一度も会わずに共創を実現。PIXTAによる日本初の「データセット」販売への挑戦
新型コロナウイルスの影響で人の接触が憚れる今、多くの仕事がリモートで進められるようになってきた。オープンイノベーションもその例外ではない。これまで「直接会ったこともない企業との共創は考えられない」と思っていた方もいるかもしれないが、実際にオンラインだけで共創を完結する事例が現れ始めている。
画像素材のマーケットプレイスを運営するPIXTAも、その一社だ。2020年8月にはAIベンチャー「グローバルウォーカーズ」との業務提携も発表した。今回はPIXTAのカスタマーサクセスとして、旗振り役を担った福本早也香氏に、共創の背景と経緯を伺った。
スピーディなオープンイノベーションに向けて選んだ「AUBA」
ーーまずは共創を検討した背景について教えて下さい。
福本:私達は画像素材のマーケットプレイスとして、個人のお客様だけではなく、実は法人のお客様にもサービスを提供しています。サイト上でプランを購入できますが、組織向けの大口プランや素材の大量購入など、従来のプランではカバーできないご要望をお持ちの法人のお客様がいらっしゃいます。私はカスタマーサクセスとして、そのような法人のお客様を探し、ニーズをヒアリングしながら提案するのが仕事です。
これまでもパートナーと組みながらリードの獲得をしてきました。従来は展示会などでリード獲得してきたのですが、コロナの影響で展示会が軒並み中止になってしまったので、オンラインで共創する方法を探し始めたのです。
ーーオンラインでの共創支援サービスはいくつかありますが、その中でAUBAを利用したきっかけはなんでしょう。
福本:いくつかのサービスに実際に登録してみたのですが、AUBAが一番スピードを持って進められると思ったからです。AUBAでは企業の情報のページに、みなさんしっかり情報を書いてくれているので、相手のことをよく知った上でコンタクトがとれます。もちろん私たちのことも知ってもらえるので、お互いを知った上でスムーズにやり取りが進められました。
また、最初にカスタマーサクセスの方がフォローしてくれて、チケットも付与してくれたので「とりあえずコンタクトしてみよう」という気持ちで始められました。これまでのようにリード獲得ができなくなり、早く次の一手を探していたので、スピードを持って共創できるのは大きなポイントでしたね。
ーーAUBAを利用していて、使いやすいと思ったことがあれば教えて下さい。
福本:検索がスムーズに行えることです。登録者数も多く、みなさんしっかり情報を書き込んでくれているので、どんなキーワードで検索してもマッチする企業が出てきました。私達の場合は、あらかじめパートナーとなる企業像をイメージしてから検索していたので、共創したい企業もすぐに見つかりましたね。
具体的に機械学習の「アノテーション」技術を持っている企業をイメージしていたのですが、そのような専門的なキーワードでもヒットする企業が複数出てきました。グローバルウォーカーズさんも「アノテーション」で検索して見つけられた企業です。
※アノテーション……テキストや音声、画像などあらゆる形態のデータにタグを付ける作業のこと
イメージを固めてからの声がけで、期待以上のパートナーに出会える
ーーあらかじめパートナーとなる企業像をイメージしていたとのことですが、なぜでしょうか。
福本:最初はチケットももらえたので、「とりあえず声がけしてみよう」と始めてみました。しかし、具体的なイメージを持たずにお話しても共創には繋がらず、最後に「何かあったらお声がけしますね」と言って終わるだけだったのです。それでは、お互いに時間の無駄になってしまいます。
それからは社内で、どんな企業とどんな共創をするのか、具体的なイメージを持ってからお声がけする方法に切り替えました。
ーー機械学習の技術を持つ企業を探していた経緯について教えて下さい。
福本:機械学習をする際に、AIに大量の画像を読み込ませるため、AIの分野でデジタル画像のニーズが高まっていることはもともと知っていました。海外ではAI企業がデジタル画像を買うのが一般的ですが、日本ではまだ一般的ではなく、私達が販売していることも認知されていません。
そのため、アノテーション技術を持っている会社と組んで、AI企業に私達のサービスを提供できればと思ったのです。
ーーグローバルウォーカーズさんとはどのようにやりとりを始めたのですか。
福本:企業ページを見てアノテーションの技術を持っており、画像データのニーズがあるお客さんを抱えていることを知っていたので、相互送客できればと思いお声がけしました。お互いの事業について紹介した後は、私達がもってた共創のイメージを伝えて初めての打ち合わせは終わりました。
二回目の打ち合わせの時には、向こうから「データセット(AIの開発モデルのトレーニングなどに利用する、大量のデータの集合体)」の提案を受けました。海外ではデータセットを販売している企業がいるようですが、日本ではまだいません。そこにビジネスチャンスを感じた先方が、「一緒にやりませんか」と誘ってくれたのです。
ーー提案を受けた時はどんな印象だったのでしょう。
福本:データセットのビジネスがあること自体、私達は知らなかったので、ビジネスになるのか確信は持てませんでした。しかし、先方が丁寧に説明してくれたおかげで、少しずつ理解を深めていけました。
リリースする段階でも、うまくいく確信があったわけではありませんが「やってみたらわかるだろう」と思いました。スモールスタートで始めて、最初は手作業で画像を提案しながら、徐々にニーズを探っていければと思ったのです。
▲画像素材のPIXTAとAIテックベンチャーのグローバルウォーカーズ社が業務提携/プレスリリースより
新しい挑戦への反響は好調。今後も共創による展開に期待
ーー2020年8月にリリースを発表していますが、それまで先方とは一度も会っていないのですか。
福本:はい、全てのやりとりをZOOMとSlackで行っているので、未だに直接お会いしていません。実際にオンラインでやり取りを進めていると、直接会うよりもいい点もありました。例えば、オンラインだと「ちょっと30分くらいいいですか」と気軽に相談できます。他にも、分からないことあったらSlackに投げておけば、気づいた時に返答がもらえるのでやり取りもスムーズですね。
ーーリリースしてからの反響についても教えて下さい。
福本:まだデータセットの購入はありませんが、法人からの画像の問い合わせは増えて、そのうち何社かには販売もしています。「リリースを見ました」というコメントと共に、問い合わせしてくれる企業さんも多くいます。グローバルウォーカーズさんもリリース後に問い合わせが増えて喜んでいるようです。
ーーどのような企業からの問い合わせが多いのでしょうか。
福本:今のところ、大企業が研究用に購入するケースが多いです。スマホの顔認証や、商品のレコメンドシステム、監視カメラの研究用に利用されているようです。弊社が法人向けに画像を提供していることが認知されたことを実感しますね。
また、これまでは問い合わせのなかった、動画のニーズも見えてきました。ここ数年は企業活動に動画を用いる会社も増えているので、これからさらに問い合わせも増えていくはずです。私どもとしても、そのようなニーズに応えるため、動画を定額制で提供するサービスもリリースしました。
ーーリリースの反響も大きかったようですが、今後の展望についても教えて下さい。
福本:法人からの問い合わせが増えたことでニーズも分かってきたので、しっかりデータセットとして提供し、企業の研究活動に貢献していきたいですね。動画のサービスに関してもAUBAでパートナーを探しながら、販路を拡大していきたいと思います。
企業のニーズも多様化しているので、既存サービスの認知を上げるのと同時に、ニーズに応えられるサービスも積極的に開発していければと思います。
編集後記
直接会って打ち合わせるメリットがあるのは確かだ。しかし、共創を実現するために、必ずしも直接会う必要がないことが、今回の事例で明らかになった。これまで大手企業を中心に「会ったこともない企業とは提供できない」という考えもあったかもしれない。しかし、コロナでも共創を止めないのであれば、オンラインで共創を完結するのも致し方ないことだろう。
(取材・文:鈴木光平)