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グローバル企業を輩出してきた浜松市が、独自技術を持つ地元企業5社と共創に挑む。『はままつオープンイノベーションプログラム』始動!

グローバル企業を輩出してきた浜松市が、独自技術を持つ地元企業5社と共創に挑む。『はままつオープンイノベーションプログラム』始動!

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グローバル企業を輩出してきた浜松市が、独自技術を持つ地元企業5社と共創に挑む。『はままつオープンイノベーションプログラム』始動!

自動車やオートバイ、楽器などの製造業が発展し、グローバル企業も数多く生み出してきた浜松市。同市は世界的な企業を再び輩出するまちとなるため、エコシステムの構築を目指している。その活動の一環として開催される『はままつオープンイノベーションプログラム』は、浜松市内の事業者と全国のスタートアップを結びつけ、共創による新規事業開発に臨むものだ。

今年度のプログラムでは、浜松市内のものづくり企業5社がホストとなり、共創で取り組みたいテーマを提示。全国からパートナー企業を募り、浜松市の支援も受けながら共創の実現を目指すこととなった。ホスト企業に選ばれたのは、スマートキャスター、生産ライン、建築用フィルム、圧縮ばね、エアクリーナーといった技術を持つ企業だ。

TOMORUBAでは『はままつオープンイノベーションプログラム』開始に際し、主催者である浜松市役所の担当者にプログラム開催の意義を聞くとともに、ホスト企業5社の代表者に自社の強みや本プログラムを通じて実現したいことを伺った。

【浜松市役所】 浜松市を再び、グローバル企業の誕生するまちへ

▲浜松市役所 産業部 スタートアップ推進課 課長 米村仁志 氏 

――まず、浜松市がスタートアップ支援に取り組む理由からお聞かせください。

米村氏: 浜松市はものづくりが盛んなまちとして発展してきました。これまでスズキやホンダ、ヤマハ、カワイなどグローバル企業が浜松市で誕生し、活躍してきましたが、再びグローバル企業を輩出するようなまちを目指したいと考え、スタートアップ支援を開始しました。

――現在、浜松市が抱えている産業面の課題や、浜松市役所として解決したい問題は?

米村氏: 実は、浜松市の製造品出荷額のうち約4割が、車とオートバイで占められています。これらの業界は、2030年半ばまでに全販売車を電動車に移行するという変革が迫っています。この変化に対応しないままでいると、浜松市の産業は危機的な状況に陥るでしょう。ですから、この変化に対応していくことが、市の抱えている大きな課題です。

そうしたなかで、私たちが取り組んでいるのは、既存産業をアップデートする手段のひとつとして、スタートアップを活用すること。スタートアップを地域の活力として、既存産業との融合を通じ、新たな時代に対応した新産業を創出したいと思っています。こうした想いに基づき、スタートアップが集まるエコシステムを、浜松市に構築していこうとしています。

――2016年には、外部スタートアップの誘致や地域内スタートアップの育成によりスタートアップを集積させ、ものづくり産業とのオープンイノベーションによりイノベーション創出を目指す「浜松バレー構想」を提唱されました。どのようなきっかけで生まれた構想なのですか。

米村氏: きっかけは、視察で行ったシリコンバレーで強く触発されたことと、浜松発のスタートアップであるリンクウィズ社の代表が、経産省の「始動 Next Innovator」という起業家育成プログラムに選抜され、シリコンバレーへと派遣されたこと。これら2つの出来事が同じ時期に重なり、「浜松バレー構想」の提唱につながりました。リンクウィズ社は今、浜松を代表する企業として、既存ものづくり産業とのオープンイノベーションにも積極的に取り組んでおられます。

――今回、新たに『はままつオープンイノベーションプログラム』をスタートされることとなりました。本事業の狙いをお聞かせください。

米村氏: 本事業の狙いは、この地域にスタートアップ・エコシステムを形成することです。そのためには当然、新しいスタートアップの育成が重要ですが、それに関しては別の施策を行っています。スタートアップの育成と並んで大切なことが、地域の既存産業とスタートアップを結びつけ、両者を発展させること。『はままつオープンイノベーションプログラム』は、後者の中心となる施策です。

――スタートアップ育成という観点では、どのような事業を行われているのですか。

米村氏: 浜松市の未来を担う高校生や大学生を対象に、スタートアップや起業に興味を持ってもらう取り組みを開始しました。大学生の起業後のサポートや、高校生の地域課題解決に向けた活動の後押しを行っています。また、2019年度より始めた「浜松市ファンドサポート事業」では、スタートアップの資金調達支援も実施しています。浜松市がベンチャーキャピタル(VC)を認定し、認定VCが市内スタートアップに投資した場合、その額に応じて市も交付金を支給するという、他の自治体にはない珍しい取り組みを行っています。

――今年度の『はままつオープンイノベーションプログラム』のゴールや、次年度以降の構想・ビジョンについてお伺いしたいです。また、応募企業に向けてメッセージをお願いします。

米村氏: 今年度のプログラムを通じて、地域のものづくり企業とスタートアップが連携するきっかけを生み出したいと考えています。連携後の事業化についても、「実証実験サポート事業」といった他の支援施策も紹介しながら支援していく方針です。スタートアップ支援施策全体の長期的な構想としては、浜松市内でスタートアップが育って成長をし、成長したスタートアップが次の新しいスタートアップを応援するような循環を築いていきたいと考えています。

最後に応募スタートアップに向けたメッセージとなりますが、本プログラムでホスト企業となる5社の経営者の方々は、スタートアップと協力をして新しい事業を創出したいという強い熱意をお持ちです。いずれも高度な技術を持つものづくり企業ばかりですから、共創することで得られるものは大きいでしょう。ぜひ積極的にご応募ください。

――続いて『はままつオープンイノベーションプログラム』のホスト企業5社(ジェネシス、イハラ製作所、デコラテックジャパン、沢根スプリング、ヤマト製作所)へのインタビュー内容を紹介する。

【ジェネシス】 国際特許出願中の“スマートキャスター”を使って新製品開発と販路拡大を

▲株式会社ジェネシス 代表取締役 古田義久 氏

――まず、御社の事業領域をお聞かせください。

古田氏: もともとばねの製造を起源とし、現在は金属全般の加工を展開するユーテックという会社を経営しています。その会社で1994年からCCDカメラも手がけるようになりましたが、ユーテックと事業内容が異なることから1996年に、新たにジェネシスという会社を設立しました。

ジェネシスでは、カメラ事業は下火になったことから閉じましたが、現在でもお客さまの困りごとの解決に向けて、さまざまな新製品の開発・販売を行っています。ジェネシスは「創世記」という意味合いですが、それに見合うような事業を展開していこうと考えています。

――本プログラムでテーマとなる“スマートキャスター”の開発背景は?

古田氏: カメラ事業を閉じた後、次に開発・注力したのがフィルム巻きの不要な物流箱です。これはユーテックの部品を納品する際、パレットの上に箱を積み重ねて、それらをストレッチフィルムでひとつにまとめ運んでいたものを、より便利にするために開発しました。

その物流箱を展示会に出展したところ、ある大手企業担当者の目についたのです。それをきっかけに、その企業の物流に関する困りごとをお伺いするようになりました。直近でもっとも困っていらっしゃることが、カゴ台車を使って高価な商品を運ぶ際の台車転倒による商品破損リスクだということから、スマートキャスターを開発するに至りました。

――“スマートキャスター”は、どのような特長を持った製品なのでしょうか。

古田氏: 一般的なカゴ台車だと後輪が旋回自在になっていて、それを止めるために足で踏むフットストッパーがついていますが、ロックが面倒だったり、掛け忘れでの事故が有ります。4輪全旋回自在の場合だとわずかな坂で制御不能となりますし、トラック等では最悪落下してしまうことも。台車を動かすには必ず手を使いますから、足ではなく手動レバー操作で、確実に制御できるようにしました。

すでに手で操作するキャスターは他社が販売していましたが、当社では小指1本で操作できるレベルまでレバーを軽量化した点や、走行中でもレバーを離すと車輪がロック。逆にレバーを握るとロックが解除され動かせる。更に坂停止状態でレバーを握っても、坂下へ発進しないという仕様です。この仕組みは現状、世界中で当社しかありませんから、国際特許を出願中で、日本・アメリカ・ヨーロッパ・東南アジアの国々で認められる見込みです。

※スマートキャスターの紹介動画:https://youtu.be/XmUSRzeF7cI?feature=shared

――どのようなパートナー企業と共創を手がけたいですか。

古田氏: このスマートキャスターを医療や福祉関連の製品に応用し、利用者の安心・安全に役立てたいと考えています。スマートキャスターの他にも、樹脂や金属など様々な素材の曲げ加工の多数の経験から、素材特性を活かした特殊な加工技術を持っているのも弊社の強みです。この技術をいかして新たな領域に共にチャレンジするパートナー企業と出会えることを期待しています。

▲スマートキャスター(旋回自在型)。レバーが付いており、解放状態で車輪がロック。レバーを握ると、車輪のロックが解除し、走行が可能となる。走行中でもレバーから手が離れると車輪がロックされるため、暴走することがない。

――応募企業に向けてメッセージをお願いします。

古田氏: 冒頭で申しあげたように当社はお客さまの困りごとの解決を目指している企業ですから、「こんな製品があったらいいのに」という考えはあるものの、アイデアが出てこない場合は、ぜひご連絡ください。たくさんのご応募をお待ちしています。

【イハラ製作所】 自動車業界で育んだ生産ライン設計・製作ノウハウを応用

▲株式会社イハラ製作所 常務取締役 渭原哲 氏

――御社の事業領域からお伺いしたいです。

渭原氏: 弊社の主な事業は2つです。1つが、自動車(2輪・4輪)の部品を設計・開発し、量産までを行う部品事業。もう1つが、主に自動車部品の生産ラインを設計・製作する機械事業です。

1961年に創業しましたが、もともとのルーツは機械事業で、汎用旋盤の設計・製造が会社の起源となっています。その後、機械製作から部品製作へと展開。さらに1990年代から2000年代にかけては、タイ・インドネシア・ベトナムなどの3カ国へと進出し、事業を拡大してきました。部品事業に関していうと、切削加工から始まり製品組立を開始し、さらに鋳造・鍛造などの上流工程へも参入しています。

――本プログラムを通じて解決を図りたい御社の課題は?

渭原氏: 今回のプログラムでは、2事業のうち機械事業での共創を検討しています。弊社の機械事業のお客様は、自動車産業が中心です。自動車産業は中期的に見ると、EV化が進む中で自動車の部品点数が大きく減少することが予測されています。

さらに長期的にとらえると、自動運転やモビリティサービス、ライドシェアの普及によって自動車台数そのものも減少し、弊社で設計・製作する生産ラインの需要も減少することも予想されます。その状況下において既存のお客様に対するQCD向上に取り組むことが第一である点に変わりはありません。加えて、他業界での自社技術の活用・伸長も検討していくことも必要と考えています。その過程の中で、獲得することができた技術を自動車業界に還元し、お客様に新たな提案が出来るようになることも目指しています。

▲生産設備を供給するイハラ製作所。ロボット・専用装置により自動の製品脱着・搬送・製品検査が可能だ。

――機械事業での新領域開拓とのことですが、御社の機械事業の特徴や強みをお聞かせください。

渭原氏: 創業から60年間の間で培ってきた、メカ設計・制御設計・製造技術などが弊社の強みです。基本的にはお客様からいただく仕様書に沿って設計・製作を行っていますが、弊社従業員のなかには、お客様のニーズをヒアリングする中で自ら仕様書を作成し、生産ラインを立ち上げられるメンバーもいます。そうした技術・ノウハウを有している点は、弊社の強みのひとつだと思います。また、自社で製作した生産設備を自分たちの生産ラインで使用しているため、「使い手」側の視点を設計時に織り込むことができる点も強みととらえています。

共創を推進するにあたっては、私自身が旗振り役となる予定ですが、技術面での知見が必要な場面においては、技術者も交えて議論する体制を検討しています。

――他社との共創で何かを生み出した実績があればお聞かせください。

渭原氏: 当社の主力部品であるオイルポンプ・ウォーターポンプに関してはお客様及び構成部品のメーカー様と共に新規の製品を立ち上げる共創を行ってきました。生産性や品質向上の観点で、スタートアップのデジタル技術を導入したこともあります。

最近だと「Hamamatsu Design Vision」というプロジェクトのなかで、地元のデザイナーと一緒に一般消費者向けの商品づくりに取り組んでいます。このプロジェクトに参画した理由としては、自社のアルミの鋳造・切削技術が既存事業外でどのように活用できるのか、その事例を生み出したいと考えたからです。

――本プログラムでは、どのようなゴールを目指したいとお考えですか。

渭原氏: 今年度中の最終的なゴールの1つは、他業界のニーズやノウハウ、自社技術との結びつきなどを検討したうえで、機械事業を食品や医療、航空分野など新たな参入領域を特定すること。ですから、このゴールに向けて伴走してくださるパートナーを求めています。

また、既存事業である自動車産業用の生産ラインにデジタル技術を掛け合わせた、新たな設備開発にも取り組みたいと考えています。自社の強みとしている設計力とこれから出会うパートナー企業のソリューションを掛け合わせて自動車産業に対しても新たな価値を提供していく。その2つの軸で様々な企業との出会いに期待しています。

【デコラテックジャパン】 現場調査にかける時間を短縮し、職人不足への対策を図る

▲デコラテックジャパン株式会社 代表取締役 平野裕明 氏

――御社ではどのような事業を展開されているのでしょうか。

平野氏: 業界分類では建設業と製造業に属しています。当社が取り扱う製品は、建設業界では「フィルム」と呼ばれるもので、一般的な表現だと「シール」。粘着性のあるシートに印刷やカット加工を行い、窓や壁などに貼付して装飾を施す事業を展開しています。たとえば、窓にすりガラス風のフィルムを貼って目隠しをしたり、内廊下に木目調のフィルムを貼って高級感を演出したりと、身近にあるものを扱っている会社です。

――競合優位性はどのような点にありますか。

平野氏: ガラスフィルムや木目調シート、印刷だけを単体で手がける会社は数多く存在しますが、それらすべてを手がけている会社は少なく、一貫して対応できる点が私たちの強みです。また、本社である浜松のほか、東京・名古屋・大阪に拠点を持っているため、東京から大阪までを網羅的に対応できる点も当社ならではだと言えるでしょう。

▲デコラテックジャパンが手がけた施工例。デザインから印刷、加工技術、施工(工事)まで一貫して対応している。

――本プログラムに参加を決めた理由や共創で解決したい課題は?

平野氏: 業界全体の大きな課題は人手不足です。現状、40代・50代が主な担い手となっており、若手の流入は少ないので平均年齢は上昇し続けています。今だとマンパワーで解決しているものも、今後は人手不足により解決できなくなる可能性がある。それが最も大きな問題だと感じています。

たとえば、ゼネコンのもとで多様な専門会社・専門職種が仕事を行いますが、ゼネコンからもらう図面を各社が1枚ずつ確認をして自社の仕事範囲を抽出、概算見積書を作成します。この作業には膨大な時間がかかりますし、抽出範囲を間違えると見積額も違ってしまう。こうした作業をマンパワーではなく、デジタルで解決できないかと考えたことが、本プログラムに興味を持ったきっかけでした。

――人手不足が最大の課題とのことですが、本プログラムでは御社のなかのどのような課題を解決したいですか。共創イメージについてお聞かせください。

平野氏: 共創で実現したいことを一言でいうと、現場調査の簡略化。現状では職人が現場に出向いて現場のサイズを計測していますが、職人の専門はフィルムの施工ですから、本来の業務に時間を充てられるようにしたいのです。

そのためには、現場で行う計測の簡略化が欠かせません。施工先には長い廊下の壁などもありますが、そうした場所でも撮影するだけで計測できたり、設計図上のどの箇所にどのサイズのシートが必要なのかを表示できたりと、そんなイメージです。現場調査を簡略化できれば、職人ではなくアルバイトにお願いできるかもしれません。従来だと1日1現場しかできなかったところを3現場、4現場と増やすことができれば、データを基に工場でスムーズに製造が可能で、施工までの期間短縮にもなります。

――どのような技術を持つ企業となら実現できそうですか。

平野氏: カメラを通じた画像診断・画像処理に長けた企業となら実現できるのではないかと思っています。一面だけの壁の計測であれば対応できるアプリもあります。ただ当社の場合、長さ100mにも及ぶ廊下も計測の対象に含まれますし、1mm単位で計測を行いたい。そうした点での難しさはありますが、解決できるアイデア・技術をお持ちであれば、ぜひご応募ください。

――応募企業に向けてメッセージをお願いします。

平野氏: 私は現在38歳ですが、60歳まで会社経営を続けたとしても、この先20年はあります。会社をもっと繁栄させたいですし、世の中にワクワクする仕事を残していきたいと思っています。この想いに共感してくれる方と一緒に仕事をしたいですね。

【沢根スプリングス】 圧縮ばねの伸びやすさ(ばね定数)を、触覚で伝導する新装置を開発

▲沢根スプリング株式会社 代表取締役社長 沢根巨樹 氏

――御社の事業領域をお聞かせください。

沢根氏: 弊社はばねの製造・販売を展開しており、最近では医療用コイルの生産・販売にも進出しています。「世界最速工場」をミッションに掲げる弊社では、少量多品種の注文を受けつけ、短納期でお客さまに納品するビジネスモデルが得意です。1985年に業界に先駆けて、ばねのカタログ販売をはじめましたし、カタログ販売を主要事業とする関連会社も持っています。1993年には中国の国有自動車会社と合弁会社を設立して中国へと進出しましたが、これもばね業界では最速でした。

また、2021年8月には「NORAHOLIC」というキャンプギアブランドをリリース。キャンプ好きの社員が自ら手を挙げてはじめたブランドで、もともと製造をメインで手がけてきた2名が担当をしています。当社では実績の少ない一般消費者向けの商品なので、新たな取引先との接点も増えていますし、SNSなども開設してフォロワー数の伸ばし方なども調べながら進めてくれているため、会社としても新たな領域を勉強できています。

――本プログラムでは、御社のどのような課題を解決したいですか?共創イメージについてもお聞かせください。

沢根氏: 圧縮ばねを選ぶ際、皆さん非常に迷われます。カタログを見て、自分のほしい寸法を確認してご購入いただくのですが、同じ寸法でも「ばね定数(※)」という性能を示す数値の異なるばねが数多くあるのです。どのばねが自分のニーズに合致するのか、数字上だけで判断することが難しいので、複数の種類のばねを購入して試してみるというお客さまが多いです。感覚的に理解しておられるお客さまだと、サンプルを触ってみて「このぐらいの力なら使えそうだ」と判断して購入される方もいらっしゃいます。

※ばね定数:ばねを1mm動かすときに必要な力。単位はニュートン/ミリメートル(N/mm)。

私が実現したいのは、このばね定数をばねの実物がなくても感覚的に分かる仕組み。たとえば、ばね定数が計算されたパソコンから電気信号のようなものを小さなデバイスに送り、お客さまにばねの感触を伝えられるような製品の開発を目指しています。これが実現できれば、圧縮ばねを選びやすくなるはずです。弊社はこれまで、ばねの製造を57年間続けてきた会社ですが、ばねだけではなくばねを購入されるお客さまが、より便利になるようなものも提供したいと考え、今回の共創テーマを設定しました。

▲沢根スプリングの強みの一つは、特注品への対応力。特注ばねの用途は機械・輸送機器・ロボット・航空宇宙・医療・電気機器・建築など、特殊材料を使用したばねやばねを利用した製品づくりまで、多様な事例と実績がある。

――ばね定数の数値を触覚で伝える小さな装置の開発とのことですが、その装置の想定ターゲットは?

沢根氏: この装置があれば、ばねの購入頻度が高い設計士さんなどには、便利に感じてもらえると思っています。また、ばねメーカーに向けて提案することもできるでしょう。世界へと販売することも可能だと思っています。私はアメリカのばねメーカーに研修で行ったことがありますし、中国の合弁会社でも約6年間勤務しましたが、ばね定数を遠隔で実感できるものは見たことがありません。

――共創に活用できる御社のリソースや、求めているパートナー像についてお聞かせください。

沢根氏: ばねに関する専門知識は、弊社から提供できます。たとえば、ばね定数を計算するソフトや計算式、ばねの具体的な仕様などです。また、現状どのようなカタログで販売しているのかも、必要に応じて提供することができます。このアイデアを形にしてもらえる企業であれば、どんな企業でも歓迎します。奮ってご応募ください。

【ヤマト製作所】 オートバイ搭載の“エアクリーナー”製造技術を活かし、新たな事業領域に進出

【左】株式会社ヤマト製作所 代表取締役副社長 小木丈生氏

【右】株式会社ヤマト製作所 営業技術部 営業技術課 課長 池谷佳之氏

――まず、御社の事業領域をお聞かせください。

小木氏: 主力製品はオートバイに搭載されたエアクリーナーという部品で、オートバイメーカーに提供しています。エアクリーナーとは、エンジンに必要な空気を取り込む際、埃などの不純物を除去し、清浄な空気だけをエンジンに送る装置のこと。

主要な技術は2つあり、1点目はフィルター技術で、濾紙や不織布、ウレタンフォームなどの材料からフィルターを製造しています。2点目は、プラスチック樹脂の成形・加工・溶着・組立技術です。最近は新たな分野への進出も模索しており、すでにプラスチック製の新しい医療機器を製品化。特許も出願中で、順調に進めば年内には権利化できる見込みです。加えて、海外にも子会社を設立し、同様の事業を展開しています。

――オートバイ市場の現状や御社の抱えておられる課題についてもお伺いしたいです。

小木氏: オートバイ市場とエアクリーナー市場にわけてご説明すると、オートバイ市場に関しては、コロナ禍で密にならないレジャーとして人気が高まりました。ただ、今後については需要が減っていくのではないかと考えています。

一方、エアクリーナー市場に関しては、内燃機関の周辺部品であることから、EV化が進むとともに需要は減少することが予想されます。この先5年程度は現在の経営が維持できると思いますが、10年先は予測が難しい状況。ですから、いくつかのシナリオを想定し、もっとも厳しいシナリオとして需要がなくなることも視野に入れながら、新たな事業の柱を打ち立てようとしています。

▲ヤマト製作所の主力製品であるエアクリーナー。

――エアクリーナーで磨いた技術力を活かし、どのような新領域に進出を図ろうとされていますか。

小木氏: まだ絞り込めていませんが、いくつかの可能性を検討しています。1つ目は、先ほど申しあげた医療機器分野。近いところで介護分野にも注目しています。また、昨今は人手不足が深刻ですから、ロボット分野にも興味を持っており、実際にロボット関連のスタートアップに出資をしています。

既存顧客はオートバイメーカーなので、広くモビリティ分野も考えており、EV化に伴って必要となる新たな部品なども検討中です。さらには、農業用トラクターやプラスチックの軽量性を活かした航空機の部品などにも関心があります。

――共創の実現に向けて、御社から提供できるリソースやアセットは?

池谷氏: プラスチック製品の設計・試作から成形・加工・溶着・組立まで一貫した生産プロセスを提供できます。とくに当社の特徴ある技術は溶着です。溶着はエアクリーナーのプラスチックケースに用いている技術で、ケースの上下2つを水や砂が入らないように気密性を保った状態で接合したり、複雑な形状の製品を製造したりすることができます。この技術は他社ではあまり見られません。

――どのようなパートナー企業にエントリーしてほしいですか。

小木氏: 医療や介護業界への参入を検討しているというお話をしましたが、私たちは現場にどのようなニーズや課題があるのか、十分な知識を持っているわけではありません。もちろん私自身、病院に行くこともありますし、親の介護も経験しましたが、限られた知見でしかないと思っています。ですから、現場で働いている方々の情報をお持ちの企業と出会いたいですし、より現場感を持って議論をしていきたいです。

また、新しい事業に挑戦するので、柔軟な発想や迅速な行動力を持ち、弊社と十分なコミュニケーションを取りながら進めていける方々と一緒に取り組みたいと思います。

取材後記

自動車製造業の盛んな愛知県に隣接し、ものづくり産業が発展してきた浜松市。「やってみよう」という意味の「やらまいか」精神が息づく浜松市からは、世界的に評価の高い数多くの製品や製品を支える技術が誕生してきた。本プログラムでホスト企業となる5社は、高品質なものづくりを支えてきた当事者たちだ。5社の強みと掛けあわせ、新たな事業創出に挑む本プログラムは、応募企業にとっても躍進のきっかけとなるだろう。興味のある方は、ぜひ応募を検討していただきたい。(10/2応募締切)

(編集・取材:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:加藤武俊)