【OKI×ロンコ・ジャパン】物流業界の課題に“共創”で挑む。配送計画最適化サービス「LocoMoses」誕生秘話
2024年問題をはじめ、様々な課題を抱える物流業界。特に、配送計画業務など一部のベテラン社員への属人化、燃料費高騰、ドライバー不足、そしてCO2排出量抑制など、多様な観点から効率の高い配送が求められている。
イノベーション活動を積極的に進める沖電気工業株式会社(OKI)は、こうした課題に対応すべく、物流を注力領域のひとつに設定。共創パートナーを求め、オープンイノベーションプラットフォーム「AUBA」に情報を掲載した。
すると大阪に本社を構える物流企業、株式会社ロンコ・ジャパンからアクセスがあり、共創がスタート。その後、複数回の実証実験を重ね、配送計画最適化サービス「LocoMoses」(ロコモーゼ)が誕生した。OKIの「コスト最小型ルート配送最適化AI」により、最適な積載量・ルートを短時間で自動的に立案できるSaaSサービスとして、2023年3月より販売が開始されている。
今回、ロンコ・ジャパン社との共創の経緯や、「LocoMoses」が生まれるまでの実証実験などについて、イノベーション責任者 藤原雄彦氏と、当時この共創プロジェクトを担当した青木聡氏に話を聞いた。
※沖電気工業株式会社 AUBA PRページ
https://auba.eiicon.net/projects/4728
OKIにとっての物流第一号案件は、「AUBA」から始まった
――ロンコ・ジャパン社との出会いの経緯についてお聞かせください。
藤原氏 : OKIは2018年からイノベーション活動を本格的にスタートしました。そしてイノベーション・マネジメントシステム(IMS)「Yume Pro」を策定し、全社導入を進めています。そしてOKIでは、イノベーション注力領域のひとつに「物流」を設定しています。
物流の2024年問題は大きな社会課題です。社会課題を起点にイノベーションを創出するOKIとしては、この課題にいち早くアプローチをしたいと考えていました。そこで私たち考えた仮説を、なるべく早く外部にオープンに見せたいということで、2020年にオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA」に情報を掲載しました。
一方、ロンコ・ジャパン様は、まさに物流業界の担い手として2024年問題に悩みを抱えていらっしゃいました。特に同社の福西社長はDX化の推進に意欲的で、ソリューションを探していらっしゃったことから、お声がけを頂いたのです。
▲沖電気工業株式会社 執行役員 イノベーション責任者 デジタル責任者 兼 イノベーション事業開発センター長 藤原雄彦 氏
――その時点で、物流に関するサービスはOKIでは展開していなかったのでしょうか。
青木氏 : OKIにとって、物流はまったく手掛けたことのない領域でした。仮説として、物流分野でデータを活用するところから始まり、最終的にはAIでうまく連携させていくというサービスのイメージは描いていました。そこにロンコ・ジャパン様が魅力を感じてくださったのだと思います。
▲沖電気工業株式会社 イノベーション事業開発センター 企画室 室長 青木聡 氏
――OKIとしては、物流業界第一号案件だったのですね。
藤原氏 : そうですね。配送ルートをAIで自動化するという仮説に対して、どこまでやれるのか、ロンコ・ジャパン様も手探りの中で話を聞きたいというアプローチから始まりました。それから青木をはじめとするチームが物流の現場に入り込んで試行錯誤をしていった結果、「LocoMoses」の誕生に至ったのです。
「配送ルート」×「積載」の掛け合わせで価値を創出
――ロンコ・ジャパン社からコンタクトがあった後の共創の流れについてお聞かせください。まず、どのようなアクションを起こしたのですか。
青木氏 : 2020年5月頃にロンコ・ジャパン様の拠点をいくつか訪問し、現場の方々に私たちが考える仮説をぶつけてみて、ニーズがあるか、他に現場に課題があるのかヒアリングをしていきました。
――その時の現場の方々の反応はいかがでしたか?
青木氏 : その時は、私たちの仮説も「物流でデータを活用していきたい」という大きなテーマから入り、現場の声を聞きながらソリューションに落とし込むという段階だったので、現場の方々にとっては「できたらいいけど、なくてもいいかな」というような反応でした。
それでも粘り強く、OKIの技術者も同行しながらヒアリングを続けていたところ、「そういえば昔からIT化に挑戦してみたけど、失敗してきたよね」という声が出てきたのです。それを聞いたOKIの技術者が「その問題はOKIのAIを使えば解決できます」と言ったことで、具体的なソリューション開発に向けて動き始めました。
――その時に出てきた課題というのは、具体的には?
青木氏 : ロンコ・ジャパン様では「分割配送」という、1つの配送先に対して複数回の納品を行う効率的な配送手法を取り入れていらっしゃいました。これをうまく行うには、配送ルートはもちろん、どのトラックにどの荷物を乗せるのかという積載の効率化も必要です。
これまで、その配送計画の立案は、熟練の社員の方が担っており属人化していることからDX化を進めようとしていたようです。ただ、市販のパッケージソフトでは、分割配送に対応できませんでした。
どこに何を送るのかある程度決まった状態で、ルートを最適化するサービスは世の中に多くあるものの、分割配送の場合はその手前の「どこに何を送るのか」から最適化をしなければなりません。「積載」×「ルート」の最適解を出せるものは当時なかったことから、OKIが実現に取り組むことにしました。
藤原氏 : DXは、提供価値がひとつではサービスが広がらず、複数の価値の掛け合わせでマネタイズします。「LocoMoses」は、「積載」と「ルート」という2つの業務に対して提供価値を創出することができるものです。これは大きなイノベーションだと思います。
ロンコ・ジャパン様の分割配送も、現場の声には「ルートよりも積載の方が大変だ」という声がありました。それをOKIでは、中期経営計画で「エッジプラットフォーム」と位置付けて、複数の業務を効率化するというソリューションに仕立て上げました。
――確かに、ルート最適化のプラットフォームはスタートアップを含め複数の企業がサービスを提供していますが、積載についての最適化は、あまり聞いたことがありませんね。
藤原氏 : さらには、これによってトラックの台数や走行距離を減らすことができれば、CO2削減にもつながります。これはDXだけではなくGXも実現できるということです。これは、現場に入り込んでお客様と何度も仮説を磨き、試行錯誤していったからこそ到達した、“かゆいところに手が届く”ソリューションです。
▲配送計画最適化サービス「LocoMoses」は、配送先位置、配送車両の積載量・運行便数、荷物量・納品時刻等の配送要件に基づき、稼働・リソースの節減を可能とする最適な配送計画を提供する。(画像出典:OKIホームページ)
1回目のPoCであきらめず、粘り強く取り組んだ
――かゆいところに手が届くようなソリューションに仕上げたことが信頼関係につながっていったのだと思いますが、そこに至るまでPoCなど大変なハードルがあったと推察します。それをどう乗り越えていったのですか?
青木氏 : 大きく3回、PoCを行いました。1回目は散々な結果でした。2020年の終わりから2021年初頭にかけて、AIが出した最適配送計画をロンコ・ジャパン様の現場に持って行ったところ、とても現場では使えるレベルではないと言われてしまったのです。
配送計画を担当している熟練社員の方は、ただトラックの積載率や配送ルートだけを見ているのではありません。物流業界では、実際に人が運転をして荷物の積み下ろしをしています。配送先の相手もいます。そこにはドライバーの安全をはじめ、働く人への配慮が必要なのです。1回目のPoCは、私たちにその視点が足りませんでした。
――そこから改良をして、2回目のPoCとなったのですね。
青木氏 : はい。少し時間をいただいて、改良していきました。ただ、何もなく待っていただくだけだと、それきりになるかもしれないので、改良している間はOKIの別のソリューションを半年間ほど無料で使っていただきました。その間にバージョンアップをして、2回目のPoCに挑戦。その結果、車両走行距離8%削減という数字を出すことができました。さらにそこから改良をして、3回目のPoCの時には商用化を目指せるレベルに到達したのです。
その際、有償化の交渉をしていたのですが、福西社長から「これならお金を払って使いたい」と意思決定をしていただきました。1回目のPoCの結果であきらめず、粘り強く取り組んでいったからこその成果だと思っています。
▲2020年5月からスタートしたOKI×ロンコ・ジャパンによる共創プロジェクト。
――福西社長が決断をした後、ロンコ・ジャパン社にはすぐサービスとして導入していったのでしょうか。
青木氏 : 実は、ロンコ・ジャパン様の中では、2回目のPoCの時から10か月ほど無償で使っていただいていたんです。私たちから「無償でいいので使い続けてください。その代わり、改善点や要望をどんどん教えてください」というお願いをしていました。そして、ある程度サービスとして使えるようになってきた段階で、有償化の交渉をしたのです。実はこれ、藤原には話していなかった裏話なのですが(笑)。
藤原氏 : 知っていましたよ(笑)。それにイノベーションには不可欠なことだと思っています。OKIとしては、とにかくお客様のフィールドで動かしたいという想いがあります。やはり実際に現場で動かさないと、新しいものは本当に価値があるのか分かりません。ですから、最初は厳しいけれども無償で提供して、フィードバックを受けながら改良していくことが必要です。
――大企業のあるべきスタンスですね。ある程度の体力がある企業でなければ、無償で長期間提供することはできませんから。青木さんは、いつ「これはサービスとしてやっていける」と確信したのですか?
青木氏 : やはり、2回目のPoCで8%のコスト削減というデータが出たときですね。燃料代は年間約360万円の削減、また年間約440kgのCO2排出量削減が可能だという数字が出ました。これは机上のデータではなく、実際にロンコ・ジャパン様のトラックを動かして出たデータですから、商用化できると確信しましたね。
顧客の幅や領域も広げながら、「LocoMoses」を育てていく
――2023年3月に「LocoMoses」の販売を開始するというプレスリリースを出していますが、社内外からの反響はいかがですか?
藤原氏 : 福西社長は、物流業界全体を変えていきたいという想いで、DX推進に取り組んでいらっしゃいます。そのため、お客様を紹介してくださったり、他の物流企業に活用を勧めたりしてくださっています。また、メディアからの問い合わせもあります。これは、OKIのイノベーション活動と合わせて興味を持って取材の打診がある、というケースが多いですね。
――物流領域をターゲットに、OKI単独でも様々な企業にヒアリングをしていたと思いますが、やはり今回のケースはロンコ・ジャパン社と共創したからこその成果ということでしょうか。
藤原氏 : もちろんです。物流はOKIにとって初めて取り組む領域でしたから、自社だけの力では、できることに限りがありました。「AUBA」でロンコ・ジャパン様と出会い、共創ができたからこそ、ここまで早く商用化ができたのだと思います。OKIの技術者は、ロンコ・ジャパン様のトラックに一緒に乗るくらい、現場に入り込んでいました。だからこそ、仮説の解像度を上げていくことができました。
青木氏 : 福西社長の物流業界を何とかしようという熱い想いも、共創を加速した要因だと思います。そしてDX推進を担当する安光課長が、現場でのPoCを含めて快く受け入れてくださり、何度も挑戦させてくださったからこそ、成果を出すことができました。
――「LocoMoses」の今後の展望について教えてください。
藤原氏 : ロンコ・ジャパン様や、他のお客様のご要望も伺いながらバージョンアップをしていきます。私たちがターゲットとしているのは中堅の配送業者様ですが、ゆくゆくは大規模な配送業者様にも広げていきたいです。
企業規模が大きくなれば、拠点数、トラック数、荷物の数も桁違いとなります。そうなると、AIの計算能力も劇的に向上させなければなりません。これまでの統計計算的なAIではなく、量子コンピューターの領域にまで足を踏み入れなければならない可能性もあります。そうしたことも視野に入れながら「LocoMoses」を育てていきます。
そして、物流から拡大して、今後は倉庫との連携の可能性も探っていきたいです。「積載」「配送ルート」に加え、「倉庫」も加え、トータルにつなげられるようなシステムとなれば、よりサービスの価値が向上するはずです。ロンコ・ジャパン様の時と同様に、倉庫を扱う会社の現場に入って仮説を磨き、次に実証実験に着手する段階まで来ています。
――中堅企業から大企業まで顧客の幅を広げ、さらには「倉庫」まで提供範囲を広げ、今後もサービスの価値を高めていくのですね。
藤原氏 : そうですね。かつ、すべてIMS「Yume Pro」のプロセスで進めていきます。以前はお客様からの指示でモノをつくっていたOKIですが、これからは自分たちで仮説を立て、ロンコ・ジャパン様のような共創パートナーを見つけ、仮説に磨きをかけて解像度を上げていきます。さらには、これをOKIだけでの強みとせず、世の中すべての企業がIMSを共通言語としてビジネスを進めることで、もっと早く新規事業を立ち上げていきたいです。
取材後記
現場に入って仮説を磨き、PoCも繰り返し実施し、サービスの質を高めていく――OKIがIMS「Yume Pro」に基づく商品化へのプロセスを非常に大切にしていることが見える取材だった。OKIは将来事業として、「物流」「高度遠隔運用」「ヘルスケア・医療」「CFB(クリスタル・フィルム・ボンディング)」の4領域を設定し、事業化に取り組んでいる。そしてOKI創業150周年である2031年には、4領域合計で500億円の事業創出を掲げている。他の領域に先駆けて商用サービス化を実現した物流領域。イノベーションのお手本となる事例として、さらなる拡大を続けてほしい。
(編集:眞田幸剛、文:佐藤瑞恵)