瀬戸内から事業創出を加速!広島銀行のオープンイノベーションプログラム『INNOVATION DRIVE』始動――塗装の自動化を目指す「アイシン」、作業用品の技術で新市場に挑む「アトム」が目指す共創のカタチとは
1878年に創業し、中国地方で圧倒的な基盤を持つ広島銀行。2020年10月に設立された「ひろぎんホールディングス」の中核企業として、地域に根差した総合金融サービスを提供している。
同行は2026年9月より、オープンイノベーションプログラム『INNOVATION DRIVE』を始動する。瀬戸内エリアの地元企業と全国の共創パートナーをつなぎ、単なるマッチングやアイデア募集にとどまらず、事業化・社会実装まで伴走するプログラムだ。
今回は、船舶塗装を手がけるアイシン(本社・愛媛県今治市)と、作業用手袋・長靴メーカーのアトム(本社・広島県竹原市)がホスト企業として『INNOVATION DRIVE』に参画。それぞれの共創テーマに挑むパートナー企業を募集する。具体的な共創テーマやイメージは以下の通りだ。
●アイシン 「自動化で未来の塗装を創る」
共創イメージ:自動塗装ドローンの実装、非接触膜厚検査システムの構築
●アトム 「『プロの現場』で培った技術をワクワクする未来へ」
共創イメージ:作業用品の技術を生かしたタウンユース商品開発、ものづくり体験サービスの構築
TOMORUBAでは、『INNOVATION DRIVE』を主催する広島銀行とホスト企業2社にインタビューを実施。プログラム立ち上げの背景、各社が掲げる共創テーマ、提供できるアセット、求めるパートナー像について聞いた。
【広島銀行・インタビュー】 「出会うだけでは終わらせない。瀬戸内から事業創出を加速」
広島・岡山・山口・愛媛の地元4県を地盤とする広島銀行。ソリューション営業部 法人ソリューション室では、従来の銀行業務にとどまらず、地元企業の新事業創出を支援している。2019年にアクセラレーションプログラムを開催しオープンイノベーションに取り組んできた同行が、さらに踏み込んで立ち上げたのが今回の『INNOVATION DRIVE』だ。その背景と支援体制を、沖井氏と世良氏に聞いた。
――まずは『INNOVATION DRIVE』の事務局を担うソリューション営業部 法人ソリューション室のミッションと、これまでの取り組みについて教えてください。
広島銀行・沖井氏 : 法人ソリューション室は、地元企業の多様化する経営課題に対して、融資の枠を超えた専門的なコンサルティングや各種ソリューション(ビジネスマッチング、M&A、事業承継、自動車・製造業・医療RM、中計策定、DX支援など)を提供し、地元企業の持続的な成長と価値向上をサポートすることをミッションとしています。その中で私たちは、スタートアップに関する支援や、地元企業の新事業創出を担当しています。
「中期計画2024」において「地域経済の発展に資するイノベーション創出」を掲げる中、地元企業とスタートアップの連携(オープンイノベーション)による新事業創出の取り組みに力を入れています。2019年からアクセラレーションプログラムを実施し、2024年からは広島県内を中心とした事業者と国内外のスタートアップをマッチング(=つなぐ)する、地方では稀な大型イベント「-TSUNAGU広島-」も開催してきました。
▲2025年に広島県立総合体育館で開催された「-TSUNAGU広島-」の様子。全国から138社のスタートアップを招聘し、前年を大きく上回る約5,500名が来場した。
▲広島銀行 ソリューション営業部 法人ソリューション室 マネージャー 沖井文孝氏
――広島銀行としてオープンイノベーションプログラムを実施する目的と、オープンイノベーションの可能性をお聞かせください。
広島銀行・世良氏 : 地元4県では、他地域と同様に労働人口の減少やマーケットの縮小など地域を取り巻く環境が変化しており、地元企業では既存事業を補完するような新事業へ取り組むニーズが高まっています。一方で、オープンイノベーションや新事業創出に取り組む意欲はあるものの、どのように取り組めば良いのかが分からないといった企業側の課題感もありました。こうした状況を踏まえ、私たちは2019年からアクセラレーションプログラムを実施し、地元企業のオープンイノベーションの取り組みを進めてきました。
『INNOVATION DRIVE』は、これまでの取り組み内容をブラッシュアップし、個社への伴走支援を重視したプログラムとして設計しています。これまでのアクセラレーションプログラムでは、スタートアップとの出会いの場は創出できていたものの、その後の協業や事業化まで十分に入り込めていなかったという私たちの課題感もあったので、このプログラムでは募集テーマの設計から事業計画策定支援まで、一貫したサポート体制を整えることに重きを置いています。
地元4県には一次産業から三次産業まで多様な企業が集積し、特にものづくり企業は高い技術力と豊富なアセットを持っています。だからこそ、それらの企業とスタートアップの新しい知見を掛け合わせるオープンイノベーションは、地域の持続的成長や競争力強化の点でも大きな意味を持つと考えています。『INNOVATION DRIVE』で、オープンイノベーションが持つ「自社だけでは到達できない新しい価値の創出」の事例を生み出し、オープンイノベーションをこの地域の成長手段として広げていきたいと考えています。
▲広島銀行 ソリューション営業部 法人ソリューション室 アシスタントマネージャー 世良拓斗氏
――広島銀行は、『INNOVATION DRIVE』における共創をどのようにバックアップしますか。
広島銀行・世良氏 : 株式会社eiiconと協働し、ホスト企業2社の募集テーマ設計から事業計画の策定まで一貫して支援するバックアップ体制を整えています。各社の強み・アセットを活かし、課題解決に繋がるようなテーマを設定したうえで、パートナー企業の募集を行っています。当行としても、ホスト企業2社のテーマが事業化に向かうよう、ホスト企業・パートナー企業双方に対して、当行のネットワークやグループソリューションなどを活かしたご支援をしていきたいと思います。
――今回のホスト企業2社への期待をお聞かせください。
広島銀行・世良氏 : 愛媛県今治市に本社を構える株式会社アイシンは、船舶塗装を起点として、幅広い塗装分野で先端技術を持ち、塗装業界の新たなスタンダードを築こうとしています。そして広島県竹原市で作業用手袋や長靴を手がけてきた老舗企業のアトム株式会社は、既存事業の枠を越えた新事業に挑みます。ホスト企業2社には、プログラムを通して事業テーマに共に取り組めるパートナーを見つけ出し、自社単独では成し遂げられなかったインパクトのある新事業を作り上げていただきたいと思っています。
――最後に、応募を検討している企業へメッセージをお願いします。
広島銀行・世良氏 : ホスト企業2社に共通しているのは、現状に対する強い課題感や、それを必ず打破したいという強い思いです。また、両社とも業界内でも屈指の技術・豊富なアセットを持つ優良企業であり、それを活用したオープンイノベーションの可能性を模索されています。このプログラムで、両社にとってインパクトのある事業が生まれることを願っておりますし、実現のためにできる限りのサポートはしっかりとさせていただこうと思っています。ぜひ多くの方にエントリーしていただきたいです。
広島銀行・沖井氏 : ホスト企業2社には、新しいことに取り組みたいという強い想いがあります。当行としてもバックアップ体制はしっかり整えてまいりますので、ぜひ積極的に手を挙げていただきたいです。
【アイシン・インタビュー】 「自動化で未来の塗装を創る」
愛媛県今治市に本社を置く株式会社アイシンは、1988年設立の塗装専門企業だ。造船分野でシェアを拡大し、全国27拠点を構える。近年は官公庁関係や防衛産業、さらに宇宙分野へと事業領域を広げてきた。同社は「自動化で未来の塗装を創る」をテーマに掲げ、自動塗装ドローンの実装と非接触膜厚検査システムの構築に挑む。
――まず、事業内容と強みについて教えてください。
アイシン・原口氏 : 当社は1988年に設立し、全国27カ所に拠点を展開しています。事業の約9割を船舶分野が占め、フェリーなどの客船からタンカー、コンテナ船、自動車運搬船まで、幅広い船舶の塗装を手がけています。そこで培った品質への信頼をもとに、防衛や宇宙分野にも進出しました。ロケットの発射台など、塩害や雨風といった過酷な環境に耐える重防食塗装を得意としています。
▲株式会社アイシン 専務 原口剛氏
――今回、『INNOVATION DRIVE』に参画した背景をお聞かせください。
アイシン・原口氏 : 今後さらに会社を成長させる事業計画を進めるうえで、イノベーションは不可欠だと考えています。既存事業に続く、新たな事業の柱をつくることが狙いです。
アイシン・安部氏 : 塗装業界は人手不足が課題ですが、だからこそテクノロジーによる変革のインパクトが非常に大きい領域です。新しいテクノロジーを取り入れ、極力人手をかけずに生産性を高める事業を生み出したいと考えています。そこで、新規事業の創出と労働力不足の解消という2つの観点から、今回のプログラムに参画しました。
▲株式会社アイシン 代表取締役社長 安部匡通氏
――今回「自動化で未来の塗装を創る」というテーマを掲げていますが、具体的にどのようなことを実現したいのでしょうか。
アイシン・安部氏 : 1つ目は、「自動塗装ドローン」の実装です。洋上風力発電設備などでは、作業員が高所でロープに吊り下げられ、強風にさらされながら塗装や補修を行っています。こうした危険な作業をドローンで代替し、人の安全を確保したいと考えています。
2つ目は、「非接触膜厚検査システムの構築」です。通常は作業員が塗装をし、乾燥後に検査員が膜厚を測定して、問題があれば手直しをしますが、この工程は手間がかかります。塗装直後の乾く前の段階で、作業員が非接触で膜厚を測定できれば、その場で修正でき、作業時間の短縮と品質向上につながります。将来的には同業他社や造船所、船主などへの外販も目指します。
▲現在実施している膜厚検査の様子。作業員が直接、膜厚を測定している。
――パートナー企業に提供できるアセットを教えてください。
アイシン・安部氏 : まず、自社の現場を実証フィールドとして提供できます。また私たちは自ら塗装を手掛け、品質管理も行っています。その過程で蓄積したデータやノウハウを活かし、現場で実際に使える製品を一緒に開発することができます。
アイシン・原口氏 : マーケット、顧客とのつながりも大きな強みです。当社には海運会社や造船所など、大手から中小まで多種多様なお客さまとお取引があり、全国27拠点の顧客ネットワークがあります。これらを活かし、事業化後は製品を速やかに市場へ展開できると考えています。
――最後に、応募を検討している企業へメッセージをお願いします。
アイシン・原口氏 : 誰も実現したことのないテーマだからこそ、一緒に面白いことに挑み、社会に貢献する新しい技術を築いていきたいです。ぜひ、共にパイオニアを目指しましょう。
アイシン・安部氏 : 実際に使える製品を開発するハードルは、誰もやったことがないだけに非常に高いと思います。ただ、それを突破した先にはブルーオーシャンが広がっているはずです。数ある困難を一緒に打ち破っていきましょう。
【アトム・インタビュー】 「『プロの現場』で培った技術をワクワクする未来へ」
広島県竹原市を拠点に作業用手袋と長靴を製造・販売しているアトム株式会社。「働く人の安全・快適・生産性の向上をサポートする」という理念のもと、100年以上にわたりゴム加工や編みの技術を高めてきた。同社は「『プロの現場』で培った技術をワクワクする未来へ」をテーマに掲げ、作業用品の枠を越えた商品開発と、ものづくり体験サービスの構築に挑む。
――まず、事業内容と強みについて教えてください。
アトム・後藤氏 : 当社は、作業用手袋と長靴を製造・販売するメーカーです。水系の液体ゴムを生地にコーティングした防水手袋や、軍手に固形ゴムを貼り付けた耐久性の高い手袋、防振手袋など、働く人を守る保護具に力を入れています。田植え用の長靴で培った技術を活かし、薄くて軽くデザイン性も高いタウンユースの長靴「グリーンマスター」や「pokeboo(ポケブー)」も開発しました。
▲アトム株式会社 品質保証課 課長 後藤利孝氏
――『INNOVATION DRIVE』に参画した背景をお聞かせください。
アトム・後藤氏 : 作業用手袋や長靴の市場は競合が増え、販売店によるプライベートブランドの展開も拡大しています。価格競争とコモディティ化が進む中、既存市場の延長だけでは成長が難しいという課題があります。そこで、新たに商品開発をしていきたいと考えました。
また、当社の製品はプロの作業者には認知度が高い一方、一般のお客様との接点やタウンユース商品の認知度はまだ十分ではありません。新たな市場に向けた商品開発と顧客接点の創出につながるアイデアを、オープンイノベーションによって得たいと考えました。
▲収縮性と防水性に優れた天然ゴムのブーツ「pokeboo」。野外フェスやキャンプにフィッシングなど、さまざまなアウトドアシーンで活躍する。また、急な悪天候やゲリラ豪雨にも対応可能。
――本プログラムで、「『プロの現場』で培った技術をワクワクする未来へ」というテーマを設定していますが、具体的にどのようなことを実現したいのでしょうか。
アトム・西川氏 : 1つ目は「作業用品の技術を活かしたタウンユース商品の開発」です。「pokeboo」に続く、日常で使える一般向け商品を生み出したいと考えています。私たちだけでは思いつかない利用シーンも含め、パートナー企業とアイデアを出し合っていきたいですね。
▲アトム株式会社 開発部基礎研究課 主任 西川裕悟氏
アトム・後藤氏 : 2つ目は「ものづくり体験サービスの構築」です。当社のある竹原市の近くには「うさぎ島」と呼ばれる大久野島があり、海外からの旅行者も訪れます。そうした観光資源を活用しながら工場にも来訪していただき、長靴や手袋をつくる体験をしていただくイメージです。
長靴をイチからつくると3〜4時間かかるため、フェリーの待ち時間に1時間ほどで装飾や名入れなど工程の一部を体験していただく形も考えられます。安全な受け入れ体制や、参加者が楽しめる仕掛けを共に設計していきたいです。
――パートナー企業に提供できるアセットを教えてください。
アトム・後藤氏 : ひとつは技術力の高さです。折りたたんで収納できるほど薄く、防水機能を持ったゴムシートを製造できます。防振手袋づくりで培った衝撃を吸収するゴム、水系ゴムを直接コーティングして防水性を持たせる技術、ゴムと生地を圧着して滑り止めや耐久性を付与する複合加工技術もあります。
アトム・西川氏 : 水系ゴムと固形ゴム(ドライゴム)を両方扱う会社は、作業用手袋業界ではあまりありません。2つの性質のゴムでさまざまな加工ができることは、他にはないアセットです。また、手袋の編み機は幅広いゲージ数を取り揃えておりますし、メンテナンスなどのノウハウ蓄積も大きな強みです。
アトム・佐々木氏 : 販路も強みです。グループ会社に小売店があり、取引先も幅広く1,000社ほどの販売先があります。テスト品を試せる環境が整っており、開発した商品を売り先につなげやすい点は、パートナー企業にとってのメリットになるはずです。
▲アトム株式会社 業務部業務課 課長 佐々木亮輔氏
――最後に、応募を検討している企業へメッセージをお願いします。
アトム・佐々木氏 : 現時点では、つくりたいものを細部まで固めているわけではありません。だからこそ、パートナー企業の皆様と対話しながら一緒に形にしていきたいです。まずは小さな挑戦からでも、共に取り組んでいただける企業との出会いを楽しみにしています。
取材後記
今回の取材では、広島銀行が『INNOVATION DRIVE』を通して企業同士の出会いにとどまらず、事業化まで伴走しようとする強い意志が伝わってきた――。アイシンが目指す塗装作業の自動化は、人手不足への対応と作業者の安全、品質向上を同時に実現し得る挑戦である。アトムが構想するタウンユース商品開発と、ものづくり体験の提供は、プロの現場で培った技術に新たな市場と顧客接点をもたらす可能性を秘めている。両社の技術や設備、販売網と、パートナー企業の知見がどのように結びつくのだろうか。広島銀行のネットワークと伴走支援を追い風に、瀬戸内エリアから新たな事業が生まれ、地域全体に挑戦の機運が広がることを期待したい。共創パートナーの応募締め切りは、2026年10月30日だ。
※『INNOVATION DRIVE』の詳細はこちらをご覧ください。
(編集:眞田幸剛、文:佐藤瑞恵)