【後編】青森県の共創プログラム『Blue Ocean』3期目が始動――県内ホスト企業4社(ヤマモト食品・日本ハルマ・appcycle・八戸酒造)と挑む地域資源からの新事業創出
本州最北端に位置し、豊かな自然と独自の産業・文化を育んできた青森県。この地をフィールドに、共創による新たな事業創出を加速させるAOMORI OPEN INNOVATION PROGRAM 『Blue Ocean』が第3期を迎えた。地域に根差す企業(ホスト企業)と全国のプレイヤー(パートナー企業)を結び、未知の市場を切り拓く挑戦が再び始動する。
今期はホスト企業を4社(ヤマモト食品/日本ハルマ/appcycle/八戸酒造)へ拡大。食品や水産加工で生じる残渣の利活用といった未利用資源への着目など、これまで以上に挑戦的なテーマが揃った。実証実験の費用支援はもちろん、過去2年で培った知見を活かした伴走体制を敷き、地域固有の課題を強みへと転換する取り組みを力強く支える。
TOMORUBAでは、パートナー企業の公募開始に伴い、青森県とホスト企業4社への取材を実施。インタビューの内容を前後編にわたってお届けする。
プログラム主催者である青森県とホスト企業2社(ヤマモト食品/日本ハルマ)が登場した<前編>に続き、今回は<後編>として、ホスト企業2社(appcycle/八戸酒造)を取り上げる。『Blue Ocean』にかける想いや提示する共創テーマの背景とは――。
【appcycle】 りんご残渣をはじめとする未利用資源の価値化を通じた農家還元と脱炭素社会を創る青森発の共創
――2022年に創業された御社ですが、はじめに事業概要と特徴についてご紹介いただけますか。
appcycle・加藤氏 : 当社は、りんごジュースの加工時に発生する搾りかすを原料の一部とした合成皮革の開発・製造・販売を手掛けています。「この国のアップサイクルを加速する」をミッションに掲げており、代表である藤巻が青森県出身であることから、まずはりんごに着目して事業を立ち上げました。
青森では年間約2万トンものりんごの搾りかすが発生しています。家畜の飼料などに一部利用されているものの、多くは焼却処分されているのが現状です。この廃棄課題に対して、「何か新しい価値づけをして、ビジネスにできないか」ということで、素材の開発に至りました。そして、海外の同様の素材開発事例を参考にしながら、りんご由来の合成皮革「RINGO-TEX®」を開発し、展開しています。
▲appcycle株式会社 執行役員 加藤大氏
――独自開発の合成皮革「RINGO-TEX®」は、ANAのヘッドレストカバーなどへの採用実績もありますが、現在の事業フェーズや展開状況はいかがですか。
appcycle・加藤氏 : 2022年の創業から昨年(2025年)頃までは、BtoBを主軸に事業を展開してきました。ANA様をはじめ、地元の観光バス会社様などの法人向けに座席カバーや名刺入れ、社員証ケースなどを製品化して提供してきたほか、生地単体での供給も進めています。現在はBtoBに加え、BtoC領域の開拓にも乗り出しています。自社ブランド「Golden Seed®」を立ち上げ、がま口コインケースをはじめとするオリジナルプロダクトの展開に注力しているところです。
▲「RINGO-TEX®」の魅力を最大限に引き出し、未利用資源を次世代へと続く「黄金の種」として再定義するために誕生した自社ブランド「Golden Seed®」。同ブランドからは、がま口コインケースが販売されている。
――本プログラムを知ったきっかけや、参画を決めた理由もお伺いしたいです。
appcycle・藤巻氏 : 本プログラムは、青森県庁の職員の方から直接お声がけをいただいたことで知りました。当時、当社としても新規事業を含めた多角的な展開を模索していた時期だったため、専門的な知見を持つ方々から助言をいただき、「どこに注力して伸ばすべきか」「どんな挑戦をすべきか」を見極めたいと考えたのです。そうして事業成長をさらに加速させたいという思いから、このプログラムへの参画を決めました。
▲appcycle株式会社 代表取締役/CEO 藤巻圭 氏
――本プログラムでは、具体的にどのような共創事業を目指されているのでしょうか。募集テーマの詳細をお聞かせください。
appcycle・藤巻氏 : 農業への還元を、より目に見える形にしていくことが今回の大きなテーマです。当社ではすでに、生産者から原料の購入や売上の一部還元といった取り組みを進めているものの、より大きなインパクトを生み出していきたいと考えています。今回のプログラムを通じて、そうした還元の仕組みをより明確にして可視化し、適切な還元方法をパートナー企業と一緒に構築していきたいと考えています。
具体的には、3つの共創イメージを描いています。1つ目が、農家還元と地域循環を生むライフスタイル・作業用品開発。2つ目が、台湾・海外向けエシカル商品の共同開発と商流構築。そして3つ目が、脱炭素社会の実現を目指した未利用資源の素材開発と効果検証です。共創を通じて、りんご残渣の活用量の増加と社会的インパクトを最大化していきたいと考えています。
――パートナー企業と共創を進めるにあたり、御社から提供できるリソースやアセット、強みはどのようなものがありますか。
appcycle・藤巻氏 : 「RINGO-TEX®」という素材の提供はもちろん、りんご以外の原料を使った新しい生地の共同開発も可能です。また、開発済みの生地を有効活用してくださる企業や、地方産品・エシカル製品を扱うプラットフォームをお持ちの企業に対しては、既存製品の卸しだけでなくOEM・ODMを含めた柔軟な協力ができます。
加えて、当社は地元・青森に根差した活動を続けてきた強みがあります。土地の特性を活かしたプロダクトをスケールさせたり、新しい視点をもたらしてくださる企業とコラボレーションすることで、地域での存在感を共に高めていく取り組みができると考えています。
――メディアへの露出が多い御社なので、共創時の発信力も提供価値になりそうですね。
appcycle・藤巻氏 : おっしゃる通りです。ありがたいことに「青森のスタートアップといえばappcycle」と言っていただける状態になってきました。東北発のスタートアップとして地域からの注目度も高く、それが事業推進の追い風になっています。実際、青森の主要メディアの1社にも、当社の株主として参画いただいています。新しい取り組みを行えばメディアに取り上げてもらえる確率は非常に高いため、パートナー企業に対してもPR効果を提供できるでしょう。
▲サステナビリティをテーマにしたANAの特別塗装機「ANA Green Jet」のヘッドレストカバーに「RINGO-TEX」が採用された。さらに、「RINGO-TEX®」を使用した革小物の販売も実施された。このような取り組みも多くのメディアに取り上げられている。
――メディアとのリレーションは、パートナー企業にとっても心強いと感じます。最後に、応募を検討している企業に向けてメッセージをお願いします。
appcycle・藤巻氏 : 昨今、1社単独でできることには限界があると感じています。やはり、パートナーシップを組んで共創して初めて、新しい価値が生まれます。多様なノウハウやお互いのリソース、そして地域にある有益なものを共存させることで、新たなエコシステムが形作られていくのだと思います。
私たちは創業時より、「相手企業を発展させるために自分たちがいる」と考えて事業を推進してきました。自社だけが良くなるのではなく、関わっていただいた企業が伸びることで、結果として当社も発展できると思います。今回のプログラムを通して、一緒に成長していきましょう。
【八戸酒造】 青森の酒の新市場を拓く。新たな飲用シーン・飲み方・流通を共創
――江戸時代創業という長い歴史を持つ御社ですが、まずは事業概要や特徴からご紹介いただけますか。
八戸酒造・川井氏 : 当社は、青森県八戸市に拠点を置く蔵元です。江戸時代の1775年から代々酒造りを続けており、今年で創業251年を迎えました。創業時より「駒井 庄三郎」の名を継承し、現在は8代目が蔵を率いています。主な商品として、「陸奥男山」と「陸奥八仙」という2つの日本酒ブランドを展開しています。
「陸奥男山」は創業時からのブランドで、地元で長く親しまれてきた辛口のお酒です。一方の「陸奥八仙」は1998年に立ち上げた新しいブランド。地元中心から県外や海外へと販路を広げるための重要な成長戦略として生まれました。フレッシュでフルーティーな味わいを特徴とし、近年では全国のお客様に広く親しんでいただいています。
これらの2ブランドに加え、伝統を守りながら次の挑戦をしていく狙いで、「MINATO DISTILLERY」というスピリッツや、「AOMORI JUICY LAB」という果実酒の製造・販売も始めています。これらすべてのブランドに共通するのが、青森県産の材料を使用していること。日本酒のお米や酵母はもちろん、スピリッツや果実酒に使う果物なども、可能な限り青森県産を活用する方針で取り組んでいます。
▲八戸酒造株式会社 企画・社長室室長 川井雅恵氏
――まさに地域に根差したモノづくりですね。そうした中で、今回、青森県のオープンイノベーションプログラムに手を挙げた理由やきっかけをお聞かせいただけますか。
八戸酒造・川井氏 : 日本酒に限らず、お酒全体を取り巻く環境や人々のライフスタイルは今、大きく変化しています。そうした中で、これまで日本酒に馴染みがなかった方々にも八戸酒造を知ってもらい、実際に手に取っていただける接点を広げていきたいと思っています。お酒の新しい楽しみ方を提案しながら、これまでにない新たな市場をつくっていきたい――そんな想いから、今回のプログラムへの参加を決めました。
――その想いを形にするために、3つの共創イメージを挙げていただきました。それぞれについて、具体的に教えてください。
八戸酒造・川井氏 : 共創のイメージとしてまず掲げているのが、「新しい場で楽しむ青森・八戸酒造の酒」です。若い世代に向けて、キャンプやフェスなどのアウトドア、サウナ、旅先といった、これまで日本酒があまり飲まれてこなかったシーンでの新しい楽しみ方を提案したいと思っています。私たちからは、高品質なお酒や長い歴史・ストーリーを提供できます。これらとパートナー企業の新しい視点などを融合させ、これまでにない飲酒体験を届けたいです。
――若年層へのアプローチとのことですが、現在、日本酒のメインの消費者層はどのあたりの世代なのでしょうか。
八戸酒造・川井氏 : 政府の統計データなどを見ると、現在の主な消費者層は40代以降の世代です。一方で、酒造組合としても若年層に向けた発信を強化してきました。著名なスポーツ選手が発信に加わってくださるなどの取り組みもあり、少しずつ若い世代の間でも関心の輪が広がり始めているところです。
――2つ目の「食と飲み方から広げる新しい酒文化」に関してはいかがですか。
八戸酒造・川井氏 : 当社が新しく立ち上げた蒸留酒の「MINATO DISTILLERY」や低アルコールのスパークリング果実酒「AOMORI JUICY LAB」は、日本酒を飲まない若年層に向けた価値提供を目指して開発したものです。ただ現状は、酒販店さんへの提供が中心となっており、「陸奥八仙」をご存知の方が物珍しさで買っていただく程度にとどまっています。
地元のフェスなどに出展するなどのプロモーション活動は行っていますが、「どういう飲み方をしていただきたいか」「酒文化とどうつなげていくか」という広げ方のイメージが描けていません。そこで、パートナー企業と一緒に新たな展開を考えていきたいというのが、この共創イメージです。
▲2022年に立ち上げた蒸留酒ブランド「MINATO DISTILLERY」。同ブランドからは、「粕取りウォッカ」や「オークCASK」といった商品が発売されている。
――3つ目の「持ち運べる・届きやすい青森の酒」は、容器やパッケージの観点からのアプローチですね。具体的にはどのような課題感やアイデアをお持ちでしょうか。
八戸酒造・川井氏 : 現在は一般的な瓶での提供が中心で、サイズ展開も限られています。より気軽に手に取っていただくため、またアウトドアなどの利用シーンに合わせた容器を考えたとき、これまで社内で本格的な検討に至らなかったパウチや缶といった新しい選択肢に挑戦したいと考えています。パートナー企業の技術やアイデアをお借りしながら、本格的な商品化に向けて一緒に模索していきたいです。
――これらの実現に向けて、御社から提供できるアセットやリソース、共創のメリットについても教えていただけますか。
八戸酒造・川井氏 : 一番の強みは、研究者肌の杜氏が追求している酒造りの技術と生産ノウハウです。同業の酒蔵さんが「学びたい」と見学に来ていただけるほどなので、技術力はあると自負しています。また、青森の米や果実といった地域素材にこだわってきた背景から、行政の協力や県内の生産者の方々とのネットワークがある点も協業メリットになるのではないでしょうか。
さらに、大正時代に建てられた蔵も保有しており、これは文化財にもなっています。普段からイベントなどを通じて地域文化を発信してきた場なので、パートナー企業と共に新しい体験やカルチャーを届ける空間としても活用できると思います。
▲蔵を活用した「八仙 夏の蔵まつり」などのイベントが開催されている。
――それでは最後に、応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。
八戸酒造・川井氏 : 自社単体で懸命に取り組んできましたが、伝統を守るだけではなく、異業種の視点や新しいアイデアを取り入れることで、これまでにない革新を起こしていきたいと考えています。自分たちだけでは想像できない視点や技術、ノウハウをお持ちの企業と手を携えてこそ、若い世代や日本酒に馴染みがない方々へ、本当の意味で届く提案ができるはずです。八戸酒造のこれまでの歩みや技術、そしてこれからの挑戦に興味を持っていただける企業と、ぜひ新しい一歩を踏み出したいです。
取材後記
青森という土地に深く根差し、独自の挑戦を続けるホスト企業4社。今回の取材を通じ、各社が持つ固有のリソースの面白さと、共創によって描ける未来の可能性に胸が高鳴った。廃棄されるりんご残渣の活用や地酒の新たな飲用シーン開拓など、青森ならではの資産を次の成長へ変える大きな伸びしろを感じさせる。自社の強みを掛け合わせて、未開拓の市場を共に切り拓くパートナー企業の挑戦を期待したい。
(編集:眞田幸剛、文:林綾)