埼玉発・15の共創プロジェクトが集結!渋沢MIXオープンイノベーションプログラム「Canvas」デモデイレポート【#2】――浜屋、エアデジタル、ワエストロが取り組んだ共創事業とは
埼玉県が主催する「渋沢MIXオープンイノベーションプログラム 『Canvas』」の成果発表会が、2026年3月6日・7日の2日間にわたって開催された。同プログラムは、埼玉県内外の企業同士が業種の壁を越えて組み合わさり、企業・社会課題を解決する新たなビジネスを共創することを目的としており、今年度は15件の共創プロジェクトが誕生した。
TOMORUBAでは、今回のデモデイで発表された全15プロジェクトを、全5回の記事に分けて紹介する。本記事はその第二弾として、浜屋×I-S3、エアデジタル×シンコースポーツ、ワエストロ×ピーカブーの3プロジェクトをピックアップ。――各チームがどのような背景から共創に取り組み、どのような価値創出を目指しているのか。デモデイで披露されたピッチの内容とともに、その取り組みをレポートする。
【株式会社浜屋(ホスト企業) × 株式会社I-S3(パートナー企業)】
発表タイトル 『“使い終わった太陽光パネル”で創る、未電化地域の新しい暮らし』
▲左:株式会社浜屋 小林氏、右:株式会社I-S3 益田氏
「世の中のもったいないを価値に変える」をコーポレートミッションに掲げる株式会社浜屋。国内17拠点で不用品を買い取り、東南アジア・中東・アフリカ・中南米など70カ国へ輸出するリユース事業と、電子基板から希少金属を回収する都市鉱山リサイクル事業を展開する同社が、今回のプログラムで着目したのが「廃太陽光パネル」だ。
2012年に始まったFIT(固定価格買取制度)で急速に普及した太陽光パネルは、制度上の買取期間20年を経た2030年代に大量廃棄のピークを迎えると予測されている。十分に使用可能なものが多いにもかかわらず、行き場を失う。これはまさに、浜屋が長年取り組んできた「もったいない」の問題そのものだ。
一方で、世界には電力を享受できていない人々が今なお7億5600万人存在する。浜屋はこの二つの課題を掛け合わせ、日本の廃パネルを途上国の電力インフラとして再活用するビジネスを構想した。しかし同社には電力事業のノウハウがない。そこでCanvasを通じてパートナーとなったのが、太陽光発電のエンジニアリングを手がける株式会社I-S3だ。
中古パネル活用の最大の課題は「性能・品質がバラバラ」であることだ。従来は検査・選別によって品質を揃えようとしてきたが、コストがかさみスケールしないという問題があった。そこでI-S3が提案したのは、検査ではなく運用でパフォーマンスを担保する方法だ。
▲今回の取り組みで活用された、中古の太陽光パネル。
両社は浜屋の東日本マテリアルセンター(埼玉・東松山)で実証実験を実施した。あえてメーカーも規格もバラバラな中古パネルを混在させたところ、新品同等のパフォーマンスを発揮することを確認したという。この結果は、事業モデルの実現可能性を大きく高めた。
最初の市場としては、フィリピンを注力ターゲットに設定。電気代の高さや停電の多さ、未電化地域の存在など、このモデルを投入する条件が揃っているからだ。将来的にはカーボンクレジット創出による収益化や、浜屋のネットワークを活かしたアフリカへの展開も視野に入れている。
【エアデジタル株式会社(ホスト企業) × シンコースポーツ株式会社(パートナー企業)】
発表タイトル 『デジタルスポーツを活用した子供の運動におけるプレイデータ活用の実証』
▲左:シンコースポーツ株式会社 吉野氏、右:エアデジタル株式会社 前田氏
子供の体力低下が深刻な社会問題となっている。学校教員への負担増、習い事の経済格差、財政問題など複合的な要因から運動機会は年々減少しており、「持続的な運動機会づくり」が急務とされている。この課題に、デジタルの力で挑んだのがエアデジタル株式会社とシンコースポーツ株式会社の共創プロジェクトだ。
公共施設の管理運営など地域スポーツ振興を担うシンコースポーツは、健康づくりの新しいモデルを模索していた。一方、デジタルを活用した運動空間開発を本業とするエアデジタルは、自社のデジタルスポーツ機器から収集されるプレイデータの活用方法を長年研究してきた。両社のキーワードが重なったのが、「新体力測定のデジタル化」という着想だ。
今回のプログラムを通じて両社が共同開発したのが「デジタル体育システム」だ。文部科学省が1999年に導入した新体力テスト6項目のうち4種目をデジタル化した体験型測定システムで、センサーによる自動計測、NFCタグによる利用者特定、AI解析、個別記録紙のプリントアウトまでを一気通貫で実現している。
▲デモデイ会場の展示ブースに設置された「デジタル体育システム」。
実証実験では小学生から成人まで約50名が参加した。利用者アンケートでは前向きな評価が相次いだ。特徴的だったのは、スコアが即座に可視化されることへの反応だ。「自分のレベルがわかって次はもっと頑張りたい」という意識の芽生えが確認され、運動への持続的なモチベーション向上に寄与する可能性が示された。また測定結果を家族で確認する場面も見られ、「家族単位での運動促進」という新たな可能性も浮かび上がった。
一方で、精度・公平性・子供向け設計の改善ニーズが存在することも浮き彫りになった。両社はこれらの知見を活かし、さらなるシステム改善を進める方針だ。今後の展開として、シンコースポーツが管理する公共施設への「次世代型デジタルスポーツ・スペース」の常設、地域イベントへの移動型展開、ウェルビーイングを支える健康支援の全国普及という3ステップを描く。2030年に15兆円規模に拡大するとも言われるスポーツ市場を見据え、両社は連携を深めていく。
【ワエストロ株式会社(ホスト企業) × 株式会社ピーカブー(パートナー企業)】
発表タイトル 『未来を担う子供たちをウレタンヘルメット入り帽子で守る、次世代通学帽の開発』
▲左:株式会社ピーカブー 松成氏、右:ワエストロ株式会社 古屋氏
登下校中の子供が直面する危険は、日焼け・熱中症・そして怪我の3つだ。警察庁のデータ(2018〜2022年)によると、通学中の小学生は5年間で約3万人が交通事故で怪我をし、死亡・重傷者は2,000人以上とされる。特に1年生(7歳)に事故が多く、朝夕の通学時間帯に集中している。日本では子供たちが大人なしで集団登校する慣習があるため、リスクは一層高まる。
この課題に正面から向き合い、小学生の通学帽子の開発に取り組むのが、ワエストロ株式会社と株式会社ピーカブーだ。
埼玉・熊谷市に拠点を構えるワエストロは、「ウレタンRIM成形ならワエストロ」の看板を掲げ、世界初となる特許技術を複数保有する。一方、共創パートナーとなったピーカブーは紫外線対策ウェアの開発・販売を24年にわたって手がけてきた企業で、難病患者向けのUV防護服から医師・科学者と共同研究した機能性ウェアまで幅広く展開している。
すでに、遮熱・UVカット・軽量ヘルメット内蔵という3つの機能を備えた通学帽子を開発・販売しており、学校関係者や子供たちからの評価は高い。さらに両社は、さらなる高い安全性と高断熱性付与による機能面の向上といったワンランク上の通学帽子を作るため、安全基準を満たし事故賠償のついた新しいインナーヘルメット製品制作で「SGマークの取得」を目指す。現行品のインナー素材は、80gと軽く頭頂部への耐衝撃性には優れるものの、前頭部・側頭部・後頭部への衝撃に弱く、また、現行の硬質プラスチック素材のままではSG基準をクリアできない。
そこで、ワエストロが得意とする軟質発泡ウレタン素材を活用したヘルメットインナーの開発に取り組んだ。プロジェクトは現状把握からスタートし、ウレタン材料の設計および処方組みからその物性評価、デザイン協議、CADデータ作成、3Dプリンターによる形状確認、金型製作と着実にステップを踏み、現行品とほぼ同重量のプロトタイプ成形品がが完成した。
すでに日本学校保健会を通じた全国4万校へのPRも行っており、今後はSGマーク申請と特許出願を進め、埼玉・東京・千葉・神奈川のPTA、教育委員会、学用品販売会社への働きかけを皮切りに、全国展開を目指す。さらに将来は小学生にとどまらず、年配者・幼稚園児・障害を持つ人・スポーツ愛好者など、幅広い層への展開も視野に入れている。
取材後記
今回紹介した3つの共創プロジェクトを通して印象的だったのは、異業種連携の価値がアイデアの組み合わせにとどまらず、具体的な突破口を生み出している点だ。例えば浜屋とI-S3の取り組みでは、中古太陽光パネルの品質問題を“検査”ではなく“運用”で解決するという発想の転換が示された。エアデジタルとシンコースポーツのプロジェクトでは、デジタル技術によって体力測定そのものを「楽しい体験」に変え、子どもの運動習慣に新しい可能性を提示している。そしてワエストロとピーカブーの協業では、素材技術とUV対策の知見が融合することで、通学帽子という身近な製品に安全性という新たな価値が加わった。企業が持つ強みが互いに補完されることで、社会課題の解決とビジネスの可能性が同時に立ち上がる。そのプロセスこそが、Canvasという共創の場の醍醐味なのだと感じた。
(編集:眞田幸剛、文:佐藤瑞恵、撮影:齊木恵太)