【OI SUMMIT 2026】AI時代に問われる「共創の価値」――BIPROGY齊藤氏・元オムロンベンチャーズ小澤氏・慶應義塾大学琴坂氏が議論
株式会社eiiconが主催する、オープンイノベーションの最前線を発信するイベント「OI SUMMIT 2026」。さまざまなテーマのセッションを通じて、日本の産業やイノベーションの現在地と、これから進むべき方向について議論が交わされた。
「AI時代のオープンイノベーション ― 人間が考え、AIと共に創る社会へ」と題したセッションには、BIPROGY株式会社 代表取締役社長CEOの齊藤昇氏と、元オムロンベンチャーズ株式会社 代表取締役社長で、現在は国内外で新規事業開発に携わる小澤尚志氏が登壇。慶應義塾大学総合政策学部教授の琴坂将広氏がモデレーターを務めた。
生成AIの急速な進化によって、企業の新規事業開発やオープンイノベーションのあり方も変わりつつある。事業アイデアの創出や市場調査、協業先の探索などをAIが支援する一方、人間にはどのような役割が求められるのか。また、誰もがAIを活用できる時代に、企業が社外の多様な人材や組織と共創する意義はどこにあるのだろうか。
本セッションでは、AIがもたらす可能性と限界を踏まえながら、新規事業における意思決定や現場での発見、他者との信頼関係の重要性について議論が交わされた。3氏の議論を通じて、AI時代のオープンイノベーションにおける人間の役割を探る。
【登壇者】(左→右)
・小澤 尚志 氏(元オムロンベンチャーズ株式会社 代表取締役社長/エバーイノベーションスマートアグリ(上海)有限公司 執行役員/合同会社Bride to i 代表)
・齊藤 昇 氏(BIPROGY株式会社 代表取締役社長CEO)
・琴坂 将広 氏(慶應義塾大学総合政策学部教授/オックスフォード大学サィードビジネススクール アソシエイトフェロー/株式会社メルカリ・ユーグレナ株式会社・SREホールディングス株式会社 社外取締役)
AIは新規事業開発をどう変えるのか――加速する構想と、人間に残る意思決定
生成AIの進化によって、新規事業開発のプロセスはどこまで変わるのか。セッションではまず、AIに任せられることと、人間が担うべきことの境界線について議論が交わされた。
長年にわたり新規事業開発に携わってきた小澤氏は、現在、自身の経験やノウハウをAIに取り込み、事業アイデアの創出に活用しているという。事業開発で重視してきたポイントをプロンプトなどの形で言語化し、AIに与えることで、新規事業の可能性を検討している。
小澤氏は、AIが提示する事業アイデアについて「初期案としてはいい線を出してくる」と評価する。かつて自身が数カ月かけて検討した案よりも、AIが短時間で提示する案の方が優れていると感じることもあるという。
一方、アイデアを実際の事業へと育てるには、多くの課題が残る。小澤氏は事業開発を山登りに例え、AIによって「一合目、二合目」までは短時間で到達できるようになったものの、その先の検証や事業化には、人間による判断や行動が不可欠だと説明した。
AIは既存の情報をもとに、一見すると説得力のある事業案を提示できる。しかし、実現可能性や顧客に提供できる価値を掘り下げると、見落としている要素が浮かび上がることもある。AIを「思考の加速装置」として活用しつつ、その答えに疑問を持ち、可能性を見極めることが重要になる。
さらに問われるのが、最終的な意思決定だ。AIによって多くの事業アイデアを生み出せても、その中から何を選び、どこに経営資源を投じるのかは、人間が判断しなければならない。
BIPROGYの齊藤氏も、経営資源を投じる判断は人間が責任を持って行うべきだと強調した。企業が持つ人材や資金、資産をどこに振り向けるかは、合理的な選択肢の比較だけでは決められない。事業の将来性や社会に提供したい価値を踏まえ、経営者自身が決断する必要がある。
齊藤氏は、経営者がコンサルタントや専門家の助言を意思決定の根拠とすることに触れ、今後は「AIがそう言ったから」という理由で判断するケースが生まれる可能性にも懸念を示した。
AIによって事業開発の初期段階は大幅に効率化される一方、何を実現したいのかを考え、最終的な決断を引き受けることの重要性は変わらない。
AI時代だからこそ問われる共創の価値――多様な視点と人間同士の関係性
AIによって事業アイデアの創出や検討が効率化されるのであれば、企業は自社だけで新規事業を生み出せるようになるのだろうか。齊藤氏は、AIが普及する時代だからこそ、多様な人々が集まることの重要性を指摘した。
誰もがAIを活用し、同じ社会課題に対して解決策を求めれば、導き出されるアイデアも似通ったものになる可能性がある。だからこそ、異なる経験や生活環境、価値観を持つ人々が、それぞれの視点を持ち寄ることに意味があるという。
例えば、企業がアイデアソンなどを通じて生み出す初期アイデアは、必ずしも完成度の高いものばかりではない。しかし、その後に多様な人材が関わり、議論や検証を重ねることで、事業の種が磨かれていく。
齊藤氏は、自社の社員だけで新規事業を検討すると、社内で培われた経験や知識の範囲に発想がとどまりやすいと指摘する。他社やスタートアップ、さまざまな団体と連携し、異なる視点を取り入れることが、新しい価値の創出につながるという。
一方、AIの進化によって、オープンイノベーションの進め方そのものも変わっていく可能性がある。
小澤氏は、自社に不足している技術や経営資源を分析し、適切な協業先を探す「ソーシング」の工程について、AIによる大幅な効率化が期待できると説明した。ただし、協業先が見つかったからといって、すぐに新しい事業が生まれるわけではない。
実際の共創では、双方の担当者や経営者が対話を重ね、それぞれの強みや課題を理解しながら、信頼関係を築いていく必要がある。小澤氏は、協業先を探す時間が短縮される一方、その後の関係構築や事業推進では、むしろ人間の力が試されるようになるとの見方を示した。
齊藤氏も、企業間の連携やスタートアップへの投資において、相手の意欲や情熱が重要になると語る。事業構想の合理性だけでなく、相手がどれほど本気で取り組もうとしているのか、自分たちも一緒に挑戦したいと思えるのか。そうした感情や信頼関係が、共創を前に進める力になるという。
さらに琴坂氏は、オープンイノベーションには、まだ答えが定まっていない未来に向けてビジョンを示し、関係者の共感を集める役割があると指摘した。
新しい事業や社会の仕組みを生み出す際には、十分な実績や根拠がそろっているとは限らない。それでも「社会をこう変えていきたい」という構想を示し、企業や人々に参加を呼びかけ、ともに実現を目指していく。こうした営みは、既存の情報をもとに推論するAIだけでは担いきれない、人間ならではの役割だという。
誰もがAIを活用できる時代だからこそ、多様な視点を持ち寄り、共通のビジョンのもとで協力するオープンイノベーションの価値が、より一層問われることになる。
AIと共に新しい価値を生み出すには――現場の発見と「正しい違和感」
AIによって一定水準の事業アイデアを誰もが生み出せるようになるとすれば、そこからさらに優れたアイデアを生み出すためには、何が必要になるのだろうか。
議論の後半、琴坂氏はAIの活用と創造性に関する複数の研究を紹介した。AIの活用が生産性の向上につながる可能性が示される一方、生成されるアイデアが似通い、創造性の多様性が失われることへの懸念もあるという。
また、AIの助言をそのまま受け入れるのではなく、自分自身の考え方や経験を踏まえて活用することの重要性についても説明した。
この問いに対して小澤氏が挙げたのが、「現場でしか得られない情報」の重要性だ。AIは与えられた情報をもとに事業案を提示できるが、実際の現場で何が起きているのか、そこにどのような課題や意図があるのかまでは、十分に把握できない場合がある。
だからこそ、人間が現場に足を運び、実際に起きていることを観察し、そこで得られた情報をAIに与えることで、事業アイデアの精度や解像度を高めていく。小澤氏は、こうした取り組みが、同じAIを活用していても成果に差を生み出すポイントになると語った。
さらに小澤氏は、一見すると関係のない情報や出来事が結び付くことで、新しいアイデアが生まれることがあると説明した。日頃から関心のあるテーマや解決したい課題を意識し、さまざまな人との対話や日常の出来事からヒントを得ることが重要になるという。
一方、AIは人間の創造性を支援するだけでなく、企業のオープンイノベーションを進めるうえでの組織的な課題を解決する手段にもなり得る。
小澤氏は、大企業には安定した生産能力や顧客基盤、販売力などの強みがある一方、新規事業を進める際には意思決定の遅さや社内調整などが課題になりやすいと指摘した。また、既存事業と新規事業では、求められるスキルや考え方にも違いがあるという。
こうした課題を踏まえ、小澤氏は、大企業が自社の目指す将来像に共感できる起業家やスタートアップに事業創出の場を提供し、互いの強みを生かしながら新しい事業を生み出す形を提案した。
齊藤氏は、M&Aも一つの方法になり得るとしながら、買収したスタートアップを既存組織に取り込むことで、起業家の持つ強みや独自性が失われてしまうリスクにも言及した。
こうした課題に対して、琴坂氏はAIを活用することで、大企業とスタートアップの協業における構造的な問題を改善できないかと問いかけた。
これを受けて齊藤氏は、AIを単なる業務効率化の道具ではなく、「社員の一人」のような存在として活用する可能性に言及した。
小澤氏はさらに、大企業の新規事業部門などは経営方針の変更によって縮小・廃止されることがあり、蓄積した知見が継承されにくいという問題も指摘。こうした知見をAIが蓄積し、適切な助言につなげられれば、継続的な事業創出を支える可能性がある。
セッションの最後、齊藤氏は参加者に向けて、AI時代だからこそ「自分を磨く」ことの重要性を呼びかけた。自分が自信を持てる領域や、他者とは異なる考え方を持つことが、個人の価値を高めることにつながるという。BIPROGYグループでも、社員一人ひとりが自らの志や「マイパーパス」を持つことを重視していると紹介した。
一方、小澤氏が強調したのは、日常の中で「健全な不満」や課題意識を持ち続けることだ。身の回りで感じる不便さや違和感が、解決すべき社会課題や新しい事業のアイデアにつながっていく。そして、AIが提示する答えに対しても、無批判に受け入れるのではなく、「正しい違和感」を持ち続けることが重要だと語った。
AIを活用すること自体を目的とするのではなく、人間が主体性を持ち、AIと共に新しい可能性を切り拓いていくことが、これからのオープンイノベーションには求められている。
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▼本セッションの模様は以下より動画でもご覧いただくことができます。
取材後記
生成AIの進化によって、新規事業のアイデア創出や協業先の探索など、オープンイノベーションを取り巻く環境は大きく変わりつつある。一方で、今回の議論から見えてきたのは、AIが進化するほど、人間が果たすべき役割もまた明確になっていくということだ。
現場に足を運び、課題を発見し、異なる価値観を持つ人々と対話を重ねながら、未来のビジョンを描く。そして、AIが提示する答えを鵜呑みにせず、自らの意思で判断し、行動する。こうした営みこそが、新たな価値を生み出す原動力になるのだろう。
AIに何を任せるかだけでなく、人間が何を考え、何を実現したいのか。AI時代のオープンイノベーションでは、その問いがますます重要になりそうだ。
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(文:TOMORUBA編集部、撮影:加藤武俊)