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15の共創実績から「次なるステージ」へ――埼玉県発・「渋沢MIXオープンイノベーションプログラム『Canvas』」が2年目に仕掛けるオープンイノベーションの真価

15の共創実績から「次なるステージ」へ――埼玉県発・「渋沢MIXオープンイノベーションプログラム『Canvas』」が2年目に仕掛けるオープンイノベーションの真価

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埼玉県は2025年7月、明治期の資本主義勃興を支えた実業家・渋沢栄一の名を冠したイノベーション創出拠点「渋沢MIX」を開設。さらに同施設が掲げるコンセプトの一つである「オープンイノベーションの創出・促進」の実現に向けて「渋沢MIXオープンイノベーションプログラム『Canvas』」を実施してきた。埼玉県内外の企業が業種の壁を越えて連携し、新たなビジネスの共創を目指した同プログラムでは、取り組み初年度にもかかわらず15件もの共創プロジェクトが誕生した。

引き続き、埼玉県は2026年度の『Canvas』を始動。プログラムの形態を改め、1社単独でのエントリーが可能な「オープンマッチングプログラム」、さらにはプロジェクト単位でのエントリーが対象となる「インキュベーションプログラム」を設定しており、参加企業は共創による新たな価値の創造に挑戦している。

TOMORUBAでは、今年度の『Canvas』の本格始動に伴い、プログラムの運営をリードする埼玉県 イノベーション創造課 渋沢MIX担当の幡野氏、成澤氏、儘田氏への取材を実施。昨年度のプログラム成果の振り返り、それらを踏まえて2年目の取り組みの特徴、埼玉県で事業や共創を行う魅力・メリット、各種アセットの活かし方、今年度の「オープンマッチングプログラム」採択企業の特徴などについて詳しくお聞きした。

量の拡大から質の向上へと軸足を移し、より具体的な成果の創出を目指す

――2年目の『Canvas』が始動しましたが、プログラム初年となった昨年度の取り組みの成果について、現状ではどのように受け止められていますか?

儘田氏 : 「様々な企業が自由な発想で絵を描く舞台」という『Canvas』のプログラム名称に込めた想いが実現する形で15件もの共創プロジェクトが誕生するなど、私たちが想像していた以上に豊かな共創の芽が生まれました。

すでに事業化に向けた動きも進んでおり、具体的な成果も現れ始めています。一例を挙げると、COEDOビールで知られる県内の株式会社協同商事様と、愛知県の企業である株式会社ビオック様の共創プロジェクトでは、従来の製麦工程に頼らず大麦と麹菌を組み合わせて糖化を行う新たなアプローチでクラフトビールの開発を進めており、8月にはクラウドファンディングもスタートしました。両社の取り組みはプログラムを通じた共創によって新たな価値が生まれた好事例の一つだと考えています。

加えてイノベーション創出拠点「渋沢MIX」も開設から1年が経過し、現在では1000者を超える会員の皆様にご利用いただいています。多様な企業や人材が集う場としての認知が着実に広がっていると考えており、埼玉県内に共創を生み出す土壌が育ちつつあると実感しています。

▲儘田沙友里氏(埼玉県 産業労働部 イノベーション創造課 渋沢MIX担当 主任)

2017年埼玉県庁入庁。税務、栄典関連の部門・業務を経験後、2023年4月より現職。

――このような昨年度の成果を踏まえ、2年目の『Canvas』で取り組みたいことを教えてください。

成澤氏 : 「渋沢MIX」は2年目を迎え、量の拡大から質の向上へと徐々に軸足を移していくことで、より具体的な成果の創出につなげていきたいと考えています。そのため『Canvas』では、共創をさらに深めるため、「インキュベーションプログラム」の仕組みを見直しました。

具体的には、共創プロジェクトそのものを採択する形式に改めることで、昨年度よりも支援金の支給対象期間や伴走支援期間をより長く確保できる体制を整えています。このようなプログラムのアップデートを通じて、埼玉県の未来を切り開くイノベーション創出を力強く後押しします。

また、昨年度採択した15件の共創プロジェクトについても、一過性の支援で終わらせることなく未来につながる取り組みへと育てていくことが重要です。今後も継続的な支援を行っていくことで、昨年度生まれた共創の芽を次のステージに進めていきたいと考えています。

▲成澤扶美子氏(埼玉県 産業労働部 イノベーション創造課 渋沢MIX担当 主査)

2010年埼玉県庁入庁。副知事秘書、人事、税務関連の部門・業務を経験後、2026年4月より現職。

――改めて今後の『Canvas』が目指す姿について教えてください。

幡野氏 : 大前提として『Canvas』は、単なるオープンイノベーションのマッチング事業ではなく、「渋沢MIX」を起点とした埼玉県内における共創エコシステムの形成を目指しています。『Canvas』に参加する企業や人材の挑戦が互いの刺激となり、新たな事業やサービスが次々と生まれる環境を作ることによって、埼玉県全体にオープンイノベーションの裾野を広げていく――。これこそが『Canvas』の存在意義となります。

「渋沢MIX」は、「meet、connect、create(出会い、つながり、共創する)」というコンセプトを掲げるイノベーション創出拠点であり、多様なプレイヤーが交流して新たな価値を生み出す場です。その中でも『Canvas』は事業創出を担う実践の場であり、県内企業・全国の企業・スタートアップが共創を具体的なプロジェクトや新規事業へとつなげる役割を果たしています。

今後は『Canvas』を通じて生まれたプロジェクトやネットワークが「渋沢MIX」のコミュニティに還元され、そこからさらに新たな出会いや共創が生まれる好循環を育んでいくつもりです。単発のマッチングで終わるのではなく、出会って共創して事業化し、さらに次の共創につなげていくサイクルを回し続けることで、埼玉県全体のイノベーション創出力を向上させていきたいと考えています。

▲幡野俊介氏(埼玉県 産業労働部 イノベーション創造課 渋沢MIX担当 主幹)

2007年埼玉県庁入庁。人事など内部管理やまちづくり関連の部門・業務を経験後、2026年4月より現職。

多くの人が集まり、出会い、新たな価値を創出できる埼玉のポテンシャルとは

――続いては埼玉県の特徴についてお聞かせください。また、そのような埼玉県で事業を行う魅力はどこにあるとお考えでしょうか。

幡野氏 : 埼玉県には3つの大きな特徴があります。1つは充実した交通ネットワークです。首都圏という巨大なマーケットの中心に位置していることに加え、高速道路や鉄道網が発達しており、企業活動・物流・人の移動を支える国内有数の交通ハブとしての強みを有しています。

2つ目は県内の多様な地域特性です。秩父地域のような豊かな自然や広大な土地を有するエリアがある一方で、県南には都市機能が集約されているなど地域ごとに異なる特色があり、様々な実証のフィールドに活用できることも大きな魅力だと考えています。

3つ目の特徴は、製造業や物流産業など多様な産業が集積していることです。また、県として力を入れているロボティクスやサーキュラーエコノミーといった成長分野への取り組みも進んでいます。とくにロボティクスについては、県内の鶴ヶ島市に「SAITAMAロボティクスセンター(仮称)」の整備を進めており、2028年度には完成する見込みです。

このような特徴を有する埼玉県は、多くのプレイヤーが集まり、出会い、新たな価値を創出できるポテンシャルを備えており、オープンイノベーションや新規事業創出のフィールドとしても大きな可能性を秘めていると思います。

――鶴ヶ島市のロボティクスセンターは、どのような施設なのでしょうか?

幡野氏 : 屋内の閉鎖空間や屋外のドローン飛行場といった多様なフィールドで、様々なロボットの実証実験が行える施設として完成する予定です。この施設は埼玉県の新たな強みになるはずですし、ロボティクス分野への取り組みも一層活発になると考えています。

▲「SAITAMAロボティクスセンター(仮称)」整備イメージ図。「圏央鶴ヶ島インターチェンジ」に近接した立地を予定しており、首都圏や全国への交通アクセスが良好だ。(画像出典:埼玉県ホームページ

――その他にも埼玉県で新規事業やオープンイノベーションに取り組むメリットなどがあれば教えてください。

幡野氏 : たとえば東京都などは企業の層が非常に厚く、埋もれずに独自の特色を発揮しながら成長していく難しさがあると思います。埼玉県は東京都と比べると企業数は少ないものの、地域に根ざして活動している企業が多いこともあり、地元企業とのオープンイノベーションに適していると言えます。

また、東京都と比べると事業拠点運営のコストパフォーマンスにも優れており、先ほどのような3つの特徴を活かしながら「埼玉県ならでは」の企業のあり方・成長のあり方を目指していただけると思います。

儘田氏 : 確かにアピールチャンスは多いと思います。昨年度、丸文株式会社様と一緒に介護現場向けのAIロボット開発に取り組んだ株式会社フレンドリーテック様は、もともと東京都内に本社を構えるスタートアップでしたが、昨年度の『Canvas』をきっかけに埼玉県内にも拠点を設けました。

株式会社フレンドリーテック様には「渋沢MIX」の様々なイベントでご登壇いただいており、先日、総務大臣が視察に来られた際にもご登壇いただくなど、会社のPR活動にもつなげていただけている状況です。このように、企業様は「渋沢MIX」や『Canvas』を積極的に活用することで、PRのチャンスを得られやすくなっています。

▲丸文株式会社と株式会社フレンドリーテックが取り組んだ『AIコミュニケーションロボと対話型AI技術による新たなサービスの創出』。昨年度の成果発表会では、登壇者とロボットが実際に言葉を交わすデモンストレーションが行われた。(参考記事:デモデイレポート

――埼玉県は他県と比べて生産年齢人口の割合が高いですが、そのこともメリットの一つになりますか?

幡野氏 : 比較的若い県であることは確かです。しかし、その一方で急速な高齢化が進んでいることも事実であり、県内には多岐にわたる課題が眠っています。イノベーションは課題に目を向けることからスタートします。幅広い年齢層・高齢化・医療・エリアの多様性などから生じる埼玉県の課題の多さも、新たな事業を生み出すためのメリットの一つと言えるかもしれません。

拠点としての「渋沢MIX」・支援金・ファンドなど多彩なアセットを活用可能

――埼玉県の地域的な特徴やアセットの活かし方については、どのように考えていますか?

幡野氏 : 先ほどお話ししたように埼玉県には「充実した交通ネットワーク」「多様な地域特性」「幅広い産業基盤」という特徴があり、実証から実装、さらにはその後の事業化まで進めやすい環境が整っていると考えています。

また、イノベーション創出拠点である「渋沢MIX」そのものが皆様の挑戦・成長を後押しするアセットであると考えています。『Canvas』での伴走支援に加え、コミュニティマネージャー、共創コーディネーター、スタートアップアドバイザーといった専門人材によるサポート、多様なテーマで開催されるイベントなどを通じて企業同士の交流や新たな事業創出の機会を提供しています。

これらに加えて「渋沢MIXイノベーション創出ファンド」による出資支援も行っており、事業成長に必要な資金面でのサポートが受けられる環境も整えています。「渋沢MIX」を通じて、企業同士はもちろん、自治体や金融機関、大学といった多様なプレイヤーとつながることができるので、ぜひ積極的にご活用いただければと思います。

――『Canvas』は、どのような事業内容、事業フェーズの方々の参加メリットが大きいと考えていますか?

儘田氏 : 『Canvas』では、特定の事業内容・事業フェーズ・事業規模などに関係なく、あらゆる企業様にとってメリットのある環境を整えています。これについては「渋沢MIX」における支援も同様です。

『Canvas』には、県内で活動する中堅・中小企業様に数多くご参加いただいていることもあり、他のオープンイノベーションプログラムのように「大企業×スタートアップ」「地場企業×スタートアップ」といった一般的な座組だけにとどまらず、昨年度も県内の中小企業様同士の共創プロジェクトが生まれています。このように多様な組み合わせの可能性があることも『Canvas』の特徴の一つだと考えています。

また、今年度に関しては、埼玉県の産業構造や地域特性を踏まえた新たな戦略の策定を進めており、「渋沢MIX」が目指すべき姿をさらに明確化していく予定なので、そちらにも注目いただきたいと思っています。

――『Canvas』参加企業が活用できる資金や助成金などの情報は、どのように入手できますか?

儘田氏 : 『Canvas』の「インキュベーションプログラム」に採択したプロジェクトに関しては上限500万円の支援金を提供させていただくので、ぜひ活用いただければと思います。

また、埼玉県では事業者支援の一環として「事業者支援情報検索アプリ」を開発し、県のホームページを通じて公開しています。このアプリでは埼玉県および県内各市町村、国の事業者支援情報を集約しており、助成金をはじめとする様々な制度をワンストップで検索できます。情報の更新も頻繁に行っているので、昨年度の参加企業の皆様にも積極的にご紹介させていただきました。

もちろん「渋沢MIX」でも様々な支援情報を共有しているので、「こんな支援を受けたい」といったご要望があれば、いつでもお気軽にご相談いただける体制を整えています。

▲「事業者支援情報検索アプリ」では、埼玉県と県内全ての市町村、国の事業者向け支援制度を検索可能。なお、本アプリはPC版・スマホ版があり、多様なデバイスで活用できる。(画像出典:プレスリリース

知事をはじめ県庁全体が注目する取り組みとなり、支援の幅も広がりつつある

――今年度の『Canvas』の「オープンマッチングプログラム」における採択企業の特徴を教えてください。

成澤氏 : 現在17社様の共創テーマを公表して事業アイデア提案を募集しています。サーキュラーエコノミー、ヘルスケア、教育、防災といった社会や地域の課題、人々の生活に直結するテーマが多く、いずれの企業様も「この課題を本気で解決したい」という強い意志を持って参加されていると感じています。

丸文株式会社様、BHQ株式会社様、株式会社ミチ様など昨年度に続いて参加されている企業様も多いほか、昨年度パートナー企業として参加された株式会社FeelSensing様は、今年度はホスト企業として自らテーマを掲げて参加されています。また、個人的にはAI関連のテーマに興味を持っており、幅広いAIの活用方法に注目しています。

幡野氏 : 株式会社電知様のリチウムイオン電池の回収・リサイクルのインフラ開発、UMAMI COLA株式会社様のスパイス残渣のアップサイクル、株式会社エフテック様の使用済みEVバッテリー起点の分散型電源など、県が注力しているサーキュラーエコノミーにつながるテーマが数多く集まり、県の施策と合致するような方向性も見えてきていることが楽しみです。支援についても県で実施している事業と連携して進めていきたいと考えていますし、個人的にはこのようなテーマが事業化していくと嬉しいですね。

儘田氏 : 「渋沢MIX」では「オープンイノベーションの創出・促進」と同時に「スタートアップの創出・成長支援」「イノベーションを担う人材の育成」というコンセプトを掲げており、スタートアップ支援プログラムも並行して運営しています。株式会社電知様は、昨年度「渋沢MIXスタートアップ創出・成長支援プログラム『S4』」に参加され、今回は次なるステップとして『Canvas』にチャレンジされていることもあり、個人的にも注目しています。

――最後に、『Canvas』へのエントリーを検討している企業の方々にメッセージをお願いします。

成澤氏 : 『Canvas』は、皆様の新しい挑戦を後押しするプログラムです。多様な企業様・団体様との出会いを通じて、自社だけでは到達できなかった事業領域まで可能性を広げていただきたいと考えています。埼玉県としても『Canvas』での支援に加え、「渋沢MIX」が持つ多彩な機能・ネットワークを最大限に活用しながら皆様の取り組みを支えていくつもりです。

今回「オープンマッチングプログラム」で17社の採択が決まった際には、県内の様々な部門から問い合わせを受けました。『Canvas』が注目を集めるプログラムになりつつあることは間違いありません。今後も私たちイノベーション創造課だけでなく、県全体で支援するような取り組みにしていきたいと考えています。

私自身も「どんなプロジェクトができるのだろう」と今からワクワクしています。ホスト企業様の多くは「今回の共創テーマに限らず、異なる角度からの提案も歓迎している」とのことなので、様々なアイデアや技術をお持ちの企業様は、ぜひ積極的に『Canvas』へご参加いただければと思います。埼玉県のイノベーションエコシステムの一員として共に新しい価値を生み出し、埼玉県の経済を盛り上げていただけることを楽しみにしています。

儘田氏 : 昨年度は、予想していなかった様々なアイデアの提案に驚かされたので、今年度も既存の常識や考え方にとらわれないバラエティに富んだご提案をいただけると嬉しいです。

幡野氏 : 「渋沢MIX」や『Canvas』の取り組みは、知事も頻繁に言及するなど県全体からの注目度が高いです(※)。様々な部門が興味を持ってくれていることもあり、私たち県職員も多様な方々とネットワークをつなぎながら幅広い支援を行っていくつもりですので、ぜひ多くの企業様にご参加いただきたいと考えています。

※参考記事:埼玉県・大野知事に聞く「渋沢MIX」開設の狙いとプログラム『Canvas』への期待感

取材後記

インタビュー中に成澤氏と幡野氏が語ったように『Canvas』は、県知事をはじめ県庁内の様々な部門から注目を集めている取り組みであり、2年目となる今期も万全の伴走支援が約束されている。また、特定の分野や事業内容、事業フェーズにフォーカスしたプログラムではないため、大企業・中堅・中小企業・スタートアップなど、あらゆるプレイヤーに参画のチャンスがある。

充実した交通ネットワーク・多様な地域特性・幅広い産業の集積・アピールチャンスの多さといった埼玉県独自の特徴や「渋沢MIX」をはじめとする豊富なアセットを活かしながら、県内の様々な課題を解決するイノベーションや新規事業創出に向けた共創に取り組みたい方は、ぜひ積極的にエントリーを検討してほしい。

※「渋沢MIXオープンイノベーションプログラム『Canvas』」の詳細はこちらよりご覧ください。

(編集:眞田幸剛、文:佐藤直己、撮影:佐々木智雅)

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渋沢MIXオープンイノベーションプログラム「Canvas」

渋沢MIXオープンイノベーションプログラム「Canvas」は、埼玉県内企業の成長を支援するため、 県内企業と全国の企業をマッチングし、新規事業創出や企業の課題解決に向けた伴走支援を行うプログラムです。 プログラムを通じて、持続的にイノベーションが創出される共創のエコシステム構築を目指します。