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オープンイノベーションで加速する広島県内企業の環境・エネルギー分野参入に向けた挑戦――HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD 2024デモデイレポート<前編>

オープンイノベーションで加速する広島県内企業の環境・エネルギー分野参入に向けた挑戦――HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD 2024デモデイレポート<前編>

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広島県は、カーボンニュートラルやSDGs達成に向けた世界的な潮流をチャンスと捉え、「環境・エネルギー」分野を県の主要産業のひとつとすることを目指している。そのなかで、県内の企業がオープンイノベーションを活用して新規事業に取り組むプログラム「HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD 2024」(以下、ビジネスビルド)を実施し、事業テーマ設計、パートナー企業のマッチング、プログラム型イベント、インキュベーション支援を行っている。

2期目となる今回のビジネスビルドでは、広島県内の企業5社がホスト企業として、環境・エネルギー関連の新規事業テーマを掲げ、共創パートナーを募集。昨年10月の最終審査会で各々がパートナー企業を採択した。そこで組成されたのが、以下の5チームだ。

●常石商事株式会社(ホスト企業)× 株式会社ハイドロヴィーナス(パートナー企業)

●広島トヨペット株式会社(ホスト企業)× AC Biode株式会社(パートナー企業)

●カイハラ産業株式会社(ホスト企業)× IMP3GNO LLP(パートナー企業)

●株式会社サンフレッチェ広島(ホスト企業)× 株式会社JOYCLE(パートナー企業)

●株式会社マエダハウジング(ホスト企業)× カクノウ株式会社(パートナー企業)

その後、約4カ月間のインキュベーション・実証実験期間を経て、2025年3月4日に成果発表会『HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD 2024 DEMO DAY』(以下、デモデイ)を、広島コンベンションホールにて実施した。TOMORUBAでは、その様子を前後編でお届けする。

――本記事は<前編>として、デモデイで行われた以下2つのトークセッションを紹介していく。

<トークセッション>

●広島の自動車産業を牽引するマツダが、地域と共に創る未来のカーボンニュートラルビジネス

●既存事業とのシナジーを生む広島県内企業の環境・エネルギー分野での新たな挑戦

【主催挨拶】 環境・エネルギー領域は、広島県全体の産業底上げの起点となる

『HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD DEMO DAY』の冒頭では、主催挨拶として、ひろしま環境ビジネス推進協議会 会長の早田氏が登壇した。

「環境・エネルギー領域は、広島県全体の産業底上げの起点となる。ただ、一企業の自助努力だけでは、なかなかそれは実現できない。そこで、企業の成長を外部パートナーとのオープンイノベーションという形で応援する仕組みをつくっている」と、本プログラム実施の背景を説明した。

そして「広島県の大きな問題のひとつが、若者の転出超過。地域産業が新たな価値創出にチャレンジすることで、若者が広島の未来に魅力を感じてもらえるようにしていきたい。ぜひ、今日のセッションを通じてどういう価値を創出できるのかを考えていただければ」と、参加者に呼びかけた。

【OPENING TALK】 広島の自動車産業を牽引するマツダが、地域と共に創る未来のカーボンニュートラルビジネス

続いてオープニングトークとして、広島を拠点にグローバルで事業を展開するマツダ株式会社の市川氏と、広島経済レポートの梶原氏によるトークセッションが行われた。

<スピーカー>

・マツダ株式会社 技術研究所・次世代環境技術研究部門 主幹研究員 市川和男 氏

<モデレーター>

・広島経済レポート 取締役編集次長 梶原恭平 氏

●カーボンニュートラル実現に向けたマツダの取り組み―微細藻類由来燃料の社会実装

はじめに市川氏が、マツダのカーボンニュートラル実現に向けた燃料開発の取り組みについて紹介した。

マツダは、クルマをつくる、運ぶ、つかう、戻すというサプライチェーン全体でのカーボンニュートラルを、2050年に達成すると宣言した。その実現に向けて、2つの取り組みを進めている。1つ目は、「クルマそのものを変えていく」こと。2030年のグローバルにおける電気自動車の想定を25%から40%として、パートナー企業とともにクルマの電動化を進めている段階だ。

2つ目は、「クルマづくりを変えていく」ことだ。2050年にサプライチェーン全体でカーボンニュートラルを実現するための中間ゴールとして、2035年にグローバルの自社工場でのカーボンニュートラル実現を目指す。具体的には、省エネ・再エネ・カーボンニュートラル燃料の3本柱にて、クルマを生産する世界中すべてのマツダの工場でCO2排出ゼロを目標に掲げている。

▲マツダ株式会社 技術研究所・次世代環境技術研究部門 主幹研究員 市川和男 氏

マツダは、ガソリンや軽油と完全に互換性のあるカーボンニュートラル燃料の開発を進めている。そのなかで「微細藻類由来の燃料」の社会実装に向け、産官学で挑戦することを宣言した。市川氏は「藻類油脂は従来から利用されている植物原料に比べ、生産性が非常に高く食料競合も起こさないため、代替燃料として期待できる。また、微細藻類の研究は、単にモビリティのカーボンニュートラル燃料にとどまらず、食の発展にも貢献できる」と、背景を説明した。

将来、マツダは微細藻類を起点とした炭素循環エコシステムの実現を目指す。化石燃料の代替となる燃料は、植物の成長過程でCO2を吸収するため、生成した燃料からはCO2が排出される。マツダはそのCO2の回収技術を活用することで、総排出量ゼロを超えたカーボンネガティブの状態を理想の姿と定義し、「走れば走るほど地球をきれいにし、有用食品を確保することでドライバー自身も元気になる」技術提供を目指すという。

「これらCO2削減と、栄養素としてのポテンシャルを活かしたカーボンリサイクル技術を中心とする産業モデルを構築し、地域経済とカーボンニュートラル、1粒で2度3度美味しい取り組みを実践していきたい」と、市川氏は展望を述べた。

●マツダ市川氏×広島経済レポート梶原氏 トークセッション

続くトークセッションでは、微細藻類に着目した背景や、研究・外部連携体制、ビジネスとしての難しさなどについて語られた。

現在、微細藻類由来燃料は広島大学との共同研究により、藻類の油脂から燃料をつくることができることが見えてきているという。「瀬戸内との親和性」について梶原氏が尋ねると、市川氏は「海水と淡水の両方で検証を行っており、海水の藻類は瀬戸内に生息しているものを使っている」と説明した。

▲【写真左】広島経済レポート 取締役編集次長 梶原恭平 氏

続いて「社内外での連携の難しさ」について梶原氏が聞くと、市川氏は「社内はクルマづくりを生業にしてきたため、なぜマツダが藻類由来燃料に取り組むのか、理解を得るのが難しかった」と述べた。そして社内浸透の秘訣については、「このような場や、社内でプレゼンの場を設けること。そして、自分たちが新しい発見を楽しむこと」だと話した。

「新エネルギーの研究開発をビジネスとして確立させる難しさ」については、「燃料というと、安く大量にしっかり使うことが前提になってくる。その目線合わせをしたうえで、必要な技術を構築せねばならない。藻類の原料を余すことなく有効に使いきるシナリオは、誰も考えたことがないという認識。そのため、いち早く見つけていくことが重要」だと、市川氏は説明した。

そして、マツダが取り組む意義については「モノづくりにおいて、計算シミュレーションなどを通じて究極の正解を見出すモデルベースの考え方が、マツダにはある。藻類に関しても、そういったモデルの考え方を当てはめて生産性を向上させていくことが強みであり親和性」だと強調した。

「カーボンニュートラルビジネスについて、チャンスはあるか」と梶原氏が聞くと、市川氏は「チャンスしかない」と断言。「エネルギーの転換という大変革期において、新しいエネルギーを地産地消でつくることにチャレンジできることは非常に面白い」と熱く語った。そして理想の姿については、「我々がつくった微細藻類由来の燃料を使ってクルマが走ること。そしてマツダのCO2回収技術を組み合わせることで、走れば走るほど大気中のCO2が低下していく状態を早くつくりたい」と話す。

最後に、今後について「広島で育ってきたマツダとして、気候が温暖で食も豊かな広島の魅力を活かす可能性がある取り組み。ただ、まだ産業として成熟していないため、仲間づくりが重要。つながりを作って盛り上げていきたい」と、市川氏は述べた。それを受けて梶原氏は「広島から新しい産業をおこす気運を、オール広島で高めていきたい。今日を契機に色々なつながりができ、若者にとっても魅力的な街になれば」と、セッションを締めくくった。

【トークセッション】「既存事業のシナジーを生む広島県内企業の環境・エネルギー分野での新たな挑戦」

続いて、「既存事業のシナジーを生む広島県内企業の環境・エネルギー分野での新たな挑戦」と題したトークセッションの様子をお届けする。今回のホスト企業5社が、技術開発チーム2社とサービス開発チーム3社に分かれ、2つのトークセッションを実施。オープンイノベーションに取り組む前後の変化や、スタートアップとの共創によって得られたもの、環境・エネルギー分野におけるビジネス創出の難しさなどについて語った。

【1】オープンイノベーションで創る新技術を用いた未来への挑戦

<登壇者>

・常石商事株式会社 代表取締役副社長執行役員 津幡靖久 氏

・カイハラ産業株式会社 生産本部 本部長 寺田康洋 氏

<モデレーター>

・株式会社eiicon 村田宗一郎

トークセッション前半は「オープンイノベーションで創る新技術を用いた未来への挑戦」というテーマで、常石商事の津幡氏、カイハラ産業の寺田氏が登壇した。

まず、オープンイノベーションに取り組む理由について、津幡氏は「当社は商社であるため、自社でモノを作る機能があまりない。そしてエネルギー・環境分野という変化の速い領域では、自社だけの知見や情報収集力では進まない。そのため、外部連携が不可欠」と答えた。

▲常石商事株式会社 代表取締役副社長執行役員 津幡靖久 氏

一方、寺田氏は「当社はデニム生地を生産しているが、繊維業界は環境面で課題を抱えている。特に水の問題は大きいが、日本ではその意識がまだ高くない。そして私たちが取り組む水の再利用は、1社の力だけでは進められないためオープンイノベーションに取り組むことを決めた」と話した。

▲カイハラ産業株式会社 生産本部 本部長 寺田康洋 氏

次に「社内コミュニケーションで意識したポイント」について、津幡氏は「最初から社内にはオープンにしていなかった。期待値コントロールも含めてあまり公表せず、ある程度進捗してから情報を開示した」と話した。一方、寺田氏は「役員から権限を一任してもらい、朝礼などの場を使ってプロジェクトの進捗を常に社内共有していた。それにより各部門のサポート体制もとれるようになり、何かあったときに迅速な対応ができる」と述べた。

また、津幡氏が「非上場のオーナー企業ならではのメリットとして、長期的な取り組みができる。それがお客様や地域のためになり、世の中の役に立つことであれば『是』である。その軸を我々がしっかりと持っていればいい」と話すと、寺田氏も賛同した。

次に「オープンイノベーションで感じるメリットや手応え」について、寺田氏は「通常の受発注ではなく、お互い同じ目標に向かう共創関係だからこそ、高い壁を乗り越えていけるのではないか」と話すと、津幡氏は「素晴らしい考えだ」と称えた。「一方、受発注の関係の方が慣れているため、仕事の進め方としては楽。オープンイノベーションは、コミュニケーションコストがかかるマイナス面もあるため、仕事のやり方を変えていく必要がある」と注意点も指摘した。

【2】スタートアップ共創で見えたサービス開発の新たな可能性

<登壇者>

・広島トヨペット株式会社 代表取締役 古谷英明 氏

・株式会社マエダハウジング 代表取締役 前田政登己 氏

・株式会社サンフレッチェ広島 エディオンピースウイング広島 所長 伊名弘一 氏

<モデレーター>

・株式会社eiicon 村田宗一郎

トークセッション後半は、「スタートアップ共創で見えたサービス開発の新たな可能性」と題し、広島トヨペットの古谷氏、マエダハウジングの前田氏、サンフレッチェ広島の伊名氏が登壇した。

「地域に還元できる環境ビジネスを生み出すことの難しさ」について、古谷氏は「まず、自社の課題に気付くことに時間がかかった。自動車産業は、すそ野が広いからこそ、課題も様々だが、『果たしてそれは自動車ディーラーである当社がやるべきことか』という壁にぶつかった。それを絞り込むのに非常に苦労した」と課題の特定の困難さを語った。

▲広島トヨペット株式会社 代表取締役 古谷英明 氏

前田氏は「社内で新規事業やサービスのアイデアを出そうとしていたが、なかなか出てこないし、出てきたとしても実行レベルに落とし込むのは非常に困難。だからこそ、今回共創の機会をいただけて前進することができた」と述べた。

▲株式会社マエダハウジング 代表取締役 前田政登己 氏

伊名氏は「施設を管理する側面から、ゴミ問題がまず浮かんだ。しかし、どのようにリサイクルをしていくのか、それをどう地域貢献につなげていくのか、さらにはクラブや施設の価値につなげるのかが難しい」と話した。

▲株式会社サンフレッチェ広島 エディオンピースウイング広島 所長 伊名弘一 氏

次に、「共創で生まれた成果を今後どう展開していくか」という問いが投げかけられた。ゴミを熱分解する装置を施設に設置して、活用できる物質くをつくろうと取り組むサンフレッチェ広島の伊名氏は、「リサイクルして出てきた物質の活用方法、そしてマネタイズにつなげていく」と展望を語った。

マエダハウジングは、空き家問題×農業で、年内のサービスリリースが決まっている。そこで前田氏は「まずは実績を1件作りたい。空き家問題は全国にあるため、そこから広げていきたい」とスピーディーな進捗を見据えた。

広島トヨペットは、新車保護フィルムのリサイクルをテーマに掲げる。「その方向性は間違っていないと思うが、スケールさせていくことが課題」と古谷氏は述べた。そしてさらに「新車に限らず、新品にしか使われないフィルムは他の商品にもある。他の課題にもソリューションを展開していくことができれば」と前向きな姿勢をみせた。

* * * *

本記事では、トークセッションの内容をメインに紹介した。続く<後編>では、ホスト企業とパートナー企業が共創の成果を発表する「CO-CREATION PITCH」、そして第1回目のプログラムで「審査員賞」を受賞した2つのチームが新規事業の進捗を発表する「INNOVATORS PITCH」についてお届けする。5つのチームによる共想の内容と、「オーディエンス賞」「審査員賞」の行方は?そして昨年度の「HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD」で高い評価を得た新規事業は、今どのような状況なのだろうか?

(編集:眞田幸剛、文:佐藤瑞恵、撮影:齊木恵太)

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  • 眞田 幸剛

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