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100年に一度の大変革期を迎えた自動車産業――岡崎市の自動車関連企業2社が挑む共創プログラム始動

100年に一度の大変革期を迎えた自動車産業――岡崎市の自動車関連企業2社が挑む共創プログラム始動

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愛知県のほぼ中央に位置し、豊田市に隣接する岡崎市。自動車関連企業が数多く立地し、製造業が発展しているエリアだ。また、市内にある岡崎城は徳川家康公生誕の地であり、大河ドラマの開始とともに、全国的な注目を集めつつある。そんな同市が今年度より開始したのが、「おかざきものづくり OPEN INNOVATION PROGRAM」である。

岡崎市内の新規事業開発に取り組む企業2社をホストに迎え、全国からパートナー企業を募集して、共創で新たな事業を生み出すことを目指すプログラムだ。今年度は、数ある市内企業のなかから、次の2社がホスト企業に採択され、共創パートナーを募集する。

株式会社オーケーエス(「治具」の設計・製作)

有限会社 渡瀬工業(「搬送コンベア」「洗浄機」の設計・製造・メンテナンス)

そこでTOMORUBAでは、本プログラムの立案者である岡崎市役所の倉地氏と木和田氏に「おかざきものづくり OPEN INNOVATION PROGRAM」を始動した背景や狙いを聞いた。また、ホスト企業2社の代表者にも、自社の強みや課題、プログラムへの参加背景、実現したいことなどを伺った。

【岡崎市役所】変革期を迎える岡崎の製造業、事業領域の転換が必要不可欠

まず、「おかざきものづくり OPEN INNOVATION PROGRAM」の主催者である岡崎市役所 経済振興部 商工労政課 課長の木和田 佐奈枝氏と、経済振興部 商工労政課 ものづくり支援係の倉地 亜実氏に、岡崎市の特徴や本プログラムの企画背景、期待する効果などについて聞いた。

――最初に、愛知県岡崎市の産業の特徴について教えてください。

倉地氏: 愛知県といえば自動車を想像する方が少なからずいらっしゃるように、岡崎市も、自動車産業を中心とした世界有数のものづくり産業の集積地です。市内総生産のうち40%近くが製造業となっており、その多くが自動車産業のサプライチェーンの一角として製品・サービスの付加価値創出に貢献しています。事業規模としては、製造業の80%近くが単独事業所で、中小企業が多く立地しています。

また、伝統産業も盛んで、経済産業省より指定を受けた伝統的工芸品である「岡崎石工品」「三河仏壇」や、愛知県が基準を定める郷土伝統工芸品である「五月武者絵幟」「三州灯篭」「草木染」などがあります。さまざまな伝統技術を持った職人が多数いらっしゃり、職人が集まって勉強会などを行う「おかざき匠の会」の活動も活発です。こうした面から、岡崎市はものづくりの街といえます。


▲岡崎市役所 経済振興部 商工労政課 ものづくり支援係 倉地亜実 氏

――岡崎市が抱えている産業面の課題には、どのようなものがあるのでしょうか。

倉地氏: 課題点としては、これまでものづくり産業として安定的な雇用及び受注があったため、新規事業を行う人が少なく、事業を創出するノウハウなどが根付いていないことが挙げられます。現在、自動車産業が、100年に一度の大きな変革期を迎えているので、中小のものづくり企業が事業を推進していくうえで、DXやカーボンニュートラルを始めとしたさまざまな課題が急速に顕在化しています。

これからも岡崎市が、ものづくりの街としての経済力・雇用力を崩さないためには、市内企業の事業領域の転換が必要不可欠。この新たな時代の波に飲み込まれるのではなく、ビジネスチャンスを獲得する、新たな機会としてとらえていければと思います。

――新規創業数の少なさが課題だということですが、この課題に対して今まで、どのようなアプローチをされてこられたのでしょうか。また今回、本プログラムを起案した背景や狙いについても教えてください。

木和田氏: 先ほどご紹介したように、岡崎市はものづくりの盛んな土地ですが、徳川家康公生誕の地ということで、もともと宿場町・城下町があり、商業が発展してきたエリアでもあります。商業関係の経営支援は、岡崎ビジネスサポートセンターや経済団体である岡崎商工会議所と連携し、商品開発や経営の支援を実施しています。あわせて、駅前や中心市街地内に賑わいを創出するために商店を誘致するといった活動に取り組んでいます。

一方で製造業に関しては、平成17年に、岡崎商工会議所と連携し、岡崎ものづくり推進協議会を立ち上げ、ものづくりコーディネータを中心に、産学官連携活動を通じ岡崎のものづくり企業のより一層の活性化を図ることを目的に活動しています。しかし、今日、自動車業界が100年に一度の変革期を迎え、市内の製造業の皆さんの声を聞くなかで、新たな中小企業対策の必要性を痛感し、今回のプログラムを立ち上げたのです。


▲岡崎市役所 経済振興部 商工労政課 課長 木和田佐奈枝 氏

――岡崎市内の企業を対象に、2022年10月に「新規事業創出セミナー」、11月には「企業課題と参入事業領域の設計ワークショップ」を開催されました。手応えはどうでしたか。

倉地氏: まず、セミナーの開催に向け、製造業の皆様に趣旨を説明するところから始め、募集には、岡崎ビジネスサポートセンターや岡崎商工会議所、市内金融機関を含めた経済団体の協力を得て、たくさんの方々に参加いただきました。セミナー後のアンケートには、「自社の強みが分からない」「アイデアが不足している」「進め方が分からない」などの意見が多くありました。実際、新規事業開発に悩んでおられる経営者が多数おられると実感しましたし、そういった方々に対して「新規事業創出セミナー」を提供できたので、進め方としては間違っていなかったと思っています。

また、ワークショップでは、参加者の皆さんに新規事業を組み立てる体験をしていただきましたが、苦労されている様子も見受けられました。まだ、進んでいく途中段階だということが分かったので、岡崎市としても引き続き支援を続けていきたいです。

――「おかざきものづくり OPEN INNOVATION PROGRAM」に期待することは?

倉地氏: ホスト企業の2社には、今まで出会う機会のなかった国内外のスタートアップやベンチャーなどと交流し、新たな技術や知見、人脈、ノウハウ、アイデアなどを一つでも多く獲得して、新規事業創出に進んでいただきたいと思っています。そして、実際に感じた共創の良さ、面白さなどを、市内のものづくり企業に伝えていただき、市内全体で共創に対する機運が高まればと思っております。

木和田氏: ホスト企業2社は、岡崎市内の事業者の皆さんと幅広い人脈をお持ちです。ぜひインフルエンサーになっていただき、本プログラムから得られた知見を、周囲の方たちに広げてもらいたい。そういった点にも期待をしています。

――最後に、本事業の次年度以降の構想・ビジョンについてお聞かせください。

倉地氏: 次年度は、本年度実施したプログラムの他企業への展開と、本年度のホスト企業2社の実証実験等のサポートの2部構成で実施する予定です。岡崎市での共創活動をより発展させていきたいと思っています。


【ホスト企業①】株式会社オーケーエス――「治具」の設計・製作で培った技術を武器に、新たな事業領域への進出を図る

続いて、ホスト企業の1社である株式会社オーケーエス 代表取締役 太田裕一郎氏に、同社の事業概要や課題感、プログラムへの参加意図、実現したいことについて聞いた。

――はじめに、御社の事業領域についてお伺いしたいです。

太田氏: オーケーエスは、自動車部品の製造に携わる人の作業を効率化する「作業台」をつくっている会社です。この業界では「治具(じぐ)」と呼ばれていますが、治具の設計・開発を手がけています。木材・金属・樹脂などを材料に、職人が長年培ってきたアナログ技術と、昨今のデジタル技術を組み合わせ、設計から製作までを一貫して行っています。


▲オーケーエスの製作実績の一つ、自動車部品メーカー用木製治具。

――御社が今、抱えている課題感には、どのようなものがあるのでしょうか。

太田氏: まず自動車の電動化にともない、仕事の絶対量が減ってくると予測しています。またデジタル化で試作などの生産工程も、大きく変わってくるでしょう。加えて、SDGsやカーボンニュートラルといった世界的な動きも生まれています。実際、当社の売上も落ちてきています。自動車業界自体が今後、どうなっていくのか不確かななかで、新しい事業を生み出していかねばならないと思うようになりました。

こうした危機感から、2022年の夏頃よりスタートアップのイベントに参加したり、名古屋市内のインキュベーション施設「PRE‐STATION Ai」に出向いたりしながら、スタートアップと接点を探る活動を開始。そんなときに、本プログラムのことを知り、応募することにしたのです。


▲株式会社オーケーエス 代表取締役 太田裕一郎 氏

――新規事業の検討を開始するにあたり、なぜスタートアップとの共創に注目したのですか。

太田氏: 仲間内でも既存ビジネスの売上が低下している企業は、カフェやエステといったテナント経営に乗り出しています。しかし私は、本業の延長線上で新たな事業を生み出したいとの想いがありました。また、お金儲けだけではなく、社会課題の解決につながる事業に取り組みたいとも思っていました。

こうした点から、熱量を持って社会課題に向き合い、事業創出を目指しているスタートアップに共感したのです。それに、スタートアップと組み刺激を受けたほうが、自分たちのモチベーションも高まるだろうと考えました。

――実際、すでに自動車業界以外に進出した実績はあるのでしょうか。参入してみての手応えなどについてもお聞きしたいです。

太田氏: すでに取り組んでみた事例でいうと、ガスの給湯器に内蔵された部品や、道路の点検作業に用いる道具などですね。ほかにも厨房機器でもお声がけをもらっています。ただ、いずれも単発の受注で終わってしまい、次に続いていかないという課題感があります。また、自動車業界と比較して売上が立ちにくいという実感もあります。

――「新規事業創出セミナー」と「企業課題と参入事業領域の設計ワークショップ」に参加されましたが、ご感想をお聞きしたいです。

太田氏: 私自身は「Startup Weekend」や「アトツギベンチャー」といったイベントに積極的に参加してきたので、ある程度の理解はありましたが、今回のセミナーとワークショップには、当社の社員にも参加してもらいました。ですから、社員たちがスタートアップを理解するきっかけになったと感じています。今後、スタートアップと共創し、新規事業を生み出していくにあたり、社員も一緒になって考えていけるのではないかと期待しています。


――社員の皆さんも参加されたことで、これからの共創に向けて、社内の準備が整ったということですね。本プログラムに期待していることや、目指しているゴールは?

太田氏: 今回のプログラムでは、本業の延長線で新しい事業を創出したいと思っています。今までは「治具」という限られた領域でしたが、スタートアップと組んで、新しい領域にも事業を展開し、新しいお客さまを掘り起こしていきたい。加えて、基本的にはお客さまから支持される、感謝される製品を提供することを目指しています。

自動車業界にこだわるつもりはありません。自社のリソースを活用でき、誰かの喜びにつながるものを生み出せるのであれば、どの領域でもいい。まずは可能性を信じて一歩を踏み出すことが、今回のプログラムで目指すことです。

――御社からオープンイノベーションの成功事例が生まれると、岡崎市内から後に続こうとする企業も増えてきそうですね。

太田氏: そうですね。「あそこができたんだから、うちもできるだろう」という風に広がっていけばいいと思います。当社もこれまで、外に目を向けずにきましたが、従来と同じことをやっていてはダメだという危機感から今、一気に動き出しています。仕事があるうちに動きはじめるべきだと思うので、これをきっかけに岡崎でもスタートアップの認知が高まり、同じように共創に取り組む企業が増えるといいですね。そうした形でも貢献したいと思います。

【ホスト企業②】有限会社渡瀬工業――「搬送コンベア」と「洗浄機」に強み、初の外部共創で未来の事業の柱を生む

2つ目のホスト企業は、有限会社渡瀬工業だ。同社で取締役を務める渡瀬正人氏に、主な事業領域や抱えている課題感、プログラムに参加した理由や期待について伺った。

――まず、御社の事業の特徴からお聞きしたいです。

渡瀬氏: 当社は、大手自動車部品メーカーであり、親会社であるアイシンさまの生産ラインに携わっています。具体的な内容としては、生産ラインで使われる「搬送コンベア」(すし屋の回るテーブルのようなもの)と、「洗浄機」(巨大な食洗器のようなもの)を製造。いずれも専用機です。これらの設計・製造だけではなく、設置後のメンテナンスも含めて私たちが担っています。


▲渡瀬工業の洗浄機。機内に人が入るくらいのサイズ感。1サイクル(30秒)で、洗浄から乾燥まで対応する。

――なぜ、今回のプログラムに参画しようとお考えになったのでしょうか。背景にある御社の課題感についてお聞かせください。

渡瀬氏: ご存知のとおり自動車業界は今、変革期に突入しています。電気自動車へと変わっていく最中にあるのです。アイシンさまはAT(オートマチックトランスミッション:自動変速機)を製造している会社ですが、ATは電気自動車に変わることによって必要がなくなる部品。

今までだと、5年程先までプロジェクトの予定が見えていましたが、徐々に見通せなくなってきました。親会社からの仕事が減っているので、私たちとしては新たに顧客を開拓していかねばなりません。こうした考えから情報収集をはじめていたところ、このプログラムをご紹介いただきました。


▲有限会社 渡瀬工業 取締役 渡瀬正人 氏

――それで、ホスト企業に応募されたのですね。

渡瀬氏: はい。当社にとって、オープンイノベーションは初めての試み。最初は、「どんなことをするのだろう」「どう進めていくのだろう」という感覚でした。ですが、「とりあえず応募してみよう」と思ってエントリーをしたところ採択の連絡がきて、正直、びっくりしています。今でも、「どうなっていくのだろう」と思っているぐらいです(笑)

――外部の企業と共創して何らかの製品やサービスをつくる取り組みは、今回が初めてですか。

渡瀬氏: 初めてです。私たちの事業は、決められたとおりに製造するという業態。たとえば洗浄機であれば、数年毎に更新しなければならない製品なので、「次の更新時もお願いしますね」という形で継続して依頼をいただきます。当社の場合、受注の約90%がアイシンさまで、他の企業に営業に行ったこともありません。「共創で一緒に何かをつくりましょう」と、こちらから持ちかけることもないですし、逆に言われることもありませんでした。

――「新規事業創出セミナー」と「企業課題と参入事業領域の設計ワークショップ」に参加してみてのご感想はいかがですか。

渡瀬氏: 毎回、勉強になっています。新規事業を自分ひとりで考えても、分からないんですよね。自分では「この事業ならいけるだろう」と思っていても、「もっと手前のところでダメだよね」というのも、指摘されないと分からない。ワークショップに参加した際も、壇上で説明されている言葉が馴染みのないものばかりで、理解するまでに時間がかかりました。しかし、終わってからひとつひとつ調べて、「こういうことを言っていたんだな」と納得をして、それらすべてが今の私の知識・経験になっています。

――本プログラム参加による社内への影響はどうですか。

渡瀬氏: 良い影響をもたらしたいと思っています。本プログラムのホスト企業に選ばれたことは全社に共有し、社員に対しては「今後、今までとは違う変わった仕事がくるかもしれない」ということを伝えています。社員からは「何をやっているのだろう」という見方をされていますが、社長からは「世の中の流れからすると仕方がないね」という認識を持ってもらっています。


――本プログラムで実現したいことは?

渡瀬氏: 今回のプログラムを通じて、既存事業とは違う新しい取り組みをスタートさせ、将来的にはそれを、当社の新しい事業の柱にしていきたいです。具体的なテーマやゴールの設定はこれからですが、思い描いているイメージとしては、自社で困っていることは、他社でも困っている可能性があるので、そうした点にも着目しながら、何か新しい製品を生み出したいですね。

――最後に、本プログラムに対する意気込みをお聞かせください。

渡瀬氏: "ワクワク”なのか"ドキドキ”なのか、今の気持ちを表現するのは難しいのですが、外部との共創で事業を生もうとする本取り組みが、正直言って楽しいです。ですから、一緒に"ワクワク""ドキドキ”しながら、新しいものを創出しましょう。また、今年度は運よく当社がホスト企業に選ばれましたが、他の岡崎の企業でも同様の取り組みができれば、よい結果につながるかもしれません。そうした点も踏まえ、何かひとつ形にしたいと思っています。

取材後記

今回が初開催となる「おかざきものづくり OPEN INNOVATION PROGRAM」。開催の背景を聞くと、激動の最中にある自動車業界の強い危機感が伝わってきた。とはいえ、世界に冠たる日本の自動車づくりを支えてきた企業ばかりである。何らかの形でピボットできるはずだ。岡崎のものづくり企業と組んで、新たな製品やサービスを生み出したいという企業は、ぜひ応募を検討してほしい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:加藤武俊)

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