスボトル開発

・株式会社石﨑ホールディングス 代表取締役社長 石﨑泰次郎 氏

・luv waves of materials株式会社 代表取締役社長 宮内一樹 氏

石﨑ホールディングスは、窓・壁工事ガラス加工販売事業、自動車用ドアミラー製造販売・ウインドウガラス製造加工販売事業を展開する創業106年を迎える企業だ。パートナー企業のluv waves of materialsは、リユースプラットフォーム事業者としてシャンプーやコンディショナーの販売や、トヨタ車体の植物原料TABWD(タブウッド)を使用した次世代型コスメブランドの展開をしている。

両社は、年間1000トン近く排出される廃ガラスのアップサイクル事業として、レモンの廃材を原料としたフレグランス製品の開発販売に向けた共創を続けている。製品の製造を石﨑ホールディングスが、デザイン企画販売をluv waves of materialsが担当。瓶は日本古来の美術品の製造技術により製造されるという。TABBブランドとして、2025年9月に製品販売開始に向け、着実に前進している状況だ。

石﨑ホールディングス・石﨑氏は、「HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD」に参加するメリットを、「広島県など多くの方に支えられ、素晴らしいパートナーと出会うことができた。実証サポート費用の援助も受け、参加企業とのネットワークも広がった」と語った。そして、「販売直前までプロジェクトを進めることができ、事業化の可能性や成功の兆しを感じている。本日ご来場のみなさんにも、この取り組みにぜひ参加いただき、新たな挑戦を楽しんでほしい」と、会場に呼び掛けた。

●牡蠣殻を原料とした『ナノ炭酸カルシウム粒子』製造の実現

・クニヒロ株式会社 代表取締役社長 新谷真寿美 氏

日本の牡蠣出荷量の約6割以上を占める広島県では、毎年10万トンもの牡蠣殻が発生している。そのリサイクル用途は限られており、処理に時間もコストもかかることから、持続的な解決策が求められている。そこで、県を代表する牡蠣の仲買加工企業・クニヒロは、「牡蠣の持つ可能性を最大限に活かして廃棄物ゼロを目指す」ことを掲げ、アメリカセントラルフロリダ大学医学部(UCF)発のバイオテックベンチャーであるプロジェニサイトジャパンとの共創プロジェクトに挑んだ。

プロジェニサイトジャパンの技術により、天日干しにかかる時間やコストを削減して、炭酸カルシウムを製造できる。焙焼しないためCO2排出量はゼロで、環境負荷が低減する。そして牡蠣殻をナノ化して炭酸カルシウムの表面積を大幅に増加することで、触媒や触媒サポートとして様々な分野での活用が可能となる。この技術はフロリダのナノテクノセンターでPoCを取得、現在は共同特許を出願中だという。

特殊な技術であることから量産体制の構築に苦労はしているものの、原料の社会実装と並行して独自ブランド製品の企画販売も推進している。クニヒロ・新谷氏は「課題はあるが、プロジェニサイトジャパンというプロフェッショナル集団と共に、今後も牡蠣の無限の可能性を追求していく。思うように進まないこともあるが、この挑戦は必ず社会課題の解決につながると確信している」と、粘り強く取り組む意欲を見せた。

【総評】 環境ビジネスの先進事例として、早期の事業化を期待

表彰の後、本プログラムのメンター3名からの総評があった。Spiral Innovation Partners ジェネラルパートナー 鎌田 和博氏は、「多くのステークホルダーを巻き込み成果を出すには、単年での取り組みでは難しい。ぜひ、長い目線でオープンイノベーションに取り組んでほしい」とエールを送った。

テルイアンドパートナーズ株式会社 取締役副社長 照井 翔登氏は、「単なる受発注で終わるような関係ではなく、地域連携や価値創造の話がたくさんでてきた。今回のホスト企業が、今後の広島の新産業創出のリードカンパニーになるはず」と期待を述べた。

東京大学・技術経営戦略学専攻/未来ビジョン研究センター 岩田 紘宜氏は、「広島県の産業基盤で新しい技術が生まれ、新産業が生まれ、イノベーションが生まれることがあるべき姿。ここで実証の次を見据えたビジネスが生まれるよう、継続的なコラボレーションを期待したい」と呼びかけた。

閉会の挨拶として広島県 商工労働局 新産業創出担当部長 空田賢治氏は、石﨑ホールディングスとクニヒロに対して「1年前にこの場所で発表されたプロジェクトが着実に進んでいることに感銘を受けた。広島県における環境ビジネスの先進事例として、早期の事業化をおおいに期待したい」と感謝の意を示した。

そして今年度のホスト企業とパートナー企業に対して「昨年10月末にパートナ―企業が決まってから、わずか4カ月。素晴らしいスピード感と熱量でビジネスモデルを検討いただいたことに敬意を表したい」とコメントした。

閉会後は、会場で全参加者による懇親会が行われた。登壇企業によるブース展示も行い、県や各自治体の担当者、県内企業の新規事業開発担当者などが、環境・エネルギー分野の取り組みや新規事業創出について活発な意見交換を行った。

取材後記

オープンイノベーションプログラムでは、毎回新しい共創チームが生まれるが、デモデイの後に各共創プロジェクトがどのような歩みをたどっているのか、意外と詳細が見えない場合も多いのではないだろうか。その点で、今回のデモデイでは昨年度のプロジェクトの進捗状況も知ることができ、深みのある内容だったと感じた。環境・エネルギー領域の事業は、鎌田氏も話していたように結果が出るまで時間がかかる。だからこそ、今回生まれた5つの共創プロジェクトも、長い目で取り組みを追っていきたい。

※関連記事:2023年度のデモデイレポート

●前編/「環境事業」はオープンイノベーションで最短距離で実現できるのか?広島県内企業4社の新たな挑戦――HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILDデモデイレポート<前編>

●後編/広島から「牡蠣殻」や「廃ガラス」等をテーマにした4つの環境事業が誕生!――HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILDデモデイレポート<後編>

(編集:眞田幸剛、文:佐藤瑞恵、撮影:齊木恵太)

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