広島から「牡蠣殻」や「廃ガラス」等をテーマにした4つの環境事業が誕生!――HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILDデモデイレポート<後編>
2050年までに「環境・エネルギー」分野を広島県内の主要産業の一つとすることを目指し、オープンイノベーションを活用して新規事業創出を目指すプログラム、『HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD』(以下、ビジネスビルド)。そこで組成された4つの共創プロジェクトが、約4カ月にわたってインキュベーション・実証実験を進め、2024年2月27日、その成果発表会として『HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD DEMO DAY』(以下、デモデイ)が広島コンベンションホールで行われた。デモデイには、県内企業やスタートアップの代表や新規事業担当者をはじめとして、産学官の多様なプレイヤーが集結した。
――TOMORUBAでは、『HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD DEMO DAY』の模様を前後編にわたって紹介していく。後編となる本記事では、「CO-CREATION PITCH」(共創ピッチ)にフォーカス。4つの共創プロジェクトの具体的な中身とは?そして、審査員から高い評価を得て、「審査員賞」を獲得したのはどのチームか?詳しくレポートしていく。
<前編はこちら↓>
「環境事業」はオープンイノベーションで最短距離で実現できるのか?広島県内企業4社の新たな挑戦――HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILDデモデイレポート<前編>
【CO-CREATION PITCH】 広島県内企業と全国のパートナー企業による約4か月間の共創成果
「CO-CREATION PITCH」では、広島県内企業×全国のパートナー企業による以下の4つのプロジェクトが、環境分野の新規事業創出に向けた、約4か月間の共創成果について発表した。
●株式会社石﨑ホールディングス(ホスト企業)×luv waves of materials株式会社(パートナー
●クニヒロ株式会社(ホスト企業)×株式会社プロジェニサイトジャパン(パートナー企業)
企業)
●三共ポリエチレン株式会社(ホスト企業)×株式会社Aladdin(パートナー企業)
●株式会社八城工業(ホスト企業)×株式会社アブソラボ(パートナー企業)
これらの発表に対し、ビジネスビルドでメンターを務めた4名(東京大学・技術経営戦略学専攻/未来ビジョン研究センター 岩田氏、Spiral Innovation Partners 鎌田氏、テルイアンドパートナーズ 照井氏、eiicon 村田氏)が質疑応答を実施。全プチームの発表後には、この4名にひろしま環境ビジネス推進協議会 会長の早田氏、広島県 商工労働局 新産業創出担当部長 空田氏を加えた計6名が審査員となり、「審査員賞」を選出した。審査の基準は、「①オープンイノベーションの体現」、「②テーマ「環境・エネルギー」との合致性」、「③市場性」、 「④プロジェクトの進捗」、「⑤事業拡張性」の5つだ。
――厳正な審査が行われた結果、「クニヒロ×プロジェニサイトジャパン」(共創プロジェクト:牡蠣殻を原料とした『ナノ炭酸カルシウム粒子』製造の実現)と「石﨑ホールディングス×luv waves of materials」(共創プロジェクト:廃ガラスを使用したフレグランスボトル開発)の2チームが審査員賞を獲得した。以下に、各チームの共創プロジェクトの中身とピッチの様子を紹介する。
●【審査員賞獲得】牡蠣殻を原料とした『ナノ炭酸カルシウム粒子』製造の実現
・クニヒロ株式会社 (ホスト企業)×株式会社プロジェニサイトジャパン(パートナー企業)
・ホスト企業の課題:牡蠣殻の再利用/養殖/環境
クニヒロは牡蠣の仲買加工を主事業としている。年間の取り扱いは4000トン以上にも上り、全国でもトップクラスだ。パートナーであるプロジェニサイトジャパンは、アメリカセントラルフロリダ大学医学部(UCF)発のバイオテックベンチャーで、2020年に神戸市に拠点を開設した。両社がビジョンとして掲げたのは、「廃棄される牡蠣殻を新製法で再利用」することだ。牡蠣の100%消費で完全資源循環型ビジネスを確立し、廃棄殻の新リサイクル技術を開発して新たな付加価値の創出を目指す。
牡蠣は捨てるところがない「優秀な食材」だが、殻の廃棄が課題になっている。一部は飼料や肥料として活用されるが、牡蠣殻のリサイクル市場の大幅な縮小で廃棄量が増え、その結果、生産にも影響を与えているほどだという。さらに、牡蠣殻を再利用するには、1年間にわたる天日干しや1100度以上で焼成が必要とされ、時間もコストもかかる上に環境への負荷も大きい。
そうした課題を解決する可能性を持つのが、プロジェニサイトジャパンの技術だ。同社の技術で、天日干しや焼成にかかる時間やコストを大幅に削減しながら、効率的に炭酸カルシウムを製造する。加えて、炭酸カルシウム粒子のナノパーティクル化を試みた。実証実験は成功し、両社は共同で特許を出願予定となっている。
今後は、製造した「ナノ炭酸カルシウム粒子」を活用して製品化を目指す。具体的には、医薬品、食品、塗料、化粧品、プラスチックなどへの展開を視野に入れている。将来的には原料を販売すると共に、「独自ブランドも作りたい」と意気込みを見せる。クニヒロは「海洋環境にやさしい『豊かな海づくり産業』への発展を通じて、笑顔あふれる食の未来を実現したい。この思いに共感してもらえる方と、誰も見たことのない景色を一緒に見に行きたいと思う。夢とロマンを持って、活動に参加してほしい」と会場に呼びかけた。
●【審査員賞獲得】廃ガラスを使用したフレグランスボトル開発
・株式会社石﨑ホールディングス(ホスト企業)×luv waves of materials株式会社(パートナー企業)
・ホスト企業の課題:ガラス廃材の再利用
石﨑ホールディングスは建築関係のガラスの卸、自動車部品の製造、不動産事業などを手がけている。パートナーであるluv waves of materialsは、持続可能な製品をデザインし、世界的な循環型プラットフォーム「LOOP」に参画するなど、リユース・リサイクル分野で豊富な経験を持つ。両社が目指したのは、廃棄板ガラスを資源価値のある「板ガラスカレット素材」へと変えることだ。廃ガラスをフレグランス容器化すると共に、フレグランス原料を広島県内で調達。さらに、使用後のボトルはリサイクルすることを前提とし、アップサイクル事業の確立を試みた。
一方、廃ガラスはリサイクルが難しいという課題を抱える。異物除去が困難で、材料組成が少しでも異なると既存製品の品質を悪化させてしまう。PoCの過程で、板ガラスを瓶に再生することは、「常識外」の発想だと気付いたという。しかし、半人工の手法で製造できるパートナーを開拓し、見た目にも美しいブルーの瓶のサンプルが出来上がった。また、香料は広島県の農産物の蒸留水を活用する。将来的にはJ-クレジット(省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証するもの)の申請を見据え、廃棄予定の農産物の使用も考えているとのことだ。
今後、2024年に製造ラインを確保して試験販売をスタートさせると共に、J-クレジットの申請を行う。2025年にはフレグランス販売を拡大して、廃ガラスの新しい価値の創造も狙う。石﨑ホールディングスでは、「ビジネスモデルを県内で横展開し、環境ビジネスの活性化に貢献したい。また、廃ガラス、フレグランスの原料、サステイナブル事業などについて、アイデアや興味のある方は、力を合わせたいのでぜひお声がけいただきたい。」とさらなる展開を見据えた。
●共創プロジェクト「振動/衝撃による「損失」低減社会の実現」
・株式会社八城工業(ホスト企業)×株式会社アブソラボ(パートナー企業)
・ホスト企業の課題:プレス工場の騒音問題
八城工業は、鉄板のプレス加工・溶接を生業として、自動車のフレーム部品や建設機械のキャビン部分などを提供し、量産に強みを持っている。パートナーのアブソラボは、乗用車の乗り心地追求を目的とした「ショックアブソーバー」と相似メカニズムを持つ、粘弾性技術≒ソフトマテリアル「engelook」を保有する、振動/衝撃原因ストレスのソリューション企業である。両社が目指したのは、金属プレス成型加工で、振動/衝撃が原因で起こるストレスを解消するプロダクトの開発だ。
騒音は、振動/衝撃に起因するストレスの一つで、併せて品質~生産性を低下させる要因でもある。両社はそれぞれの技術や経験を活かし、振動/衝撃及び騒音を吸収する目的で、面積方向に任意調整が可能な「セル」方式を構築。10~50cmサイズを1セル単位に設定し、騒音対策の場合は、必要な枚数を壁に貼付。振動/衝撃対策の場合は、セルを床に敷設し、空気伝搬(騒音)と固体伝搬(振動/衝撃)の2つを抑制する。実証実験の結果から、この方法で一定の成果を得られることが確認済である。
今後、八城工業の工場内で更なる振動/衝撃~騒音対策を講じることと並行し、両社の共同開発プロダクト「Yao Sorb」を、八城工業初となる自社ブランドとして確立。その第一弾として、国内外の集合住宅の近隣トラブル上位要因のひとつである、洗濯機の振動/衝撃を対策する製品シリーズの市場展開を実施する。
●共創プロジェクト「人と環境に優しい世界の実現 ~GDX工場を増やしプラスチックを大事に使う」
・三共ポリエチレン株式会社(ホスト企業)×株式会社Aladdin(パートナー企業)
・ホスト企業の課題:フィルムロスの削減
三共ポリエチレンは、ポリエチレンとラミネートの2つの事業を手がけており、いずれも食品を入れる袋を主力製品としている。パートナーのAladdinはAIカメラの技術を保有し、安価かつ省スペースで使えるのが特徴だ。両社は、「革新的な製品とサービスを通じて、グリーントランスフォーメーションとデジタルトランスフォーメーションの工場を増やし、持続可能な未来に貢献したい」と語った。
現在、プラスチック包装業界は、「人力での検品の限界」や、「省人化」「廃棄物の多さ」などといった問題を抱えている。これらの問題を解決するには、新たな検査機の導入が考えられるが、高額なため簡単に購入できないという。そこで、AladdinのAIカメラ技術を工場内に設置し、不具合の検出に挑んだ。最初の試みとして、まずは体毛の検出を選択。実証実験を続けたところ、人の目の代替になるほど優秀な結果を導き出したという。
今後、AIカメラの精度を上げるなど、実用性の向上を図る。その上で、同業他社の国内工場はもちろん、海外にも広めていきたいと話した。三共ポリエチレンでは、「エラーを起こす原因を前工程にフィードバックし、根本的な問題解決に努めたい。完全無人のGDX工場を作ることが最終的なゴール」とこれからのさらなる展開に意欲を見せた。
【総評】大きな一歩を踏み出した1年。今後の広島県の環境・エネルギー事業に期待が高まる
審査員を務めた広島県 商工労働局 新産業創出担当部長 空田氏は、閉会の挨拶にて、「4つの共創プロジェクトはいずれも優れており、甲乙つけがたかった。大きな熱量を持って、スピード感を持ってプロジェクトに取り組まれたと思う。その中から2つの共創プロジェクトを選出したのは、広島県で課題になっている牡蠣殻を扱っている点、広島県の主要産業である自動車分野で新しい試みを行おうとしている点に、ビジネスビルドのテーマとの合致を感じたから。加えて、新しい仲間の参加を呼び掛け、共創の広がりを予感させたところも評価のポイントだった」とコメントした。
表彰の後、本プログラムのメンター2名からの総評があった。Spiral Innovation Partners ジェネラルパートナー 鎌田 和博氏は、「オープンイノベーションに興味を持つ企業は多いが、そのほとんどが実施に踏み切れてはいない。そのような中、今回一歩を踏み出したのは非常に意義のあること。今後は、ぜひチャレンジを継続してほしい。継続すると言っても、一つのことを続けることもできるし、他のチャレンジを行うこともできる。いずれの場合も粘り強く取り組んでほしい」とエールを送った。
テルイアンドパートナーズ株式会社 取締役副社長 照井 翔登氏は、「広島県は、中小企業の新規事業やイノベーション創出を積極的に支援していて、素晴らしい取り組みだと感じる。今日登壇した企業は、互いにリソースを共有しながら、新たなプロダクトやブランドの立ち上げを目指す姿が多く見られた。さらに、新たなパートナー企業を募集する動きもあり、これからの盛り上がりが期待できる。環境事業は簡単ではないだけに失敗も多い。しかし、失敗は誰もが通る道で、早い段階で経験したほうが後々有利になる。本日の発表を聞きながら、広島県から、環境・エネルギー分野で新しい未来が創造されることを確信した」と熱いメッセージを送った。
――閉会後は、会場で全参加者を交えて懇親会が行われた。県や各自治体の担当者、県内企業の新規事業開発担当者など、多様な立場の人々が交流し、広島県と環境・エネルギー産業の未来について活発に意見を交換した。
取材後記
今、全国各地でオープンイノベーションプログラムが実施されている。それぞれに特色を出しているが、その中にあって広島県の手がける「環境・エネルギー」分野に焦点を当てた『HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD』は、特に独自性の強いものと言えるだろう。環境事業は、イベントの中でも繰り返し言われていたように、結果が出るまで時間がかかる。5年10年の長期的視野で未来を見据え、価値創出に取り組んでいく必要がある。そうしたことから現状ではプレイヤーが少なく、その意味で、大きなチャンスが広がっていると言える。今回、最終発表されたプロジェクトはここで一つの区切りを迎えたが、これからもプロジェクトは継続される。この先、どのような成果がもたらされるか、楽しみである。引き続き注目していきたい。
(編集:眞田幸剛、文:中谷藤士、撮影:齊木恵太)