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【ICTスタートアップリーグ特集 #27:イリスコミュニケーション】視力・色彩・明るさの3要素を1つのレンズで補助できる「IRISHUE」を、世界中に広めていくために必要なものとは

【ICTスタートアップリーグ特集 #27:イリスコミュニケーション】視力・色彩・明るさの3要素を1つのレンズで補助できる「IRISHUE」を、世界中に広めていくために必要なものとは

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2023年度から始動した、総務省によるスタートアップ支援事業を契機とした官民一体の取り組み『ICTスタートアップリーグ』。これは、総務省とスタートアップに知見のある有識者、企業、団体などの民間が一体となり、ICT分野におけるスタートアップの起業と成長に必要な「支援」と「共創の場」を提供するプログラムだ。

このプログラムでは総務省事業による研究開発費の支援や伴走支援に加え、メディアとも連携を行い、スタートアップを応援する人を増やすことで、事業の成長加速と地域活性にもつなげるエコシステムとしても展開していく。

そこでTOMORUBAでは、ICTスタートアップリーグの採択スタートアップにフォーカスした特集記事を掲載している。今回は、色覚特性を簡単かつ定量的に測定できる世界初のシステムを開発し、すべての人が心地よい明るさで色彩豊かな世界を見るためのレンズ「IRISHUE(イリスヒュー)」をオーダーメイドで提供するイリスコミュニケーション株式会社を取り上げる。

同社の起業背景やプロダクトの独自性、ICTスタートアップリーグで実現したいこと、今後の事業の展望などについて、CTO/R&Dディレクターの小川雅嗣氏、涌田明夫氏の両名に話を聞いた。

【写真右】イリスコミュニケーション株式会社 最高技術責任者(CTO) R&Dディレクター 小川雅嗣氏

【写真左】イリスコミュニケーション株式会社 涌田明夫氏

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<スタートアップ解説員の「ココに注目!」>

■写真右/眞田幸剛(株式会社eiicon TOMORUBA編集長)

・東北大学の名誉教授として、脳科学・生体科学・情報処理・制御の知見を統合した独自の研究を続けている矢野雅文氏のもと、2014年に設立された研究開発型ベンチャーです。

・同社は世界で初めて人それぞれの明るさ感度を測定できるシステムを開発し、その人に合わせた視力・色彩・明るさの3要素すべてを補助する機能を1つのレンズに集約することに成功。現在はアーレン症候群(光過敏症)や色覚多様性(色弱)に悩む人々に対し、オーダーメイドのレンズ「IRISHUE」を提供しています。

・2022年10月には、「IRISHUE」を作るための測定とメガネの販売を行う店舗を東京・神田にオープン。今回のICTスタートアップリーグを契機にMMI(マン・マシン・インタフェース)の開発や、VRゴーグルとクラウドを活用した遠隔測定システムの構築を目指すなど、今後の事業成長に期待が持てるスタートアップです!

脳の適応メカニズムに関する共同研究から「IRISHUE」につながるシーズが生まれた

ーーまずは事業を始めることになったきっかけについて教えてください。

小川氏 : 私がICT企業の研究員を務めていた頃、脳の適応メカニズムに関する共同研究で東北大学の教授だった矢野と出会いました。研究の主テーマとしては、デフォルメした形状から詳細形状までの適応的な認識、ぬかるみでも転ばない適用的な歩行など、人間が普段から意識せずに行っているような認識・制御の適応メカニズムのICT領域への応用を目指していました。

その共同研究を進める過程で、私たちは人間が色や形を認識する仕組みの基礎研究を行っていたのですが、あるとき矢野が「これだ」という理論を完成させたのです。そして、この研究成果と矢野の理論を応用することで、アーレン症候群(光過敏症)や色弱に悩む多くの人たちの課題を解決できる可能性があることもわかったのです。

ーー企業の共同研究から生まれた理論・技術だったのですね。

小川氏 : きっかけとしてはそうですね。ただ、アーレン症候群や色弱の方々の課題を解決するためには、研究の理論を応用してサングラスのような器具やディスプレイを開発する必要があり、研究を主導していたICT企業の事業の方向性と合わなかったため、結局事業化は見送りました。

しかし、矢野の見出した理論をベースに「視覚弱者の方々に貢献する」というアイデア自体は、社会貢献性の高い事業に発展する可能性があり、十分に取り組む価値があると考えていました。そのため私たちは、2014年にイリスコミュニケーションを立ち上げ、事業化に向けてのさらなる研究をスタートしました。

ーー起業から現在までの取り組みについてもお聞かせいただけますか?

小川氏 : 助成金や補助金を活用しながら長い時間を掛けて研究開発を続けてきました。その間、特許出願なども併せて進めてきましたが、ようやく測定システムが完成し、製品として世に出せる感触が得られたため、2022年10月に、一人ひとりの明るさの感じ方や色の見え方に合ったメガネを提供する店舗を立ち上げました。

以降は、この東京・神田の店舗をサロン的に活用することで、当社の開発した「IRISHUE」を、多くの人たちに認知いただくための活動に取り組んでいます。

▲本インタビューも、東京・神田の店舗内で実施した。

アーレン症候群や色弱に悩む人々の課題を解決する「IRISHUE」の特徴

ーーイリスコミュニケーションが開発・提供している「IRISHUE」の特徴や独自性について教えてください。

小川氏 : これまでの常識で言えば、視力の補正はメガネ、明るさの調節はサングラス、色味の調整はカラーグラスといった具合に、それぞれ別の器具を使って補正・調整を行う必要がありました。

当社の「IRISHUE」は、「人間が視力や色、明るさをどのように認識しているのか」という矢野の研究をベースに独自開発したシステムでありレンズです。視力・明るさ・色について総合的に測定するシステムを活用することで、一つのレンズだけですべての補正・調整を行うことができます。

状況に応じてメガネやサングラス、カラーグラスを掛け替える必要がなくなるなど、アーレン症候群や色弱に悩む方々の課題解決に貢献できる製品であると自負しています。

ーー現状、アーレン症候群の方々はどのような課題・悩みを抱えているのでしょうか?

小川氏 : アーレン症候群は「光過敏症」とも呼ばれており、普通の人よりも光を眩しく感じてしまう症状です。そのため明るいところが苦手であり、暗いところばかりで生活してしまう傾向があります。また、文字が揺れて見えるシェイキー現象、文字が回転して見える回転現象に悩まされる人も多く、通常の学力があっても学習障害と診断されたり、ADHDと誤診されたりする人も少なくありません。

アーレン症候群は病気ではないため、普通の病院では診断が難しく、さまざまな病院をぐるぐると巡った挙句、ようやく「自分はアーレン症候群なんだ」と気付く人も多いのです。

ーー色弱の方々の課題・悩みについても教えてください。

小川氏 : 色弱については、日常生活を送る上でそこまで不便ではないのですが、特定の職業や学校の試験で制約を受ける場合があります。たとえば芸術系の大学の試験では色彩に関する試験・検査があり、それをクリアしなければ入学できないケースもあります。また、薬剤師やパイロットなどの職業になりたい方も制限を受けてしまいます。

アーレン症候群や色弱の方々が抱えている課題を「IRISHUE」で解決することができれば、そのような症状に悩まされている人々の生活をより豊かにできますし、芸術分野などでは埋もれていた新たな才能がどんどん出てくると考えています。

VRゴーグルとクラウドが「IRISHUE」をグロースさせるキーになる

ーー今回のICTスタートアップリーグを通じ、どのようなイノベーションを実現したいと考えていますか?

小川氏 : ICTスタートアップリーグで実現したいことは2つあります。1つはMMI(マン・マシン・インタフェース)の開発。もう1つは「IRISHUE」をさらにスケールさせるための環境構築です。

まずは1つ目のMMIについて説明します。現状では視力・明るさ・色を補正・調整するレンズを入れたメガネ・サングラスのような器具を提供していますが、当社の測定システムの結果に合わせて、その人が見やすい色味や明るさで映像・画像を映し出すディスプレイを開発したいと考えています。

2つ目の環境構築ですが、現在当社の店舗では、視力・明るさ・色の測定を行うために暗室と業務用有機ELディスプレイを使った検査を行っています。現状のやり方のままで「IRISHUE」を広めていくとなると、一般のメガネ店さんにも暗室を作っていただき、業務用有機ELディスプレイを置いていただく必要がでてきます。しかし、これらを用意するには多額のコストが掛かってしまいます。多くのメガネ店さんが二の足を踏んでしまうことは間違いありません。

ーーコストが掛からざるを得ない環境を変えるためには、何が必要になるのでしょうか?

小川氏 : 私たちは、暗室と業務用有機ELディスプレイの代わりになるデバイスとしてVRゴーグルを検討しています。被験者にVRゴーグルを掛けてもらうことで暗室が不要になりますし、VRゴーグルはディスプレイの役割も担えます。

さらに当社開発の特殊な測定システムをクラウドで提供できるような環境(遠隔測定システム)が整えば、日本国内だけでなく世界中に「IRISHUE」を広め、スケールさせていくことができると考えています。

▲写真右手にある個室に測定システムが設置されている。測定時は扉を閉め、暗室の状態で検査を実施する。

ICT事業で集めたビックデータを社会に還元していきたい

ーー今後の中長期的な事業展望について教えていただけますか?

小川氏 : 今回のICTスタートアップリーグを経て、クラウドによる遠隔測定システムが完成し、「IRISHUE」が順調にスケールしていけば、各所から得られる膨大なデータを一元的に蓄積できるようになります。そうすれば統計処理もできるようになるし、AIを使った解析もできるようになるなど、私たちの事業のフェーズも大きく変わっていくと考えています。

たとえば当社のようなICT領域の企業が事業をやりながら唯一無二のデータを集め社会に還元できれば、研究開発も進み、またレンズ業界から新しいレンズ、ディスプレイ業界からは新しいMMIが生まれたりと、様々な業界でイノベーションが起こるのではないでしょうか。単純にデータを集めるだけではなく、多くの人にとって価値のある活用方法を見極めながら事業を進めていきたいですね。

涌田氏 : 実際に「IRISHUE」を使ったことで「生活が変わった」「感動した」というユーザーの皆様の声もたくさんいただいているので、これからの事業展開に関しても絶対に成功させたいという強い気持ちで臨んでいます。将来性はもちろん、社会貢献性も非常に高い事業なので、今後も高いモチベーションを持って取り組んでいきたいです。

取材後記

小川氏の話によれば、アーレン症候群や色弱で悩まされている人々の数は想像以上に多いという。同社の「IRISHUE」は、そのような人々の暮らしを豊かにする社会貢献性の高いイノベーションであり、一人ひとりの個性と多様性の尊重を目指す現代社会の潮流にもマッチしている。

インタビューにもあった通り、同社は東京・神田に実店舗を構えている。同社の事業や「IRISHUE」に興味を持たれた方は、ぜひ店舗に足を運ばれてみてはいかがだろうか。

※ICTスタートアップリーグの特集ページはコチラをご覧ください。

(編集:眞田幸剛、文:佐藤直己、撮影:加藤武俊)

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  • 奥田文祥

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2023年度から始動した、総務省によるスタートアップ支援事業を契機とした官民一体の取り組み『ICTスタートアップリーグ』。これは、総務省とスタートアップに知見のある有識者、企業、団体などの民間が一体となり、ICT分野におけるスタートアップの起業と成長に必要な「支援」と「競争の場」を提供するプログラムです。TOMORUBAではICTスタートアップリーグに参加しているスタートアップ各社の事業や取り組みを特集していきます。