「業界依存度の高さ」を共創で払拭し、新たな市場に進出――愛知発、自動車部品サプライヤーによる独自の加工技術を活かした新製品の共同開発を追う
1975年創業の名友産商(愛知県小牧市)は、「転造加工」(※1)を強みとし、自動車業界向けのネジなどの生産を多く手がけている。しかしながら中国市場のEVシフトによって、部品の生産中止といった急激な環境の変化が起きている。同社はそうしたリスクに対応し、新たな事業を創出するためオープンイノベーションに取り組み始めた。
その挑戦を進めるパートナー企業として、eiiconのプログラムを通じて出会ったのが、アール・ティ・エンジニアリング(愛知県豊田市、以下アール・ティ社)だ。アール・ティ社は、1950年に創業したリンナイの関連会社で、ガス給湯器などに使われる金属パイプの生産を手掛けている。
業界依存度が高い両社は、それぞれの得意技術を組み合わせることで、従来の工法とは異なるパイプを共同開発した。名友産商の「転造加工」を活用することで、強度が増した上に切削レスで環境に優しいパイプは、ガス給湯器用として月間4,000~5,000本規模の量産を実現している。さらに、電気自動車の熱マネジメント用パイプといった既存事業分野の拡張に挑むだけではなく、農業関連や半導体分野などのこれまでと異なる分野への進出に向けて一歩を踏み出している。
本記事では、名友産商のトップ、南竜市氏にインタビューを実施。共創の背景やプログラムを通じて得られた成果について詳しく聞いた。
※1)転造加工……素材に強い力を加えて盛り上げて成形する金属加工方法。材料を削らないため切屑が出ず、組織が緻密になって強度が増す。
売上の約85%を占める「自動車一本足打法」から、事業ポートフォリオの多角化へ
――まずは、御社の事業と技術についてお聞かせください。
南氏 : 1975年創業の弊社は機械部品を扱う商社から始まっており、私が25歳で入社した当時は売上の8割が商社事業によるもので、製造から得ている売上は2割程度でした。私が社長業を引き継いでから、徐々に自動車業界向けのネジ生産などの製造業へとシフトさせていきました。
しかしながら近年は、大きな市場の変化を感じています。というのも、中国向けの部品加工を多く手がけていたのですが、中国では早い段階から電気自動車に切り替わる流れがあり、今まで納品していた部品が突然、生産中止になるようなことも起こり始めていたのです。
弊社の取引先も影響を受けている側で、「うちも、この仕事がなくなるんだよね」という状況でしたので、交渉することも難しく、次の手に進むしかありませんでした。
▲株式会社名友産商 代表取締役 南竜市 氏
――御社は2023年度の愛知県のオープンイノベーションプログラム(※2)に参加されました。このプログラムでオープンイノベーションに挑戦してみようと考えた理由は?
南氏 : 先ほどお話しした背景から自動車産業以外での新たな売上の創出は喫緊の課題でした。弊社は売上の85%程度が自動車関連ですから、現状の自動車一本足打法のリスクも避ける意味でも、オープンイノベーションに挑戦したいと考えたのです。
一方で、弊社が拠点を構える愛知県小牧市は自動車産業が中心です。どこか他社と組もうとしても、どうしても自動車関連から離れることは難しいのが実情です。このような制約がある中で、eiiconが運営する愛知県のオープンイノベーションプログラム(※2)を通じてアール・ティさんと出会い、共創に至りました。
従来工法から転換、名友産商が得意とする「転造加工」でガス器具パイプを製造
――今回の共創では、まずガス給湯器用のパイプの共同開発に取り組んでいます。そのパイプには、御社の「転造加工」技術が用いられていると伺いました。この技術の特徴や強みはどういった点にあるのでしょうか。
南氏 : 自動車サプライヤーとして当社が得意としている技術なのですが、この転造加工が他の分野で展開できるのではと考えました。転造加工というのは、専用の機械で力を加えて金属を変形させる方法です。切削加工のように素材を削りませんし、圧縮させるので強度が増し、表面も美しく精密な仕上がりになることが特徴です。
切削加工と比べて加工時間が短いため、加工のコストを抑えられる点が大きな強みとなっています。また、切削を行わないため金属の破片や金属くずも発生しません。環境にも優しい工法だといえます。
▲名友産商の加工機による「転造加工」技術を用いて生み出された自動車部品。
――パートナー企業であるアール・ティ・エンジニアリング社はどのような技術・製品をお持ちの企業なのでしょうか。
南氏 : アール・ティさんはリンナイさんの100%子会社として、ガス器具のパイプ加工を手がけておられます。先方も新しい取り組みを探しておられ、「ひとつの業界に特化している」という課題感が私たちと近いといえます。
また、弊社は愛知県小牧市にあり、アール・ティさんは愛知県豊田市の企業です。地理的に近く行き来しやすいこともあって、「一緒にやろう」とすぐに話がまとまりました。アール・ティさんはパイプの曲げや溶接といったパイプの加工技術が得意で、弊社は「転造加工」という強度のある技術を持っています。
そこで、まずは弊社の転造加工の技術をガス給湯器用パイプの加工に活かそうという方向性が固まりました。
結果として、従来の工法とは異なる転造加工を用いることで、強度が増し、切削レスで環境に優しいパイプを完成させました。
▲南氏が手にしているのが、アール・ティ・エンジニアリング社との共創で生まれたパイプだ。
月間生産量は約5,000本に到達、熱マネジメント分野での新商品企画も進行中
――アール・ティ社との取り組みで始まった事業の現状はいかがでしょうか。
南氏 : 2025年4月から量産を開始しており、1週間で1,200本程度、月換算で4,000~5,000本のパイプを生産中です。取り組みの初年度ですが、年間売上では600万円程度を見込める規模に育っています。次のステップとして、アール・ティさんとは、熱マネジメントの課題解決に取り組もうとしています。
――熱マネジメントに関する取り組みの進捗はいかがでしょうか。
南氏 : 実際に電気自動車の熱マネジメントに使用するパイプを試作し、愛知県主催の展示会(※3)にアール・ティ社と共同出展したところ、想定を大きく上回る反響がありました。Tier1(一次請け)企業など複数社から「自社の展示会でも紹介してほしい」という要望が寄せられるなど、次の展開へとつながる成果を得ています。
――今回のような外部との事業開発の中で、組織の巻き込みはどのように行ったのですか。
南氏 : 今回のプログラムは入社4年目の若手社員が担当したのですが、新しい機械を使って色々と悩みながら、加工方法を確立してくれました。この経験は、その若手社員の大きな成長の機会になったと思います。
アール・ティさん側の担当者も入社数年目の20代の方で、新しい取り組みだったことから社内でも高く評価され、社長賞を受賞されたと聞いています。両社で若手が活躍する場をつくることができ、こうした経験は今後の新しい挑戦や技術開発にもつながると期待しています。
また、本事業は社外との連携も進めており、現在も4~5社と共同開発を進めるほか、名古屋工業大学さんとは放熱効果に関する共同研究にも取り組んでいます。
――今後、御社としてはどのような事業展開を描いておられるのですか。
南氏 : 冒頭にもお伝えしたとおり、現在の売上の約85%は自動車関連に偏っていますから、事業ポートフォリオを分散させていくことを目標としています。参入領域としては、今回の住宅関連以外では、農業関連や半導体関連など、いくつかの異なる分野で取引を開始しているところです。
弊社が大きなテーマとして掲げているのは「環境」です。先ほどの熱マネジメントの話もまさに環境とつながる取り組みですが、私たちの転造技術は加工時間を短縮でき、省エネにつながるという特徴があります。ゴミも出さないので環境負荷の低減にも貢献できるでしょう。
もちろん、弊社は自動車分野、アール・ティさんはガス分野と、それぞれ異なる領域に強みを持っているため、お互いの強みを活かし、さらに共同で事業を推進していきたいと思います。今回取り組んだ熱マネジメントの技術は、エコキュートや住宅用蓄電池といった製品にも使える可能性があり、共創をきっかけに新しい市場にも参入していければと思っています。
1つの業種に依存すると、その業種に何かが起こった際にその波を受けてしまうリスクが高いため、事業の多角化を図るために、今後も積極的にオープンイノベーションを活用していきたいと考えています。
※2)『愛知自動車サプライヤー BUSINESS CREATION』……愛知県内の自動車サプライヤー企業が新規事業の創出を目指す、愛知県主催のオープンイノベーションプログラム。
※3)愛知県主催の『新パートナー/新事業創生展示会』
取材後記
オープンイノベーションプログラムへの参加により、名友産商は自動車業界以外の分野にも進出し、新しい事業を生み出すことに成功した。転造加工を応用したガス器具用パイプは月間約4,000~5,000本を量産しており、熱マネジメント用途のパイプについても展示会で好評を博している。業界の異なるプレイヤーと手を組むことで、事業領域を着実に拡大していることがうかがえる。こうした成果は、オープンイノベーションが新規事業創出の有力な手段であることを示しているだろう。
(編集:眞田幸剛、文:林綾、撮影:齊木恵太)