埼玉発・15の共創プロジェクトが集結!渋沢MIXオープンイノベーションプログラム『Canvas』デモデイレポート【#3】――マツダ、ロッテ、ミチが取り組んだ共創事業とは
埼玉県が主催する「渋沢MIXオープンイノベーションプログラム 『Canvas』」の成果発表会が、2026年3月6日・7日の2日間にわたって開催された。同プログラムは、埼玉県内外の企業同士が業種の壁を越えて組み合わさり、企業・社会課題を解決する新たなビジネスを共創することを目的としており、今年度は15件の共創プロジェクトが誕生した。
TOMORUBAでは、今回のデモデイで発表された全15プロジェクトを、全5回の記事に分けて紹介する。本記事はその第3弾として、マツダ×小山本家酒造、ロッテ×ペリカン石鹸、ミチ×インタナショナルゼネラルフーズの3プロジェクトをピックアップ。――各チームがどのような背景から共創に取り組み、どのような価値創出を目指しているのか。デモデイで披露されたピッチの内容とともに、その取り組みをレポートする。
【マツダ株式会社(ホスト企業) × 株式会社小山本家酒造(パートナー企業)】
発表タイトル 『発酵CO₂を回収・肥料化し酒米栽培へ循環する酒造モデルの開発』
▲左から:マツダ株式会社 清宮氏、株式会社小山本家酒造 岡田氏、マツダ株式会社 佐藤氏
乗用車の製造販売を行うマツダと、全国に6つの蔵を展開する県内有数の酒造メーカーの小山本家酒造は、酒造りの過程で発生するCO₂を回収し、農業に循環させる新たなモデルの開発に挑んだ。
世界的にカーボンニュートラルの実現が急務となる中、マツダは車の排出ガスからCO₂を回収する技術の実用化を進めている。一方の小山本家酒造は、清酒の醪(もろみ)を発酵させる過程で発生する高濃度のCO₂が、大気中に放出されていることに強い課題を抱えていた。両社は互いの技術と課題を結びつけ、発酵由来のCO₂を回収して肥料化し、農地への施肥に役立てる炭素循環エコシステムの構築を目指している。
プログラム期間中、両社は小山本家酒造の仕込みタンク(130kL相当)から排出されるCO₂の計測を実施した。その結果、発酵開始から約5日目をピークに仕込みタンク上部でほぼ100%の濃度のCO₂が計測され、20日間の発酵過程で約12トンものCO₂が発生することが判明した。
同社の試算によれば、1人の人間が日常生活で排出するCO₂の約1年分に相当するという。この大量のCO₂を気体のまま貯蔵・運搬するのは多大なエネルギーが必要で非効率なため、マツダは固体の吸収材を用いてCO₂を反応・吸収させる手法を提案した。
実証テストでは、排出されるCO₂をホースで吸収装置に引き込み、24時間後には理論上の最大吸収量のほぼ100%に達することを確認した。この吸収材1キログラムで、一升瓶約2本分の日本酒を製造する際に排出されるCO₂を回収できる計算となる。回収したCO₂の具体的な活用方法についても道筋をつけた。埼玉県内のパートナー企業と連携し、CO₂を含んだ吸収材に栄養素を加えることで「グリーン肥料」への転換が可能となった。
▲酒造の過程で発生したCO₂を回収し、水酸化カルシウムを介してグリーン肥料に転換する。
CO₂を含んだ吸収材1キログラムから約2キログラムの肥料を製造でき、従来品の約半分の栄養素で作ることができると分かっている。成長過程で稲が大気中のCO₂を吸収し、発酵時に排出されたCO₂を肥料として土壌へ戻す。こうした循環によって、大気中のCO₂を除去する仕組みが期待されている。
今後は、小山本家酒造が属するグループの全国6つの蔵や県内農地で実証を進め、カーボンニュートラルな新たな醸造ブランドの確立を目指す。将来的には、全国に1,000社以上あると言われる清酒業界や醸造業界全体へこの仕組みを横展開していく考えだ。一方のマツダは、CO₂を資源と捉え、モビリティがエネルギーや食、暮らしを繋げる次世代の循環型社会の形成と新たな産業創出に貢献していくと展望を語った。
【株式会社ロッテ(ホスト企業) × 株式会社ペリカン石鹸(パートナー企業)】
発表タイトル 『カカオ豆残渣(カカオハスク)の香りと繊維を活かしたアップサイクルのボディケア商品の開発』
▲左:株式会社ロッテ 佐藤氏、右:株式会社ペリカン石鹼 加茂氏
菓子メーカーのロッテと、埼玉県深谷市に工場を構えるペリカン石鹸は、チョコレートの製造過程で発生するカカオ豆の皮「カカオハスク」を活用したボディケア商品の開発を進めた。近年、カカオ豆の相場は急激に高騰しており、ここ2年で約4倍に達しているという。ロッテの浦和工場では、製造工程の初期段階で発生するカカオハスクが年間約700トンから800トンにのぼる。現在は主に飼料や肥料として利用されているものの、潜在的な価値を十分に活用しきれていないという課題があった。
これを受けロッテは食品以外の領域への展開に挑戦し、自社工場で企画から製造までを一括して行うペリカン石鹸をパートナーに迎えた。両社が開発を進めたのは、カカオハスクを配合した固形石鹸だ。ペリカン石鹸は固形石鹸の製造を得意としており、粉体であるカカオハスクを均一に練り込む技術を持つ。開発初期には、使用時にカカオハスクが目立ち排水時のトラブルになりかねない懸念があったが、埼玉県内の粉砕企業に依頼して微細な粉末にすることで解決した。
開発された石鹸は、ロッテのコーポレートメッセージにちなみ、お肌の相棒や恋人として幸せの循環を作る「Bean to Soap Bar」をコンセプトに掲げる。カカオハスクを10%配合するほか、ガーナ産シアバターや国産黒砂糖も加え、とろけるような泡でなめらかな素肌に洗い上げる。さらに、チョコレートのようなリッチな色合いのビジュアルや、甘すぎずリラックスできる本物のカカオの香りも特徴だ。立方体の形状に複数の刻印を入れるデザインを採用し、ギフト需要も見込んでいる。
▲カカオ豆残渣(カカオハスク)の香りと繊維を活かして開発された石鹸(写真右)。
今後は製品化に向けた検証を進め、年内の一般販売を目指す。現在はカカオハスクを粉末として練り込んでいるが、香りやポリフェノール成分の抽出技術の確立も進め、粉砕では沈殿してしまう液体石鹸などあらゆるラインナップへの展開を通じて、カカオハスクの使用量をさらに増やすアプローチも検討中だ。また、地域の資源循環を体現するプロダクトとして、学校教育の現場で活用するなど、幅広い展開も視野に入れている。
【株式会社ミチ(ホスト企業) × インタナショナルゼネラルフーズ株式会社(パートナー企業)】
発表タイトル 『犬とのアクティブな暮らしに向けた、パフォーマンスも健康も支える新たなスポーツドッグフード開発』
▲左:株式会社ミチ 中崎氏、右:インタナショナルゼネラルフーズ株式会社 楠田氏
犬と一緒に楽しむスポーツのコミュニティを運営するミチと、健康食品の受託製造を行うインタナショナルゼネラルフーズは、スポーツドッグ向けのエナジージェル「WAN BREAK」の共同開発に取り組んだ。
近年、愛犬と共に野山を走るカニクロスなど、愛犬とアクティブに楽しむ層が拡大している。ミチが主催する大会の参加者も年々増加傾向にあるが、長時間の運動時に適した犬用の補給食は市場に少なく、既存のものは添加物が含まれるなど健康面での懸念があった。この状況を鑑み、犬の安全と健康を支える新たな仕組みとして、無添加で栄養価の高いドッグフードの開発が急務となっていた。
パートナーとなったインタナショナルゼネラルフーズは、埼玉県飯能市で発生する鹿の獣害対策として、NPOを通じた捕獲・解体事業も手がけている。年間約40トン捕獲される鹿のうち、利活用されているのは一部に留まる。こうした未利用資源である鹿の内臓肉に目を向け、高いレトルト技術を用いて無添加の犬用ジェルを開発した。
▲両社で開発したスポーツドッグ向けのエナジージェル「WAN BREAK」。
鹿の内臓肉は、運動後の回復や持久力向上に必要な成分を豊富に含み、犬の本能を刺激して食いつきが良いという特長がある。さらに関節ケアに効果的な「緑イ貝」も配合し、日本獣医生命科学大学の教授から学術的な助言を得て成分バランスを最適化した。
プログラム期間中、ミチが主催する大会で試作品を配布し、フィールド実証を実施した。アンケート結果では80%以上が「食いつきが良い」と回答し、75%以上が「運動後の回復促進」に期待を寄せた。飼い主からは「持ち運びしやすい」「動物性タンパク質が主原料で抵抗感が少ない」など高く評価されている。
本プロジェクトは、犬の健康を支える新たな市場を創出するだけでなく、地域で廃棄される資源を活用することで農林業従事者を支援する地域課題解決のモデルでもある。今後は製品のブラッシュアップを重ね、コミュニティを起点に全国への普及を図り、2026年10月の正式な製品化を目指す。
取材後記
今回取り上げた3つのプロジェクトは、いずれも未利用資源や排出物を新たな価値へと転換する、サーキュラーエコノミーを体現する取り組みだった。酒造過程の発酵CO₂を農業用肥料へ循環させるマツダと小山本家酒造、大量に発生するカカオハスクをリッチなボディケア商品へ昇華させたロッテとペリカン石鹸、獣害対策で捕獲された鹿の内臓肉を活用しスポーツドッグ向けの補給食を生み出したミチとインタナショナルゼネラルフーズ。一見交わることのない異業種同士が、互いの課題と技術を掛け合わせることで、地域内で完結する資源循環モデルを提示した。これらの共創が社会実装され、新たな産業のスタンダードとして全国へ波及していく未来に強く期待したい。
(編集:眞田幸剛、文:中谷藤士、撮影:齊木恵太)