環境・エネルギー分野で広島から“日本初・世界初”は生まれるか?『HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD』2期目に迫る!
自動車・鉄鋼・造船などの「ものづくり」産業で発展してきた広島県は、その地域特性を活かした次世代の主要産業の育成に尽力している。次の柱として注目している分野の一つが「環境・エネルギー産業」だ。この新たな挑戦を加速させるべく、昨年度よりスタートさせた『HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD』は、広島県内企業と全国のパートナー企業が手を組み、事業創出を目指すプログラムである(※)。2012年に広島県の呼びかけで設立された、ひろしま環境ビジネス推進協議会が主催している。
2期目となる今回は、広島県内企業5社(常石商事/広島トヨペット/カイハラ産業/サンフレッチェ広島/マエダハウジング)がプログラムに参加。ホスト企業として、環境・エネルギーに関連する新規事業のテーマを提示し、共創パートナーの募集を開始した。
<ホスト企業/募集テーマ>
●常石商事 「瀬戸内海の潮流を活かした、環境にやさしい再生可能エネルギーの創出」
●広島トヨペット 「カーディーラーが目指すサステナブルな地域社会の実現に向けた事業創出」
●カイハラ産業 「水資源の使用量削減・循環を実現する”サステナブルデニム“の創出」
●サンフレッチェ広島 「地域貢献に繋がる、スタジアムを起点としたスポーツチームならではの環境ビジネス創出」
●マエダハウジング 「空き家の解消や建築資材の有効活用による持続可能な社会の実現」
そこで、今回TOMORUBAでは、プログラム主催者であるひろしま環境ビジネス推進協議会と、ホスト企業5社にインタビューを実施。このプログラムを通じて実現したいことや意気込みを聞いた。
※関連記事:昨年度の『HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD』デモデイレポート
・前編 https://tomoruba.eiicon.net/articles/4494
・後編 https://tomoruba.eiicon.net/articles/4495
プログラム主催者に聞く――“イノベーション立県”を掲げる広島で、環境・エネルギービジネスに挑む意義
――昨年度より、ひろしま環境ビジネス推進協議会の主催により『HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD』を開始されました。まず、このプログラムを立ち上げた理由や、背景にある課題についてお聞きしたいです。
早田氏: ひろしま環境ビジネス推進協議会は当初、広島県内企業が持つ土壌・水質汚染対策技術を、海外へと展開するために発足しました。この取り組みが一定の成果を上げたことから、次の活動として、広島県が成長領域として注目している「グリーンテクノロジー」に取り組むことにしたのです。同時に、広島県の湯﨑知事が『イノベーション立県』を標榜しておられ、環境領域をイノベーションの一つのセンターピンにしていきたいとのことで、現在の取り組みがスタートしています。
環境領域でイノベーションを創出するため、最初は広島県の中核企業の新規事業創出を、ハンズオンで支援しました。一定の成果は出ましたが、さらなる成果につなげるため、オープンイノベーションの要素を取り入れることにしたのです。イノベーションには新結合が必要で、外部から新しい知識を導入することで大きなインパクトを出せます。かつ、その知識が異分野であればあるほど、イノベーションの弾け具合は高いと言われています。そこで、ハンズオン支援だけではなくオープンイノベーションに挑戦することにしました。
▲ひろしま環境ビジネス推進協議会 会長 早田吉伸 氏
――昨年度は、このプログラムから4つの共創プロジェクトが立ち上がりました。2024年2月に開催されたデモデイなどをご覧になって感じたことや、明らかになった広島県 環境・エネルギービジネスのポテンシャルについてお伺いしたいです。
早田氏: 総じて経営者の意識レベルが高まったと感じます。新しい価値に対する姿勢も明確になりましたし、チームメンバーの目線も高まりました。そうした意味では、新規事業に対する理解の向上や人材育成につなげられたのではないでしょうか。
特に印象的だったのが、クニヒロ株式会社(※)です。同社が取り組んだ課題は、自社の課題ではなく地域の課題でした。地域に貢献すると同時に自社の新しいビジネスチャンスにもなるという内容で、地域課題の解決と企業の収益化を両立させる良い例を示していただきました。
※昨年度のホスト企業であるクニヒロは、バイオベンチャーであるプロジェニサイトジャパンとプログラムを通じて出会い、『牡蠣殻を原料とした「ナノ炭酸カルシウム粒子」製造の実現』に取り組んでいる。
――『HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD』は2年目となります。本プログラムへの参加メリットをお聞かせください。
早田氏: 参加メリットのひとつは、ホスト企業に新規事業創出に向けたコミットメントの高い企業が集まっていることです。一緒に取り組むことで、広島県内に限らずより広い範囲でインパクトを出せる可能性があります。例えば、今回のホスト企業・常石商事が掲げるテーマの潮流発電プロジェクトを成功させることができれば、日本中や世界中に大きな影響を与えられるかもしれません。
また、広島県は『イノベーション立県』を目指しており、環境・エネルギー分野に限らず新しい取り組みを支援する土壌があります。県を挙げてこれらの取り組みを応援する政策があり、プログラム終了後も補助金や海外展開支援などのメニューが用意されています。広島で成功事例を生み出すと、他地域への展開や知名度向上にもつなげられるでしょう。
――最後に、応募企業へのメッセージもお願いします。
早田氏: イノベーションは、必ずしもすぐに成果や利益を生むものではありません。曖昧な状態から何度もブレークスルーを重ねなければ形にならないと思います。「正解を見つける」のではなく、試行錯誤を繰り返して「正解にしていく」プロセスが重要なので、継続的に熱量を持ってコミットしてほしいです。「広島で日本初、世界初の事業を作り上げよう」という熱量の高いチャレンジを期待しています。
県内のホスト企業5社が語る――プログラムで挑戦したい環境ビジネスとは?
ここからは、ホスト企業5社(常石商事/広島トヨペット/カイハラ産業/サンフレッチェ広島/マエダハウジング)にインタビューを実施。事業の特徴や募集テーマの詳細、パートナー企業に提供できるリソース・アセットなどについて聞いた。
●常石商事 「瀬戸内海の潮流を活かした、環境にやさしい再生可能エネルギーの創出」
――まず、御社の事業概要と特徴をご紹介ください。
内田氏: 常石グループは約120年前に海運業から始まり、現在は「未来の価値を、いまつくる。」をスローガンに、商社、環境、ライフ&リゾートなど多様な事業を展開しています。
その中で常石商事は、グループの総合商社としてエネルギー、造船、鉄鋼、機械、モビリティなどの分野で事業を行っています。エネルギー分野では、ガソリンスタンドの運営や、石油製品、LPガスの供給を通じて地域の生活と産業を支えてきました。昨今は太陽光発電などの環境配慮型エネルギー事業にも取り組み、持続可能な社会を目指しています。
▲常石商事株式会社 事業開発本部 事業開発部 事業開発課 部長 内田康博氏
――本プログラムに参画を決めた背景や、「瀬戸内海の潮流を活かした、環境にやさしい再生可能エネルギーの創出」という募集テーマを設定された理由もお聞かせください。
内田氏: 私たちは国内外で事業を展開していますが、CO2削減や再生可能エネルギーの利用率向上が大きな課題です。この課題に対応するため今回は、海事産業や地元に根ざした事業を営んできた経験を活かし、新たな事業を検討しています。
具体的には、瀬戸内海の海洋エネルギーを活用した浮体式潮流発電事業です。この事業を実現するには、高度な専門技術や人員体制、行政や地域住民の理解が不可欠ですし、事業として成立する規模の発電量を自社だけで達成するのは困難です。そこで、パートナー企業と協力しながら進めたいと考え、本プログラムへの参加を決めました。
▲多岐にわたる常石商事の事業領域。
――今回、「潮流発電を行う場所の選定、ならびにリサーチ方法の検討」、「未来の社会インフラとなるような潮流発電を実現」、「潮流発電エリアを活用した新たなビジネス」という3つの”実現したいこと”を挙げていただきました。これらの中で、特に重点を置きたいものはどれでしょうか。
内田氏: もっとも注力したいテーマは、潮流発電を行う場所の選定方法、ならびにリサーチです。新たな発電技術を実現するための基準となる設計や、リサーチ方法などのアイデアを募集します。
具体的は、海底調査や潮流調査を通じて最適な場所を見つける仕組み、ROV(遠隔操作型無人潜水機)や水中ドローンを活用した調査、海面状況の調査や環境影響評価をする仕組み、技術アイデアなどを募集したいです。
海外では大規模な潮流発電設備を使って発電をしている例もありますが、瀬戸内海は海外ほど広くはありませんし、漁場や航路もたくさんあります。この特性を活かした潮流発電に、パートナー企業と一緒に取り組んでいきたいと思います。
――御社と協業するメリットについてもお聞かせください。
内田氏: 潮流発電が実現した後、その電力の販売先を確保する必要がありますが、当グループでは小売電気事業の資格を持っており、実際にグループ内で電力の販売を行っています。発電した電力の販路を既に持っている点はメリットだと思います。
また、商社の機能として海外に幅広いネットワークを持っており、発電設備に必要な資材や機材の調達も可能です。加えて、新規事業を立ち上げるためのファンドも保有しているため、ファンドからの出資の可能性もあります。
――最後に、応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。
内田氏: 自社だけではなく地域に再生可能エネルギーを送電したいため、2030年前半までに数万キロワット規模の潮流発電の実現を目指しています。海を舞台とした新規事業開発には多くの利害関係者との調整が必要で、関係者らとWin-Winの関係を築くことが不可欠ですが、一緒に汗をかき盛り上げていただける方と取り組んでいきたいと思っています。
●広島トヨペット 「カーディーラーが目指すサステナブルな地域社会の実現に向けた事業創出」
――まず、御社の事業概要と特徴をご紹介ください。
佐藤氏: 当社は1938年の創業で、86年の歴史を持つ自動車ディーラーです。トヨタ自動車が製造するトヨタ車やレクサス車の販売・整備を行ってきました。私たちが意識的に取り組んでいることは、地元広島を盛り上げていくことです。『生涯お付き合いいただけるお客様づくり』を目標に掲げて、地域密着型で事業を展開しています。現在、広島県全域に約30店舗を展開し、新車・中古車の販売を通じてお客様に安心・安全なカーライフを提供しています。
▲広島トヨペット株式会社 総務部 課長 佐藤讓 氏
――昨年度、本プログラムのビジネスビルド(対面イベント)が、御社で運営を担う『CLiP HIROSHIMA』で開催されました。『CLiP HIROSHIMA』は、どのような拠点なのでしょうか。また、本プログラムに参画を決めた理由をお聞かせください。
佐藤氏: 『CLiP HIROSHIMA』は、広島県が推進する『知の拠点』形成プロジェクトの一環で運営している場所です。広島の魅力をより深く知ってもらうためのイベントを多数開催してきました。
その中のひとつが、昨年度の本プログラムのイベントで、このイベントをきっかけに、私たちもこのプログラムのことを知りました。当社も様々なテーマで課題を抱えているため、参考になるアドバイスを得たり、広島を盛り上げるきっかけを作りたいと考えて、このプログラムに参加することを決めました。
▲昨年度のプログラムのイベント会場となった『CLiP HIROSHIMA』。
――今回は「カーディーラーが目指すサステナブルな地域社会の実現に向けた事業創出」という募集テーマを設定されました。その背景にある想いについてお聞かせください。
佐藤氏: 自動車業界は大変革期にあり、カーボンニュートラルや技術革新が進んでいます。私たち自動車ディーラーも、もっと環境に貢献できる活動ができるのではないかと思っています。ディーラーならではの新しい環境ビジネスを創出し、広島から全国や世界に展開できれば素晴らしいと考え、このテーマを設定しました。
例えば、これから店舗を改修する場合、環境に配慮する必要があると考えており、そのために活用できるアイデアを求めています。また、板金作業で発生する廃材の処理方法の見直しなども検討していきたいです。さらに、お客様の来場によってエネルギーを発生させるような仕掛けを作るなど、様々なアイデアに期待しています。
――御社と協業するメリットについてもお聞かせください。
佐藤氏: 当社の広島県内の全店舗や、広島市中区にある拠点『CLiP HIROSHIMA』を実証実験の場としてご活用いただけます。また、当社代表もこの活動に対して前向きなので、判断が必要な際には迅速に決裁できるでしょう。
――最後に、応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。
佐藤氏: 今回のプログラムは当社にとって大きなチャンスであり、多くの可能性を感じています。皆様と連携しながら、広島から日本全国に発信できる新しいビジネスを生み出し、スタートは小さくても構わないので、一緒に大きく育てていければと思っています。
●カイハラ産業 「水資源の使用量削減・循環を実現するデニム製造方法の構築」
――まず、御社の事業概要と強みをご紹介ください。
寺田氏: 当社はデニムの製造・販売を行う企業です。創業は1893年で、備後絣(びんごがすり)の機屋として起業し、約130年の歴史があります。約50年前より、デニムの製造を開始しました。当社の強みは、長い歴史の中で高めてきた様々なノウハウと、繊維業界では珍しく糸から生地まで一貫して生産できる体制にあります。これにより、確かな品質管理と安定供給を実現できています。
▲カイハラ産業株式会社 生産本部長 寺田康洋 氏
――募集テーマに「水資源の使用量削減・循環を実現するデニム製造方法の構築」を掲げられました。背景にある課題感を教えてください。
寺田氏: 繊維業界全体では、環境への取り組みが注目されています。実際に、各種アパレルブランドからの環境に関する要求事項が急速に高まっており、これらの要求に対応しなければ、取引先として相手にされなくなるという状況も出てきています。その環境保全の指標には、水、大気(CO2など)、産業廃棄物などがありますが、今回は特に水に関する課題に対応していきたいと考えています。
というのも、当社の工場の多くが広島県内の山間部にあり、地域と共存していくためにも綺麗な水を流すことが重要だからです。以前から水の使用量削減や再利用の課題には取り組んできましたが、社内だけでは頭打ちになり突破できない壁があります。そこで本プログラムでは、全国の企業の力をお借りして、改めて水の問題に取り組んでいきたいと思っています。
▲カイハラは広島県に4つの生産拠点を構えるほか、タイにも工場を新設し、国産と同等のクオリティのデニム生地を製造。国内シェアは約50%、輸出先は約30カ国にのぼる。
――御社だけでは突破できない壁とは、具体的にどのような点でしょうか。
寺田氏: 水の再利用に関しては、工場から出る排水は自社の処理設備で無色透明のきれいな水にして放流しています。この水がなぜ、再利用できないのかというと、水に無機塩類が含まれているからです。無機塩類を除去しなければ、製品の品質に問題が生じます。
ですから、無機塩類を除去できる技術や、無機塩類を出さない製造方法のアイデアを持つ企業と協力したいと思います。また、水の使用量削減については、デニム生産機械は長年大きな改修がされていません。既存設備のままで水の使用量を減らすと、やはり品質に悪影響が出ます。そのため、革新的な設備や新たな製造方法の導入が必要です。
――御社と協業するメリットについてもお聞かせください。
寺田氏: まず、当社のデニムは世界中の有名ブランドに納品されており、世界規模のネットワークを持っています。今後、サステナブルな製品が開発された場合、それらを世界中に展開できる可能性があります。また、当社では売られている製造機械を改造して使用しているため、そうした特殊な製造機械を用いた実証テストが可能です。実証を通じて、両社でノウハウや知識を高めていけることがメリットだと考えています。
――最後に、応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。
寺田氏: ハードルが高い取り組みになると思うので、長期にわたって前向きに取り組んでもらえるパートナー企業と進めたいです。また、両社のノウハウや技術を調合することになるので、積極的にコミュニケーションを取っていただける企業だと嬉しいですね。
●サンフレッチェ広島 「地域貢献に繋がる、スタジアムを起点としたスポーツチームならではの環境ビジネス創出」
株式会社サンフレッチェ広島 事業本部 指定管理部 運用推進グループ 主任 兼 エディオンピースウイング広島 副所長 常森大和氏
――まず、御社の事業概要と特徴をご紹介ください。
常森氏 : 当社は、2つのプロサッカークラブ(男子「サンフレッチェ広島」・女子「サンフレッチェ広島レジーナ」)の運営会社です。加えて、2024年2月に開業した新たなサッカースタジアム「エディオンピースウイング広島」の指定管理者として管理・運営を担っており、それが本プログラムの募集テーマにも繋がっています。
――スタジアムの指定管理というと、具体的にどのようなことをされているのでしょうか?
常森氏 : スタジアムの全体施設管理をおこなっておりますので、Jリーグ・WEリーグ開催時はもちろん、「エディオンピースウイング広島」の施設や天然芝のフィールドの維持管理、スタジアム内にある諸室の会議ならびにラウンジ等の貸出運営業務などを行っています。現在、日常的な会議室のご利用が大変好評で、普段とは違った環境で会議や交流会ができることに価値を感じてもらっているようです。
また、8月にはスタジアムとその周囲にある芝生の広場に「ひろしまスタジアムパーク」が開業しました。これまでにない賑わいが創出される手応えがあります。
▲都心交流型スタジアムパーク「エディオンピースウイング広島」。広島中央公園の一部に位置しており、“街なかスタジアム”として大きな注目を集めている。
――本プログラムには、なぜ参画しようと思われたのでしょうか?
常森氏 : 当社が指定管理者としてスタジアムの管理・運営を手がけるのは、今回が初めてです。持続可能な社会を目指していくためには、CO2削減や廃棄物の可視化削減が求められています。当社がすべきこと、できることは、まだまだあるはずです。そこで、本プログラムに参画し、外部の方からの提案やアイデアを得ることで、環境面の課題を解決したいと思っています。
――募集テーマに「地域貢献に繋がる、スタジアムを起点としたスポーツチームならではの環境ビジネス創出」を掲げられました。テーマ設定の背景や、パートナー企業と共に実現したいことについてお聞かせください。
常森氏 : 「エディオンピースウイング広島」には、試合のある日だけではなく、日常でも多くの方に足を運んでいただいています。そうした方々に環境対策を自分ごととして捉えてもらい、気づきを得るような取り組みにしたいと考え、このようなテーマを掲げました。本テーマを通して実現したいことは3つあります。
まず、「環境にやさしいスタジアム運営の実現」です。スタジアムでは飲食物や物販等のサービスを提供しています。また、フィールドをメンテナンスするうえで天然芝の刈草なども発生しており、それら廃棄物の削減や、環境に配慮したイベント運営の新たなアイデアを募りたいと考えています。現状では、刈草はそのまま廃棄するしか処分方法がないため、何か新たな価値に変容できるかといったことに挑戦したいですね。
次に、「スタジアムを起点とした、環境にやさしい地域回遊の実現」です。具体的には、新たなサスティナブルツーリズムやカーボンニュートラルに貢献するような、交通・移動に関するアイデアを求めたいと思います。
最後に、「サポーターや地域を巻き込んだ、持続的な環境ビジネスの実現」です。スポーツチームの様々なステークホルダーを活用し、エコアクションをサポーターに還元する仕組みや、スポンサーとのロイヤリティを高めるような環境ビジネスアイデアを想定しています。
――御社と協業するメリットについては、いかがでしょうか?
常森氏 : 男子「サンフレッチェ広島」の試合は25,000人以上の来場者がありますし、女子「サンフレッチェ広島レジーナ」の試合はWEリーグにおいて年間最多動員数を誇ります。何より、街なかに立地しているスタジアムという注目度の高いアセットを活用しながら、協業できる点が大きなメリットになるでしょう。
――最後に、応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。
常森氏 : 先ほどもお話ししましたが、私たちは環境課題に関する知見やノウハウを十分に持ち合わせていません。一方で、世の中には環境の課題解決に資するさまざまなサービスやソリューションがあります。
「エディオンピースウイング広島」という注目を集めるスタジアムを起点に、新たな環境ビジネスを創出する貴重な機会になると思いますので、固定概念に捉われずに、ぜひ積極的にご応募いただければと思います。
●マエダハウジング 「空き家の解消や建築資材の有効活用による持続可能な社会の実現」
――まず、御社の事業概要と特徴をご紹介ください。
前田氏: 当社は、31年前に私個人で創業した住宅リフォームを中核とした会社です。人口5万人の広島県安芸郡府中町に密着し、狭いエリアでスタートしました。現在は広島市内を中心に13,000件のお客様がいます。
多くの同業者は事業が軌道に乗ると他県に拡大しますが、当社は広島県内に特化しています。私自身の過去の経験から、この仕事では評判が生命線だと考えているからです。創業の想いである「一度の出会いを一生の出会いに」をモットーに、売って終わりではなく、何かあったときにすぐ対応できるよう、エリアを限定して運営を続けています。
▲株式会社マエダハウジング 代表取締役 前田政登己 氏
――本プログラムに参画を決めた理由や、「空き家の解消や建築資材の有効活用による持続可能な社会の実現」という募集テーマを設定された背景についてもお伺いしたいです。
前田氏: 空き家が発生する一番の理由は相続です。子どもや孫が住み継ぐことが理想なのですが、日本ではそれが難しく、結果として空き家が増えているのが現状です。特に広島県では、山を切り開いて建てた築30~40年程の団地に空き家が急増しています。
この問題に対応するため、約17年前から中古住宅をリフォームして販売する不動産事業も開始しました。しかし、私たちだけでは限界があると感じ、全国から良いヒントを募りたいと考え、このプログラムに参加しました。
また、環境先進国であるスウェーデンへ勉強に行ったことがあるのですが、北欧の徹底したリサイクルやリユースには感銘を受けました。帰国後、自然素材や断熱素材の提案に取り組んできましたが、さらにできることがあると考えています。そこで、環境に配慮した事業に取り組むパートナー企業も求めています。
▲マエダハウジングのリフォーム実績、中古住宅リノベーション実績は広島県内でもトップクラスを誇る。
――今回、「空き家の可視化や有効活用による再流通を実現」、「建築商材の再活用による新たな環境プロダクトの創出」、「新たな環境資材で目指す省エネ住宅リノベーション」と、実現したいことを3つ挙げていただきましたが、特に重点を置きたいものはどれでしょうか。
前田氏: 特に重点を置きたいのは、空き家の利活用です。これは最も社会的にインパクトがある取り組みだと考えています。また、リフォーム業界の課題として、残材や廃材の多さが挙げられます。現場では、資材が不足すると工事が止まってしまうため、必ず多めに仕入れています。余ったものは倉庫に保管しますが、ほとんどが処分されてしまっている状況です。これらを利活用するアイデアにも期待しています。
――御社と協業するメリットについてもお聞かせください。
前田氏: 最大のメリットは、リフォーム業界における31年の実績と、顧客や従業員から直接声を聞けることです。日々複数のリフォーム工事を進めているため、新たな環境資材が開発できれば、お客様の許可を得たうえで試験的に使用することもできるでしょう。さらに、モデルハウスがあるので、この場所を実証やPRに活用することも可能です。
――最後に、応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。
前田氏: 建築業界は裾野が広く市場規模も大きいですが、これまで総量規制は行われず、住宅は建て放題でした。しかし、人口の減少により空き家は増加しています。こうした現状に対して共に一石を投じてもらえる企業と取り組みたいです。
取材後記
自動車・鉄鋼・造船で発展してきた広島県だが、今回のプログラムでは、商社、ディーラー、繊維、スポーツ、住宅と多様な企業が参加。環境・エネルギー問題解決に向け、各社がユニークなテーマを提示している。取材を通じ、ホスト企業各社のオープンイノベーションに対する熱意と、環境・エネルギー問題の解決に向けた強い意志も感じとることができた。広島を舞台に革新的な共創事業が生まれる可能性は大きいだろう。環境・エネルギーの課題に挑戦したい企業には、ぜひ応募をお勧めしたい。
●『HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD』の詳細は以下特設ページよりご覧ください。
https://eiicon.net/about/hiroshima-green-ocean-2024/
(編集:眞田幸剛、文:林和歌子)