産業機械、健康経営、精密加工、食――独自の強みを持つ山梨県内4社がオープンイノベーションに挑む『CINOVA YAMANASHI MATCHING』始動!各社に聞く共創事業のイメージとは
山梨県は、県内企業の新規事業創出や競争力強化を目的に、県内企業と全国のスタートアップ等によるオープンイノベーション促進に積極的だ。多様なプレイヤーが集う土壌を育み、山梨発の価値創造を力強く牽引している。
その一環として展開するのが『CINOVA YAMANASHI MATCHING』だ。2023年度から2025年度まで3期にわたり実施した『STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM』という名称に加え、その内容もアップデート。
4期目を迎える今年度はより多くの企業が挑戦できるよう、共創による新規事業創出を目指す「共創促進コース」に加え、連携アイデアを持つ企業・スタートアップがスピーディに事業化を進める支援を行う「スタートアップ連携コース」を設置。大幅なパワーアップを果たして始動した。
本記事では、『CINOVA YAMANASHI MATCHING』を推進する山梨県への取材に加え、「共創促進コース」に参加する県内ホスト企業4社(キトー/KG・Oneホールディングス/山陽精工/勝栄(中村農場))にインタビューを実施――。山梨県には4期目を迎える本プログラムの意義やビジョンを、ホスト企業各社には参画の背景や抱える課題、全国のパートナー候補と共に目指す共創の展望を語ってもらった。
【山梨県】 新拠点「CINOVA」を旗印に、間口を広げた「2コース制」へ進化
▲山梨県 産業政策部 スタートアップ・経営支援課 スタートアップ支援担当 主査 吉田健二氏
――今年度で4期目を迎える『CINOVA YAMANASHI MATCHING』ですが、これまでの総括とそれを踏まえた今年度の狙いを教えてください。
吉田氏:このプログラムは今年度で4年目を迎えますが、それ以前から山梨県ではオープンイノベーションを掲げ、県内産業とのマッチングには継続して取り組んできました。個別には素晴らしいプロジェクトが立ち上がり、成果も生まれています。一方、オープンイノベーションの機運醸成や県内企業が自発的に手を挙げてくださる環境づくりは、数年で完成するものではありません。そこで今年度は、裾野拡大や自発的な動きを促進する目的で、より間口を広げ、誰もが共創への一歩を踏み出せるプログラムへと進化させました。
――本年度はプログラム名が『CINOVA YAMANASHI MATCHING』へと刷新されました。2025年に開設された拠点名を盛り込んだ背景や狙いはどこにあるのでしょうか。
吉田氏:新拠点「CINOVA」(知の場=チノバ)は、県内企業と県外のスタートアップが出会い、新たな事業やサービスを生み出して共に成長し、それが山梨の産業活性化へとつながる――そうしたことを念頭に運営しています。今回の事業は、「CINOVA」で展開する取り組みの中でもまさに中核を担うもの。そのため、この拠点名をプログラムの名称に冠しました。将来的には、「山梨のオープンイノベーション」と「CINOVA」という場所のイメージが結びつき、県内企業への理解や浸透が進むことを願っています。
▲イベントスペース、カフェ、配信ブース、シェアキッチン、ものづくりスペース、個室オフィスなど、多様な用途に応じた環境を整備している『CINOVA YAMANASHI』。(※関連記事)
――内容面では、従来の「共創促進コース」に加え、新たに「スタートアップ連携コース」が新設されています。この2コース制へと拡充した背景は?
吉田氏:従来の「共創促進コース」は、オープンイノベーションへの意欲を持ち、これからアイデアや課題解決の形を具体化していこうとする県内企業の中から4社を採択しています。一方で「スタートアップ連携コース」は、まだ具体的な解決策が見えていない、何から手をつけてよいか分からないといった県内企業に向けたものです。まずはライトな取り組みとして、気軽に参加していただきたいと考え、新たに設けています。
――今年度はサポート体制の強化として、補助金の支援も用意されているそうですね。
吉田氏:上限100万円の補助金制度を新設しました。これまでのオープンイノベーションプログラムは単年度事業として実施していたため、翌年度以降の活動に対する支援がどうしても限られ、アイデアや事業骨子が固まったとしても、2年目以降は県の支援枠組みが狭まってしまうことが課題でした。
共創事業失速の原因はもちろん資金だけではないものの、補助金という資金面での支援があることで、次のステップへ事業を進めやすくなるはずです。そうした考えから、今年度の事業に組み込んでいます。
――支援体制が拡充された今年度の取り組みを起点に、どのようなイノベーションの土壌を育んでいこうとされているのでしょうか。今後の展望をお聞かせください。
吉田氏:2025年11月に「CINOVA」がオープンし、すでに人が集まるコミュニティが育っています。多様なイベントや活動が日々行われているので、このコミュニティと本プログラムを連動させることで、ここでの熱気や活動をより多くの人たちに届け、「自分たちも挑戦してみたい」と思ってもらえる環境を整えていきたいです。
また、オープンイノベーションプログラム以外にも、山梨県ではアクセラレーションプログラムや産学連携、大学発スタートアップの誘致など多様な事業を展開しています。これらに関わるプレイヤーの皆さまにもコミュニティに参加してもらい、互いの事業の進捗や成果を共有しながら「CINOVA」を盛り上げていきたいと思っています。
――プログラム参加企業に向けてメッセージをお願いします。
吉田氏:県内企業の皆さまには、目の前の課題解決にとどまらず、より広い視野を持って新しいアイデアや価値創出に果敢に挑戦していただきたいです。一方、スタートアップの皆さまには、山梨のフィールドに深く入り込んでほしいと思います。県としても、スピード感を持って県内マーケットへの接続をサポートしていく考えです。そして、本プログラムを契機に長く山梨に関わり、パートナー企業との関係にとどまらず県内に幅広いネットワークを築いて、事業を成長させてほしいですね。
【キトー】 「つり上げ・運ぶ」コア技術×先端テックで、現場の点検DXと作業省力化ソリューションを共同開発する」
▲株式会社キトー 技術開発本部 知財管理部 知財管理グループ 小菅幸介 氏
――まずは、御社の事業概要と強みについてお聞かせください。
小菅氏:当社はマテリアルハンドリング(荷役・運搬機械)の領域で、主に工場内で使われる天井クレーンなどを手がけています。電気で稼働する電動製品から手動のマニュアルチェーンブロックまで、重量物を持ち上げて運ぶための多彩な製品群が私たちの強みです。
――所属されている技術開発本部 知財管理部は、どのようなミッションで活動されているのでしょうか。
小菅氏:知財管理というと特許や商標、知的財産権の管理を想起されがちですが、当社の知財管理部では、社内にある技術資産なども広く扱っています。それらを守るだけではなく、最大限にプラスへ活かしていくような活動も行っています。
大柴氏:少し補足すると、新製品を開発して差別化した技術を特許で守っても、その価値がお客様に正しく伝わっていなければ自己満足の特許に終わりかねません。製品の開発背景を理解している知財だからこそ、そのストーリーを社会課題の解決と照らし合わせて発信すべきだと考えました。
その価値訴求の一環として、知財主導で挑んだのが2025年度のグッドデザイン賞への応募です。製品の思想が評価されて受賞も果たしました。このように、技術価値の保護から市場へのアピールまでを確認していく役割があります。
▲株式会社キトー 技術開発本部 知財管理部 部長 大柴岳人 氏
――本プログラムには、どういった課題感から参画を決定されたのでしょうか。
小菅氏:大きく2つの課題感とテーマがあります。1つ目は、昨年発売しグッドデザイン賞も受賞した「電気チェーンブロックコードレスEM」の事業拡大です。汎用バッテリーで稼働するため、電源がない現場でもボタン一つで重量物を持ち上げられます。現状は既存製品販売先市場での利用が中心ですが、現場の潜在的なニーズをパートナー企業と発掘し、新たな領域へと展開していきたいと考えています。
2つ目は、天井クレーンにおける点検作業の課題解決です。クレーンは定期的な法定点検が義務づけられていますが、高さ6メートルほどの高所にあることが多いため、高所作業車で点検を行う必要があります。現状、担い手の高齢化や人手不足の中で大きな負担となっています。そこで、地上から安全かつ手軽に点検できるソリューションを共創することで、お客様がより安心して使える社会を実現したいと思っています。
▲バッテリー駆動と無線操作式の採用により、完全コードレス化を実現した「電気チェーンブロックコードレスEM」。
――どういった企業との共創を検討されていますか。
小菅氏:1つ目のコードレスEMの事業拡大に関しては、建設・土木、メンテナンスや一次産業の現場での作業省力化について研究されている企業と組みたいと考えています。ほかにも、災害支援の現場と深く関わっている企業と連携ができれば、より具体的な活用の形をご提案できるようになると考えています。特に、電源のない屋外の現場で、今も人手に頼って重量物を運んでいるシーンをご存じの方とぜひご一緒したいですね。
大柴氏:2つ目の点検作業に関しては、点検項目の省力化を検討していましたが、上に登らないと確認できない箇所もあります。そこで、高所に登らずとも低コストで点検者が簡単にクレーンの状態を把握できる、新たなアイデアや技術をお持ちの方とぜひお話ししてみたいです。
――共創にあたって、提供できるリソースを教えてください。
小菅氏:当社が長年培ってきた吊り上げに関する深い知見や、試作品を検証できる設備を提供できます。また、実際にデモンストレーションを行える検査場もありますので、実証実験のフィールドとしても活用いただけるでしょう。
さらに、関連する各種法令知識も豊富ですし、コードレスEMの実機にも触れていただけます。許容される範囲内にはなりますが、当社の顧客へのヒアリングや現場訪問といった機会も前向きに調整したい考えです。
――応募企業に向けて一言メッセージをお願いします。
小菅氏:当社は長年「重いものを持ち上げる」ことを専門にしてきましたが、世の中には依然として重量物の持ち上げに苦しむ現場が数多く残されています。そのような課題に届くソリューションを共に開発し、誰もが平等に働ける社会を実現したいと考えています。
大柴氏:テクノロジーが高度に進化している今でも、現場で困っている人は大勢いらっしゃいます。現場の負担を減らし、社会の課題を一緒に解決しましょう。
【KG・Oneホールディングス】 「歩けば歩くほどおいしい未来へ。『健康経営×農業』で地域を元気に」
▲株式会社KG・Oneホールディングス 健康経営アドバイザー/スタートコーチ(野球)
事業企画運営統括 取締役 中澤麻里 氏
――最初に、御社の事業概要と中澤さんの役割について教えてください。
中澤氏:当社は2025年に創業し、「食と健康を通じて人と企業、そして地域をつなぐこと」を目指しています。建設コンサルタント事業を展開する株式会社グラウンドコンサルタントを軸としたグループ全体の経営を見据え、新たな事業づくりを進めています。今回は、当社を事業主体として、健康経営と農業を軸に新規事業を立ち上げていく方針です。
私はKG・Oneホールディングスで事業の企画・運営を担い、グループ会社では総務と経理を担当しつつ、約3年前から健康経営の推進も兼務しています。社員が長くいきいきと健康に働ける環境づくりを進めてきた経験を、今後の事業に生かしていきたいです。
――「健康経営」に着目されたきっかけは何だったのですか。
中澤氏:保険会社の担当者の名刺にあった「健康経営優良法人」のロゴに興味を持ったことが発端です。お尋ねしたところ、グループ会社の24時間ジムの法人契約やインフルエンザ予防接種費用補助などが認定項目に当てはまると教えていただきました。担当の方々のサポートもあり、グラウンドコンサルタントは健康経営優良法人の認定を取得し、今年度は「ブライト500」にも認定されました。
――そうした中、本プログラムに手を挙げられた理由は?
中澤氏:グループ会社で健康経営を担う中、食事や運動を意識するきっかけと、それを続けられる環境の大切さを実感しました。当グループでは全社員へ活動量計を配布し、歩数などの可視化に加えて、ウォーキングイベントを実施、楽しんで参加できるよう工夫してきました。活動量計を身につけることで、車で行っていた場所へ歩いて行く、仕事帰りにジムへ寄るなど社員の意識が大きく変わりました。
中には10kg以上の減量に成功した人や脂肪肝が改善した社員もいますし、歩数ランキングをきっかけに会話が弾むといった変化も生まれています。今回は、こうした取り組みを自社グループにとどめず、地域の中小企業にも広げたいと考えてこのプログラムに参画しました。
▲中澤氏が手にしているのが、全社員に配布されている活動量計。歩数や消費カロリーの可視化に加え、歩数に応じたポイント付与で自発的な運動を促す。現在は株式会社タニタヘルスリンクの「ヘルスプラネット」を活用中。
――共創で実現したい事業構想についてもお伺いできますか。
中澤氏:1つ目は、歩くことや農業体験、ポイント、地域の農産物を結びつけて、楽しみながら健康づくりを続けられる仕組みをつくりたいです。例えば、歩数や農業体験への参加に応じてポイントがたまり、お米や野菜と交換できる仕組みを考えています。農作物を育てる体験や食への関心も取り入れ、社員だけでなくご家族にも喜んでいただける取組にしたいです。その仕組みを支える手段として、アプリなどのデジタル技術の活用も検討しています。歩くことで画面上の農作物が育つといったアイデアも含め、既存の仕組みの活用や連携も視野に、参加しやすく運営を続けられる方法を共創パートナーと考えていきたいです。
2つ目は、中小企業への健康経営サポートです。私自身は社員の変化を間近で見られる喜びに支えられてきましたが、当グループのように50名規模の中小企業では、健康経営担当者の負担が重くなりがちです。そこで、自社での実践経験を活かし、同じ悩みを持つ担当者に寄り添う支援も事業化したいと考えています。
まずはグループ会社で試行し、社員の声を聞きながら改善し、地域の中小企業へ展開していくことを考えています。
――「農業」にフォーカスされた理由は?
中澤氏:当グループの役員が所有する遊休農地があり、そこで実際にお米作りを始めています。そうした背景もあり、自社で手掛ける農業と社員の健康管理を結びつけ、地域にも還元できる新たな事業へと発展させられないかと考えたのが理由です。
――御社と協業するメリットについてもお伺いしたいです。
中澤氏:まず、グループ会社の約50名の社員が働く現場で、これまでの健康経営の実践経験を生かしながら、施策を検証できることです。新たな実証については社内の実施体制を整え、参加者の声を聞きながら、参加しやすさや継続しやすさ、運営上の負担などを確かめていきたいと考えています。
もうひとつは、中小企業に寄り添ったサポートができること。私自身、ゼロから健康経営を推進してきた中で、日々の業務と並行して施策を企画・運営する難しさや、社員への伝え方など、現場で感じてきた課題があります。その経験を生かして、企業ごとの実情を丁寧に伺い、無理なく続けられる施策をパートナーと一緒に設計・提案できればと思っています。
――最後に、応募企業に向けて一言メッセージをお願いします。
中澤氏:健康づくりは大切だと分かっていても、なかなか始められないものです。「やってみようかな」と思えるきっかけを届け、社員が長くいきいきと楽しく働けるよう、歩くことや農業体験、食の楽しみとデジタル技術を結びつけた仕組みをつくりたいです。農業体験の企画や健康経営の運営支援、成果の見える化に強みを持つ企業の皆さまと、ぜひつながりたいです。現場で試し、参加者の声を聞きながら、働く皆さまとご家族、地域の方々が元気で笑顔になれる事業を、一緒に育てたいです。
【山陽精工】 「難加工・多品種少量の現場から、AIによる切削加工の新常識をつくる」
【左】山陽精工株式会社 常務取締役 総務部 部長 平井正人 氏
【右】山陽精工株式会社 成長戦略推進室 室長 小泉利明 氏
――まず、御社のこれまでの歩みと技術の進化について教えてください。
小泉氏:当社は1963年、顕微鏡の鏡筒の切削加工からスタートしました。技術向上に伴い、複雑な形状加工からレンズ組み込みなどのユニット製作、精密組み立てへと領域を拡大。その中で「自社製品を持つメーカーになりたい」という強い想いが芽生え、試作を重ねてはんだの状態を見る「高温観察装置」を開発しました。現在はこの装置を国内のみならず世界へ販売しています。
――受託加工から自社製品を持つメーカーへと進化されたのですね。現在の事業展開はいかがでしょうか。
小泉氏:次なる柱として挑戦しているのが医療機器分野です。現社長が「病気で仕事を辞める人をなくす装置を作ってほしい」と相談されたことをきっかけに、医療分野へ踏み出した経緯があります。現在は、原点である「モノづくり事業」、高温観察装置を展開する「SMT事業」、そして「医療機器事業」の3つの分野を柱に事業を展開しています。
――本プログラムへの参画を決めた理由や直面している課題をお伺いしたいです。
小泉氏:このプログラムを通じて解決したい課題の一つは生産性向上。昨今、注目されているDXや生成AIを取り入れながら、生産性向上を図っていきたいと思っていますが、自社だけでは実現が難しいところもあります。そこで、DXやAIといった先端領域に知見を持つスタートアップと、オープンイノベーションを通じて一緒に取り組んでいきたいです。
平井氏:私たち山陽精工グループは、現在の産業機器、医療機器の分野にとどまるつもりはありません。「100億宣言」(売上高100億円達成)を掲げ、新たに制御系の設計会社をグループに迎えるなど事業拡大を続けています。その成長の要となるのが生産性の引き上げです。日本の中小企業はまだまだ生産効率に課題を抱えているため、まずは私たちが先頭を切って進めていきたい。その実践の場として、今回のプログラムへの参画を決めました。
――今回、「難加工・多品種少量の現場から、AIによる切削加工の新常識をつくる」という募集テーマを設定されました。具体的に、どのような共創をイメージされていますか。
小泉氏:生成AIを活用して、生産や工程管理を可視化していきたいと考えています。加工は基本的に、材料と機械のバランスで成り立っており、図面を見れば材料も加工内容もある程度把握できます。ですが、そうした管理を現在はExcelで手入力しているのが実情で、担当者に業務が集中していることも課題だと捉えています。
そこでAIを活用し、ガントチャートで見える化したり、高精度な予測まで立てられるようなシステムを開発したいと思っています。
さらに、この工程管理に営業情報を連携させ、見積もりまで瞬時で出せると理想的です。また、図面から3Dデータを読み込んで、CAMの加工プログラムまで自動で作れるようになれば大きな力になります。見積もりからプログラム作成までを一気通貫でつなげるようなシステムを開発できれば、非常に便利になるでしょう。将来的には完成したシステムを、当社の取引先をはじめとした外部企業に提案し、事業化するような流れも描いています。
――それに向けて、どのようなパートナーと共創に取り組みたいですか。
小泉氏:『難しいからできない』で終わらせず、粘り強く一緒に汗をかいてくださるパートナーと取り組みたいです。今回の取り組みは、実際に現場に入ってモノを見て、職人の声を聞くプロセスが欠かせません。現場の意見をしっかり受け止め、一緒に良いものをつくり上げたいという強い意志を持った企業と組めたら嬉しいです。
――共創にあたって、御社が提供可能なリソースはありますか。
小泉氏:実証の場としての加工工場に加えて、プロセスを組み立てていく上での人的な協力も惜しみません。また、図面や工程表、加工ノウハウをまとめた書類など、社内に蓄積されたドキュメントも提供可能です。ノウハウの詰まったドキュメントと協力する人が揃った状態で、しっかりと実証に取り組んでいただける環境を整えています。
――最後に、応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。
小泉氏:私たちは「これって絶対に必要なものだよね」という強い想いを持って取り組むので、パートナーの皆さまにもぜひ、自社の成長や次のビジネスに直結する挑戦だと捉えて本気で取り組んでほしいです。当社は、完成したものを将来的に外部へ販売していくところまで見据えています。同じ熱量で共に歩んでいただける企業の応募をお待ちしています。
平井氏:スタートアップの皆さまにも、創業時の思想やポリシーがあるはずです。私たちにも「中小企業をもっと強くしたい」「モノづくりで人の幸せに貢献したい」という強い信念があります。こうした想いに共感し、中小企業や人々の幸せのために共に進んでくださる方と組みたいですね。短期的な利益ばかりを追い求めるのではなく、挑戦の先にリターンがついてくる。そんな姿勢で一緒に取り組めたらと思います。
【勝栄(中村農場)】 「こだわり養鶏の資源循環と食育ブランディングで高付加価値な完全循環型食モデルを構築する」
▲株式会社勝栄 専務取締役 中村有紀子 氏
――テレビなどでも取り上げられる機会が多い「中村農場」を運営している御社ですが、まず最初に改めて事業内容と特徴について教えてください。
中村氏:当社は、地鶏の肉や卵の生産を手がける企業です。養鶏からはじめ、食鳥処理、加工、販売、さらには飲食店運営に至るまで、すべて自社で一貫して行っていることが特徴です。また、約3年前からは鶏糞を堆肥化して畑へ還元し、有機野菜などを栽培する循環モデルの実践にも挑戦しています。
――鶏糞堆肥と有機野菜の循環に取り組もうと考えたきっかけは?
中村氏:ここ数年、鳥インフルエンザの問題や飼料の高騰など養鶏業を取り巻く社会情勢は大きく変化しました。そうした中で利益を上げ続けるには、無駄なく、すべてのものを利用することが重要なキーワードになると考えたのです。飼育羽数が増えるにつれて鶏糞の処理が課題になっていたため、堆肥化して畑へ還して有機野菜を育てる――自然に優しい形で循環をつくり出すことが会社のあるべき姿だと捉え、この取り組みを始めました。
――本プログラム『CINOVA YAMANASHI MATCHING!!』に応募された理由や直面している課題も教えてください。
中村氏:時代が大きく変わっていく中で、これまでのように私たち夫婦(※代表の中村努氏と有紀子氏)だけで新しいことに挑戦し続けるには限界があり、外部の視点や新しい発想が必要だと感じていました。折しも今、実は息子たちが事業に加わり、世代交代の時期を迎えています。息子たちが同世代の若い人たちと共創することで、将来につながる新たな流れをつくれるのではないかと思ったことが、このプログラムに参加した理由です。
――今回、共創テーマに「こだわり養鶏の資源循環と食育ブランディングで高付加価値な完全循環型食モデルを構築する」を掲げておられます。具体的に、どのようなことに取り組んでいきたいとお考えですか。
中村氏:まず、自社利用にとどまっている鶏糞堆肥を、いかに農業分野へ広げて事業化していくかという点に挑戦したいです。こだわり抜いた飼料で育てた鶏から出る糞なので、成分的にも他の鶏糞とは明確な違いがあるはず。加えて当社では、食鳥処理で出る内臓も一緒に堆肥化しています。腸内環境を重視して育てている鶏ですから、その内臓にいる菌たちが堆肥に与える良い影響があるのではないかと考えています。
――飲食や販売面のアップデートにも取り組んでいかれると聞いています。今回、取材でお伺いしているこの場所(中村農場運営のククーカフェ)を共創の場に活用されていくイメージでしょうか。
中村氏:はい。飲食に関しては、これからのカフェは飲食するだけの場ではなく、コミュニティとしての役割が強くなると感じています。そこで、パートナーの知恵も借りながら、新しい取り組みを展開していきたいです。例えば、食育の場にしたり、ドッグランを設けてペットと来店できるようにしたりです。
販売に関しては、自社で生産したものにどう付加価値をつけて販売するかを重視しています。付加価値をつける手段として、外部との共創による商品開発にも取り組んでいきたいですし、中村農場の世界観がきちんと伝わるような売り方・ブランディングにも、一緒に取り組めたら嬉しいです。
――養鶏のDXにも興味をお持ちだと聞きました。
中村氏:はい。現状、養鶏の技術やノウハウはほぼ代表(中村努氏)の頭の中に蓄積されている状態です。世代交代を見据えて、思考回路や判断基準を可視化していきたいと考えています。昨今の人手不足で外国人スタッフも増える中、日常の飼育管理を誰もが一定水準で回せるよう、業務の標準化や仕組み化を進めたいところです。
――共創にあたって、提供できるリソースや御社と取り組むメリットを教えてください。
中村氏:すぐに試せる実証の場が一番のメリットでしょう。生産から加工、販売まで自社で行っているため、お客様の反応まで見届けることができます。多くのお客様に注目していただいているお店なので、結果の良し悪しはすぐに確認することが可能です。また、当社は10年以上の投資と試行錯誤を経て、鶏肉も卵も独自のオリジナルブランドを確立してきました。こうした高品質なブランドを持つことも、共創に活かせる強みになるのではないでしょうか。
――最後に、応募企業に向けて一言メッセージをお願いします。
中村氏:私たちはモノづくりを徹底して追求してきた自負があります。まずは美味しいものをつくり、お客様に喜んでいただく。その結果として利益がついてくる――この価値観に共感していただける方となら、素晴らしい取り組みができると思っています。探求心にあふれた会社ですから、挑戦を面白がりながら一緒に走ってくださる方とご一緒したいですね。
取材後記
4期目を迎え、さらに進化を遂げた『CINOVA YAMANASHI MATCHING』。顔ぶれを新たにしたホスト企業からは、モノづくりのほか、農業や健康経営といった多様な切り口の共創テーマが提示された。各社が持つ実際の現場を、実証の場として活用できる恩恵は計り知れない。山梨県へのビジネス進出を狙う企業はもちろん、地域の強みを掛け合わせて新たな事業展開を加速させたい企業にとっても、大きな飛躍につながる機会になるだろう。
(編集:眞田幸剛、文:林綾、撮影:加藤武俊)