【ICTスタートアップリーグ特集 #37:a42】ブロックチェーンを用いたスマートロックの魅力とは。a42が起こすイノベーションに迫る
2023年度から始動した、総務省によるスタートアップ支援事業を契機とした官民一体の取り組み『ICTスタートアップリーグ』。これは、総務省とスタートアップに知見のある有識者、企業、団体などの民間が一体となり、ICT分野におけるスタートアップの起業と成長に必要な「支援」と「共創の場」を提供するプログラムだ。
このプログラムでは総務省事業による研究開発費の支援や伴走支援に加え、メディアとも連携を行い、スタートアップを応援する人を増やすことで、事業の成長加速と地域活性にもつなげるエコシステムとしても展開していく。
そこでTOMORUBAでは、ICTスタートアップリーグの採択スタートアップにフォーカスした特集記事を掲載している。今回は、実世界におけるブロックチェーン技術の利活用に関する研究開発を行うa42株式会社を取り上げる。現在、ブロックチェーン技術を用いたスマートロックシステムを提供する同社の有する強みや今後の事業の展望について、代表取締役の橘氏に話を聞いた。
▲a42株式会社 代表取締役 橘 博之 氏
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<スタートアップ解説員の「ココに注目!」>
■鈴木光平(株式会社eiicon TOMORUBA編集部)
・代表の橘氏は、大学卒業後、バックエンドエンジニアとして複数の大規模ゲームタイトルの開発に従事。その後ブロックチェーン技術に出会い、a42株式会社の創業を決意。同社はブロックチェーン技術と IoT 技術の組み合わせを通じて、実世界におけるブロックチェーン技術の利活用に関する研究開発を進めています。
・a42は2022年8月、NFT がカギになる Web3 スマートロックシステム「wΞlock」(読み「ウィーロック」)を発表しました。「wΞlock」 は、Web3 ウォレットによるユーザ認証と、ブロックチェーン上の NFT 所有権を確認することで、特定の NFT 所有者にのみスマートロックの操作を許可することが可能です。これにより、NFT 所有者のみが入場できるイベント会場や宿泊施設・コワーキングスペースなど、NFT をチケットや会員証として活用する際に、ユーザの認証および入退場を簡単に自動化することができます。
ブロックチェーン技術に可能性を感じ、起業を決意
ーーまずは起業までの経緯を聞かせてください。
橘氏 : 大学の先輩であり共同創業者の守屋に、たった数行のコードを書くだけで、信頼する第三者を必要とせずに人々が価値があると認識しているトークン等を誰かに送ることができるブロックチェーン技術に感動しました。
当時はエンジニアとして働いていたのですが、ブロックチェーンが世界を変える技術になると思い、守屋と私の2人でa42を起業したのです。創業当初は具体的な事業プランがあったわけではありませんが、企業や学術機関と共同研究をしながらブロックチェーンの可能性を探っていこうと考えていました。
ーー現在はどのような方針でサービスを展開しようと思っているのでしょうか。
橘氏 : 私たちはリアルの世界におけるブロックチェーンの活用方法を考えています。ブロックチェーンと聞くと、デバイスの中で使うものだと思っている方も多いですが、実世界の中でも活用できるシーンはたくさんあります。
たとえば私たちはIoT 関連のプロダクトを開発していた経緯があるため、IoT 機器とブロックチェーン技術を組み合わせるプロダクトを作成することで、実世界でのブロックチェーン技術の利活用を推進しようとしています。
ーー現実世界でブロックチェーンを使うメリットを教えてください。
橘氏 : ブロックチェーン技術は、分散型台帳技術として、データの不変性や透明性を保証する基盤を提供します。私たちが開発しているスマートロック「wΞlock」は、それらの特性を活用して、セキュリティと信頼性を高めながら開発を行っています。
例えば、スマートロック事業者の認証サーバがダウンしてしまったり、DB のデータが消えてしまうと、ユーザは鍵の操作ができなくなってしまいますが、それらをブロックチェーン上で管理していれば、基本的にそういった心配をする必要はなくなります。
ブロックチェーンを活用することで、ライブや映画のチケットをデジタルトークンとして簡単に発行できます。例えば、ERC721などの非代替性トークン(NFT)規格を使用することにより、各チケットをユニークなデジタルアセットとして管理することが可能です。
チケットの発行だけでなく、所有権の移転や譲渡がスマートコントラクトを通じて透明かつ安全に行えるようになります。すでに標準化された規格のため、開発期間やコスト削減にも寄与します。
▲「wΞlock」を活用したスマートロックシステムのイメージ(画像出典:ICTスタートアップリーグ「a42」ページより)
「ウォレット」と「ユースケース」。サービスを広げるために乗り越えるべき壁とは
ーー現在の事業フェーズを聞かせてください。
橘氏 : 自社サービスもできたので、これから本格的に広げていくフェーズです。その際の課題は2つあって、一つはウォレットです。ブロックチェーンサービスを使うにはウォレットが必要になりますが、ユーザーにそれをインストールしてもらうのがハードルになります。
その解決のために、私たちが開発しているのがマイナンバーカードそのものがウォレットになるサービス「マイナウォレット」です。新たにウォレットをインストールする手間を省けるため、ブロックチェーンの普及に貢献できると思います。
ーーもう一つはどのような課題を感じているのでしょうか?
橘氏 : もう一つはユースケースが足りないことです。そもそも、企業が新しいサービスを考えたりする時に「ブロックチェーンを使おう」となかなか思ってもらえません。まだまだブロックチェーンを使ったサービスが少ないため、ブロックチェーンで何ができるのか知られていないのです。
ブロックチェーンのメリットを知ってもらうためにも、ユースケースを増やしていかなければなりません。そのために様々な企業と連携しながら実験をしており、たとえば去年はブロックチェーン関連の仕事をしている人たちが集まる飲食店に採用していただきました。
会員権が NFT として発行されるお店で、「wΞlock」 を活用し年間会員権の NFT を持っている人だけが開けることができるお酒のボックスを設置しました。
ーー企業に対して、ブロックチェーンのどんな機能を訴求していきたいか聞かせてください。
橘氏 : ブロックチェーンのコンポーサビリティは、企業間の連携を容易にします。これにより、他の事業者との協業がしやすくなります。従来の技術を使用してサービス間で連携を図る場合、一般的にはAPIを介してデータのやり取りを行う必要があります。APIを介することで、異なるシステム間で機能やデータを共有することが可能になりますが、これにはセキュリティポリシーの調整、アクセス制御の設定、そして相互運用性の確保など、複数のステップが必要です。
一方、ブロックチェーン技術を活用することで、スマートコントラクトを通じてスムースな企業間での取引、連携を実現できます。ブロックチェーン上に公開されたスマートコントラクトは、事前に定義された条件に基づいて処理が実行されるためです。
鍵を使う会社と組んで事業を広げていきたい
ーー今後はどのような企業と組んで事業を展開していきたいか聞かせてください。
橘氏 : 現在はスマートロック事業を展開しているため、鍵メーカーや日常的に鍵を使うような事業者と組みたいと思っています。たとえば不動産では、内見のために鍵を使うはずなので、ぜひ私たちのスマートロックを体験してほしいですね。
また、地方自治体との連携も強化していきたいと思っています。たとえば、自治体が自治体独自の商品券やポイントなどを配布するのに非常にコストがかかっていますが、それらもブロックチェーン技術を活用することでもっとスマートに実現できるはずです。
特に自治体でブロックチェーンを使うとなると、幅広い年齢層の住民の方々にウォレットをインストールしてもらわなければなりませんが、それはとてもハードルが高いでしょう。実際に地域でDAOを組成した自治体では、高齢者の方々にウォレットをインストールしてもらうために、毎日のように説明会をしていたと聞きます。
私たちが開発している「マイナウォレット」を使うとマイナンバーカード自体がウォレットになり、そもそもブロックチェーンを意識する必要がなくなるため、導入ハードルも下げられると思います。
ーー最後に、今後のビジョンを聞かせてください。
橘氏 : 誰もが気づかずにブロックチェーンを利用している世界を作っていきたいと思っています。ブロックチェーンにはすごい可能性があるので、それを様々な企業に気づいてもらい、多様なサービスを展開してもらいたいです。
特に日本は、マイナンバーカードをおよそ1億人もの人が持っている稀有な国であり、私たちはそれをウォレットにする技術を持っています。まずは日本で私たちの技術を普及させることで、ブロックチェーン先進国にしたいと思っています。
取材後記
仮想通貨のイメージが強いものの、実は様々なサービスに汎用的に活用できるブロックチェーン技術。複雑で手を出しづらいと思っている方も多いと思うが、もしもマイナンバーカードさえあれば利用できるとしたらどうだろう。
ユーザーの心理的ハードルが下がれば、導入する企業も増え、より便利なサービスが生まれてくるはずだ。スマートロックに限らず、ブロックチェーンの普及にa42がどんな関わりをしていくのかこれから楽しみだ。
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(編集:眞田幸剛、文:鈴木光平)