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BAKとの出会いは事業をどう変えたか?「ICHI-GO-CAN®」を展開するスタートアップ・Agnavi代表の玄氏に聞く

BAKとの出会いは事業をどう変えたか?「ICHI-GO-CAN®」を展開するスタートアップ・Agnavi代表の玄氏に聞く

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神奈川県が主催するオープンイノベーションプログラム「ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK・バク)」。大企業とベンチャー企業の出会いを創出するこの取り組みは、識者からの注目度が高く、オープンイノベーションに関心がある企業コミュニティ「BAK協議会」の参画社数も右肩上がりに伸びている。現在までに複数のベンチャー企業が、BAKを通じ事業を伸長させてきた。その中の一つが、株式会社Agnaviだ。

1合180 mLサイズの缶入り日本酒「ICHI-GO-CAN(いちごうかん)®」を通じて日本酒を世界に広めることをミッションとする同社は、BAKを通じ、クックパッドや鉄道各社、トヨタ自動車などと共創を実現した。共創はどのように進められ、事業にどのような影響を与えたのだろうか?Agnavi代表の玄 成秀氏にインタビューした。

大企業との共創が、ブランド価値向上のドライバーになった

――貴社は、新型コロナにより生じた社会課題を解決するインキュベーションプログラム「BAK NEW NORMAL PROJECT 2021」でクックパッドさんが提示されたテーマにエントリーし、共創を実現。さらに、BAK2022では、トヨタ自動車さんとの共創プロジェクトを立ち上げました。まずはBAKにエントリーしたきっかけを教えてください。

玄氏 : BAKにはじめてエントリーした2021年当時、Agnaviは神奈川県内の9つの蔵元とプロジェクトを進めていました。県内で知名度を上げ、売上を伸ばすにはどうすれば良いかと思案を重ねていた時に、ちょうどBAKが実施している「BAK NEW NORMAL PROJECT 2021」でクックパッドさんが共創パートナーを募集しているのを知ったのです。

クックパッドさんと当社は「食」というつながりがあります。今後、事業を伸ばしていく上でも大企業との共創は欠かせません。ちょうど良い機会だと捉え、エントリーしました。

▲株式会社Agnavi 代表取締役 玄 成秀 氏

――クックパッドさんとの共創はどのように進められましたか。困難などはありましたでしょうか。

玄氏 : Agnaviの創業は2020年でBAKにエントリーしたのは2021年です。当時の事業フェーズを考慮すると、クックパッドさんとの共創は少し早すぎたのかもしれません。でも、クックパッドさんには当社の状況をよく理解していただき、多様な支援を受けました。

クックパッドさんも「クックパッドマート」(※)を新規事業として取り組み始めたところで、クックパットさん主催のマルシェイベントへの出展を通じて来場者にクックパッドマートさんに出品されているおつまみと我々のお酒でペアリングを試してみたり、実際にクックパッドマートさんにて我々の一合缶を販売・流通することで、ターゲット層の見極めや、日頃リーチできない多くの世代に日本酒を気軽に楽しむ機会を提供することにもつながりました。その意味で相性は良かったと感じています。

※「クックパッドマート」……地域で有名な店や農家の「こだわり食材」をアプリから購入できる生鮮食品ネットスーパー。クックパッドが2018年に開始した。

――共創は貴社にどのような影響を与えましたか。

玄氏 : 事業を拡大するという視点から見ると、非常に大きな影響があったと感じています。特にICHI-GO-CAN®のブランド価値向上については、クックパッドさんとの共創が間違いなくドライバーになっています。

――具体的には、どのようなことが起こったか、教えてください。

玄氏 : 共創を進める過程で複数回プレスリリースを発信していますが、反響は非常に大きかったです。クックパッドさんの名前があることで、当社への信用も増したはずです。加えて、神奈川県の黒岩知事がICHI-GO-CAN®を手にするシーンがメディアに載り、信用がより強固なものとなりました。実際に、神奈川県を皮切りに埼玉県、富山県へと話がつながり、現在は全国展開も見据えています。また、おかげさまで新たな人材採用にもつながり、社内は非常に活気づいています。

――非常に理想的な展開ですね。

玄氏 : はい。その後、BAKを通じて京王電鉄さんとの共創も決定しました。ICHI-GO-CAN®のデザインに京王電鉄さんの車両を採用し、京王ストアとオンラインで販売しました。

――貴社と京王電鉄さんはどのような思いがあり、共創が決まったのでしょうか。

玄氏 : 京王電鉄さんには沿線の方々により愛着を持ってもらいたいという思いがあり、その仕掛けがほしかったのです。一方、当社にも四合瓶や⼀升瓶などの流通が多い日本酒を、一合缶でより身近に感じてほしいという思いがあります。両者の思いが合致し、非常にスピーディーに商品リリースにまで進みました。

共創の始まりが2021年12月で、商品リリースは2022年8月ですので、1年かかっていません。また、当社は自社工場を持ち、在庫を抱えるリスクがあります。その点が加味され、在庫を持ってもらったのはとても助かりました。全体としては、当社の企画力と、京王電鉄さんの豊富なリソースやブランド力が相乗効果を発揮し、有益なコラボレーションが実現できた手応えがあります。

――今後もさらなる展開が期待できそうですね。

玄氏 : ご指摘の通りです。実際、小田急グループさんとの共創が実現し、さらにJR東日本さんとの業務提携にもつながっています。このことから、スタートアップにとって大企業との共創は飛躍に向けて欠かせない鍵となることがわかります。

一方、大企業にとっても自社のリソースやブランド力を有効に活用する一つのきっかけとなります。スタートアップと大企業のオープンイノベーションは、これからの日本経済にとっても非常に重要なポイントになるのではないでしょうか。

▲BAKをきっかけに鉄道各社との共創が実現している。

“遠い”事業の掛け合わせでイノベーションを狙う

――貴社はクックパッドさんに引き続き、2022年には「BAK NEW NORMAL PROJECT」のベンチャー発自由提案型で採択され、トヨタ自動車さんとの共創プロジェクトを発足させました。なぜトヨタ自動車さんとの共創を考えたのでしょうか。

玄氏 : 私独自の見解として、「かけ離れたものであればあるほど、掛け合わせた時にイノベーションが起きやすい」というものがあります。そうした観点で眺めてみますと、トヨタ自動車さんはご存じの通り、世界的な自動車メーカーです。一方、当社は日本酒を扱うベンチャー企業です。自動車にとってアルコールはもっとも縁が遠い存在です。だからこそ、共創することで、何か面白いことが実現できるのではないかと思いました。

また、日本を代表する企業への単純な興味と言いますか、共創を通じ多くのことを学んだり吸収したりできるとも考えました。トヨタ自動車さんとは実はBAK以前に「AICHI MATCHING」(※)で出会っており、それ以来、共創を実現したいと思っていたのです。

※「AICHI MATCHING」……愛知県企業と首都圏等のスタートアップとのオープンイノベーションを活用した新規事業創出を目指したプログラム。愛知県が主催している。

――「BAK NEW NORMAL PROJECT」のベンチャー発自由提案型でエントリーされましたが、どのような事業を提案したのですか。

玄氏 : 当社が最初に提案した内容は、あまり評価されませんでした。それで改めてトヨタ自動車さんが持つ素材加工の技術に着目したのです。結果、たどり着いたのが、缶に変わる新たな容器の開発です。現在、缶の原材料は高騰していますので、新たな容器が開発できれば、世の中に一定のインパクトが与えられると考えられます。

――共創を通じ、得るものや学びはあったでしょうか。

玄氏 : 技術に対する姿勢や技術者のマネジメント、工場の運営などは学ぶことが多かったと感じています。また、大手企業における稟議フローや広報の通し方への理解も深まりました。他社との共創でも役に立つ場面はきっとあると思います。一方、トヨタ自動車さんにとっても、これまでほとんど接点がなかったはずの日本酒の企業と共創したことは、何らかの転機となったはずです。新たな事業につながれば、当社としてもとても嬉しく思います。

BAKは0→1を作り、1→10につなげることができる

――改めてBAKに参加した感想をお聞かせください。

玄氏 : スタートアップの成長に大きく貢献してくれるプログラムだと感じています。大手企業と共創することで事業が拡張しますし、信用度が上がります。「あの大手企業と共創した実績があるのだから、ウチでも大丈夫だろう」と判断して声を掛けられることもあります。実際、これまでお話ししたように、当社も新たなつながりが生まれて事業が広がりました。

――BAKは協議会を運営し、コミュニティ形成にも注力しています。スタートアップ同士のつながりも生まれたのでしょうか。

玄氏 : はい。スタートアップ間で多くのつながりができており、活発に情報交換し合っています。

――どんな話をすることが多いのですか。

玄氏 : そうですね、実は細かい話が多いです。登記はどうすれば良いのか、備品はどこから調達すると良いかなどで、お互いに大きな夢を語り合うなどはあまりないかもしれません。

現状、アーリー期のスタートアップが多いのですが、当社はスタッフが増えてきて、次のステージに入ってきています。労務・人事管理についてあまりノウハウがないので、従業員30人前後の企業がコミュニティに参加してもらえればと思っています。スタートアップに限らず、小規模で尖った事業を展開している企業は多くありますので、ぜひ参加してほしいですね。

――最後に、BAKに興味を持つスタートアップに向けてメッセージをお願いします。

玄氏 : 課題感とゴール、ゴール達成に向けてロジックを持っているスタートアップにとって、非常に有益な環境だと言えます。というのも、BAKの環境を活用すれば0→1が作れるからです。加えて、0→1が実現されると、自然と1→10が付いてきます。自治体から支援を受け、大手企業と共創をすることは、それだけ大きな価値があるのです。信用度が格段に上がりますので、さまざまなところから声がかかりやすくなります。

――信用を構築するのはとても大事ですね。

玄氏 : 信用力の向上は、スタートアップだけでは成し遂げるのが困難です。でも、BAKを通じれば実現できる。爆発的な成長にもつながります。BAKは神奈川県が運営母体で、言ってみれば自治体のお墨付きがもらえるのですから、本当に価値が高いです。また、PRの面でも効果は絶大です。自治体発のプレスリリースはさまざまな箇所に転載され、良い意味で情報が広がっていきます。BAKに参加するメリットは多いと実感しています。

取材後記

インタビューの中で、玄氏はBAKを通じて信用力が醸成されたと度々言及していた。このことは、自治体主導の共創プログラムに参加し、大企業とコラボレーションをすることの価値だろう。BAKを通じれば、0→1を実現し、1→10にもつなげられる。先を見据えれば、参加しない手はないだろう。また、協議会にはアーリー期のスタートアップが集まり、日々有益な情報交換をしているとのことだ。アーリー期でも参加しやすい環境があると言える。少しでも興味を持ったら、トライしてみることを強くお勧めする。

※「BAK2023」は、<大企業提示テーマ型>(早期締切:2023年6月30日)と<ベンチャー発自由提案型>(応募締切:2023年7月28日)の2つの方法で募集を行っています。詳細は以下リンクをご覧ください。

https://bak.eiicon.net/incubationprogram2023

(編集・取材:眞田幸剛、文:中谷藤士、撮影:齊木恵太)

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BAK 2023

ビジネスアクセラレーターかながわ、通称BAK(バク)。神奈川県内の大企業とベンチャー企業によるオープンイノベーションを促進のためのプログラム「BAK 2023」が始動。2023年5月30日より、ベンチャー企業が大企業と連携して取り組むプロジェクト提案の募集を開始しました。