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震災を起点に自律分散型水循環システムの実現に挑むWOTA。その狙いと想いとは?

震災を起点に自律分散型水循環システムの実現に挑むWOTA。その狙いと想いとは?

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スタートアップ起業家たちの“リアル”に迫るシリーズ企画「STARTUP STORY」。――今回登場してもらうのは、水道のない場所での水利用を可能にする自律分散型水処理システムを開発・提供するWOTA株式会社の前田 瑶介氏だ。WOTAが開発したプロダクトは、電源一つで手洗いやシャワーを可能にするため、被災地など水が利用できない環境で大いに活躍している。


▲AI水処理技術によって、排水の98%以上を再利用できる「WOTA BOX」

小学校から研究を始めたという前田氏。日本は研究者あがりの起業家が少ないと言われるが、いかにしてスタートアップ経営者になったのだろうか。研究開発スタートアップのリアルと、世界のインフラを視野に入れた今後のビジョンを語ってもらった。

楽しむための研究から、大きな目的のための研究へシフトしたきっかけ

ーー研究に興味を持ったのはいつごろからでしょうか。

前田 : 小学校1年生の時に生物の研究を始めて、それから10年は生物について研究をしていました。最初はカブトムシの研究をしていたのですが、スパイダーマンの影響で小学6年生から中学生にかけては、蜘蛛の糸の強度を測る研究をしていましたね。時にはインターネットを使って、大学教授にも話を聞きながら研究を進めていました。

中学時代には、その研究で科学の賞で日本一にもなりました。高校に入学してからは、一転して食用納豆から水処理に使われる成分を採取する研究に没頭します。その成分は人工的に合成することもできるのですが、食用の納豆から採取できれば、どこでも水処理が可能になると思ったのです。

ーー当時から社会のために研究したいという思いはあったのでしょうか。

前田 : 当初はそんなに大それたミッションはなく、自分が楽しいから研究をしていましたね。しかし、高校の時に瀬戸内に浮かぶ豊島(てしま)に行ったことが、その後の人生を変える転機となりました。産業廃棄物が不法投棄により環境が破壊された豊島で、環境と経済の両立を考える合宿に参加したのです。

それまでは自分が楽しいという理由で研究をしてきたのですが、そのために一生をかけるのは違うと思うようになりました。もっと目的を持って、大きな課題を解決するための研究に人生をシフトチェンジしようと思ったのです。


ーー楽しむための研究と、大きな目的のための研究は何が違うのでしょうか。

前田 : それまで行ってきた研究は、部分最適化されていました。例えば蜘蛛の糸の研究は新しい繊維の開発に役立ちますし、納豆の研究も水処理の問題に役立ちます。ただし、大きな課題を解決していくには、もっと社会全体を俯瞰しながら、都市のあり方を変えていかなければなりません。

これは私達と他の研究開発スタートアップとの違いとも言えます。研究開発スタートアップの中には「すごい研究シーズあるから、これを使ってビジネスにしよう」と始まっている企業も少なくありません。しかし、私達は大きな課題を解決するという目的があってそのために研究を続けています。同じ研究開発スタートアップでも、この2つではファイナンスも人の集め方も、価値の発揮の仕方も大きく違います。

東日本大震災で感じた、水道インフラの「ブラックボックス」への違和感

ーー現在取り組んでいる水道インフラに課題を感じたきっかけについて教えて下さい。

前田 : 私が大学の合格発表のために上京したのが、2011年3月10日でした。翌日に東日本大震災が起こり、東京全体が断水になったのです。しかし、誰に聞いてもなぜ断水しているのか、神田川の水が飲めるかどうか、洗濯に使えるかどうかも分からない状況でした。

私が育った徳島の田舎は、水道が通っていない地域もあり、湧き水をベースにとした配水システムが整備されています。そのため、蛇口を開けば湧き水が飲めますし、万が一断水してもポンプを掃除すれば解決します。つまり、自分たちで自分たちが使う水を管理できたのです。

そのような環境で育った私にとって、自分たちが口にする水にすら何も知らず過ごしている東京の人たちに違和感を覚えました。数日口にできないだけで命に関わる水が、どこからどのように運ばれているのか分からないなんて怖いですよね。その体験から水道インフラのブラックボックス化してしまっている仕組みを解消しようという想いが芽生えました。

ーー水道業界には具体的にどのような課題あるのでしょう。

前田 : 水処理場や自治体の財政について調べてみると、今の水道事業は大きな赤字で、まったく投資回収ができていません。さらにこれから人口が減っていけば、コストを負担する人数が減るため、将来的にインフラの維持も難しくなっていきます。

加えて2030年代には、日本中の水道管を交換しなければいけないタイミングが訪れますが、それには100兆円以上の莫大なコストがかかります。人口減少が止まらない日本で、どのインフラに投資するのかは大きな選択ですし、もし水道管を交換するとなれば、そのコストをどのように捻出するのかも大きな課題です。

ーー大きな課題だと思いますが、解決策はあるのでしょうか。

前田 : 水道事業が赤字になっているのは、水道が「線のインフラ」であるため、人口密度が低い地域では採算性が悪くなるからです。人口の数や密集度、自然条件等によって都市ガスからLPガスのように線ではなく「点のインフラ」を選べた方がいいのに、そうはなっていません。そのため、、投資回収のしずらい財政構造になっているのです。


▲水道のない場所でも設置できる手洗いスタンド『WOSH』

もしも水が「点のインフラ」になり、その地域に合わせた自立分散型の水処理事業があれば話は違います。今のように最新のテクノロジーを使うかどうかは分かりませんでしたが、当時から井戸のように、それぞれの地域で水が管理できる構想は考えていました。

「災害時も水の心配がいらない」被災地向けのプロダクトに隠されたメッセージ

ーー大学ではどのようなことを学んでいたのか教えて下さい。

前田 : 大学は建築学科なので、建築と都市のデザインなどを勉強していました。ただし、周りの学生たちが意匠的なことを学んでいたのに対し、私はシステムやエンジニアリングがいかに設計や意匠を変えるのかについて強く興味を惹かれていました。例えば、ビルの中で水処理が可能になれば水道管も必要なくなるので、建物の設計自体も変わりますよね。そのような研究をしながら、大手住設メーカーのIoT型システムの開発プロジェクトなどにも参加していました。

ーーどのような経緯でWOTAでプロダクトの開発を始めたのでしょうか。

前田 : 大学院を卒業した後はすぐに、大学の先輩が創業したWOTAが水の課題に取り組んでいたので参画することにしたのです。ただし、当時のWOTAは、ものづくりの戦略が必要なタイミングでした。そして、それは時間のかかるものづくりスタートアップにとってはとても重要なことです。今のものづくりは、全ての仕様が決まらなければ、作り始めることもできません。「どんな目的で、どのように使うプロダクトを作るのか」という仕様と、「そのプロダクトによって得た技術やノウハウが、未来に具体的にどう繋がるのか」という戦略が必要なのです。

「技術的に実現可能か」「ユーザー体験として成立するのか」「マーケットが潜在的に存在するのか」この3つを検証できてはじめて、事業が成立するからです。また、事業と事業をうまく繋げていくことで水問題の解決を実現したいと考えています。そこで私は世界初の汎用性のある水処理自立制御システムの開発にチャレンジし、それをある程度開発できたことで、その後のプロダクト開発もスピーディーに進めるようになりました。

ーー被災地向けのプロダクトから開発していますが、どのような戦略によるのか教えて下さい。

前田 : 単純にお金を稼ぐだけなら、他の商品企画もあったでしょう。例えばクルーザー専用のプロダクトの企画もありました。しかし、最初に災害対策向けのプロダクトを展開したのは、戦略というよりもメッセージを届けたかったからです。

私達のプロダクトが普及すれば、「災害が起きても水に困らない」というメッセージを自治体の方々が発信することができます。人間にとって一番大事なライフラインが、災害の時に止まっていては話になりません。災害時の水の心配を取り除くことで、大きな安心を感じてもらいたいと思ったのです。

加えて、私にとってサービスの原体験が災害だったことも大きく影響していますね。


ーー災害時以外ではどのようにサービスを展開しているのですか。

前田 : 自治体と組んで被災地向けのサービスを展開できたことで、「災害時に使えるなら日常的にも使えるよね」という議論に発展していきました。今はキャンプ場など、日常における屋外での利用を普及しています。屋外で普及した後には、屋内での利用も広げていきたいと思います。

水処理業界をDXする新サービス「WOTA PLANT」

ーー先日、新サービス「WOTA PLANT」をリリースしましたね。どのようなサービスか教えて下さい。

前田 : これまで私達が開発してきた製品で培った技術やシステムを、大規模な水処理場にも活用したのが「WOTA PLANT」です。「WOTA PLANT」は、これまで人の手によって行われてきた水処理作業をDXするサービスになります。


そもそも水処理場での仕事というのは、酒蔵で美味しいお酒を作るのと同じようなものです。専門技術者の方々が、酒蔵の職人のように五感も使って水の状態を把握し、必要に応じて薬剤や制御を加えていきます。私達が開発したWOTA PLANTは、その専門技術者の仕事をセンサやAI技術によって行うためのものです。これまでは持ち運べる小さなプロダクトで作ってきましたが、その技術を何千倍もの規模の水処理場向けに使うのが今回の「WOTA PLANT」になります。

ーー「WOTA PLANT」が導入されることで、水処理業界はどのように変わっていくのでしょうか。

前田 : シンプルにいえば水処理業界がDXされるため、働き方も水処理のコスト効率も変わります。例えば現在、水処理業界が抱えている大きな課題の一つが人材不足です。後継者がいないため、これまで何十年もかけて培われてきた、それぞれの水処理場でのノウハウが継承されないという課題に直面しているのです。水処理場ごとに、水の中の微生物が違えば設計も制御の仕方も違うため、ノウハウが途絶えるのは大きな問題なのです。

「WOTA PLANT」が導入されることで、これまで属人化されてきた水処理の仕事が自動化、最適化されます。それにより、24時間施設に張り付いて水処理の状態を監視する必要がなくなりますし、様々なムダもなくなります。例えば、今は安全のために多めに使われている薬剤も、システムで最適制御されれば薬剤の量も減ってコストカットにもなるでしょう。

ーー水処理場のコストカットが行われれば、水道代が安くなることもありますか。

前田 : 地域によって財政構造が異なるので一概には言えませんが、正直、それは難しい地域もあるかと思います。日々の運用だけではなく、設備自体の維持にも大きなコストがかかっているためです。

それでも、もちろん日々の運用コストカットをできれば運営は楽になると思います。

「WOTA PLANT」は水処理業界のためのサービスなので、一般の方が直接的に感じられる恩恵はあまり大きくないかもしれません。しかし、現在の水処理の専門的技術を後世に継承し、将来的に安定した水処理を享受できる可能性を残す安心感というのは、お金に変えられない価値なのではないでしょうか。

ーーたしかに安心して水が飲める安心感は大きい価値ですね。最後に次の展開についてもお聞かせください。

前田 : 将来的には海外マーケットへの参入を計画しています。日本も潜在的には水に困っていますが、世界を見ればもっと困っている地域がたくさんあります。そのような地域にサービスを展開して、安心して水を享受してもらえればと思います。

直近、参入を考えているのはアメリカです。もともと砂漠だった地域に街を作っているので、水不足に困っている地域がたくさんありますし、シリコンバレーなど西海岸では特に問題が深刻です。早ければ来年にはアメリカにいってサービスを展開したいと思っています。

(取材・文:鈴木光平)

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