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スポーツで地域はより一層活気づく。地域版SOIP地域パートナーが語る、スポーツオープンイノベーションに取り組む意義と価値

スポーツで地域はより一層活気づく。地域版SOIP地域パートナーが語る、スポーツオープンイノベーションに取り組む意義と価値

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スポーツ庁が“スポーツの成長産業化”を掲げ、スポーツ界と他産業の連携による新たな財・サービスの創出を目指して取り組んでいる、「スポーツオープンイノベーション推進事業」。スポーツ界と他産業をつなぐプラットフォームが、「Sports Open Innovation Platform(SOIP)」であり、このプラットフォームを地域から全国へと拡大しようとする取り組みを「地域版SOIP」と呼んでいる。

今年度は、全国3エリア(北海道/甲信越・北陸/東海)で、「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD」を開催。地域のスポーツチームと、全国から集まったパートナー企業による共創プロジェクトの成功に向けて、その傍らで奔走し続けているのが、本記事に登場する“地域パートナー”だ。

北海道エリアからは「SPOPLA北海道 株式会社北海道二十一世紀総合研究所」、甲信越・北陸エリアからは「長野ITコラボレーションプラットフォーム(NICOLLAP)」、東海エリアからは「中日新聞社」「名古屋商工会議所」「中部ニュービジネス協議会」の3者が参画。今回TOMORUBAでは、「地域版SOIP」デモデイ(3/1開催)を目前に控えた地域パートナーへインタビューを行い、これまでの活動から見えてきたスポーツオープンイノベーションの可能性や、今年度の共創プロジェクトの進捗状況、今後の展望について詳しく聞いた。

地域でスポーツ産業支援に取り組むということ

――地域版SOIPへの参画以前に、みなさんはそもそもなぜ地域で、スポーツ産業支援や「スポーツ×他産業」のマッチングに取り組もうとお考えになったのでしょうか。当初感じていた意義や可能性についてお聞かせください。

北海道エリア・小川氏: 私たちの所属する北海道二十一世紀総合研究所は、シンクタンクとして行政からの委託調査や計画策定などを手がけており、地域の課題解決や活性化の支援を目的として活動している会社です。そうしたなか、東京オリンピックの開催決定などにより、スポーツに対する機運が高まりました。そこで当社としても、スポーツという切り口から地域を盛り上げていこうという方針となり、「SPOPLA北海道」を立ち上げました。

これまでにも、地域活性化というテーマに対して様々な取り組みを行ってきましたが、“スポーツ”を切り口にすることで、さらなる楽しみやワクワク感を醸成できると思います。こうした特徴を持つスポーツを用いて、地域の課題解決や産業創出につなげることに大きな期待感を持った、というのが当初の想いです。私個人としても、この取り組みを通して、地域課題を解決することで困っている人が助かったり、地域住民が幸せになったりすることに、やりがいや価値を感じています。


▲SPOPLA北海道 株式会社北海道二十一世紀総合研究所 調査研究部 主任研究員 小川貴大氏

――楽しみやワクワク感は、スポーツだからこそですね。甲信越・北陸エリアの高畠さんは、どのようにお考えでしたか。

甲信越・北陸エリア・高畠氏: 私は長野に来る前、秋田で秋田ノーザンハピネッツ(Bリーグ所属のプロバスケットチーム)の設立・運営に、約10年間 携わってきました。この経験から、地域におけるスポーツチームの重要性は、おぼろげながら感じていました。その後、チームを離れて長野へと移住しこの地域の様子を肌で感じるなか、「長野はもっとスポーツで突き抜けられるのではないか」と思ったことが、本事業に関わろうと考えたきっかけです。

スポーツの可能性として今、強く再認識していることがあります。それは、スポーツがコミュニケーションを活性化させるツールだということです。「人はなぜ、スポーツに関わろうとするのか」に対する私なりの整理は、スポーツがコミュニケーションを生むものだから。スポーツが盛り上がれば、地域も盛り上がるはずです。こうした信念を持って、スポーツと他産業をつないでいく今の活動に取り組んでいます。


▲一般社団法人長野ITコラボレーションプラットフォーム(NICOLLAP)コミュニケーションマネージャー 高畠靖明 氏

――コミュニケーションを生み出すスポーツが地域のなかで盛り上がっていけば、おのずと地域そのものが活性化するということですね。倉内さんはいかがでしょう。

東海エリア・倉内氏: 東海エリアに関しては、私たちが地域版SOIPに取り組まなくても、すでに各チームが個別にオープンイノベーションを実践していました。逆を言えば、「基盤」だけがなかった。それがあれば、個別で行う以外に選択肢が増え、スケールメリットや広がりを生み出せるはず。先進的な動きを次のステージに引き上げるためにも、それぞれのスポーツチームを支援してきた名古屋商工会議所、中部ニュービジネス協議会、当社(中日新聞社)の3者が組めば、基盤になれると考えました。

東海エリアには数多くのスポーツチームが活躍していますし、強固な産業基盤もあります。保守的ともいわれた土地柄に、インパクトのあるスタートアップ支援や地元での2026年アジア競技大会という革新が動き出している。スポーツとビジネス、強みと機会をつなぎあわせる上で、プロスポーツチームや競技団体だけでなく、日本国内に数多くありオリンピアンやメダリストも輩出する企業スポーツチームの分野、あるいは大規模国際大会や市民参加型のスポーツ分野にもトライし、SOIPの可動域を拡げたい思いも強かったです。

スポーツの世界は横のつながりが大きいと感じる一方、時に”スポーツ村”で完結しているケースも見受けられました。スタートアップとの協業ひとつ、「村」から外へと広げるにも、いきなりかみ合うことは稀です。だからこそ、地域での影響力が大きいマスメディアや経済団体がサポートすることで、スポーツ界とビジネス界の双方が広く興味を持ってくれると期待しました。


▲株式会社中日新聞社 広告局ビジネス開発部 倉内佳郎 氏

スポーツコンテンツは地域のハブとなり、活力と楽しみをもたらす

――甲信越・北陸エリアでは、スポーツと地域との関わりを強化するために、どのような活動を行われているのでしょうか。

甲信越・北陸エリア・ 荒井氏: 私たち「NICOLLAP」は、長野県の既存産業に対してITテクノロジーを掛けあわせ、オープンイノベーションで社会課題の解決を図ることを目的に掲げています。企業同士の共創に対して、伴走支援することを役割としているのです。ですから、これまでは「接点づくり」に注力してきました。具体的な活動内容としては、長野の企業やプレイヤーを結びつけるイベントを企画・運営したり、カジュアルな定例会を開催したり、そうした活動を実施しています。

――スポーツを軸とするオープンイノベーションに取り組んでみて、どのような手応えや可能性を感じておられますか。

甲信越・北陸エリア・ 荒井氏: 私たちはもともと、スポーツ分野を専門にしてきたわけではありません。今回の地域版SOIPを通じて初めてスポーツ分野に関わったのですが、「スポーツをハブにすると、とてもきれいに進む」という実感を持っています。というのも、地域や社会の課題解決を図る場合、IT産業単独で解決できることはほとんどありません。地域住民との関係構築は不可欠です。

IT産業以外の既存産業についても、自社の生き残りに必死な企業も多く、社会に資する活動に取り組みたくても一歩を踏み出せないことは多々あります。そうしたなか、スポーツをプラットフォームにすると、誰もが何のフィルターもなく容易にアクセスできるようになる。これはオープンイノベーションを促進するうえで、非常にインパクトがあることだと思っています。

――「容易にアクセスできる」とは、具体的にどういうことでしょうか。

甲信越・北陸エリア・ 荒井氏: 例えば、健康促進アプリを普及・促進したくても、消費者から見ると個人情報を提供することに抵抗があって、容易には進みません。しかし、スポーツチームとコラボレーションすることで、「自分たちの応援するチームに協力したい」というモチベーションとともに、その抵抗感が崩れて一緒に事業を伸ばしていこうという関係性を築ける。環境問題への対応にしても、スポーツをひとつのコンテンツとして利用することで、マインドセットしやすくなります。


▲一般社団法人長野ITコラボレーションプラットフォーム(NICOLLAP)代表理事 荒井雄彦 氏

――なるほど。高畠さんはどのような手応えをお感じですか。

甲信越・北陸エリア・高畠氏: 今回、スポーツというコンテンツを預かった時点で、飛躍的に交流が増えたという実感があります。それはおそらく、スポーツというだけで関われるプレイヤーが増えるからなのでしょう。

例えば、製造業向けDXイベントを開いても、製造業の人たちしか興味を持ってくれません。それ以外の人たちに対しては、関わる余白がないような印象を与えてしまう。一方、「長野のスポーツを一緒に盛り上げましょう」という呼びかけだと、自社技術やサービスを活かしたい企業や、スポーツに関心のある個人も関わりやすくなる。こうした意味でスポーツは、コミュニケーションのツールとして打ってつけなのです。

私自身はもともとスポーツ村にどっぷりとはまっていた人間です。スポーツ村を出て外の世界に来た後、改めてスポーツに関わると、「スポーツだから実現できるんだ」「スポーツ文脈で話すと、こんなに喜んでもらえるんだ」と、気づかされることが多いですね。

――北海道エリアは地域のスポーツチームと、どう関わっておられるのですか。注力している活動などがあればご紹介ください。

北海道エリア・小川氏: 「SPOPLA北海道」は2019年に発足した組織ですが、立ち上げ当初からマッチング事業に注力してきました。具体的には、スポーツチームなどに協業連携の募集を行っていただき、それに興味を持った他の企業とマッチングをして、事業創出までの支援を行うという活動です。4年以上マッチング事業を続けるなかで、大小様々なスポーツチームからご相談をいただくようになりました。

一例を挙げると、カーリングチームより女性選手の産後復帰支援を行える制度はないかとご相談をいただいたり、アイスホッケーチームより観戦環境を改善できる方法はないかとご相談いただいたり、多種多様なご相談を受けています。これらに対して私たちのほうで利用可能な制度や助成金を探したり、連携可能な協業先を探すといった支援を行っています。

――これまでの活動から感じた手応えや、見えてきたスポーツの可能性は?

北海道エリア・小川氏: スポーツに対する興味の有無は人によって異なりますが、スポーツが地域のなかにあることで、その街が活性化するという側面はあると思います。観戦するスポーツだけではなく参加するスポーツも含めて、さまざまなスポーツコンテンツがあることで、その街の住民は楽しく暮らせるようになる。多様なスポーツコンテンツは、街に楽しみをもたらすと思います。

実は今、スポーツ庁の「スポーツツーリズムコンテンツ創出事業」に参画し、小規模スキー場にグランピング施設を設けて、スキー・スノーボードに興味がない層にもスキー場で楽しんでもらう実証を進めています。より参加ハードルの低いものを盛り込むことで、スキー・スノーボードから離れてしまった地元の人に再度、雪山に戻ってきてもらうことを狙っています。まだ実証段階ですが、メディアの反響も大きいですし、地元の自治体町長さんなどからも、期待する声をたくさんもらっています。こうした点からも、スポーツが街に楽しみをもたらす可能性があると強く実感しています。

――東海エリアは全国に先駆けて、「中日ドラゴンズスタートアップピッチ」や「名古屋グランパス×スタートアップピッチ」といったスポーツチームとスタートアップのピッチイベントを実施しています。地域のスポーツチームと、どのように関わっておられるのでしょうか。普段の活動から感じていることは?

東海エリア・水谷氏: 私たち名古屋商工会議所は、地域のスポーツチームの困りごとを、会員の商材やサービス、テクノロジーなどを用いて一緒に解決するスタートアップピッチ、スポーツチームのライセンスを活用してビジネスチャンスをつかんでもらう商談会などスポーツチームと会員を繋ぐマッチング事業を行っています。当地域は製造業の集積率も高く企業スポーツも盛んで、スポーツチームも大変多く、ポテンシャルの高いエリアです。

事業をするなかで感じたことですが、名古屋でスポーツチームといえば中日ドラゴンズさんと名古屋グランパスさんがツートップになります。とくに地域事業者のドラゴンズへの思い入れは強く、「中日ドラゴンズのためなら何かしたい」という経営者の方は大勢いらっしゃいます。ドラゴンズに続くのが、昨年チーム発足から30周年を迎えたグランパスさん、ドラゴンズさんほどではないですが、関わりたいという企業は多い。他のスポーツはこれからという状況です。


▲名古屋商工会議所 商務交流部 ビジネスマッチングユニット 主任係長 水谷健太 氏

――野球とサッカーに関心が集中しているのですね。グランパスピッチは、どういう意図ではじめられたのですか。

東海エリア・水谷氏: スタートアップが少ないと言われる名古屋にユニークなスポーツテック・スタートアップなどを呼び込むことを目的とし、また全国に先駆けて最もプロスポーツクラブとスタートアップのオープンイノベーションが盛んな地域づくりを目指し、スポーツクラブの魅力向上と地域の活性化を狙った取り組みとしてスタートしました。私たちはスタートアップを、地域の資産を全国にPRしてくれる存在だと捉えているのですが、全国への広報にあわせて、「グランパスがスタートアップと、こんな動きをしている」ということを、地域に対してPRしていくことが重要だと思っています。

そういうきっかけづくりの場として、中部ニュービジネス協議会とともにスタートアップピッチに取り組んでいます。私たち支援機関としては、きっかけづくりと地域の動きをお披露目することが重要な役割だと考えています。

東海エリア・倉内氏: 水谷さんがおっしゃったとおり、2021年に開催された3回目のグランパスピッチは「メッセナゴヤ」という、地域最大の異業種交流展示会の中で開催しました。経済界のさまざまな人たちがビジネスマッチングを行う場で、グランパスさんとスタートアップのかけ合わせを知らしめたことは、スポーツ界とビジネス界をつなぐ大きなヒントになりました。

東海エリア・水谷氏: 新しい動きとよい事例をたくさん生み出し、地域の人たちに見せていく。タッチポイントを増やして産業界の皆さんに向けてPRすることが、地域のスポーツ産業を支援していくことにつながると思います。

地域版SOIPデモデイ直前、10の共創プロジェクトの進捗を聞く

――続いて、今年度の地域版SOIPについてお聞きします。昨年秋の「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD」でインキュベーションに進む採択企業が決まり、事業化に向けて実証に取り組んでいる最中だと聞いています。3/1開催のデモデイまであとわずかですが、進捗はいかがですか。

甲信越・北陸エリア・高畠氏: 甲信越・北陸エリアでは3つのプロジェクトが進んでいます。松本山雅FCさんについては、DATAFLUCTさんというスタートアップを採択し、同社のサービスでCO2排出量を可視化し、カーボンニュートラルな未来の実現、また共感いただけるスポンサー企業の開拓をスタートされました。

松本山雅FCさんはもともと地域に根差し、営業力のあるクラブと定評がありましたが、「もうすべての営業先に行き尽くした」とおっしゃるくらい尽力されていました。しかし今回、新たに「カーボンニュートラルの文脈で営業を仕掛けていこう」という話になり、実際に営業活動を行ってみて、今までとは別の文脈からチームに興味を持ってくれる企業が出てきたそうです。「自分たちだけでは行きつかないような企業と接点を持てるようになった」と聞き、うれしく感じました。

信州ブレイブウォリアーズさんは、信州大学発のベンチャー企業であるウェルナスさんと、「AI食」という切り口で活動を進めています。1月中旬にアプリがリリースされ、それをチームのファンや選手の皆さんに使ってもらう段階です。個別最適化された、栄養価の高い食事提案ができる新しいソリューションになる予定です。長野のスポーツチームと長野発のベンチャーがタッグを組むという点で、私たちも大きな期待を寄せています。


▲リリース:信州ブレイブウォリアーズ×ウェルナス、『選手・ブースター(ファン)への「AI食」情報提供で健幸を目指す』実証を開始! 

さいごに長野県スキー連盟さんですが、富士通さんの若手3名とともに、骨格動作可視化ツールを使った実証を予定しています。富士通の皆さんには、何度も白馬に足を運んでいただき、スキー教室のインストラクターや生徒さんが使いやすいよう、ツールの改善を重ねてもらっています。野球やサッカーといったメジャーなスポーツにも使えるツールですが、それを雪上で使うことになるため、色々な課題が生じてきてはいますが、関係者と連携をしながら進めているところです。富士通の若手エースが長野のスキー文化のために尽力してくれる。これはお金に代えがたい価値だと思っています。


▲2022年11月に長野で開催された「「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD」。

――北海道エリアはどうですか。

北海道エリア・高松氏: 北海道では3つの共創プロジェクトが動いています。北海道コンサドーレ札幌さんとコミューンさんについては、コアファンのコミュニティをつくる取り組みを進めています。コンサドーレさんはもともと、札幌市や札幌ドーム周辺の地域活性化に強い関心をお持ちでした。「いかに自分たちが札幌や北海道の地域活性化に貢献していくか」という点では、ひときわ想いが強いチームです。

そこで今回、プラットフォーム運営のノウハウをお持ちのコミューンさんとともに、北海道に愛着を持つコアファンの皆さんでコミュニティを形成し、一緒になって地域を盛り上げるような活動を実施しようとしています。すでにコミュニティ専用のサイトは完成していて、これから一般のファンに参加を募っていくという段階です。


▲SPOPLA北海道 株式会社北海道二十一世紀総合研究所 調査研究部 研究員 高松世大 氏

北海道エリア・小川氏: エスポラーダ北海道さんとユーロフィンQKEN(旧社名・キューサイ分析研究所)さんは、2月中旬に食育をテーマとした実証を行う予定で、すでに札幌市内にある15~20程の小学校に参加者募集のチラシを配布しました。これまで企画してきたフットサル教室に興味がなかったファミリー層に対して、食育というコンテンツを提案してみて、どの程度の新規層にアプローチできるのかを検証します。


▲リリース:エスポラーダ北海道×ユーロフィンQKEN「スポーツ(フットサル)×食育(食を学ぶ)」実証イベントを開催。参加者(親子)募集を開始! 

ヴォレアス北海道さんとplaygroundさんについては、2月下旬のホームゲームで試合に来てくれた方に「ファンダム証明書」(デジタルカード)を発行し、需要の有無を検証する実証を行います。今回、カメラ女子をターゲットにしているのですが、例えばですが撮ってもらった写真を地域の飲食店やショップ、駅前周辺のモニターに流し、地域全体へと展開するような仕組みの検討も進めています。ヴォレアスさんの価値向上だけではなく、旭川市全体の価値向上と市ピックプライドの向上にもつなげていく狙いです。


▲2022年11月に札幌で開催された「「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD」。

――さいごに東海エリアはいかがでしょうか。

東海エリア・倉内氏: 東海エリアでは4つの共創プロジェクトが進行中です。名古屋グランパスさんは、街クラブに地元企業をスポンサー化していくスポーニアさんと、地域の子どもたちとグランパスの新たな接点を作ろうとしています。街クラブにとっては協賛による支援とともに、グランパスのアセットを生かした特典がつきます。両社が良いのは、サッカーをきっかけに学ぶ楽しみの醸成や、部活動の地域移行問題の解決まで視野に入れていることです。非常に壮大なチャレンジだと思います。スポーニアさんの営業活動も手早く、アポイント先には宣伝では目立たないけれど名の知れた企業も含まれていて驚きました。半径4キロと言われる街クラブのコミュニティにどのようなニーズがあり、グランパスがどう応えるかを拾っています。

名古屋ダイヤモンドドルフィンズさんは、ロゲイニングの企画・運営をするTR2さんを採択され、共創がスタートしています。1月24日に「DOLPHINS PORT」(共創スペース)で、ロゲイニングのチェックポイントのアイデアを出すワークショップを行い、短時間で259件もの候補があがりました。大学生や行政、経済団体、地元商店街の方など、多様な人たちがいながら、誰も知らないマニアックな候補地も提案されています。2月25日には実際にロゲイニングイベントを開催します。あえてドルフィンズ色は出さずに券売し、イベント参加者がドルフィンズへの関心や関与を強めたり、次は出題する側にまわってもらうという循環を狙っています。


▲リリース:名古屋ダイヤモンドドルフィンズ×TR2、『「謎解きロゲイニング」で都心の共創空間からまちづくりとファンづくり』の実証事業を開始! 

続いてTG SPORTSさん(ウルフドッグス名古屋・豊田合成記念体育館エントリオ)です。カジュアルゲームの開発を行うダイスコネクティングさんをパートナーに選ばれました。ウルフドッグス名古屋は選手・スタッフとも積極的に地域活動を行っていますが、いわゆる「体育館」とは全く違う雰囲気のエントリオで試合観戦をしたことがない地元の子どもたちに対して、デジタル上でも簡単なゲームを通じてバレーボールやチームを知る「ウルドわいわいPARKオンライン」のアイデアが生まれています。ダイスコネクティングのあべき社長が精力的に開発を進め、1月21日にはジュニアの生徒たちにゲームを試し、エントリオの6面スクリーンに映写テストも実施。照準は来シーズンの開幕に向けつつも、2月18日のホームゲームではチーム・アリーナ一体運営だからこそできる試みを行います。

最後に名古屋ウィメンズマラソンですが、名古屋発のスタートアップであるNew Ordinaryさんとともに、大会のコースに親しみを持つことで、ランナーやボランティアでなくても楽しめたり、走る意欲を生んでいずれはウイメンズに出場するきっかけとなるアプリ企画を進めています。名古屋に拠点を持つ企業同士なので、対面での打合せも交えつつ進めているところです。New Ordinaryさんのアプリは、官公庁や交通機関などと実証を重ねている段階で、これから育てていくサービス。まずは3月12日の大会当日に合わせてテスト版を使ってもらい、検証します。


▲2022年12月に名古屋で開催された「「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD」。

地域パートナー3者が描く、今後のスポーツオープンイノベーション戦略

――さいごに、それぞれの地域の今後の展望について教えてください。

北海道エリア・小川氏: 私たちは、スポーツを軸とした新たな事業や産業の創出・拡大を目的としているので、それに向かって一歩一歩新しい活動を積み重ねていきたいと思っています。次年度の具体的な活動はまだ検討中ですが、スポーツチーム側に負担がかからない形で、独自の地域版SOIPを運営していきたいです。

例えば、スポーツチームの課題は重複していることが多いので、私たちのほうで課題をとりまとめ、それに対する提案を企業から集めてピッチイベントを行い、スポーツチームにはイベント当日だけ参加してもらい、気になった企業と組んでもらう。そういった枠組みも検討中です。

東海エリア・倉内氏: スポーツ村に限らずどの分野でも、村の中では熱量が高いものの、外の人を引き込めないことがよくあります。こうした状況を打開すべく起業家育成支援拠点「なごのキャンパス」で定期的に行われる「NAGOYA CONNÉCT」という交流プログラムに、スポーツ関連のセッションを2022年1月より加えてもらいました。すでに4回実施していて、地域版SOIPの地元報告会も、この場で開催します。スポーツ村だけではなくスタートアップ村でも、スポーツを語れるようになったことは成果のひとつですし、引き続き参画していきたいです。

愛知県では経済産業局とスポーツ局がそれぞれに今年度新たに策定する中期戦略で「スポーツのオープンイノベーション」を明文化しています。一方、他のプロチームや企業スポーツチームなどにどう広げるかは課題です。単年で「仕組み化」ができるものではありません。その点では、県のあいちスポーツコミッション、名古屋市の名古屋スポーツコミッションとの連携も必要になると感じますし、12月23日に地域版SOIPをテーマにしたNAGOYA CONNÉCTのセッションでは、それを機に両コミッションの担当者やアジア大会の組織委員会の方とも新たな対話が始まりました。2026年から振り返ったとき、今年度が東海地域のSOIP元年と言える世界を目指します。

甲信越・北陸エリア・ 荒井氏: これだけよい機会をもらえたので、来年度に何も残らないという状況だけは避けたいと思っています。ですから、今年度の地域版SOIPを終えた後も、積極的にスポーツ領域に関わり、オープンイノベーションを推進していきたい。イメージとしては、北海道のSPOPLAさんのようなプラットフォームを構築したいという気持ちが芽生えています。来年度には新しい活動を開始できるよう、今から仕掛けていく計画です。

取材後記

「地域版SOIP」の地域パートナー視点から見た、スポーツそのものやスポーツオープンイノベーションの可能性に迫った今回。さまざまな角度からスポーツが持つ魅力を聞き、改めて地域にもたらす価値を認識できた。また、日本各地で進む10件の共創プロジェクトも順調に進行しているようだ。3月1日には『INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD 2022 DEMODAY』(令和4年度地域版SOIPの成果発表会)が東京で開催される。スポーツやスポーツオープンイノベーションに興味があるならぜひ足を運んでほしい。

https://eiicon.net/about/innovation-league-sportsbb2022-demoday/


(編集・取材:眞田幸剛、取材:林和歌子)

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