第4期のテーマは「ロボット×自働化」「住民×自治体連携」――共創による事業創造を加速するデンソーのオープンイノベーションプログラム始動。
1949年の設立から一貫して、新たなモビリティの価値を提供し続けてきた株式会社デンソー。同社では、モビリティ以外の分野での価値提供を目指したオープンイノベーションプロジェクト『DENSO OPEN INNOVATION PROJECT』を実施している。これまで3期にわたり行われた同プログラムは、第4期の募集が開始された。<応募締め切りは10/29(日)>
第4期の募集テーマは、「①ロボット×自働化」と「②住民×自治体連携」の二つとなる。「ロボット×自働化」では、デンソーがこれまで培ったモノづくりのノウハウから生まれた自働化ロボットパッケージ「DX-CELL」により、人とロボットが協働する世の中を目指す。「住民×自治体連携」では、既に全国70を超える自治体に導入されている地域情報配信システム「ライフビジョン」を活用した共創パートナーを募集する。
今回TOMORUBAでは、「ロボット×自働化」のテーマオーナーである池田氏・佐藤氏、そして「住民×自治体連携」のテーマオーナーである冨田氏・廣田氏・鬼頭氏に、それぞれの事業内容や共創イメージ、パートナーに提供できるリソースやアセットなどについて話を聞いた。
【募集テーマ①】 ロボット×自働化 「DX-CELL」
●デンソーならではの「DX-CELL」で、人間とロボットが協働する社会を目指す
――まずは、DX-CELLとは何か、お聞かせください。
池田氏 : デンソーはこれまで40年ほど、様々な工場の中でロボットを活用し、その中で得られたノウハウをデンソーの外で活用するという活動を進めています。
そのままデンソー以外の工場でノウハウを活用するという活動がある一方で、私たちが目指すロボットの姿は、社会の中で人と共に働くロボットとしての活用です。ソフトウエアで知能化させて、ロボットが人を支援することで、より人の可能性を広げていく、そうした社会づくりをしていくことが、DX-CELLのミッションです。
▲株式会社デンソー クラウドサービス開発部 ビジネスイノベーション室 自働化イノベーション課長 池田 光邦 氏
佐藤氏 : デンソーの強みは、高品質なものづくりや、お客様のニーズに寄り添った提案力、そして高度な実現力です。DX-CELLでは、その強みをもとにロボットを社会に実装し、新たな価値を生み出していくことを目指しています。まだ立ち上がったばかりの取り組みですが、既にマッチングした企業とディスカッションをスタートしています。
▲株式会社デンソー クラウドサービス開発部 ビジネスイノベーション室 自働化イノベーション課 担当係長 佐藤 正健 氏
――DX-CELLは、具体的にどのようなことができるのでしょうか。
佐藤氏 : ロボットアームなので、モノを掴んで運んだり、アームの先端を場面に合わせて変えることでモノを組み立てたり、カメラでモノを撮影して様々な角度から検証したりなど、人が手で何か作業をすることを代替できます。
池田氏 : ひとつ注意していただきたいのは、あくまでロボットアームとしての機能であり、ヒューマノイドではないため、人が出来る全ての動作が出来るというわけではありません。疲れない、24時間稼働できるといったロボットが持つ特徴を踏まえたうえで、一緒に活用シーンを考えていきたいと思います。
――池田さん、佐藤さんは、それぞれどのような役割を担っていらっしゃいますか?
池田氏 : 私はFA事業部の出身で、生産設備ロボットなどを使って工場で大量生産する生産ラインを作っていました。その知識や知見を活かして取り組みを進めています。
佐藤氏 : 私はロボットを社会実装する活動を進める中で、そのロボットを使うことにより価値を見出してくれるお客様の発見を担っています。これまで私たちは工場の中をずっと見ていましたが、社会にはロボットが活躍できる領域がたくさんあると思います。例えば食器の片づけなど、そんなに楽しくはないけれど日々やらなければならない仕事をロボットに代替してもらうことができるかもしれません。そういったところを、いろんな方とお話をしながら探索しています。
●一次産業、外食、サービス業など、活用の可能性が広がる
――共創で実現したいことについてお聞かせください。
佐藤氏 : DX-CELLは、単純に人の代わりにロボットが動くということではなく、人とロボットが一緒に働く社会を目指しているという話をしました。例えばコーヒーショップをイメージして具体的な事例をお話しすると、コーヒーを入れることを極めたい人や、商品のディスプレイを極めたい人はそこに集中して、それ以外の仕事はロボットに任せる、そういう使われ方ができればいいなと考えています。
これまで人だけではなかなか手が回らず、新しい価値を生み出せないことがあったかもしれません。コーヒーならば、豆の種類、挽き方、抽出方法や温度など様々な要素をロボットがサポートすることで、その日の環境やお客様一人ひとりに合わせるということを人が担うことが出来るようになる。その結果としてコーヒーに新たな価値を加えて提供できる可能性があります。ただ、これをロボットで全部自働化してしまうと、結局自販機とあまり変わらないでしょう。そこは人が提供するということがやはり重要で、人と人とがコミュニケーションをとる中で、ロボットがその周辺を支援して新たな価値を創出するということを、共創パートナーの方々と生み出していきたいです。
今回の活動を通じて、パートナーの皆様が本当に価値を創出する仕事に専念できるよう、私たちも単にロボットを提供するだけではなく現場の中に一緒に入りながら、そこに合致したものを作り上げていきたいと考えています。
▲人の作業を代替することを目的に設計されたロボットパッケージ、「DX-CELL」。
――例として挙げていただいたコーヒーショップなど飲食業界以外にも、イメージしているターゲット領域があれば教えてください。
佐藤氏 : 農業・畜産・漁業といった一次産業もそうですし、ホテル業界などサービス業も人の作業をロボットが支援できる部分があると思います。また、エンターテインメント領域など、ロボットが裏方として働き、人が表に出て活躍するということもできるのではないかと考えています。
池田氏 : 現時点では、立ち作業が必要な領域で人の代替ができると思います。例えばお皿を洗ったり、片づけたり組み立てたりなど、立ち作業という視点からアプローチすると、いろいろな業界に導入できるのではないかと思います。
●ロボットをより身近に、そして人が働きやすい世界を共に創りたい
――提供できるリソースと活用ポイントについてお聞かせください。
佐藤氏 : 私たちはこれまで、DX-CELLを使って工場でモノづくりをしてきました。その自働化のノウハウ、モノづくりに活用してきたアプリやシステムなどを応用して、現場の自働化などの課題解決につなげていくことができると考えています。
私たちは工場の製造現場と常に連携しています。我々がパートナーさんの側に立つことで、柔軟に製造現場のノウハウを提供することができると考えています。これまでロボットを扱ったことのない方々は、ロボットで具体的にどのようなことができるのか、イメージすることが難しいかもしれません。そこを、私たちが工場のなかで使いこなしているロボットをベースに、知識ノウハウを提供することで、一緒に考えながら新たな価値を創出していきたいと思います。
――DX-CELLの実機を見学することはできますか?
佐藤氏 : はい、可能です。まずお話を頂けたら、ディスカッションを通じて共創活動の方向性を確認し、その上で弊社の工場を案内し、実際にロボットが作業している様子を見ていただきます。実際にモノを見ながらディスカッションすることが重要だと考えています。
――最後に、応募企業に向けたメッセージをお願いします。
佐藤氏 : まだ立ち上がったばかりの取り組みで、実際ロボットでどこまでできるのか、私たちにも未知数です。ただ、それだけ可能性は大きく、ロボットがより身近になり、より人が働きやすい社会を作ることができたらと思い、活動を進めています。
デンソーの名前があると、「何もしなくてもデンソーが課題を解決してくれるのでは」と期待されることがあります。しかし、この取り組みで求めているのは、あくまで一緒にビジネスを進めていただける共創パートナーの存在です。共に課題に向き合い、この半年ほどで何か事例を作っていきたいですね。
池田氏 : ロボットの活用や普及においては、様々なシーンが考えられると思います。私たちデンソーは工場の中でいろんなアセットやリソースは持っているのですが、活用アイデアを考えるのには限界があります。どのような活用ができるのか、フィールドをご提案いただければ、ぜひ喜んでいろいろなものを提供したいので、一緒に共創していただけるパートナー様を歓迎します。ぜひよろしくお願いします。
【募集テーマ②】 住民×自治体連携 「ライフビジョン」
●全国72の自治体に広がり、地域の暮らしをよりよくする「ライフビジョン」
――ライフビジョンの事業内容についてお聞かせください。
冨田氏 : 私たちは、住民の方への情報配信を行うプラットフォーム「ライフビジョン」を、自治体様向けに提供しています。自治体から行政情報や災害情報のような緊急の情報をリアルタイムに配信し、住民の方はタブレットやスマートフォンアプリでその情報を受け取ることができるサービスです。2023年6月末時点で、72自治体様に導入いただいています。
そのなかで、各自治体様のご要望に応じてITサービスを加えて提供しています。防災に限らず見守りのような福祉分野、様々な行政手続きを行う窓口としての機能、それからデマンド交通といったモビリティサービスの予約など、自治体様に合わせた形にカスタマイズしています。
今後の取り組みとしては、2つ考えています。ひとつが、現状のライフビジョン事業の維持発展ということで、住民様向けのサービスを拡充していきます。もうひとつが、自治体職員の方々の業務負荷低減、業務効率の向上を目的とした業務支援サービスです。そこでは4分野、防災、モビリティ、行政DX、高齢者福祉を重点領域として事業を進めようとしています。
▲株式会社デンソー 自動車&ライフソリューション部 地域ITサービス事業室 企画開発課長 冨田大輔 氏
――どのような自治体に導入が進んでいますか?
冨田氏 : 以前は小規模の市町様への導入が多かったのですが、最近は鹿児島県霧島市様、兵庫県尼崎市様、神奈川県小田原市様など、人口10万人を超える規模の自治体様でも導入が進んでいます。ご利用いただいている自治体様の幅が広がっていると感じています。
――ライフビジョンのどのようなところが支持されているのでしょうか。
冨田氏 : 住民向けの公共サービスでは、誰もが等しくサービスを受けられるという公平性が重要になります。 私たちは誰でも使えるITサービスにしたいという想いから、 当初よりUI/UXに強いこだわりを持ってライフビジョンを開発してきました。そのため、一部の人だけではなく、高齢者の方を含めたすべての方にとって使いやすいという特徴があります。
そこに加えて最近は行政サービスの広がりが重要になっています。行政DXやデジタル田園都市国家構想などにより、誰もがITサービスを使えるような環境が求められています。ライフビジョンはITリテラシーが高くない方でも、ITサービスが享受できるプラットフォームであることから、多くの自治体様にご評価いただいているのだと思います。
▲京都府伊根町で導入しているライフビジョン=「いねばん」。高齢者でも使いやすいUI/UXになっている。
●防災、モビリティ、行政DX、高齢者福祉を重点4分野に
――これまでの共創で、具体的な事例をお聞かせください。
廣田氏 : 霧島市様にて、三井住友海上様と共創した防災ダッシュボードの実証実験を進めています。これは霧島市様の防災に対する課題とマッチしたサービスであり、成果が上がってきています。
もともと、防災ダッシュボードは三井住友海上様が開発していましたが、住民からの情報を収集する機能がないという課題をお持ちでした。デンソー側ではライフビジョンを通して住民からの情報収集はできていたのですが、それを一括表示する機能はありませんでした。そうした双方の課題が合致したことから、始まった共創事例です。
▲株式会社デンソー 自動車&ライフソリューション部 地域ITサービス事業室 企画開発課 担当係長 廣田和成 氏
――今回の共創によって実現していきたいことをお話しください。
廣田氏 : 第1期から3期までは、主に防災分野での成果が上がってきています。今後は防災だけではなく、重点領域の他3分野、モビリティ、行政DX、高齢者福祉において、ライフビジョンを核としながら様々な行政サービスにつながるような共創をしていきたいです。
一方、従来から私たちは自治体様向けにライフビジョンを提供していましたが、それだけではなく公共サービス周辺の民間向けサービスとして拡張していくことも面白いと考えています。
冨田氏 : また、最近ライフビジョン事業の「ミッション・ビジョン・バリュー」を策定しました。ミッションは「住民一人ひとりの暮らしを守りながら、持続可能で豊かな地域づくりに貢献する」。ビジョンは「自治体や住民同士のつながりを生み出し、社会課題に地域とともに取り組み、ずっと安心して住み続けられる豊かな地域づくりを支える」。バリューが「自治体、住民、デンソー、パートナー企業の“四方よし”を徹底追及する」「オープンマインドを大切にする」「失敗を恐れずにチャレンジし続ける」「お互い共感し、相手に誠実である」です。
特にオープンイノベーションにおいては、バリューで述べている意識が重要です。ぜひ、パートナー企業様とも共感し合いながら進めていきたいと考えています。
●自治体との信頼関係に裏打ちされた豊富な実証フィールドが魅力
――共創相手として、どのような企業をイメージしていますか?
廣田氏 : 既にソリューションをお持ちの企業であれば、共創を進めやすいと思います。特に、先ほどの4分野、防災・モビリティ・行政DX・高齢者福祉に対する課題を解決できるソリューションをお持ちの企業と共創したいですね。
企業規模にこだわりはありません。先に申し上げた三井住友海上様の防災ダッシュボードの共創もありますし、アーリーステージにある社団法人ピースライブ様との共創も進んでいます。こちらは、アーティストさんを通して行政情報を伝えるなど、自治体をアーティストさんの活動フィールドにしていただくような取り組みです。
――共創におけるリソースと活用ポイントについてお聞かせください。
鬼頭氏 : まず、ライフビジョンは72の自治体様に導入いただいており、豊富な実証フィールドがあります。さらに、深く入り込んでいるからこその信頼関係や、予算申請や入札など自治体様の動きを熟知しているからこその独自のサービス提供ノウハウも強みです。
▲株式会社デンソー 自動車&ライフソリューション部 地域ITサービス事業室 企画開発課 鬼頭憲司 氏
――今お話しいただいたリソースを活用して進んでいる事例はありますか?
鬼頭氏 : 健康体操のコンテンツを制作しているパートナー企業様との共創では、3つの自治体様で実証実験を行いました。コンテンツを配信し、実際に住民の方がどのくらい利用しているのか、ライフビジョンの操作ログを取ってコンテンツの利用率等のデータを集計し、評価しました。また、住民の方にアンケートを実施し、意識調査や利用前後の変化等の定性評価や、自治体の担当者様から実証結果に対するヒアリングを行うこともできました。この実証を通して、サービスのニーズ検証をするにあたって、「自治体や住民の生の声」という有意義な情報を獲得することができ、パートナー企業様とも共有することができました。
先ほどお話ししたように、三井住友海上様の実証も進んでいますし、ピースライブ様との実証も9月から長野県の2つの自治体様で実証予定です。このように、自治体様とのコネクションがあることにより、様々な機会を得られます。
――プログラムへの期待と、応募企業へのメッセージをお願いします。
冨田氏 : これまで第1期から第3期まで、さまざまな企業様との共創の機会をいただき、いくつか芽が出てきているものがあります。デンソーだけでは成しえないサービスの拡充が、オープンイノベーションによって広がっているのです。
また、2期以降パートナー様との議論の中で、「パートナー企業同士でのコラボレーション」という話題も出てきています。単に私たちデンソー対共創パートナー様という建付けだけではなく、多様な方向に関係性が広がっていくことが、非常に意義ある活動になっていると感じています。こうしたご縁を大切にして、商品化や事業化といったところはもちろん、「共創をしてよかった」と思えるような取り組みを広げていきたいですね。
取材後記
「ロボット×自働化」のテーマは、これまで工場内で活用されていたロボットの可能性を、他産業にも幅広く展開していくものだ。日常の様々な作業をロボットにより自働化することで、人間がより働きやすくなったり、創造性を発揮できるようになったりできる場面は多いのではないだろうか。まだ始まったばかりのテーマだが、生産性向上や人手不足など、多くの産業で課題を抱えている日本だからこそ、可能性は無限といえる。
一方、「ライフビジョン」は第1期から参画していることから、具体的な事例がいくつも生まれつつある。今回は、ライフビジョンの機能を拡張し、住民と自治体の関係性をアップデートするほか、自治体以外へのサービス導入の実現も視野に入れ、新たな共創パートナーを求めている。
自働化による課題を抱えており「人間とロボットが協働する」理念に共感する企業、地域の課題解決に向けたサービス展開を検討している企業は、ぜひ応募を検討して欲しい。応募締め切りは10月29日だ。
https://eiicon.net/about/denso-oi-vol_4/
(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵)