老朽化と技術者不足が深刻なインフラ維持の救世主となるか?【AI×インフラ点検】の共創事例
多くのビジネスパーソンが注目するAIビジネスですが、AIには多用に細分化された用途があります。ですから「どの領域のAI活用がアツいか?」に注目するのが正しいビジネス洞察眼と言えるでしょう。TOMORUBAの連載「Break Down AI」では、期待される【AI×○○】の実態に迫り、どのような共創が行われているかに迫ります。
今回は【AI×インフラ点検】に焦点を当てて共創事例を紹介します。インフラ点検におけるAI活用はすでに事例が多く、実用的でいてなおかつ生産性の向上に大きく貢献しているのです。なぜインフラ点検に注目が集まっているのか、そしてどのような事例があるのか、見ていきましょう。
技術者の人手不足と、インフラの老朽化
はじめに、インフラ点検が抱えている課題を整理します。私たちがインフラと呼んでいるものは、ざっくり「道路・鉄道・港湾・空港等の産業基盤や上下水道・公園・学校等の生活基盤、治山治水といった国土保全のための基盤」と定義されます。
そして、かつてインフラ整備が一気に加速したきっかけが1964年に開催された東京オリンピックでした。つまり、多くのインフラが整備されてから50年以上経過して老朽化が加速しているのです。
インフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議が2013年に公開した「インフラ長寿命化基本計画」によると、2033年までに建設後50年以上経過する道路橋の割合は約16%から約65%となり、高齢化の割合は加速度的に増加するとの調査結果が出ています。
これらのインフラの安全を確保するためには熟練の技術者による設備の点検が必要ですが、地方公共団体などには技術者が不在、もしくは不足している事が多く、インフラ点検は社会課題となっています。
そんな800兆円とも言われるインフラストックの課題を解決するためにAIが利用され始めているというのが、共創か活発に行われている背景にあるのです。
関連ページ:インフラ長寿命化基本計画
AI×インフラ点検の共創事例
ここからは、注目されるAI×インフラ点検の共創事例を紹介します。
【Fracta×日本鋳鉄管×大阪市水道局】水道管路の劣化状態を診断するAI技術の実証実験を実施
シリコンバレー発のAI/機械学習技術を駆使した水道インフラのイノベイティブ企業であるFractaは2019年12月、日本鋳鉄管と大阪市水道局と共に、Fractaが開発した水道管路の劣化状態を診断するAI技術の実証実験を実施しました。
Fractaが開発した水道管路の劣化診断するAI技術は、水道管路に関するデータと、独自に収集した1000以上の膨大な環境変数を含むデータベースを組み合わせて、各水道配管の破損確率を高精度に解析し、メンテナンスコストを最適化に貢献する期待がされています。
大阪市の水道管路に関するデータを収集・解析した結果と、川崎市上下水道局や神戸市水道局と既に取り組んでいる国内向けアルゴリズムを統合することで、アルゴリズムの有効性を向上させる事が実証実験の目的です。現在Fractaは大阪市を含めた4つの自治体と共に当該ソフトの実証実験を行っており、今後も米国だけでなく国内の水道管路における課題解決に取り組むとのことです。
関連記事:Fracta×日本鋳鉄管×大阪市水道局|水道管路の劣化状態を診断するAI技術の実証実験を開始
【Automagi×君津市】ドローンを使った橋梁点検の実証実験に参画
AIソリューション「AMY(エイミー)」を開発・提供するAutomagiは2019年11月、千葉県君津市、Dアカデミー、アイネットとの「無人航空機による橋梁点検の実証実験」に参画しました。
実証実験はドローンを活用した橋梁点検により、大幅な人的・時間的コスト削減や人手不足の課題解消、社会インフラの維持管理の実現を目的としたもの。Dアカデミーはドローン操縦者育成と点検及び撮影、アイネットはデータセンターの提供と画像の保管をそれぞれ担っており、AutomagiはAIによる画像検知の技術を提供します。
2020年3月末までに君津市の橋梁を実際に撮影し、ドローンによる撮影手法の検討と映像の解析、当該手法の導入が可能な橋梁の条件精査、映像データ保管等、一連の運用と実用性を確認・検討する予定です。実証実験後は2020年度中の本格運用を目指しているとのこと。
関連記事:AIソリューション「AMY」を開発するAutomagi、君津市とドローンを使った橋梁点検の実証実験に参画
【NTT×焼津市】「AIを用いた道路路面診断ソリューション」に関する実証実験を実施
NTT西日本 静岡支店、およびNTTフィールドテクノ 東海支店は2019年7月、静岡県焼津市にて、AIを活用した道路路面状態の診断に関する実証実験を行いました。
NTT西日本は、焼津市が掲げる「E-Government・YAIZU」の実現に向け、「ICTの利活用による地域活性化等に関する連携協定」を締結し、市民サービスの向上および地域産業の活性化に貢献するとともに、社会の抱える課題解決に向けたICTソリューション提案を行っています。
今回の道路路面診断ソリューションに関する実証実験は、「E-Government・YAIZUプロジェクト」の一環で、広範囲な道路の点検、診断にかかるコストや労力の削減、老朽化が進行する道路の適時適切な維持・修繕による予防保全型管理を目指します。
具体的には①路面性状診断のコスト低減、②AIを活用した点検業務の効率化・自動化、③地図表示を活用した直感的な損傷状況・箇所の把握、の3つをワンストップで提供することを目指しているとのこと。
関連記事:NTTグループ|静岡県焼津市で「AIを用いた道路路面診断ソリューション」に関する実証実験を開始
【ドコモ×京大】動画撮影で橋のたわみと車両重量をもとに劣化を推定する「橋梁劣化推定AI」を開発
NTTドコモと京都大学は、橋梁を走行する車両と、車両通過時に発生する橋のたわみや揺れを同時に動画で撮影し、AIで橋の劣化を推定できる「橋梁劣化推定AI」を世界で初めて開発し、2019年12月から2020年9月まで富山市の八尾大橋において、橋梁劣化をAIで推定する実証実験を行っています。
同技術は、橋梁と橋梁上を走行する車両を動画撮影し、車両の重量を推定したうえで、橋梁の複数点のたわみから橋梁が劣化しているかをAIで推定します。また、車両通行量や設置環境などそれぞれの橋梁の状況が異なるため、定期点検やモニタリングで橋梁ごとのデータを蓄積することで、AIでの劣化推定精度がより向上していくことが期待されています。
今後は、橋梁点検や劣化診断作業への有効性や検出精度の検証を進め、2022年ごろまでの同技術の実用化、そして将来的には同技術を活用した橋梁の維持管理の実現を目指すとのことです。
関連記事:NTTドコモ×京大|世界初、動画撮影で橋のたわみと車両重量をもとに劣化を推定する「橋梁劣化推定AI」を開発
【ジャパン・インフラ・ウェイマーク】インフラ点検のドローン&AI活用推進のためインフラ事業者7社と資本業務提携
ドローンを利用したインフラ点検ソリューション提供するジャパン・インフラ・ウェイマーク(JIW)は2020年4月、新たな分野でのサービスを提供していくことを目的にインフラ事業者を中心とする7社と資本業務提携しました。資本参加したのは東京電力パワーグリッド、北陸電力、大阪ガス、西部ガス、東洋エンジニアリング、NTTデータ、DRONE FUNDの7社です。
JIWはNTT西日本の100%子会社として、日本のインフラ点検に貢献すべく、ドローンやAIを活用した効率的なインフラ点検サービスを提供することを目的として、2019年4月に新設された企業です。
JIWは今後、提携した7社との連携を深めることで広範囲かつ迅速にインフラ点検を実施し、さらに点検ノウハウの蓄積やそこで獲得したデータを活用したAIの共同強化、設備の共同保全などを実現することを目指すとのこと。
関連記事:ドローンでのインフラ点検を提供するジャパン・インフラ・ウェイマーク、インフラ事業者を中心とした7社と資本業務提携へ
【編集後記】AI×インフラ点検の技術は輸出も期待
国内だけを見てもインフラストックは800兆円規模であることから、インフラ点検のポテンシャルがわかります。しかし当然、インフラが老朽化するのは日本だけではありません。日本はインフラの老朽化という課題を、多くの諸外国よりも先んじて経験したことになりますから、今回紹介した技術はいずれも海外へ輸出することも可能です。
ですから、世界でこれからニーズが発生するであろうマーケットの最新技術を日本がリードすることも夢ではないはずです。ぜひ、日本のインフラを維持するのと並行して海外進出を目指して欲しいですね。